孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です   作:山羊次郎

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第八話:大魔王の降臨

 牛魔王の城でドラゴンボールを発見し、残る二つのボール探しに出発した俺たち。

 途中、燃料不足になったので近くの町を訪れ、そこで悪さをして蔓延る兎人参化をボコって追い出したりいろいろあった。

 ぶっちゃけ、兎人参化については対処法が如意棒って分かりきってるので特筆すべき点はない。

 と言う訳で、最後のボールを持つピラフ一味の元へ向かってる最中。

 その合間の休憩中にて。

 

「かめはめ波‼」

 

 俺はかめはめ波の修行をしていた。

 

「アンタも物好きねぇ。いくらやっても無理なら諦めなさいよ」

「いいじゃん。別に」

 

 かめはめ波に限らず、気を使った技は使用者の実力次第でいくらでも化けるからな。

 あと、かめはめ波カッコいいし。

 まあそれとは別に、いい加減現実を見た方がいいな。

 修行。体を動かすことはあまり好きじゃない。戦うのは現代の価値観があって忌避的になっちまう。

 

(でも、俺がやるしかないのか。筋斗雲に乗れない、かめはめ波が使えない。おまけに、戦闘力が高けりゃ大丈夫も通用しなかった)

 

 本格的に鍛えなければいけない。

 修行……でも、誰に付けてもらえばいいんだ? 亀仙人? カリン様? 神様?

 どれもサイヤ人編以降では役に立たない。……いや、それ以前にピッコロ大魔王とかいう山場があるのか……。

 いや、あれは最悪大猿になればどうとでもなる。やはりサイヤ人編以降に向けた修行が大事だな。

 大猿に関しては、戦闘力が十倍になるうえ、俺はエリートの血筋だから理性を失わずに済む。

 初期の段階ですでにこれから起こるあらゆる山場を乗り越える算段が立っているのは僥倖……。

 

(パワーボール作れたっけ……俺?)

 

 無論、否だ。

 気をコントロール術を持たない俺に、そんな高尚な物を作る技術などない。

 これはいよいよ、かめはめ波習得と共に気を扱えるようにならなければ。

 車の中で座禅を組み、俺は掌に意識を集中させる。

 

(確か、悟飯がビーデルに気を教えてた時は……どんな感じだったっけ? えっと……)

 

 まず心を落ち着かせて……集中するんだ。

 素数を数える……のは無駄だな。とにかく、気を……体内の力を掌に集中させるイメージを……。

 しばらくの間は何も起きなかった。

 何度もイライラしたが、その度に深呼吸を繰り返してリラックスし、呼吸を落ち着かせる。

 俺は車がいつの間にか止まっていることにも気づかず、気の放出訓練に明け暮れた。

 

「……ん?」

 

 と、何やら途轍もないエンジン音が耳に刺さった。

 音の方を向くと、丸っこいマシンが車を弄っている。

 ピラフ一味が動いていたらしい。俺は慌てて修行を中止し、マシンに向かって飛び蹴りを放つ。

 

「だりゃあ!」

「のわあ⁉」

 

 蹴りの一発で大きく仰け反ったマシンに、俺は如意棒を振り下ろして追い打ちをかける。

 マシンの天井が凹み、中から刀を背負った犬人間が姿を現し、慌てて逃走した。

 

「ふぅ」

「アンタ……やっぱとんでもないパワーね」

 

 ブルマが一周回って感心したように言うが、この程度は後のインフレを考えればなんてことではない。

 

「ホント、いろんな意味で頼りになるわねえ、アンタ。スカウトしてよかったわ」

「そりゃどうも。んじゃ、さっきの奴追おうぜ?」

「えっ? なんで?」

 

 ……あー、そっか。よく考えれば、あいつドラゴンボールをパクってないから追いかける理由ねーじゃん。

 参ったな。どうしたもんか……。いや、よく考えたら最後のドラゴンボールはピラフ一味が持ってるんだからどの道追いつくんじゃん。つまり追いかける意味ねーじゃん。

 結構バカだったな、俺。

 すでに三十年近く生きているとは思えない自分の知能の低さに、俺は呆れて溜息をついた。

 

 

 と、言う訳で。

 ピラフ一味の城に辿り着いた俺たち。

 人様の城と言うことで盗みに入ることになったのだが。

 

「なーんで捕まったんだろ」

「それはね、シータ。ウーロンが廊下のど真ん中に置かれてるエロ本とかいう、あからさまな罠に引っかかったからよ」

「し、仕方ねーだろ! あれは取りに行くのがお約束みたいなとこあったじゃねえか!」

「その結果、お約束通り私たちは捕まったけどね」

 

 そう。

 本来なら矢印が用意されている廊下には、なぜか一冊のエロ本が置かれていた。

 目の色を変えてエロ本にダイブしたウーロンの速度は尋常ではなく、気を抜いていた俺では反応できないほどだった。

 そのあとはエロ本の置かれていた床がスイッチになっており、そこが抜けて地下室行きとなった。

 悲しい。何が悲しいって、原作よりひどい罠で捕まったことが何より悲しい……。

 

(原作と違う……?)

 

 なぜだろう。

 違うと言っても、そんな、物語の根幹に関わるような大きな変化ではないはずだ。

 なのに。

 俺は一抹の不安を拭えなかった。

 

「取りあえず、脱出するか。たりゃあ!」

 

 俺は渾身の力で壁を殴る。

 が、石造りの壁はビクともしない。それどころか、痛みで俺の拳は真っ赤に腫れていた。

 ……ダメか。つか、いてえ。

 まあ、原作でもかめはめ波じゃなきゃ破れてなかったし、それでも小さい穴開けるのがせいぜいだったし……しょうがない、のか?

 仕方ない。確か、ドラゴンボールのありかを聞き出すためにブルマを連れ出そうとするはずだから、その時を狙って……。

 

「……なあ、ブルマ。ドラゴンボールはどこにあるんだ?」

「…………車の中よ。もし取られたら危ないと思っておいてきたの」

「終わった」

「やっぱり⁉」

 

 俺は思わず膝をついた。

 失敗した。正直罠に掛かるとは思ってなかったし、掛かってもすぐに脱出できるものだと思ってた。

 やばい……このままじゃピラフ一味が願いを叶えちまう! 世界征服は神の力を超えるから無理と言うパターンは……多分ないだろうし。

 ……えっ、嘘? これでドラゴンボールの物語は終わり?

 ……結局戻れないの?

 …………いや、()()()()()()()

 全員が完全に意気消沈していた――その時。

 壁からモニターが現れ、青い肌色の男の顔が映し出される。間違いなくピラフだ。

 彼は真っ青な顔を怒り心頭と言った様子で真っ赤にし、叫ぶ。

 

『おいお前たち! 残りのドラゴンボールをどこに隠したんだ⁉ それに、私のドラゴンボールをいつ盗んだ⁉』

 

 …………………は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シータたちがピラフ一味の城で捕まっているころ。

 ある男が、城の近くで止めてあった車に侵入していた。

 ヤムチャ。

 以前シータを打ちのめした盗賊である。

 そしてその目的は、車に隠されたドラゴンボールだ。

 

「ふふふ、ついに見つけたぜドラゴンボール!」

「ヤムチャ様! 最後の一つ、何とか盗んできました!」

「おお! 流石だなプーアル、よくやったぞ!」

 

 余りにも仕事が早く、そして上出来なプーアル。

 ヤムチャは喜びのあまり彼と頬を擦り合わせた。

 ドラゴンボールには願いを叶える力がある。

 それは、シータたちを付けている過程で分かった。そして、願いの叶え方も盗み聞きして情報を入手している。

 

「これで、俺は俺の唯一の弱点、女を克服できる!」

 

 早速願いを叶えてもらおう。

 そう思い、ヤムチャはドラゴンボールを七つ並べる。

 途端、揃ったボールはまるで共鳴するように光を放ち明滅を繰り返す。

 行ける――! そう確信したヤムチャが、合言葉を口にする。

 

「出でよ神龍! そして願いを叶えたまえ!」

 

 呼び声に応えるように、ドラゴンボールは最高潮の閃光を放ち。

 空は闇夜を越えて昏くなり、七つの球からは、まるで天に昇るように、緑の体色と紅い瞳を持つ龍が姿を現した。

 神龍。

 ドラゴンボールから現れる、願いを叶える存在である。

 威厳と威圧感に溢れた出で立ちは、ヤムチャですら冷や汗を流して一歩後ずさってしまう。

 それほどまでに、神龍の存在は圧倒的だった。

 生唾を呑み込むヤムチャを前に、神龍が言葉を発する。

 

「さあ願いを言え。どんな願いも一つだけ叶えてやろう」

「や、ヤムチャ様! さあ!」

「あ、ああ。こりゃあ凄いな。ちょっと圧倒されちまったぜ。……さあ、神龍! 俺を! 俺の弱点である――」

 

 ようやく。

 ようやくこの弱点から。

 女が苦手と言う弱点から解放される。克服できる。

 そう思い、歓喜に震えていたヤムチャは――直後に、地獄を見た。

 

 

「黙れ、若造」

 

 

「……ぉ、か――」

 

 背後からかけられた声に、ヤムチャが凍り付く。

 ヤムチャは特に何かをされたわけではない。

 ただ声をかけられた……たったそれだけで、全身が硬直し声が出なくなったのだ。

 足はガクガクと生まれたての小鹿のように震え、脂汗が滝のように流れる。隣にいるプーアルは、背後の圧倒的存在感に過呼吸に陥り、地べたに蹲っている。

 恐怖。

 その感情が差す真の意味を、ヤムチャは今初めて理解したのだ。文字通り、心の底から。

 姿を見ることは叶わないが……いや、もし見たりすれば自分は死ぬかもしれない。そう、本気で思ってしまうほどの重圧。

 項垂れるヤムチャに、老人は続けて声を浴びせる。

 

「ドラゴンボールを揃えたその功績に免じ、今は貴様を見逃してやろう。疾く、失せよ」

「っ――」

 

 ヤムチャの判断は迅速だった。

 すぐさまプーアルを抱え、足が千切れんばかりの速度で老人の脇を駆ける。決して、顔を見ないよう瞼を伏せながら。

 一刻も早くその場を離れたかった。一瞬でも早く、正体不明の絶望の前から消えたかった。

 恐怖だけで、人は限界以上の力を発揮できるということを、ヤムチャはこの日、初めて知った。

 そして、誰もいなくなった荒野に一人。

 龍のように緑の肌を持つ老人が、笑みを浮かべて両手を広げた。その表情は先ほどまでのヤムチャのように歓喜に満ちていて――同時に、ヤムチャとは比べ物にならないほど邪悪だった。

 

「……ふっふっふ、ついに、ついにだ……!」

「さあ、願いを言え」

「ああ、そうさせてもらおう!」

 

 声の主―――ピッコロ大魔王は、己が願いを龍に向けて叫ぶ。

 

「儂の願いは一つだけ……儂を若返らせてくれ! もっとパワーに溢れていた、あの頃にな!」

 

 願いを聞き取った神龍の瞳が発光する。

 神龍は低い唸り声のような声質で、答えを返した。

 

「容易いことだ」

 

 次の瞬間。

 どこか瘦せこけた印象の頬に張りが戻り、縮んでいた筋肉は膨張。

 身長も伸び、邪悪な笑みや存在感は先ほどまでの老人の姿をはるかに上回っている。

 

「ククク……! はーはっはっは!」

 

 高笑いがこみ上げ、なお足りない。

 今までこれほど充実感を感じたことはなかった。

 それこそ、あの()()()()()()に封印を解いてもらった時以上だ。

 

「願いは叶えてやった。ではさらばだ」

「残念ながらそうはいかん! ハァ――――‼」

 

 去ろうとする神龍に、ピッコロ大魔王は口から気功波を放つ。

 直撃を受けた神龍は重苦しい悲鳴を上げて消滅した。

 後に残るは、石化した七つのドラゴンボールだけ。

 ピッコロ大魔王がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふ、これで神龍によって儂を消し去ることはできなくなった。あとは部下を作りだし、世界中の武闘家を始末して、魔封波を永久に消し去れば――」

「オイお前ェ!」

 

 ガシャン! 巨大なロボットがピッコロ大魔王の目の前に着陸する。

 ロボットの搭乗者である、ピラフは怒りを露わにピッコロ大魔王に吠える。

 それもそうだろう。本来、ドラゴンボールで願いを叶えるのは自分だと思っていた。なのに、気が付けばぽっと出の老人に願いを奪われたのだ。

 これで怒らないわけがない。

 相手が普通の老人なら、ピラフの対応は間違っていないのかもしれない。

 しかし、今回は相手が悪すぎた。

 

「よくも私の世界征服の夢を――」

「消えろ」

 

 ピッコロ大魔王が無造作に左手を振るうと、鮮烈な光がロボットの全身を呑み込んだ。

 光が晴れた次の瞬間には、ロボットもその搭乗者も跡形もなく消え去っていた。

 

「さて、まだあの城に何人か雑魚がいるな。

 その中に一人特別強いのがいるが……フッ、丁度いい。儂の力を試す相手になってもらうとするか。

 世界を我が手中に収める前の準備運動と行こうではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、いいわね。やはりピッコロ大魔王を復活させたのは正解だったわ」

「そうなのか?」

「ええ。あの怠け者のサイヤ人の絶望する顔が楽しみね」

 

 遥か上空、雲の上にて。

 トワとミラが地上の様子を観察していた。

 

「俺には理解できん。あの程度の奴を復活させて何になる?」

「いいじゃない。こうしたほうが面白いし、何よりあの怠け者の絶望する顔、見てみたいと思わない?」

「興味ない……ふん、まあいい。そのうちタイムパトロールがやってくるだろう。俺はそいつらの相手をする。その方がまだマシだ」

 

 タイムパトロール。

 文字通り、時間の流れや歴史に異変が起きた場合、適切な対応を以てそれらを修正する存在だ。

 以前もその一員である孫悟空に邪魔されたが――

 

「孫悟空はサイヤ人。戦うたびに強くなる。次のあいつは、以前のあいつよりも強いはずだ」

「それでもまだあなたには及ばないと思うけど……ま、別にいいわ。私はあなたが強くなるなら何でもいいもの」

 

 トワの目的は歴史を狂わせることそのものではない。

 ミラを最強の戦士とし、暗黒魔界の王に君臨させること、ただそれだけ。

 ミラが強いなら、強くなるならば何でも構わないのだ。

 だからこそ、試練を乗り越え、強くなってもらわなければ困る。

 彼の餌として相応しくなるまでは。

 

「精々足搔きなさい、怠け者のサイヤ人。ボーっとしてると、あなたは何もかも失うことになるわよ」

 

 冷酷な笑みを浮かべるトワが、死刑宣告するように呟いた。

 

 




うーん、これは腐りきったバッドエンド
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