孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です   作:山羊次郎

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第二話:邂逅

 俺が地球にやってきて一年が経過した。

 未だに宇宙から援軍がやってくる様子もなければ、孫悟空を発見できたわけでもない。

 もう確定だ。この世界に孫悟空はいない。つまり、主人公がいないのだ。

 

 ……どうすりゃいいんだよ。

 

「もうホントやだこの生活……早く元の世界に帰りたい……」

 

 手元にある焼き魚とそれを睨みこちらを威嚇する野生の狐を視界に捉え、俺はため息をつく。

 この一年の生活は本当に地獄だった。

 食い物はすべて虫か野生の獣か魚。トイレは当然外で。服を洗ってる間は全裸だし、たまに恐竜に襲われる。

 寝床の確保も碌にできない。何しろ俺は一人だ。夜の見張りがいないから安眠なんてとてもできない。

 高い場所で眠ればいいと思うかもしれないが、生憎空を飛ぶ恐竜なんかに目を付けられることもあるので確実ではないのだ。実際3回くらい襲われた。

 

「はぁ……時の巣の連中は何してんだよ。孫悟空がいないと歴史崩壊待ったなしだろうに」

 

 こうやって愚痴をこぼさなければ、正直今すぐにでも発狂しそう……発狂は言い過ぎだな。おかしくなりそうだ。

 所詮都会で温い生活を送ってきた俺に、この野生生活は厳しすぎたのだ。

 しかし、本当にどうしたものか。この一年間ずっと放置されたことを考えると、タイムパトロールによる援護は望めないだろう。

 と言うか、ゼノバース系列で考えるとあいつら基本サイヤ人編以降だからこの時系列にやってくる可能性低いかもしれないな。

 遡ったとしても本編に絡むバーダックの話とかだし、マジで期待できない。クソ、やっぱり界王神は無能なのか。

 

「……ん?」

 

 装着していたスカウターに反応が出た。

 それなりの戦闘力を持つ生命体の接近だ。ちなみに、今の俺の戦闘力は5だ。一年経って1しか上がらないのはある意味伝説だと思う。

 と、俺はそんなことを考えながら魚を置いて近くの茂みに身を潜める。正直、スカウターがなければ獰猛な獣の接近にも気づけず死んでいたかもしれない。

 スカウターの反応が徐々に近づき、同時に木々の影から生命体が顔を出す。

 

「……危ねえ」

 

 俺は思わず安堵の息を吐いた。

 現れたのはやはりと言うか恐竜だ。おそらくは子供の。

 魚を焼くために付けた炎の光に誘われたのか、それとも魚の臭いに釣られたのかは分からない。

 だが、魚を置いていったのはいい判断だった。もし仮に魚に釣られていたとしたら一瞬でバレるところだった。

 俺は音をたてないようひっそりとその場を後にした。

 

 

 

 

 いつまでこんな生活を続けていればいいのだろうか。

 ちょうど5年ほど経過したある日。俺は世界の真理を追究するかのようにそんなことを考えた。

 年齢にしておよそ9歳ほど。そんなガキの考えとはとても思えない。……まあ、前世含めると多分今の俺は20越えてるが。

 ていうか、今更だが前世の俺はいったいどうなっているんだ? 余りにも苦しい生活で考える余裕がなかったが、もしかしたら俺は死んでしまったのか?

 だとしても死んだ直後の記憶がないのはなぜだろうか。俺が原作でも無名のサイヤ人となった理由もわからない。孫悟空がいない理由も不明。

 何もわからないまま、今俺が暮らす世界に危機が訪れるという結果だけを知っている。

 

「どうすりゃいいんだよ」

 

 泣き言だ。

 だが、仕方ないだろう。俺はこの6年間で一度も人に会っていない。

 聞く言葉はすべて自分の声から発せられたもの。このまま永遠に一人なのではと何度思ったことか。

 ドラゴンボールを探して元の世界に返してもらうことも考えたが、正直地球の神龍(シェンロン)に俺をどうこうできる力はないと思う。

 つまり、今の俺にできることは何もない。強いて言うなら、今日の夕飯を探すことだけだ。

 ……俺は本当に何をやっているのだろうか。

 

「なんでこんなことに……帰りたい」

 

 目元の涙を必死に拭う。

 情けない。精神年齢20を超えた大人がなにを……。

 ――もしかしたら、俺は自分が思っているよりもずっと幼い人間だったのだろうか。

 たかが数年、知り合いに会えないだけで涙を流すような弱い人間だったのだろうか。

 

「……帰りたい」

 

 願望を口にしたところで、誰も叶えてはくれない。

 俺の嗚咽が、夕闇の空に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が赤ん坊みたいに泣き叫んでから、さらに四年の月日が流れた。

 今の肉体年齢は推定12歳。いい加減、十年近くもいれば慣れるものだ。

 いつものように、俺を追いかけてくる恐竜を打ちのめし、返り討ちにする。そして後をつけ、巣から卵を盗んで茹で卵にする。

 こんな楽しい生活はねえぜ(ゲス顔)。

 

「よっ。ほっ」

 

 本当に手慣れたものだ。

 尻尾を使った釣りも、うまい木の実の見分け方も肉の焼き加減も。

 全部独学で身に付けた。俺ってもしかしたら天才かもしれない。

 ……こんな知識身に付けても元の世界ではあまり……と言うかほぼ役に立たない。

 やっぱり帰りたい。

 

「って、いつものように愚痴ってもしょうがねえし……修行するか」

 

 実は、少しづつだが俺は戦闘力を上げるために修行をすることにした。

 かと言って、いきなり腕立て伏せや腹筋をやれと言われてもできない。

 そう思っていた時期が俺にもありました。ええ。

 

 はい、できました。

 最近では腕立て50回、腹筋50回、スクワット50回、ランニング1キロ(目算)。これを3セット毎日やる。

 多分サイヤ人の肉体だからだろう。前世なら腕立てで詰んでいたメニューも今ならちょっとしんどいくらいで済ませられた。

 戦闘力を測ってみたら13と出ていた。やったぜ。以前の1年で1上がるのに比べたらずっとマシだ。

 

「……まあ、後の展開考えたらゴミみたいな数値だけどさ」

 

 戦闘力たったの5か、ゴミめ、は有名なセリフだ。

 序盤を乗り越えた後のレッドリボン軍やピッコロ大魔王との戦いを乗り越えたいなら100以上は必須である。

 

「……って、なんで俺が戦うみたいな思考になってんだ」

 

 戦うとか嫌だ。

 喧嘩なんてしたことないし、殺し合いなんてなおさら無理だ。

 よく異世界に行ったら何の葛藤も躊躇いもなく人間を殺す日本人がいるが、そういう奴の思考は本当に理解できない。

 いや、思考と言うより心情だな。まあどっちでもいいか。俺には関係ない話だし。

 

「……戦いたくはない。俺が戦う必要はない」

 

 自分に言い聞かせるように、俺は繰り返し呟く。

 所詮、俺は一般人だ。今はサイヤ人だが、いざとなったらベジータなんて目じゃないくらいヘタレる。

 何ならもうすでにヘタレかけてる。

 だから、俺に孫悟空の代わりなんてできるはずがないんだ。そんなのは現実の見えていないバカの暴走、独り善がりなんだ。

 

「……それも言い訳か」

 

 根本的に。俺は戦いたくないんだ。

 世界の命運を背負うなんて重すぎるんだ。

 限界を極め続けるなんてできるはずがないんだ。

 俺は武道家じゃない。

 サイヤ人でもない。

 だから背負う必要なんてないんだって。

 そうやって逃げたいんだ。

 分かってる。自分でも本当は分かってるんだ。考える時間はたくさんあったんだから。

 

「……やるしかない、のか」

 

 考えるだけで気が重い。

 俺はこれから、孫悟空の代わりを務めなければならないのだ。

 世界を守るために。

 この世界を、終わらせないために。

 ……別に、特別この世界に思い入れがあるわけではない。

 だが嫌いなわけじゃない。昔は生活環境に文句を言うこともあったが、今ではこの暮らしもすっかり慣れた。不満はない。

 ……やめよう。世界の為とかそういうのは気が滅入る。もっと、自分のためになる目標を見つけよう。

 俺の目標か……。

 

 目標かはともかく、問題が一つある。

 俺が元の世界に帰れるかどうかだ。

 元の世界に確実に帰還するための手立ての一つの案としては、やはりドラゴンボールだろう。

 だが、地球のドラゴンボールではない。無論、ナメック星のドラゴンボールでも究極ドラゴンボールでもない。

 

 (スーパー)ドラゴンボール。

 

 恐らくは、あらゆるドラゴンボールシリーズの中でも最高峰の力を持つであろうドラゴンボールだ。

 その願いの規模は、この世に存在する12の宇宙すべてを再生することすら可能にする、まさしく願い玉と呼ぶに相応しい物だ。

 超ドラゴンボールの力なら、時空を超えて俺を元の世界に帰還させることも可能にできるはずだ。

 そのためには、物語をドラゴンボール超の段階にまで進める必要がある。

 ……勿論、問題がないわけじゃない。この世界がGTの時系列に属するなら、もしかしたらビルスなどの破壊神との交流を経ることができず超ドラゴンボールにたどり着けないかもしれない。

 まあその場合でも手がないわけじゃないが。

 とにかく、当面は超ドラゴンボールを手に入れるために原作を進める。この方針にしよう。

 そう、俺は世界のために戦うのではない。俺の願いのために戦うのだ。

 

「そう思うと結構気が楽になるな。やっぱ世界がなんだのは俺にとっては重すぎるってことか」

 

 さて、じゃあそろそろ修行でもすっかね。

 原作を安全に乗り越えるなら、今のままではちょっと良くない気がするしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、さらに3年の月日が流れた。

 現在、俺は15歳。サイヤ人的にはちょうど成長期に入る時期だ。

 今のところ肉体的な変化はそこまで見られないが、来年あたりにはすっかり青年フォルムになっているだろう。

 修行方法を一新したことで、戦闘力はさらに上がった。

 今まではただ筋トレを繰り返すだけだったが、それだけでは物足りず、俺は自分自身に枷を敷いた。

 それは、10キロ近い大岩を背負って生活する、と言うものだ。

 これはドラゴンボールにおいて、悟空たちが亀仙人のもとで修行していた時に行っていたものの真似だ。

 そして、効果は絶大だった。

 以前までは1年に1程度しか上がらなかった戦闘力が、この2年間で戦闘力39にまで上昇した。重りって凄いな。

 

 そうやって重り生活を続けていたある日だった。

 俺は世界の時間が進みだしたことを察知した。

 

「いやぁああああああああああああああ――ッ⁉」

 

 この世の終わりかと言わんばかりの絶叫に、俺は思わず耳を抑える。

 寝床代わりにしている洞窟から顔を出し、周囲を伺うと――

 

「だ、誰か助けてぇええええええええええ――ッ!」

 

 バイクに乗った青い髪の少女が、恐竜に追い掛け回されていた。

 ……マジか。多分あれだ、ブルマだあいつ。あれが生ブルマか……なんか卑猥に聞こえるな。

 と、俺が認識したと同時にブルマもこちらに気づいて助けを求める。

 

「ち、ちょっとそこのアンタ! お願いだから助けてくれない⁉」

「それは別にいいけど……一体何やったんだ?」

 

 俺は涎を垂らす恐竜の顎に強烈な蹴りを打ち込む。

 激痛に涙を流した恐竜は、その一撃で逃げ去っていった。

 その様子を見て、ブルマは額の汗をぬぐい、安堵の息をつく。

 

「……ふぅ、助かったわ。アンタ強いのね」

「おう。まあ、結構鍛えたからな」

 

 本当に、鍛えたのだ。前世の俺からは想像もつかない程。

 これで強くなってなかったらむしろ嘘だろう。

 俺は何としても超ドラゴンボールにたどり着いて元の世界に帰ると決めたんだから。

 

「ふぅ~ん」

 

 ブルマがこちらを値踏みするようにジロジロと観察する。

 俺のつま先からゆっくりと視線を上に上げていき……やがて、ある一点で停止する。

 それは、俺が左耳に装着しているスカウター。ブルマは俺のスカウターを指さし、言う。

 

「アンタのその左耳に付けてるそれ、何なの?」

「スカウター。まあ、通信機みたいなもんだ。今はほぼ使い物になってないけどな」

 

 これは本当だ。

 スカウターの本質は戦闘力計測器であることだが、通信機器であるのも事実だし、この12年間一度もメンテナンスをしてなかったせいか、もう計測すらできなくなっている。

 すると、ブルマはしめたとばかりに手を叩き、ニヤニヤと笑みを浮かべながら俺に提案をしてくる。

 

「ねえ。私、実は探し物をしててね。でも、それを探すにもさっきみたいに危険がいっぱいじゃない?

 だ~か~ら~。私のボディガードしてくれない?」

「……それ、俺に何のメリットがあんの?」

「ふふふ」

 

 その言葉を待っていたとばかりに、ブルマは得意げに告げる。

 

「アンタのその左耳の機械、私が直してあげるわ。その様子じゃ、一回もメンテしてないんでしょ?

 もちろん、欲しいならあとでお金も払うわよ?」

 

 ……金はともかくとして、たかがスカウター一つ直す程度が見返りと言うのは、いささか釣り合いが取れていないのでは? と思うかもしれない。

 だが、正直に言うと、俺にとってスカウターを修理してもらえるというのはかなり嬉しい提案だ。

 スカウターは戦闘力を測る機械だ。

 なので、自分の成長を最も簡単に、そして正確に検査することができる。

 俺にとってそれはモチベーションの確保と言う意味でも必須だ。戦闘力が上がっていれば、それだけやる気も出る。

 俺はブルマにスカウターを預け、握手のために手を差し出した。

 

「よろしく頼むぞ。俺はシータだ」

「ええ、よろしく。私はブルマ。さっ、じゃあさっさと移動するわよー!」

「えっ、ちょ、引っ張んな――!」

 

 強引なのも原作通りなんだな。

 俺は知識通りの人物である目の前の少女に僅かに苦笑した。

 

 




ブルマと出会いました。
やっぱりドラゴンボールの始まりと言えばこれだよね。
いや、正確には悟空とブルマの出会いだが
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