孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です   作:山羊次郎

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第三話:孫悟飯

 ブルマのバイクに乗って進み、数時間ほど経過していた。

 その間に、俺はブルマの旅の目的について色々聞かせてもらった。

 まあ、こっちは全部知ってるから、ただの確認と言うか復習になっただけだけど。

 しかし、12年も経てば色々忘れてるのではと思ったが、そこまでドラゴンボールの知識を失っている様子はない。

 よかった。原作知識はある意味俺がこの世界でうまく立ち回るためのアドバンテージ、武器になるはずだ。

 サイヤ人とフリーザはどうしようもないが、人造人間やブウはこちらの対応次第ですべてカットできる。

 俺にとっての本当の勝負が始まるのはそこから先だ。

 と、俺がいずれ来る未来とその対応について模索していた時。

 突如、車が急ブレーキをかけて停止した。

 

「どうした?」

「この辺りよ。間違いないわ」

 

 今俺たちがいるのは、パオズ山。

 そう、本来ならここで孫悟空とブルマが出会うはずだった。

 しかし、ブルマの車と悟空が衝突するイベントもなければ、魚を抱えた彼が現れることもない。

 何度も確認してわかっていたはずだが、やはり落胆してしまう。

 嗚呼、やっぱり孫悟空はいないんだな、と。

 

「この先ね」

「ほえー」

 

 俺たちが目指したのは、原作で言うなら孫悟空の家。

 孫悟空がいないこの世界で言うなら恐らくは――

 

「む?」

 

 ――と、家の中から老人が顔を出した。

 武道家の胴着のような服を着た白いひげが特徴的だ。

 まあ、間違いなく孫悟飯。悟空に殺されなかったことからこの時代でも生存しているのだろう。

 

「あら? こんなところにお爺さんが住んでるなんてね」

「ほっほっほ。自然との暮らしも悪いことばかりではないぞ?」

「なあ爺さん、ドラゴンボール知らない?」

「ドラゴンボール?」

 

 俺は単刀直入に話を切り出す。

 孫悟飯は一瞬だけ首を傾げるが、思い当たる節があったらしい。

 そこで待っておれ、と言い残し家の中に戻っていく。

 待つこと数分。

 孫悟飯は赤い星が四つ描かれたオレンジ色のボールを持ってきた。

 四星球(スーシンチュウ)

 ドラゴンボール、四つ目の球だ。

 

「あー! ドラゴンボールー‼」

「ふむ、やはりか。欲しいのならもって行っても構わんぞ」

「本当⁉ お爺さんったら太っ腹ー!」

 

 ほくほく顔で四星球を受け取ろうとしたブルマだったが、孫悟飯は直前にボールを持った手を引いた。

 ボールを取れなかったブルマがこけそうになるのを必死に堪える。仕方ないので、俺も手を貸した。

 

「これを集めるということは、お主らには叶えたい願いがあるのじゃろう? その内容次第でくれてやってもいい」

「えー、何それー!」

 

 唐突な条件追加にブルマが頬を膨らませる。

 まあ、タダでもらえると思ったらこれだしな。しかし、わざわざ叶えたい願いの内容を聞くとはな。

 ピラフ一味たちみたいに世界征服とか叶えようとしてたら渡す気はなかったって感じか。

 ブルマは落胆しつつも、髪をかき上げて願いを口にした。

 

「素敵な恋人が欲しいの!」

「なるほどのう。お主はどうなんじゃ?」

 

 話が俺に振られた。これ、俺も答えないと駄目なのか?

 俺はどうするか悩む。

 真面目に答えるべきかふざけるべきか、それともはぐらかすか。

 

「特にないな。願いが叶えられるって言ってもたかが知れてそうだし、あんまり興味ない」

「……」

 

 別に嘘は言ってない。

 俺は地球のドラゴンボールには露ほども期待していない。大事なのは、あくまでも超ドラゴンボールだ。

 孫悟飯は僅かに目を細めてこちらをジッと観察する。

 ……おい、噓はついてないぞ、黙ってるだけで。

 

「……ふむ、なるほど。十分じゃ。ほれ」

「えっ、わっ!」

「いいんすか? 俺はともかくブルマの願いとかアウト判定でそうですけど」

「ちょっと! 私の願いがアウトってどういうことよ⁉」

 

 俺は耳を塞いでブルマの追及を避ける。

 そんな俺たち二人の様子を見ていた孫悟飯は朗らかに笑い言った。

 

「構わんよ。その願いに悪意がないのはよぉくわかった。

 お主らがこれを悪用しかねん人間なら渡せんかったが、少なくとも悪人ではないということは分かる。

 好きなようにするといい。達者でな」

「はぁーい! ありがとうね、お爺さん!」

「じゃあな」

 

 ……しかし、正直意外だった。

 孫悟飯が生きているというのには驚かされたが、それ以上にあっさりとドラゴンボールを渡してくれたことには内心もっと驚いた。

 いや、難癖をつけるタイプの人間ではないと分かってはいたが、それでも少し拍子抜けな気がした。

 てっきり、ドラゴンボールが欲しいならワシを倒してみろ、とか言われるんじゃないかと思ってた。

 そういうキャラでもないか。まっ、特に問題なく手に入ったわけだし、考えるのはやめるか。

 

「あ、少し待つのじゃ」

「?」

 

 居座り続ける理由もないので去ろうとしたとき、突然孫悟飯に呼び止められた。

 彼は俺を呼び止めた後家の中に入り、何かを持ってくる。

 それは、赤い棒だった。

 と言うか、俺はその棒を知っている。

 

「それは……」

 

 その棒は、決して俺のような部外者が持ち歩いてはいけないものだ。

 原作主人公、孫悟空が持つ武器であり、かつて亀仙人がカリン塔の主、カリン様から受け継ぎ、その弟子である孫悟飯が受け継いだもの。

 最終的にはその孫である孫悟空に受け継がれるもので、俺のような余所者に渡っていいものではない。

 名を如意棒。

 神の神殿とカリン塔を繋ぐ橋でもあり、使用者の意志で自由に伸び縮みする武器だ。

 

「これは如意棒と言ってな。ある偉大なお方から受け継いだのじゃが、完全に持て余しておる。

 それに、儂ももう長くはない。このまま家に放置していれば良からぬ輩に盗まれるか、朽ちてしまうやもしれん。

 なら、お前さんのような未来ある若者に受け取ってほしいのじゃ」

「け、けど……そんな大事なモンならなおさら――」

「いいじゃない。貰える物なら貰っちゃえば?」

 

 こいつ……他人事だと思って……!

 ……もう完全に受け取る空気になっちまったな、こりゃ。

 仕方ない……不本意だが、孫悟飯の意思を尊重しよう。

 そう思い、俺は渋々如意棒を受け取り、鞘についた紐を肩から通す。

 

「あら、悪くないんじゃない? 服は致命的にダサいけど」

「言うな。これしかなかったんだよ」

「私女物の服しか持ってないわよ?」

 

 戦闘服は性能は抜群にいいがマジでダサい。

 特に如意棒とは相性が悪いな。致命的に合わない。

 ……戦闘服の防具部分は着ないようにしよう。タイツ部分で十分だ。

 しかし、もし町なんかに入ったら、ブルマに上着とかズボン買ってもらうべきか真剣に悩んでしまうな。今まで一人だったから気にしなかったが

 とか考えてる間に、ブルマが出発の準備を整えたらしい。

 最後に孫悟飯から如意棒の使い方を聞き、俺はブルマのバイクの後部座席に跨る。

 

「何から何まですいません」

「ほっほ。構わんよ、これも何かの縁じゃ。

 代わりと言ってはなんじゃが、もしお前さんたちが今後、武天老師……いや、亀仙人と言う御方にお会いする機会があったのなら、儂のことを伝えてほしい。

 頼まれてくれるか?」

「構いませんよ。本当、何から何まで、どうもありがとうございました」

 

 本当に。

 俺にこんな身に余るものを授けてくださり、感謝します。

 心からの感謝を述べ、俺はブルマと再び冒険に出た。

 なお、道中プテラノドンが飛来してきたが、如意棒でワンパンした。如意棒強い。

 

 

 

 

 

 

 

「……そろそろ暗くなってきたし、この辺りで休みましょ」

「野宿か?」

「やーねー。デリケートな私が野宿なんてできるわけないでしょ」

 

 デリケートだと野宿できないのか。俺も結構デリケートな方だと思ってたんだがな。

 なんて冗談を言うより早く、ブルマがホイポイカプセルから家を召喚する。

 前から思ってたんだが、ホイポイカプセルの自由度って半端ないよな。そりゃバカ売れするわ。

 

「――広いな」

 

 現れた家の扉を開け、中に入ると同時に俺は固まった。

 目前に広がる、実家のアパートの一室より広い部屋に唖然としたのだ。

 よく考えなくてもわかるが、この世界の文明レベルってやっぱクソ高いよな。水が無料だったり当然のようにジェット機で飛べたり。

 前世……と言うより、こっちの地球じゃとても考えられない。

 

「驚くのもいいけど、アンタちょっと臭くない?」

「ん、そうか? 水浴びはしてたけどな」

「いッ⁉ 風呂じゃなくて水浴び⁉」

「おう。基本野宿ばっかだったし」

「アンタ今までよく生き延びてきたわね……じゃあ、風呂とかもわかんないか。ちょっと来なさい」

「えっ? ちょ――」

 

 あれよあれよという間にすっぽんぽんにされ、浴場に連れていかれた。

 泣きたい。こういう時、子供の体と言うのは恨めしい。

 

「ほら、さっさとしなさいよ。洗ったげるから来なさい」

「いや――」

「ていうか、その尻尾なに? なんでアクセサリーなんて付けてるのよ?」

「これは元から生えてんだよ」

「えっ?」

 

 いや、驚くのも無理はないのは分かるが、それよりも――

 

「信じらんない。まさか尻尾が生えてるなんて……あのそういえばその毛並み、今まで腰に巻いてたベルトみたいなやつ、尻尾だったってわけ?」

「……俺、15だぞ?」

「はぁ? 何よいきなり。それがどうし――」

 

 俺の年齢を聞いたブルマが固まる。

 それも当然だろう。この時のブルマの年齢は確か16歳。つまり、俺と一歳差しかないのだ。

 ブルマが学生であることを考慮すれば、俺は後輩枠に収まっていてもおかしくない。

 

「じ、冗談よしなさいよ……。アンタが? 15? か、数え間違えじゃないの……?」

「マジだぞ」

「マジ?」

「大マジ?」

「いやぁぁぁああああああああああああああ――ッッッ⁉⁉⁉」

 

 余りの絶叫に俺は思わず耳をふさぐ。

 同時にブルマはほぼ条件反射で手に持っていたシャワーと洗剤を放り投げて風呂場から脱出した。

 

「あ、アンタ! そういうことはも、もっと早く言いなさいよ!」

「いや、聞かれなかったし」

「ふざけんじゃないわよ! アタシと一つ違いじゃないの! 信じらんない! 汚されるっ!」

「別にお前にだけは興味が微塵も沸かないから安心しろ」

「どういう意味よォォォォ‼‼」

 

 どう答えたらいいんだよ。

 

 

 

 

 

「さーて、と」

 

 それから。

 ブルマが入浴を開始したので、俺は余った時間で修行することにした。

 と言っても、やることと言えば如意棒の扱いをより完璧にするくらいだが。

 

「伸びろ、如意棒!」

 

 俺の声に呼応するように、如意棒は5メートルほど長さを伸ばす。

 それを地面に突き立て、棒高跳びの要領で跳躍する。

 景色は夜なので闇一色だが、空に近づくこの感覚は正直楽しい。

 体が子供だからか、今は心まで子供になっている気分だ。

 

「ふぅ……ん?」

 

 なんだ……今の?

 一瞬だが、赤い服を着た男がこちらをジッと見つめていたような……気のせいか?

 念のためスカウターで調べてみたいが、生憎ブルマに預けたままだ。

 仕方ないので、俺は修行を再開することにした。

 

「たりゃあ! てりゃあ! でぁあっ!」

 

 縦に、横に、斜めに。

 次々に俺は如意棒を振るう。嵐のように荒々しく、時に落ちる木の葉を吹き飛ばしながら。

 

如意棒(コイツ)の扱いにもだいぶ慣れてきたな」

「シーター! 晩御飯できたわよー!」

「おー!」

 

 俺が満足して如意棒をしまうのと、ブルマが夕飯の用意を終えたことを知らせるのは、全くの同時だった。

 パンは意外とうまかったが、やっぱり肉が欲しいと内心思った。

 

 




如意棒ゲット!
多分孫悟飯の出番はこれで最後になります。
もしかしたら、いつかワンチャン出るかもしれませんが、今のところ予定はありません。

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