孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です   作:山羊次郎

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第十一話:カリン塔での修行

 病院を抜け出し、筋斗雲に乗って俺は空を進む。

 いやー、風が気持ちいいな。チチに乗せてもらった時とは感覚が全然違う。

 しかし、行けるとは思ってたけど、まさか本当に筋斗雲に乗れるとはな。

 自分でもちょっと驚いてる。

 

「……おっ、あれか。カリン塔」

 

 一応、入院生活の間にカリン塔のある場所は調べてあった。

 俺は塔が見えてきたと同時に、そのまま塔を駆け上がるか下から自力で登るか悩んだ。

 数秒の末、俺は自力で登ることを選択。筋斗雲を降り、塔の根本に足を掛ける。

 

「……ええい、ままよ!」

 

 正直、こんな塔を日を跨いで登れる自信がない。

 だが塔を登ることにも意味はあるのだ。

 それに、カリン様が俺が筋斗雲で登ったりしたのを知ったら間違いなく下まで叩き落そうとするだろう。

 まずゆっくりと、手を進め足を進め……慣れてきた辺りで一気に登っていった。

 

 それからかなりの時間が経過した。

 夜空には煌めく星々と欠けた月がこれでもかと眩く輝いている。

 だと言うのに、頂上はいまだ見えない。

 途中から普通に昇るより走って(?)昇る方が早い方に気づき、俺はカリン塔を駆け上っている。

 俗にいう、桃白白状態だ。

 とは言えさすがに疲れたので、俺は筋斗雲を呼び睡眠をとった。尻尾がないので、塔に掴まれないから仕方がない。

 

 そして翌朝。

 再びカリン塔を登っていると、ようやく頂点が見えてきた。

 終わりが見えてやる気が増した俺は速力を上げ、一気にラストスパートをかける。

 

「よっ。ほっ」

 

 猿のような野性的な動きで塔の内部に侵入する。

 内部は非常に質素で、壺や奇妙なオブジェがあるだけだ。

 そして、柵の上に立って地上を見下ろす白い体毛を持つ二足歩行の猫を発見した。

 

「あっ、ちわっすカリン様」

「――うむ。武天老師の紹介でここまで来たようじゃな」

 

 おっと、そういやこの猫様心読めるんだったな。

 じゃあ説明とかはあまり必要ない感じか。

 

「えっと、修行付けてもらいに来ました。どうかお願いします」

「そう畏まらんでも良い。……しかし、そこまで期待されてものう」

 

 とりあえず、原作でも悟空がやった鬼ごっこをすることになった。

 悟空の場合は超聖水を奪うことだったが、俺の場合はカリン様を捕まえるに変更された。

 まあ、超聖水が偽物なのも知ってるし、本人を捕まえる方が明らかに難易度は高いはずだしな。

 ある種、入門試験のようなこれだが、意外とカリン様を捕まえられない。

 この猫の心を読んでの先読みはとんでもない。どれだけ追い縋ってもギリギリで躱されてしまう。

 

「それだけではないぞ?」

「えっ?」

 

 カリン様の声に思考を止められた。

 

「お前はどうも、自分の力を押さえているようじゃ。

 恐らく、強くなった肉体の発する力が暴走せんように無意識にセーブしておるんじゃろう。

 だから自分のイメージ通りに体が動かせずに苦戦しておるんじゃ」

 

 ……俺が、自分の力を抑えつけてる?

 

「……もしかして」

 

 俺は静止し、呼吸を整える。

 思い出したのだ。つい先日、亀仙人から俺は仙豆を貰い回復した。

 そして、サイヤ人は死の淵から甦るたびに強くなるという特性を持っている。

 俺は自分自身でも気づかないうちに強くなっており、それに加えカリン塔を登ってさらに体力をつけていた。

 その変化に気づかず、俺は以前までの全力の基準で力を出していたのかもしれない。

 ヤムチャにやられた時からの復活ではあまり強くなった印象がなかった分からなかったが、ピッコロの時は満身創痍だった。

 試しに俺は、近くの柱に向けて全力の拳を放つ。

 ズガァン‼

 拳の突き刺さった柱は、木っ端微塵に粉砕された。

 俺もカリン様も唖然として柱だった残骸を見つめる。

 

「……ちょっと洒落になってない気がする」

「まあよい。自分の力量は正しく把握できたじゃろう。さあ、続きをするぞ」

 

 そして、カリン様との修業が始まった。

 が、ぶっちゃけると、結果は今までよりも酷いものだった。

 俺は自分の力が全然制御できず、何度もカリン塔を落っこちてしまったのだ。

 その度に塔を登り直さねばならず、しかもその作業で体力をつけてまた力のバランスが狂ってしまうから面倒臭い。

 だが、いつまでも自分の力を制御できないままでは強くなった意味がないし、本当に強くなることはない。

 

 一週間もする頃には、俺は自分の力を完璧に制御することができた。

 もう突っ込み過ぎて塔を飛び出すなんてこともないし、壁に衝突して壊すなんてこともないのだ。

 が、それとカリン様を捕まえられるようになるのとでは話が別だ。

 何回かは、カリン様が焦るような動きはできたが、それでも寸でのところで躱される。

 力尽きて倒れる俺に、カリン様が欠伸をしながら助言する。

 

「お前の動きは読みやすいのう」

「ハァ……ッ! ハァ……ッ! ……そ、そうっすか?」

「ああ。良くも悪くも直線的で、予想を裏切ることがない。単調すぎるんじゃ」

「つってもなぁ……」

「もっと相手の動きを観察し、次の行動を予測できるようにせねばな。お前は体を動かしているとき、思考がかなり止まっている」

「止まってる?」

 

 不思議な表現に、俺は思わず聞き返した。

 さよう、とカリン様が言葉を続ける。

 

「例えば、こうしてわしとお前が向かい合うじゃろ?」

「うんうん」

「すると、お前はまずわしを捕まえようと一目散に飛び込む」

「まあそうですね」

「アウトじゃ」

 

 えっ、駄目なの?

 

「うむ。そもそも、その思考をわしに読まれている時点でアウトじゃ」

「あ」

「そして、お前はそこで思考を止めてしまう。読まれていることを計算に入れ、次の策を何十と張り巡らせねばならぬぞ」

 

 ……なるほど?

 

「分かっておらぬな」

「へへへ」

「褒めとらんわ。……つまり、わしを捕まえようとはするが、わしがお前の攻撃を躱した後、どこに逃げるか、どう躱すのか。

 そして、その行動を読まれていることを視野に入れ、絶対に読まれない策を幾つも用意する。

 それをまったく考えていないから、わしを捕まえることができないのじゃ。身体能力だけで言えばわしを遥かに上回っているにもかかわらずの」

 

 ……つまり、もっと相手の動きを観察して予測しろってことか。

 

「でも、予測が外れることもあるでしょ?」

「そうでもない。相手の動きや癖を見抜けば、余程のことがない限り予測は外れん」

「心を読まれたりしない限り?」

「……」

 

 なんとも言えない表情でこちらを見るカリン様。

 まあ、つまりだ。

 俺がすべきなのは、カリン様の動きや癖をもっと観察すること。

 あと、もっと次の動きをあらかじめ決めておくことか?

 多分そういうことだろう。

 シミュレーションみたいなものだ。例えば、俺が突進し、カリン様が俺の頭上を取って躱すとしよう。

 俺はその動きを予測し、カリン様を探すのではなく上にいるとある程度決めて付けて動かないといけないわけだ。

 無論、見つけられなければそこまでだが、その行動予測を完璧にするために相手を観察しなければならないということだ。

 しかも、その予測をするのは俺だけではない。カリン様も同じことをするだろう。

 ……まるで将棋だな(?)

 とは言え、あながち間違いではなさそうだ。相手の一手を読み、自分はそれを二手も三手も上回らなければならない。

 ……結構頭使いそうだな。

 

「……だぁーもう! やってやる!」

 

 気が滅入りそうになるのを、大声を上げて掻き消し、俺は再びカリン様に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い深い森の中心。

 木々の影で水を飲む少年がいた。

 

「何者だ」

 

 緑の体色をした少年が、警戒心を露にそう呟く。

 すると、彼の数メートル先の気の影から人影が姿を現す。

 白い髪と紅い服の妖艶な笑みを浮かべる美女。

 名をトワ。

 暗黒魔界の王の妹にして、歴史を改変する者だ。当然、ピッコロには正体など見当もつかないし、どうでもいい。

 

「始めましてね、ピッコロ。私は……まあ、魔術師とでも呼んで。

 用は一つ、貴方を強くしてあげようと思ってね。どう?」

「俺は俺の力で強くなり、父の敵を討つ。貴様の手助けなど要らん」

 

 そう切り捨て、ピッコロはエネルギー波をトワに向けて撃ちこむ。

 だが、トワはふぅと息を吹くだけでその気功波をかき消した。

 ピッコロの顔が驚愕に染まる。まだ生まれたての子供とは言え、今の一撃は並みの生き物を瞬時に絶命させる力があった。

 だと言うのに、目の前の女には欠片も通じなかった。その事実が、ピッコロの中の自信を打ち砕く。

 

「ば、馬鹿な……!」

「分かったでしょう? 私は貴方よりずっと強い。そして、あなたをもっと強くしてあげられる」

「くっ!」

 

 今度は拳を握り、ピッコロはトワへと殴りかかる。

 が、駄目だ。

 木を割る右拳も、岩を砕く蹴りも。

 目の前の女にはそよ風程度の力にしかならない。

 とうとう戦闘の最中に欠伸をするトワに、ピッコロが愕然と膝をつく。

 

「あ、あり得ない……! お、俺はピッコロ大魔王の息子なのに……!」

「私はね、前にあなたの父の封印を解いたの」

「⁉」

 

 そう告げるトワに、ピッコロが驚き固まる。

 トワは内心ほくそ笑みながら、ぺらぺらと噓八百を並べ立てる。

 

「それもすべて、ピッコロ様に世界を支配していただきたかったからなのよ。

 でも、駄目だった。貴方も知っているでしょう? あのサイヤ人が、すべて邪魔した」

「サイヤ人?」

「あの子供の種族の名よ。絶滅危惧種の癖に癇に障る猿ね。

 まあとにかく、よ。私はピッコロ様に代わり、あなたに世を支配してもらいたい。だからこそ、あなたを強くしたいのよ」

 

 その言葉に、ピッコロは眼を鋭くさせる。

 

「……目的が分からんな。貴様の力なら、今の世を手にするなんぞ簡単だろう?」

「……あら」

 

 相手が生まれたての子供だからと、舐め切っていたからだろう。

 ピッコロの返しに、トワは返答に困った。

 その様子を見て、ピッコロは鼻を鳴らして告げる。

 

「やはり信用ならんな。父の復活にどんな目的があったのかは知らないが、いいように利用しただけと言うなら覚悟しろ。

 いずれはあの男を―――父の敵を討った後、貴様も殺してやる。必ずな!」

 

 ピッコロは宣告とともに地面に向けて気弾を放つ。

 舞い上がった土煙を煙幕代わりにその場から瞬時に撤退した。

 彼はまだ生まれたてだ。だが、すでにその精神は大人のそれと遜色なく、そして引き際と言うものを正しく弁えていた。

 少なくとも、今の自分では敵わない相手に挑むのは無謀。それでは第一目標である敵討ちすらできず死ぬ。

 そして、ピッコロの判断は決して間違ってはいない。

 しかし今回は、相手が悪かった。

 森を抜け、近くの滝つぼに身を隠すピッコロ。

 トワの気配が消えたことに安堵し、息を吐いた――その直後だった。

 

「あら、もう鬼ごっこは終わり?」

「――ッ⁉」

 

 背後から声を掛けられ、ピッコロは固まる。

 万事休すだ。後ろは確認していたのに、取られた。

 動けないピッコロに、しな垂れかかるようにトワが彼の肩に両腕を置く。

 

「言ったでしょう? 私は貴方を強くしたいだけで、貴方を殺したいわけじゃないの」

「……な、なぜそこまで俺に拘る!」

「もうこの時代には、貴方以外にアイツに匹敵できる戦士はいないもの。

 ――ふふ、安心して。私なら、貴方を最強の戦士にすることができるわ」

 

 拒否権はない。

 耳元で囁かれ、そう強く自覚させられた。

 ピッコロは悔しさと屈辱を、血が滲むほど強く拳を握って堪え、平静を装いながら答える。

 

「……いいだろう。貴様の申し出を受けてやる」

「それでいいの。世界を支配する魔王に相応しい態度も、流石ね」

「くっ……!」

 

 明らかに自分を舐め腐った態度に腹が立つ。

 だが、ここで逆上して殺されては、今耐えた意味がなくなる。

 父の敵を討つため。

 そして、大魔王を侮辱するこの女を始末できる力を身に付ける、その時まで……。

 いずれ世を支配し、すべての目的を完遂したビジョンを浮かべ、ピッコロは怒りを呑み込んだ。

 

 




ピッコロさんは原作よりかなり強くなります。
……シータくん大丈夫かなぁ? 神龍は今はまだ死んでるから生き返れないぞ?
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