孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です   作:山羊次郎

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第十話:決着

『さあ、終わらせようぜ。この戦いを!』

 

 俺がピッコロに対しそう告げると、奴は悔しげに口元を歪ませる。

 分かっているのだろう。大猿となった今の俺の力が、完全にあいつを上回るだけでなく、自分自身の体力も落ちていることに。

 このまま行けば、俺の勝利は揺るがないだろう。

 

 だが、勝負は何が起こるか分からない。

 事実俺は、戦闘力が遥かに劣るヤムチャ相手に敗北した。

 だからもう、俺は絶対に油断も慢心もしない。たとえ力で、戦闘力で、俺の方が遥かに勝っているとしても、確実に勝つ方法を取る。

 俺は一歩下がり、大きく口を開く。

 大猿となったことで気を制御できるようになった。ならばこそ、取るべき手段は一つ。

 ……遠距離攻撃だ。

 

『喰らえェ‼』

 

 超極太のエネルギー波をピッコロ向けて撃ちこむ。

 流石に初撃は躱されたが……続けざまに放った二発のエネルギー波が、ピッコロの右足と左腕を抉り取った。

 苦しげにうめき、ピッコロは再生を繰り返す―――が、流石に体力が尽きたのか、地べたに跪いて動かなくなった。

 奴の見せた、これ以上ない隙だ。逃す手はない。

 俺は追い打ちとばかりに拳を振り下ろす。

 大猿の剛腕から放たれるパワーに、地面が抉れる。ピッコロはその中心で倒れ伏していた。

 ボロボロとなったピッコロはこちらを忌々しげに睨み、呪詛とともに負け惜しみを吐き捨てる。

 

「お、おのれぇ……! き、貴様如きに、このピッコロ大魔王が……ッ! 許さん、絶対に許さん――ッ!」

『終わりだ。お前に恨みはそんなにねえし、ブルマを殴ったことを謝って悪さしないと誓えるなら、見逃してもいい』

 

 無論、ピッコロは俺の提案を受け入れることはない。あいつは悪そのものなのだから。

 それでも、俺は諦めてくれることを少しだけ願っている。

 例え、ピッコロが必ず倒さなければならない悪だとしても。友達を傷つけた奴だとしても。

 殺すのは、やりすぎなんじゃないか? そう思ってしまう。

 甘いとは思う。でも、どうしても割り切れない。殺意を乱してしまう。

 

「だ、黙れ! 儂はピッコロ大魔王だ! 儂の望みは正義が駆逐され、悪が蔓延る世の中にすること。悪事をやめるわけがなかろう!」

『…………………………分かった』

 

 俺は止めの一撃を放つために、喉奥に気を溜める。

 これで、終わらせる。……殺意を鈍らせないよう俺は急いでエネルギーを溜め発射する――。

 と、その時だった。

 

『ぐあああああ――っ⁉』

「――っ⁉」

 

 突如、尻尾に激痛が走った。

 まるで体の一部を切り裂かれたような痛み。

 それと同時に、先ほどまで漲っていたすさまじい力が急速に失われていくのを感じた。

 ま、まさか……尻尾が切られたのか⁉

 俺が背後に視線を向けると、切り離された尻尾と俺の尻の間を通り抜けた紫色の気の円盤が目に入った。

 気円斬だ……だが、一体だれが……⁉

 

「……は、はは」

 

 先ほどまでの子供の姿に戻った俺を見て、ピッコロが自然と笑みを零した。

 そして感極まったように哄笑を上げる。

 

「はははははははは‼ 何が起こったかは知らんが好機‼ 死ね、小僧‼」

 

 俺が大猿でなくなったと見るや否や、勝ち誇ったように高笑いを上げて気功波を撃つピッコロ。

 変身が解けたばかりで身動きが取れない俺は、その直撃をまともに受け――

 

「ぐっ……!」

「な、なに⁉」

 

 ――耐えた。

 高熱と衝撃で失いそうになる意識を根性で繋ぎ止める。

 狼狽するピッコロに、俺は不敵に笑ってみせた。

 

「やっぱ、な……パワー、が……落ちてんぜ?」

「……ふ、ふん……瘦せ我慢を。次で消してやる!」

 

 再度放たれるエネルギー波。

 流石にそう何度も喰らい続けるのはまずい……!

 そう判断した俺は、咄嗟に右に跳ぶ。

 先ほどまで居た場所が土煙を上げ、隕石でも落下したかのようなクレーターを生み出した様を見て冷や汗が流れる。

 こいつやっぱエグイわ。パワーダウンとか目じゃない。マジで油断したら死ぬ……!

 ピッコロがこちらに照準を合わせようと手を向ける。俺は奴に捕捉されないようジグザグに動き翻弄し接近した。

 近づく俺にピッコロは悔しげに口元を歪ませながら迎撃として貫手を放つ。

 俺の眉間を捉えた拳を顔を逸らして寸前で躱し、カウンターの一撃を顎に向けて打ち上げる。

 

「ぐはっ!」

「――言ったろ。終わらせるって」

「くっ‼」

 

 ピッコロが体を捻らせ、回し蹴りで俺の鳩尾を穿つ。

 激痛で意識が一瞬飛んだ。視界がチカチカして、思考があやふやになっていく。

 ははっ、こりゃ下手したらここで死ぬかもな……。

 ……けど、死ぬ前にこいつだけは道連れだ。

 

「はあああああああああああああ‼」

 

 最後の大勝負だ。

 俺は気合いを入れ直し、ピッコロの顔面ど真ん中に膝蹴りを放った。

 

 

 そして、死闘が続いた。

 拳には拳を。蹴りには蹴りを。頭突きには頭突きを。

 常に一進一退の攻防を繰り広げ、勝負は夜明け前まで続いた。

 俺の衣服はほぼすべてが破れ、体中痣や打撲痕だらけ。視界にはピッコロ以外映ってはおらず、一瞬でも気を抜けばその瞬間倒れそうだった。

 対するピッコロも恐らくはそうだろう。

 再生を繰り返してパワーダウンし、自身の倍以上ある戦闘力を持ち、凄まじい重量を持って放たれる大猿の一撃をモロに受け、それでもここまで戦い続けたのだから末恐ろしい。

 俺は内心、ピッコロの力を称賛していた。

 戦いの内容は、どう考えてもピッコロが不利に働くような物ばかりだ。だと言うのに、この男は俺の攻撃に一歩も引かない。

 もし俺がサイヤ人でなかったら。もし今夜が満月でなかったら。もし大猿になってもピッコロに戦闘力が及ばなかったら。

 可能性のある敗因を考えたらキリがない。本当にこの勝負、100回やったら99回はピッコロがかつ勝負だ。

 残り一回を、俺は偶然最初に引けた。それが勝負を分けた。

 

「アンタは……魔王だし、最低だけど……本当に強かった」

「はぁ……ッ! はぁ……ッ! はぁ……ッ! な、なにを……勝ったつもりか、貴様!」

 

 ピッコロが叫ぶが、それだけで体力を使ってしまい片膝をつく。

 決定的な隙を見逃すつもりはない。俺は当然のように奴に飛び掛かり、顔面を殴り飛ばす。

 ――が、どうやら俺の体力も底をつきていたらしい。

 奴にはダメージをほとんど与えられず、その場で倒れ伏した。

 もう、指一本も動かせない。

 ……ここまで、なのか?

 ピッコロが立ち上がり、俺を見下ろしている。

 

「……なぜだ? なぜ、貴様は諦めない?」

 

 奴の面を見上げ睨みつける。

 俺はまだ終われない。こいつだけは許さない。俺を友達だと言ってくれたあいつを傷つけたことを。

 だから、まだ戦う。戦わなきゃならない。

 例え体が動かなくても、意志だけは負けるわけにはいかない。

 その行動を理解できないのか、奴は心底不思議そうに問いかけた。

 

「――どうせ、てめぇにゃ一生分かんねえよ」

「……そうか。……ぐっ!」

 

 突如、ピッコロが苦しげに呻いた。

 何事かと首を傾げた直後、彼はのどに詰まったものを吐き出すように口を広げた。

 ……まさか。

 俺が驚く間もなく、ピッコロは己の卵を遥か彼方に吐き飛ばした。

 

「……喜べ小僧。この勝負は貴様の勝ちにしてやる。

 だが、これで終わりではない。今飛ばしたのは、儂の志を継ぐ子。いつの日か必ず、この無念を晴らすために貴様の元へ現れるだろう。

 その時こそ、貴様の最後だ。あの子が訪れる日を、震えながら待つがいい‼ はははははははははは!」

 

 ……ピッコロは最後の瞬間まで嗤い続けた。

 どうやら、卵を産むのに残りの体力を使い果たしたらしい。

 ピッコロは無残に殺される俺の姿を空想し悦に浸ったままこの世を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして。

 ピッコロを倒して数週間の月日が流れた。

 俺は現在、西の都で入院中だ。

 

(……すんごい暇)

 

 俺は全治二か月を診断され、全身包帯巻きでベッドで寝かされている。

 自分では気づかなかったが、ピッコロの攻撃で体は相当ダメージを受けていたらしい。

 骨も全身とまではいかないが相当数折れており、医者には一体何をやったらそんな怪我を負うんだと怒鳴られた。

 ピッコロ大魔王と戦ったと言ったらさらに怒られた。解せぬ。

 因みに、あの後ブルマたちになんで戦いに割り込んできたのか聞いたら、本物のピッコロ大魔王だとは思ってなかったらしい。後から聞いて超ビビってたのにはホント笑った。

 あっ、ブルマは意外と大したことない怪我だった。跡も残らないらしい。

 よかった。本当に良かった。

 

「仙豆がありゃすぐ回復なのになぁ」

 

 そう考えると、やはり仙豆の力は途轍もない。

 全身骨折全治四か月を数秒で治すって現代医療どころか未来医療越えてるだろ。

 はぁ……カリン塔登っておけばよかったかなぁ。仙豆の有難みを痛感してみたい。

 

「修行してぇ」

 

 らしくない呟きに思わず苦笑する。

 以前までは体を動かすのはあまり好きではなかったし、戦うのも修行も好きではなかった。

 だが、今は違う。

 好きじゃないのは変わらないが、だからと言って逃げることはしない。

 ピッコロとの戦いで激しく痛感した。この世界で生きていくのに強さが必要なくても、大切なものを守るには強さが必要なんだ。

『力』がいるんじゃない。『強さ』が要るんだ。単純な戦闘力の数字を上げるだけでなく、心身ともに強くあらねばならない。

 どんな逆境に立とうと諦めない強さを。どれだけ限界に打ちのめされても立ち上がる強さを。

 

「武道とは、己に負けないために励む、だっけか」

 

 なるほど。だからこそ、悟空は武道家なのだろう。

 彼は常に、己の限界を極め続ける。例え戦うべき敵がいようといなかろうと、関係なく。

 だからこそ、彼はナンバーワンだった。

 

「シータさん! 面会者がいらっしゃってますよー!」

 

 ……面会? ブルマか?

 ある程度来訪者の予測を立てつつ、俺は客人を招き入れる。

 病室の扉を開け、姿を見せたのは――

 

「……亀仙人の爺さん?」

「うむ。久しいの、わしじゃよ」

 

 マジで意外な人物だった。

 

「なんで俺のことを?」

「ブルマに連絡を貰ってのう。

 ――聞いたぞ、あのピッコロ大魔王を倒したそうじゃないか」

「……あんなのほぼ反則勝ちみたいなもんだよ」

 

 謙遜するつもりはないが、大猿化自体、理性が保てるかは賭けだったし、あの時の時間帯がたまたま夜でたまたま満月だったから逆転できただけだ。

 繰り返すが、一つでも条件が揃わなければ勝てない……いや、それでもある種の判定勝ちのようなものだ。

 ぶっちゃけ、実力で倒したような場面はほとんどないだろう。

 

「ふむ。別に謙遜することではないと思うがの……まあ、よい。今日はお前さんにこれを持ってきたのじゃ」

「……それは?」

 

 亀仙人が懐から取り出したのは、布の小袋だ。

 中には緑の豆が大量に詰められており――

 

「これは仙豆と言ってな。まあ、四の五の言わず食ってみい」

 

 言われるがまま、俺は仙豆を口にする。

 噛み砕き、飲み干す――その次の瞬間には、俺の怪我はすべて治っていた。

 試しに包帯を巻きとって腕を振り回す。生じた風圧に、近くにあった机の本のページが凄まじい勢いで捲れて行った。

 ベッドから降り、屈伸とジャンプを繰り返す。

 ビックリするほど健康だった。本当にさっきまで骨折していたのかと言うほど痛みがない。

 これが仙豆。最強の回復アイテムとなった豆の力か。

 

「うっわ凄っ! もう全部治った! でも、どうやってこんなものを……?」

「うむ。お主が入院したと聞いて、ちょいとな」

 

 ……まさか、カリン塔を登ったのか? ……マジか。そういや、亀仙人ってカリン塔登ったことあったな。

 いやでも……、それは若い頃の話だし、まさか、俺のために……?

 驚いて亀仙人の方を見ると、得意げにピースを返す亀仙人。

 

「なんていうか、ありがとっす」

「よいよい。して、お主はこれからどうするつもりじゃ?」

 

 どうする……か。

 

「……修行、かな」

「ほう」

「もっと強くなんなきゃ。じゃないと、何も守れない。のんびりしてる時間も無さそうだしな」

 

 ピッコロ大魔王が復活するのは、本当ならもっと後の話のはずだった。

 なのに、奴は突如として姿を現した。一体誰が封印を解いたのかは分からないが、嫌な予感だけは感じている。

 

「ならば、カリン塔を登ってみてはどうじゃ?」

「……前みたいに、自分のとこで修行しろとは言わないんだな」

「ピッコロを討ったお前に教えられることなど、儂にはないわい。……強いて言うならば……。

 ――よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。人生を、面白おかしく張り切って過ごせ。……それだけじゃ」

 

 ……ははっ。

 亀仙流のモットーだっけ。

 なんだろう。言われたことはシンプルで、ずっと前から知っている言葉なのに。

 亀仙人に伝えられるだけで、多くのことを学んだ気がする。

 

「さて……もう行くか?」

「ああ。そうさせてもらうよ」

 

 俺は着ていた病衣を脱ぎ、ボロボロになった戦闘服を取り出す。

 鎧の部分は完全に壊れ、タイツしか残ってないが……まあ、いいだろう。

 隣にはスカウターが置かれていたが、俺は装着せず置きっぱなしにする。

 もう、これは必要ない。スカウターは便利だが、どうせいずれは必要なくなるものだ。

 

「ふむ、なんじゃったら亀仙流(うち)の胴着を貸してやってもいいんじゃぞ?」

「いや、いいよ。多分、あってないと思う」

 

 俺が断ると、亀仙人は「そうか」と一言だけ返す。

 

「しかし、移動はどうする気じゃ?」

「……うーん、多分何とかなる」

 

 亀仙人が首を傾げる。

 俺は窓を開け、天まで届く大声で『ソレ』を呼んだ。

 

「筋斗雲――――‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間だった。

 亀仙人が何か言う間もなく、少年は黄金の雲に乗り飛び去って行った。

 去り際に「看護婦の人によろしく言っといて」と言う伝言をどう伝えるか悩みながら、亀仙人は考える。

 

「すまんの。孫悟空とやら。あの子は目を離した隙に遠くに行ってしもうたわい」

 

 だが、亀仙人はそれを後悔しなかった。

 一目会って分かった。

 あの少年は、初めて会った時とは別人だと。

 最初、彼は自分に自信を持っていない様子だった。より正確には、諦めにも近い達観した目。

 自分に何かできるはずがない、と言う自己否定感を感じた。だからこそ、亀仙人は育てなければと考えた。

 不安だった。孫悟空の言葉、地球を攻めてきた宇宙人と言う単語が頭を離れなかった。

 しかし、今はもうその不安はない。

 誰が彼を変えたのかはすぐにわかった。

 まあ、恐らく、本人は気づいていないかもしれない。

 

「楽しみじゃのう。あの子がどこまでの高みに昇るのか」

 

 亀仙人は確信している。

 あの少年が、カリン塔よりも高き場所に昇り詰めることを。

 そして、自分はそれを見上げることしかできないことを。

 だが、悔いはない。高みへ上る手助けをしてやれないことは残念ではあるが。

 

「お主の人生は、まだまだこれからも続くんじゃ。張り切るんじゃぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、駄目ねぇ。せっかく大猿化を解いてあげたのに、結局負けるなんて」

「だから言った。こんな時代に意味はないと」

「まあまあ、いいじゃない。それに、あの怠け者にもようやくエンジンが掛かったみたいだし」

 

 

 

「どうする? もう一気にサイヤ人の時代まで飛ぶのか?」

「そうしましょ。もうこの時代に、ピッコロより強い奴なんて……いえ、まだね」

 

 

「どうした?」

「いるじゃない。あの老人の遺志を継いだ子供が」

 

 右も左も、上も下もない暗黒の空間で。

 トワが怪しい笑みを浮かべ舌なめずりした。

 

 




~カメハウス~

クリリン「弟子にしてください! これ、ほんの気持ちですが……」
亀仙人「ふむふむなるほど……よし、ピチピチギャル連れてきたらいいぞ」

~一か月後~

クリリン「はぁ、はぁ、連れて、きました……」
ランチ「どこですかここ?」
亀仙人「お主だれじゃっけ?」

 ちゃんと弟子にしてもらえた。

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