孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です 作:山羊次郎
「お前がこの村で女攫ってるバケモンだな」
「な、なんだお前は……⁉」
亀仙人と別れてしばらくした後、俺たちは妙な村にたどり着いた。
そこでは怪物に村の美人な村娘がある怪物に攫われており、村の住人がとても困っているそうだ。
ドラゴンボールをなぜか所有しているので、俺とブルマはそれを交換条件に怪物退治をすることに。
はい、まんまウーロンのイベントですね、はい。目の前のバケモンもウーロンの変身した姿ですね完全に。
……しかし、この変身能力すげぇな。戦闘力は変化しないが、能力はしっかりと真似できるときた。
ワンチャンこいつにフリーザ様に化けてもらえばサイヤ人追い払える説が出てきたな、俺の中で。
まあ多分本部に連絡取られたら詰むんだろうけど。むしろフリーザ軍総出でかかってくるんじゃない? 死ぬぞ?
「おい、さっきから何無視してんだよ!」
「うっせぇ!」
いろいろ考えてた思考を無理やり遮断され、俺は反逆ギレ気味にウーロンの顎に向かって全力でアッパーカットを放つ。
激痛でウーロンは気絶し、変化が解除されたことで正体が露となった。
そして、そこから先は早かった。
ウーロンを無理やり起こし、攫った娘たちの居場所に案内してもらう。
無論、攫われた子たちはウーロンに贅沢させてもらってるので気にする必要はない。……なんだろう、ウーロンがちょっと可哀想になってくるな。
と言う訳で、ドラゴンボールを貰って次の目的であるフライパン山に出発することになった。
因みに、ウーロンは一緒についてくることになったぞ。あと、ここまでほとんど口頭で語ったのは、基本的に原作通りの流れで面白みがなかったからだ。
「あ、そうだ。シータ、はいこれ」
「おっ、スカウターじゃん。もう直してくれたのか?」
「ええ。意外と複雑でちょっと驚いたわ。カプセルコーポレーションにもない技術が使われてるし……これ、どこの誰が作ったの?」
「フリーザ軍。もしくはツフル人」
「?」
まあ、名前言ってもわかんないよな。
スカウターの設定は媒体や作品によって異なる。例えば、原作やアニメドラゴンボールZでは、このスカウターはサイヤ人が先住民族であるツフル人を滅ぼした時に手に入れたものだ。
だが、劇場版 ドラゴンボール超 ブロリーでは、スカウターはフリーザ軍の天才科学者キコノが開発したことになっている。
個人的にはスカウターの開発元なんて興味ないのだが、超ドラゴンボールを目標にしている以上、世界線についての情報は少しでも手に入れたい。
もしGTで超ドラゴンボールを手に入れられないとかなったらちょっと面倒だ。その場合、究極ドラゴンボールを使うことも視野に入れねばならなくなる。
俺としてはそれは嫌だ。星を犠牲にしなければならない願い玉など、後味が悪すぎる。
あと、GTの世界線だとベビーとか邪悪龍が現れるから本当にやめてほしい。
とか言っても、どっちに転ぶかはまだ分からないので、うだうだ言ってもしょうがないのだ。
つーわけで、現在荒野を車で走っています。
原作だとブルマがカプセル無くしてたが、俺がちゃんと拾ったので特に問題なく進んでいた―――その時だった。
こちらの車に向かって正面から接近する謎の人影を確認し、ブルマが慌ててブレーキをかける。
「っぶなぁ……ッ! ち、ちょっとアンタ! 一体なに――」
文句を言おうとしたブルマの口が止まる。
よく見れば、僅かに頬は赤みを帯びており、目は潤んでいる。
視線の先には、胸に樂の一字が施された緑色の武道着姿のザンバラの長髪の青年がいた。
ヤムチャ。ドラゴンボール序盤で登場するライバルキャラで、後々ネタキャラにもなる可哀想な運命を背負った男だ。心底同情する。
奴はキザな笑みを見せ、拳法の構えを取ってこちらを威嚇する。
「よう。俺はこの荒野を根城にするハイエナ、ヤムチャってもん――」
「僕はプーアル!」
ブルマの姿を見たヤムチャはセリフが止まるが、気づかないプーアルはそのまま名乗りを上げる。
同時に、プーアルの姿に見覚えがあったらしいウーロンは「あー!」と声を上げる。
「プーアル! お前、泣き虫プーアルじゃないか!」
「う、ウーロン……⁉」
確か、二人は一緒の幼稚園にいたがウーロンがプーアルをいじめてたんだっけ? まあ、幼稚園児のいじめなんてかわいいもんだろ。
それよりも、ヤムチャの奴いつまで固まってる気だ? さっさと再起動してほしいもんだが……。
と思ってたら、ブルマの奴が車を降りてきたことでさらにヤムチャが委縮した。
「あらぁ~素敵な殿方様。貴方のお名前、聞いてもいいかしら?」
「ひぅ!」
めっちゃ上がってるじゃん。それでいいのかお前……いや、初期はこういうとこが可愛げあるやつだったっけ?
むぅ……実際に対峙すると話が進まないからやめてほしいが……。
いっそこっちから殴りかかるべきだろうか? そんなことを本気で思案していると、ヤムチャはカプセルからバイクを取り出す。
「こここ、これで勝ったと思うなよぉ――ッ!」
「あ、待ってください素敵な殿方――!」
……逃げちゃったよ。
………ほんとにどうするんだよ、この空気。
結局。
そのあと特に何事もなく、俺たちはブルマのカプセルの家で睡眠をとった。
「……ん?」
時間が進み、昼間との温度差が広がり始めた深夜。
俺はスカウターの電子音に覚醒させられた。
戦闘力10近い男が接近しているようだ。
ついさっきまで眠っていたせいで頭が回りにくいが、おそらくはヤムチャだろう。あいつは夜中に再び襲撃してきたからな。
「ふぁぁ……よし、行くか」
目元を擦り、俺は家の外へと足を運ぶ。ちょっと寝不足気味だが大丈夫だろう。
外には案の定、忍び足でこちらに接近するヤムチャたちの姿があった。
こちらを見てギョッとしたので、俺は如意棒を引き抜こうと背中に手を伸ばし――
「……あれ?」
しかし、棒を掴もうとした手は空を切る。
どうやら、寝ぼけて如意棒を置いてきてしまったようだ。つまり、戦闘になった場合俺は素手でやり合わないといけないわけか。
……まあ何とかなるか。だって、相手はヤムチャだし。
「おっす、何しに来たんだ盗賊」
陽気な挨拶を送るシータに、ヤムチャはドキリと心臓が高鳴るのを感じた。
慌てて視線を向けるが、それは昼間の青い髪の女ではないと知り、内心安堵する。
ヤムチャは女性が極端に苦手だ。視界に入れるだけで動悸が激しくなり、話をすれば気を失うかもしれない。
言い過ぎと思うかもしれないが、少なくともヤムチャにはその自信がある。
だからこそ、相手が女でなくて心底よかったと思っている。
もう昼間のような醜態をさらすこともないだろうから。
「ふっ、小僧。女を連れてこなかったのは失敗だったな。さっさと金とカプセルを取ってきな、そしたら見逃してやる」
「無理」
「ほう。今すぐ天国に行きたいらしいな?」
「そんなことばっかしてたら、お前は地獄に行くぞ?」
口の減らないシータに、ヤムチャは拳法の構えを取る。
対し、シータも構える……が、その構えは素人同然のそれだった。
足幅も狭く、拳が上を向いている。まるでボクシングのそれだが、プロの構えかと言われれば違う。どちらかと言うと、猿真似だ。
ヤムチャはすぐさま察した。目の前の少年が、碌に戦いなんてしたことないド素人だと言うことに。
故に、彼は油断した。
相手はただの子供だと。自分が負ける可能性なんて微塵もないと。
だからその一瞬、ヤムチャの判断は遅れた。
「たぁ――!」
「何――⁉」
ヤムチャの読みは確かに間違っていない。
シータは戦い……特に対人戦においては、完全に素人だ。
だが、戦いの経験そのものがないわけではないのだ。
一瞬で間合いを詰め、両手を結びハンマーのように振り下ろすシータ。
寸前でヤムチャは首を引き、上体を後ろに下げることで不意打ちの一撃を躱した。
空を切ったシータの拳が地面に衝突し、当のような土煙を上げ地面を揺らす。
ヤムチャはそのあまりの威力に目玉が飛び出さん勢いで驚いた。
(な、なんだあの威力……⁉ こ、こいつ……本当にただのガキなのか……ッ⁉)
「てやぁぁぁぁ!」
続く連続の蹴りとパンチ。
どちらもギリギリで回避したが、風を切るような速度と先ほど地面を抉った光景が脳裏に焼き付いて消えない。
もしあれが当たったら……自分はミンチになっているかもしれない。
その瞬間、ヤムチャの中からシータに対する侮りが消えた。
目の前の子供は、ただの子供ではない。気を抜けば己の命を取るかもしれない未知の生命体だ。
故に、彼は一部の油断も隙も見せず、全力を出すことにした。
腰を落とし、低い姿勢でシータを睨む。
「行くぞッ‼」
シータが防御の姿勢を取った時には遅かった。
ジグザグと稲妻のような起動で距離を詰め、移動の際に舞い上がった土煙で目くらましをする。
完全にヤムチャの居場所を見失ったのか、シータを周囲の土煙を無造作に振るった拳で振り払おうとしている。
チャンスだ。そう思ったヤムチャの行動は早い。背後から迫るヤムチャの姿は、まさしく獲物を狙うハイエナだ。
(獲った――ッ!)
そう確信した、次の瞬間だった。
勢いよくシータが振り返り、その勢いを利用したローキックを放つ。
「分かってるぜ!」
ピピピ、と言う電子音が響いた。
彼の左耳に装着されているスカウターが、ヤムチャの存在をずっと探知していた。
こんな目くらましなど端から通じていない。一芝居打ったに過ぎないのだ。
ヤムチャは咄嗟に蹴りをジャンプして躱すが、それに空中と言う逃げ場のない場所に追い込まれた。
シータは憎らしい笑みを浮かべ、右拳を構えている。あと数秒もしないうちに、あれが自分の鳩尾を捉えるかもしれない。
しかし、ヤムチャに焦りはなかった。
むしろ今までで一番冷静だった。
そんな自分に驚いてすらいる。しかし、どうでもいいことだ。
「たりゃああああっ!」
シータが強烈な貫手を放つ。
その拳を……ヤムチャは受け止めない。
ただ、空中で身を翻して躱した。
「なに――⁉」
「甘いな、小僧! 喰らえ、狼牙風風拳ッ!」
まるで狼の牙に見立てられた拳が、高速でシータの全身を打つ。
反撃の暇を与えることなく、鼻に、顎に、鳩尾。一瞬でも意識を飛ばせる箇所を集中して殴り続ける。
あまりに集中して殴られ過ぎたためか、ダメージ部分が赤く腫れあがっていた。
「ぐぅぅぅ――ッ⁉」
「経験の違いを思い知ったか⁉ 止めだァ!」
「ちぃッ!」
最後の一撃を繰り出す寸前に、シータは足元を殴りつけてまたしても土煙を巻き上げ、煙幕代わりにする。
舞い上がった土煙に圧されながらも、最後の一撃を放つヤムチャ。
しかし、拳は虚しくも空を切る。
「……ちっ、逃げ足の速い野郎だな」
ヤムチャは、いつの間にか家の壁に背を預けているシータに舌打ちした。
同時に、己の拳の皮が剝がれそうになっているのを見て驚愕する。
(あいつ……なんてタフな野郎なんだ。殴った俺の拳の方が今にも潰れそうだ)
ヤムチャは僅かに冷や汗を流した。
――決着の時は、近い。
つ、つええええええ⁉ つか、痛い痛い痛い痛い‼‼‼
あの野郎……的確に顎とか鳩尾とか痛いとこばっか殴りやがるし、鼻なんてこれ折れてるんじゃないか⁉ 鼻血出てるぞ⁉
てか、えっ、待って……ヤムチャ強すぎない? 歴史改変でも起きてんじゃないの? ……あ、俺の存在が改変対象だったわ。
じゃなくて! えっ、あいつなんか強くね? おかしくない? アイツの戦闘力って確か10にも満たないだろ? 俺は39だろ?
……何で負けるん?
「消えな、小僧。ぶっ飛ばされんうちにな」
それは言うシーンが違うんよ。
っていうか、待て待て待て……やばい、ヤムチャ如き楽勝とか思ってたら見事に痛い目見たんだけど!
おかしい……あいつの動きは見えてるのに、体が思うように動かない。それに、攻撃も思ってるより力が入ってない……。
一体、どうなっちまったんだ、俺の体……⁉
「はぁ、はぁ……クソッたれ」
「ふふふ、さあ、終わりだァ!」
ま、マジか……ここで終わりなのか、俺は……。
元の世界に帰ることもできずに……そこまで辿り着くこともなく、こんな序盤で殺されるのか……⁉
そう思うと、怖気が全身を走った。い、嫌だ……このままむざむざ殺されるんなんて御免だぞ……‼
――や、やばい……なんとか、逃げないと……!
俺は思わず後ろに下がろうとし、家の壁にもたれかかっていたことにようやく気付いた。
――に、逃げられない……⁉ やられる……っ‼
迫りくる拳に、思わず目を閉じた。
そうして気づく。拳を見なければ躱すこともできないのに、何をやっているのか。しかし、今目を開けたところで、飛び込んでくるのは奴の一撃と、強烈な痛み。
せめて意識を手放せれば……そう祈りを捧げた直後だった。
「ちょっと! さっきから何の音よ、ドンドンドンドン! うるさいからもっと離れてやってよ!」
ブルマが眠気眼を擦りながら家から出てきた。
ヤムチャの拳が俺の目前で停止する。
奴の視線は完全にブルマに固定され、こちらは眼中にない。
……今なら。
そう思い、俺は奴の腹を思いっきり蹴りつけた。
「ぐはぁ! き、貴様……不意打ちとは卑怯な……!」
「うっせぇ! 目ェ離したテメェが悪いんだ!」
「ぐっ、確かにな……。……、…………。ちっ、今日のところは見逃してやる!」
そんな捨て台詞と共に、ヤムチャは荒野を走り去っていく。
冷たい風が彼の後ろで砂を巻き上げ、その姿を隠すのを、俺は茫然と眺めていた。
「……クソッたれ」
「なんだったの? 今の……」
……知らない。
まさかのシータくん敗北! 彼の行く末は如何に⁉︎