孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です 作:山羊次郎
戦いを終え、一度根城に帰還したヤムチャ。
平静を貫いていた顔が、気のゆるみと同時に苦痛に歪む。
「うごご……! あ、あの野郎……なんて強烈な蹴りなんだ、胃の中のもの全部吐き出すかと思ったぞ……!」
「ヤムチャ様! 大丈夫ですか⁉ 今すぐ治療箱取ってきます!」
「プーアル……やったか?」
心配そうに声を荒げるプーアルに、ヤムチャが問いかける。
あっ、と言う声と共に、プーアルは背後に置いていた袋からホイポイカプセルを数個取り出す。
「見てください! ウーロンが隠し持っていたカプセルを入手しました!」
「おぉ! よくやったぞ! 作戦はうまくいったな!」
そもそも、どうしてヤムチャが正面からシータたちの元へ向かったのか。
彼の目的は陽動。
中の人間を家の中から引っ張り出すことが目的だったのだ。
もし誰も出てこなくても、ヤムチャ自身が盗みに入れば問題ない。出てくればその隙にプーアルが盗む。そういう手はずだった。
結果的に引きずり出せたのはシータだけだが……むしろ、あの少年を引き出せたのは僥倖だった。
プーアルでは瞬殺だっただろう。下手すれば殺されていたかもしれない。
ヤムチャですらも、一瞬隙を見せれば自分がやられていたかもしれなかったのだ。
と、そこでプーアルが気になることを言った。
「ところでですね、ヤムチャ様」
「ん? どうした、プーアル?」
「奴ら妙なものを隠してました。なんでも、ドラゴンボールと言うらしいんですが」
「ドラゴンボール? 聞いたことないな……何なんだ、それは?」
「詳しくは分かりません。さすがにそれは盗めなくて……すみません」
「そうか、まあいい。それが何かは、また奴らから聞き出せばいい話だ」
ヤムチャの言葉に思わず「えっ」と思わず素で聞き返すプーアル。
当然だろう。プーアルにとっては因縁の相手であるウーロンもいて、シータはヤムチャですら梃子摺る相手なのだ
また関わりたいとは、少なくともプーアルは微塵も思わなかった。
「ま、またあの連中に関わるんですか?」
「ああ、もちろんだ。あの小僧にはこの痛みの借りがある。ドラゴンボールについても気になるしな。
ふっふっふ、いずれこのヤムチャ様の真の恐ろしさを思い知らせてやるぜ!」
ヤムチャの高笑いが、荒野の一部に響き渡った。
「いて! いってぇ!」
「あー、動かない動かない。消毒くらいで喚くんじゃないわよ」
「お前タフだなぁ……その怪我でよくそんな叫んでられるな」
ヤムチャにボコボコにされた後。
俺はブルマに怪我の治療をされていた。
……完敗だった。俺はヤムチャ相手に追い込まれ、逃げようとしていた。心でも肉体的にも、俺は負けていた。
「……はぁ」
「珍しいわね、アンタがそこまで落ち込むなんて」
「そうなのか? まあ、そう気に病むなよ。俺なんて起きたら隠し持ってたカプセル全部奪われてたけど全然気にしてないぜ」
「お前はむしろ気にしろよ。えっ、何? お前そんな大事なもんパクられてるのに寝てたの? 馬鹿なの?」
「こいつ……人が折角元気づけてやってるってのに……!」
ウーロンが怒ってどこかへ行ってしまった。
むぅ、流石に今のはダメか……あいつの言った通り、元気付けようとしてくれてたわけだし。
「あーあ、まあ、そう言うこともあるわよ」
「……ブルマ、頼みがある」
「なに?」
俺はブルマに、修行用の重力倍加室の製造を頼む。
重力室は、ドラゴンボールの修行においてかなり役に立つシステムの一つだ。
理由は分からないが、この世界は強い重力負荷を受けた状態を体に慣れさせることで、身体能力を大幅に上げることができる。
この手法は形を変えて無印のころから使われており、最初は亀の甲羅。次は重い胴着やリストバンド、靴など。
最終的には重力室に行きつく。俺はそれらの過程をすっ飛ばし、いきなりブルマの重力室を使う決心をした。
今のままではだめだ。
もっと強くならなければならない。
そうでなければ、また負ける。
失うかもしれないのだ。
もう、戻れなくなるかもしれない。戻れる、と言う希望が無くなってしまうかもしれない。
絶対に嫌なんだ、それは。だから、誰にも負けないよう強くならなきゃならない。
「う~ん、今すぐには無理ね。欲しいならドラゴンボール集め終わってから、またうちに来なさい。その時には用意しておくわ」
「……分かった」
今すぐはやはり無理か……わかってはいけど、もどかしいな。
となると、俺の今できる修行は限られてくるな。
「痛った! ……まだ完治はしてないのか。サイヤ人は傷の治り早いって設定があった気がするんだが……」
それから。
二人にバレないように俺は家を飛び出す。
無論、目的は修行だ。
今よりも強くなるには修行しかない。こうなったら、カリン塔や神の神殿も視野に入れなければならないだろう。
いや、やっぱり重力室か? あれが一番手っ取り早いし、ブルマも約束してくれたし……。
俺は目を閉じ、昨夜のヤムチャの動きをイメージする。
洗練された、野生の獣のような動きだった。だが、獣とは違う。
「たぁぁぁぁ!」
イメージのヤムチャの貫手に合わせ、俺も拳を放つ。
二つの拳は衝突。ヤムチャはすぐさま回し蹴りで俺の首筋を狙う。
俺はしゃがんで回避し、バネのように跳ねてヤムチャの顎に頭突きを放つ。
直前でヤムチャが体を引いて躱し、俺を蹴り上げた。
(……イメージですら負けた。泣きそう)
「……いや、落ち込んでる場合か。あいつらは多分また来る……! 今度こそ、勝つんだ!」
そう決意し、俺は拳を前方に突き出した。
「ふふふ、楽しいわね」
「何がだ?」
赤い服と青い肌の女の呟きに、背後に立ち腕を組んで瞑想する男が返答する。
どこか、魔性の女と言った雰囲気を匂わせる女性とは対照的に、男はどこか機械的で冷たく、まるで生気を感じなかった。
「こうやって、誰かに追われる生活から解放されるのも、よ」
「俺はつまらん。この時代には弱い奴しかいない。どうせなら地球を出て、他の惑星に行くべきだ」
「確かに、この時代では碌なキリを集められないでしょうね。でも、いいの」
「何故だ?」
「楽しいからよ」
妖艶に笑う女に、男は訝しげな視線を向ける。
男には女が楽しいと言うものを何一つ理解できない。
その認識の齟齬を、二人は欠片も気にしない。
「……トワ」
「分かっているわ、ミラ。楽しい時間ももうじき終わりね」
「そうか。こちらとしては、ようやく退屈を凌げそうだ」
そういった直後だった。
宙を浮く彼らの更に頭上に、強い光が閃く。
「……」
「嗅ぎつけるのが本当に早いわねぇ、タイムパトロールさん」
「――見つけたぞ」
光の中から姿を現したのは、赤い服の青年だった。
それは、かつて亀仙人のもとに現れた青年そのものだ。
ミラが無機質な声質でその名を呼ぶ。
「――
「
「お前たちの企みもここで終わらせる―――ハァ‼」
腕を引き、気合を入れる。
たったそれだけの動作で、孫悟空は変身した。
今では息を吸うように成れる、かつて強大な怒りと共に引き出され伝説の戦士の姿。
――超サイヤ人。サイヤ人の伝説に語られる究極の戦士だ。
黄金色に輝き、逆立った髪と緑色の瞳。全身から溢れる暖かくも激しいオーラ。
見る者を圧倒する気迫は、並の存在では恐怖で戦意を失いすらするだろう。
だが、それを前にしてもなお、トワとミラは余裕の態度を崩さない。
むしろ、それがどうした、とでも言いたげだ。
「無駄だ。お前では俺に勝てん。お前の時間はそこで止まっているのだからな」
ミラが断言する。
それはただ相手を嘲った故の慢心でも、強大な力を得たことによる優越感から来るものでもない。
純然たる事実。そして、それは悟空自身も感じていた。
冷や汗が悟空の額から落ちる。
己の中から生じる恐れを振り払うように、悟空は気をフルで開放し立ち向かう。
「か――」
それは、自分が生まれ落ち、祖父を無くしてからの長い人生の中で、一番最初に学んだ技。
今まで習得してきた技の中で、何よりも信頼している技だ。
「め――」
「いいだろう。そんなに早く死にたいなら、付き合ってやる」
ミラが悟空の戦意を汲み取り、彼に向き直る。
そんなミラに、トワが息を吐く。
「は――」
「早くしてよね、ミラ。そろそろ
「分かっている」
「め――」
気が最大限に高まったのを感じ、悟空はそれを一気に開放する。
「波ァ―――ッ‼」
青白いエネルギー砲がミラの全身を殴りつけた。
「……ん? ふぁぁ……何の音だ?」
さっき、妙な音が聞こえた気がしたが……気のせいだろうか?
どうやら眠っていたところを車に乗せられたらしい。
となると、現在はフライパン山に向けて直行しているところか。俺はてっきりもう一度ヤムチャが襲ってくると思ってきたが、俺を呼ばなかったってことは何もなかったのか。
思い過ごしだったのか……? 俺は妙な脱力感を感じ溜息をつく。
と、俺はフライパン山について振り返ることにした。
確か、悪魔の帝王とかいう無茶苦茶恐ろしい奴が山に近づいた奴は皆殺しにする……だっけか? んで、その悪魔の帝王が牛魔王……。
あの温厚なおっさんが悪魔の帝王……。
「恐ろしい悪魔の帝王ねぇ……」
「ん-、やっぱ聞いたことねえだ」
隣に座るチチがそういう。
……あれ?
「うえええ⁉」
「おいどうした? 酔ったのか?」
「いや、大丈夫。サンキュー、ウーロン……じゃなくて! 誰この女⁉」
「そろそろ着くわよ」
いや、あの……説明は?
――その後、いろいろ説明された。
俺が休んでいる間に、チチが荒野を歩いているところをウーロンが発見したらしい。
話を聞くと、彼女もフライパン山に用があると言うことで一緒に行動することになったそうだ。
その子、件の牛魔王の娘なんですが、あの……とはとても言い出せない。なんかブルマとチチがやけに仲良くなっているので、水を差すのもあれだった。
と思っていたら、フライパン山につく前にチチが眠ってしまった。疲れたのか?
「着いたわよ、ほら」
言われて前方を眺めると、地獄の業火とでも呼ぶべき燃え盛る炎と、その炎に包まれる城があった。
「洒落になんないだろあの火事」
遠目で見ても火事の異常性はまるわかりだった。
その後、ドラゴンレーダーの反応に従い城に接近すると、やたらとデカい斧が空から降ってきた。
斧を投げたのは、城に住む「悪魔の帝王」として恐れられる牛魔王だ。
本来なら筋斗雲に乗る孫悟空の姿を見てすぐに戦いをやめたが、生憎俺は筋斗雲には乗れない。つまり、すぐに和解は無理だ。
かと言って、俺と牛魔王の間には高い戦闘力の壁がある。
「いぃ⁉」
「お、斧が……⁉」
「おめえたず、こっだらとごでないしてるだ?」
およそ四メートルはあるであろう巨躯を持った大男が、こちら睨みながら姿を折らわす。
牛魔王。
このフライパン山の主にして悪魔の帝王様だ。
自分の宝を盗みに来たのかと怒る牛魔王に、俺は気さくに話しかける。
「ドラゴンボール探しに来た。ほら、オレンジ色の球知らない?」
「ちょ! アンタ正気⁉」
「おらの宝さ盗みに来たんか!」
「盗みに来たっていうか貰いに来た」
問答無用、とばかりに斧を振りかぶる牛魔王。
縦に振り下ろされる一撃を、俺は余裕を持って躱し斧の上に足を付ける。
もう怪我はある程度完治した。それに、サイヤ人の特性で戦闘力が51に上がっているのも確認済みだ。
……そういや、牛魔王の戦闘力って俺知らないんだよな。一応測ってみるか。
そう思い、左耳のスカウターのスイッチを入れる。電子音と共に、数値が割り出された。
「……105。強っよ」
「おらァ‼」
大きな斧を軽々と振り回す姿は、流石に悪魔の帝王と言われるだけのことはある。
とりあえず二人は瓦礫の影に避難していたので、俺も全力を出すとしよう。
背中の如意棒を引き抜き、斧と打ち合う。
一合、二合、三合と打ち合い、焦れったくなった牛魔王が力任せに振りかぶる。
原作通り、力任せに戦うだけみたいだ。技らしい技がほとんどない。
俺は姿勢を低くし、ジグザグに移動しながら牛魔王の周囲を駆けまわる。
「……⁉」
時に股の間を通ったりと、とにかく素早く動いた結果、牛魔王が背後に回り込んだ俺を完全に見失う。
瞬間、俺は如意棒の長さを調節し、牛魔王の脳天に叩きつけた。
「いっ⁉」
「どうだ!」
「ぐっ……!」
俺を見つけた牛魔王は、後ろ蹴りでこちらを攻撃する。
ぐっ……危ない。牛魔王のパワーは凄まじい。あんな蹴りでも喰らえば一溜まりもない。
「喰らえ! 狼牙風風拳‼」
先日ヤムチャの使った狼牙風風拳の動きをある程度真似て牛魔王に攻撃する。
目にも留まらぬ連続攻撃に、牛魔王が翻弄されている。
よし、やれる……! 何気にヤムチャ戦のイメージトレーニングが役に立ったな……っ!
尻もちをつく牛魔王にさらに畳みかける。
俺は大きく右拳を引き、最後の一撃の準備をした。
「これで終わりだ! はああああっ!」
「ふぁぁ……あれ? オラが昼寝してる間に、フライパン山に着いちまっただか?」
「チチ⁉」
「うお⁉」
驚いてチチの方を振り向く牛魔王。俺の拳が空を切るのもお構いなしだ。
……なんだかなぁ。
その後、チチの介入で色々誤解が解けた後「フライパン山の火を消すためにはどうすればいいか会議」が行われた。
結論、亀仙人に頼もう! で決定した。
……ナニコレ?
格下には負けて格上には善戦……さてはおめー橘さんだな?
ゼノバース参戦! 悟空の正体に少しだけ触れました。多分分かりやすいと思いますが……。
プロット的にこれから更に面白くなるのは神龍呼び出す辺りなので、気長に待っていただけると幸いです……!