孫悟空がいない世界線で地球に送られたサイヤ人です   作:山羊次郎

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第九話:大猿vs大魔王

 ドゴォ‼ 何かが爆発する音が反響した。

 俺たちは揃って肩をビクつかせる。

 な、なにがあったんだ……? さっきから予想外のことが起きすぎてマジで意味が分かんねえ……。

 頭を悩ませていると、地下牢の天井に亀裂が走り、そこから漏れ出た光があふれ出すと同時に崩れ落ちた。

 俺は慌ててブルマとウーロンを抱え壁の端に跳ぶ。

 

「ひっ――」

「な、なんだ……⁉」

 

 ピピピ! スカウターの電子音が耳に刺さる。

 映し出される数値に俺は驚愕した。

 戦闘力260。

 明らかにこんな序盤で出てきてはいけない数字だ。それこそ、ピッコロ大魔王編以降でなければ――

 

 

「ふむ、ここだったか」

 

 

 低い老人の声だった。

 そして、それは絶対に聞くことのない声だった。

 少なくとも今聞くことはあり得ない。

 文字通りの悪夢だ。

 

「だ、れだ……⁉」

 

 答えなど分かりきっている。

 俺だけはその正体を知っている。

 なのに、現実を受け止められない俺は、思わずそう聞き返していた。

 全身緑色の特徴的な皮膚を持つ、服の中心に魔と書かれた衣服を身に纏う男。

 神の半身にして悪の化身――

 

「ピッコロ大魔王様だ。光栄に思えよ、小僧。貴様は、このピッコロ大魔王さまのリハビリの相手に選ばれたのだ」

 

 ……嘘、だろ……。

 

 

 

 そして。

 俺はピッコロ大魔王に連れられ、城の外に出た。

 外は既に夜になっており、月の光が雲に覆い隠されている。

 そんな中、城を出てすぐの荒野の真ん中に、俺だけが連れてこられた。

 ブルマとウーロンは奴の眼中にはないらしく、奴が開けた穴から何とか脱出した。

 ……上手いこと逃げてることを願う。心の底から。

 こいつは今までの敵とは次元が違う。

 ピッコロ大魔王。

 神の悪い心の化身と言うだけあり、その戦闘力は凄まじい。かなり鍛えてあるはずの悟空が、年老いた姿のピッコロ大魔王でさえ歯が立たなかったほどだ。

 しかも見た感じ、こいつは若返っている。途中落ちていた七つの石の球……神龍の力で若返った後、神龍を殺したのだろう。

 そんなことを何食わぬ顔でやってのけるほどの邪悪の塊だ。しかも戦闘力で俺は激しく劣っている。

 おまけに技術もなければ経験もない。まず間違いなく、勝てないだろう。

 

「さあ、構えろ。無抵抗の相手を甚振るだけでは意味がない」

「くっ――! てりゃあっ!」

 

 ピッコロの挑発に応えるように、俺は一気に距離を詰めて蹴りを叩き込む。

 奴はニヤリと笑みを浮かべ、俺の攻撃をまともに受けた。

 無論結果は――効果なし、だ。

 俺と奴の力の差は天と地ほどある。どう足搔いたって勝てない。

 着地し、再度連続でパンチを腹のど真ん中に打ち込むが、やはり手応えがない。奴の肉体が、まるで鋼のように固い。

 ピッコロが右拳を振り上げる。俺はすぐさまその場を離脱しようと跳び下がる―――が、奴の攻撃は正確に俺の左頬を捉えた。

 二十メートルほど吹き飛ばされ、俺の体が摩擦で止まる。

 痛い……! ヤムチャの攻撃によって生じた痛みとは違う、叫ぶこともできない真の痛み。

 喉の奥から湧き出た血の塊を、俺は咳き込みながら吐き出す。

 つ、強い……! 確実に避けたと思ったのに、あいつの攻撃は俺に直撃していた……!

 

「っ――⁉ あ、あいつはどこだ……⁉」

「後ろだ」

 

 背後から聞こえた声に答える間もなく、俺は背中を蹴り飛ばされる。

 前方に吹っ飛ぶ俺を先回りしたピッコロは、さらに鳩尾を蹴り上げ俺を上空に打ち上げる。

 再度、俺より早く上を取り、その剛腕を背中に叩きつけ、俺を地面に撃ち落とす。

 山のように高い砂埃を巻き上げ、俺は地面に倒れ伏した。

 

「ぐ、がぁ……!」

「ほう。今ので完全に潰れたと思ったが、存外タフだな。それとも、儂が力の調整を誤ったか?」

 

 ククク、と笑みを零すピッコロ。

 俺はもう、拳を握ることもできなかった。

 こんなものか。

 所詮、余所者に過ぎない俺には何もできないのか?

 

 ……いや、違うな。

 俺は端から本気にしてなかったんだ。

 超ドラゴンボールで元の世界に帰る――そんなことができるはずがないと、心のどこかで思っていたんだ。

 俺は孫悟空じゃないし、孫悟空にはなれない。かめはめ波だって使えない。戦う心構えもできてない。

 どれだけ頑張ろうと思っても、結局はその場だけの口先野郎だ。

 ……これでよかったのかもしれない。

 俺みたいな覚悟もないカスがのうのうと生きてたところで、ドラゴンボールの世界を汚すだけだ。

 いっそのことここで死んでしまうほうが――

 

「さて、ではそろそろ止めを―――なんだ、貴様?」

「……えっ?」

 

 ピッコロが俺に止めを刺そうとし、やめる。

 何事かと霞む意識を必死に呼び起こし―――俺は驚愕に目を見開いた。

 

「お前……なんで」

「うっさい。何やってんのよ、バカ。見てらんないじゃないの」

 

 どうしてお前がそこにいるんだ……()()()……!

 

「馬鹿野郎‼ 死にてェのか⁉ お前は知らねえんだろうけどな! そいつはとんでもなくやばい奴なんだ! お前が出てきてもどうにもなんねえよ‼」

「そんなことわかってるわよ」

「な――」

「ほう。では何故、儂の前に立つ?」

「決まってるでしょ――」

 

 ブルマは……それこそ、自分の行動が当然のことであるかのように続きを口にする。

 

「友達を守るためよ」

 

 ……友達?

 俺とブルマが……?

 いや、そんなはず……俺はブルマとそこまで深い会話をしたわけでもない。友達なんて、そんな……。

 困惑する俺に、ブルマが振り返って言う。

 

「まったく、アンタ全然ダメじゃない!」

「えっ……」

「せっかく強いからボディガードとして雇ったのに、ずっと負けてばっか!」

「うっ……それは」

 

 ブルマは自信に満ち溢れた顔で言い放つ。

 

「しょうがないから、アタシが守ってあげるわよ」

「――――」

「だから、アンタも今度こそ、アタシを守ってよね」

 

 俺は、ブルマの言葉に何も言えなかった。

 ただ呆然と、毅然とした態度でピッコロと対峙する彼女を眺めていた。

 

「死ね」

 

 しかし、ピッコロは欠片も慈悲を持たない。

 俺がやめろ、と叫ぶ瞬間には、ピッコロは彼女の頬をはたき飛ばした。

 

「うおおおおおお‼」

 

 と、叫びが声が鼓膜を揺らす。

 視線を向けると、ブルマの飛ばされた先に走るウーロンが即座に大きなクッションに変化した。

 ブルマの体はクッションの中に吸い込まれるように埋もれた。

 

「ぐおおお……! ぶ、無事だぞこいつは……!」

「ウーロン! お前まで……何で逃げなかったんだよ」

「俺が聞きてえよちくしょう! さっさとそのバケモン倒してくれマジで!」

「ククク、面白いことを言う。このピッコロ大魔王を倒すだと?」

 

 笑みを零した後、不愉快だとばかりに鼻を鳴らし、ピッコロはウーロンたちに掌を向ける。

 その中心にエネルギーが圧縮されていき――

 

「ぐっ! させるかああああああ‼」

「!」

 

 気弾が撃ち出される寸前で、俺は起き上がって下からピッコロの手を蹴り上げる。

 放たれた気弾は、上空を進み雲を破った。

 俺は未だ痛みの取れない体を無理やり動かし、拳を握る。

 勝てないのは分かっている。でも、せめて時間くらいは稼がないと。

 アイツらが、今度こそちゃんと逃げられる時間を。

 ブルマが俺を友達だと言ってくれた。

 俺は一度もそんな風に考えたことはなかったのに。

 彼女のことが嫌いなわけではない。でも、俺にはそんな立場に居ていい資格などないと、そう思っていたから。

 ……なのに。

 ブルマは俺と友人であることが当然のように宣言し、絶対的な巨悪の塊であるピッコロにも立ち向かった。

 俺が諦めるのは、彼女の勇気を汚す行為だ。

 まだブルマは死んでいない。

 ならば今度こそ、俺がブルマを守らねば。

 俺がやらなきゃ誰がやるんだ。

 

「はぁ、はぁ……勝負だ!」

 

 だが、戦意とは裏腹に俺の体はもうついていけそうにない。

 片膝をつく俺に、ピッコロは高笑いを上げて歩み寄る。

 そして―――奴の忌々しい顔を見上げると同時に、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ふん、もう手加減はせん。一気に貴様を消し炭にしてやる。――ハァ‼」

 

 強烈な光を放つエネルギー波が俺の視界を覆いつくした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所詮はこんなもの。儂の力に及ぶはずがなかったのだ」

 

 ピッコロが吐き捨てるように言う。

 だが、ウォーミングアップの相手としてはちょうどいいと言えただろう。

 程よく強く頑丈で、しかしピッコロには絶対に敵わない。

 ピッコロは満足気に頷き、その場を去ろうとし―――

 

「……む?」

 

 直後に違和感に気づいた。そして、驚愕に目を見開く。

 エネルギー波を放った場所から立ち上る煙が晴れ、そこにあり得ないものがあった。

 シータだ。

 身に纏った衣服もボロボロの状態で、本来なら細胞一つ残さず消し飛んでいなければおかしい存在。

 だと言うのに、彼はピッコロの一撃など喰らっていないかのように平然と空を見上げている。

 僅かに生じた不安は、湧き出た怒りにかき消される。

 

「貴様……なぜ生きている? 儂の一撃を受けたのだ。死んでいなければおかしいだろう?」

「―――」

 

 シータはピッコロの言葉など耳に入っていないとばかりに上空を見上げ続けている。

 流石に不審に思い、ピッコロもシータの視線を追う。

 しかし、空には特別おかしなものはなかった。

 あるのは眩い光を放つ()()と星だけだ。

 おかしなものなど何一つとしてない。

 

「おい、貴様……さっきから何を見て――」

 

 と、ピッコロが声をかけた瞬間。

 ドクン、と。

 心臓の鼓動が耳に刺さった。

 ピッコロは耳がいい。だから、遠くで話している内容をすべて聞き取るくらいは造作もない。

 しかし、そんな彼でも心臓の鼓動を聞き取るなど不可能だ。

 だと言うのに、聞こえた。

 そして――それは、シータの心臓の音だった。

 ゾクッ、と。

 正体不明の悪寒が背筋を駆ける。

 何故かは分からない。

 だが、今すぐシータを殺さなければならない。そんな予感がした。

 しかしピッコロがその予感を振り払うように頭を振り、不敵に笑う。己の額に浮かぶ脂汗に気づかず。

 

「――あり得ん。こんな小僧に何ができると言うのか。ふん、来るなら来るがいい。瞬きの間に捻り潰してく――」

「ぐ、が――」

 

 シータが獣のような声を発した。

 

 

「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアア―――ッッッ‼‼‼」

 

 

 咆哮は空気を、大地を……そして、世界を揺らした。

 シータの体を中心に衝撃波のようなものが爆ぜた。

 ピッコロが驚愕に目を見開く。

 

「な、なんだ⁉」

 

 突如、凄まじい咆哮を上げたかと思うと、シータの瞳が紅く輝き、全身の毛が逆立った。

 同時に腕や胸、足の筋肉が膨張し、まるで狼のように歯が鋭く伸びた。

 そして、それだけでは終わらない。

 毛の色が茶色く変色し、まるで猿のような顔つきに変貌。さらに、全体的な体の大きさも風船のように膨らみ大きくなっていく。

 ついにはすぐそばに聳え立つ城並みの高さとなり、再び唸り声をあげた。

 

「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッッ‼‼‼」

「……ば、馬鹿な……い、一体奴は、何者……⁉」

 

 シータは突如として、巨大な猿の化物へと変貌した。

 すでに人間だったころの面影などないに等しく、己の存在を誇示するように空に向けて叫び続けている。

 そして、まるで大木のように太い腕を無造作に振る。

 それだけで、隣の城が全壊した。

 飛来する瓦礫を躱し、空を飛ぶピッコロ。

 信じられないとばかりに拳を握る。

 

「ま、まさか……あの小僧に、こんな奥の手があったとは……」

 

 だが、と。ピッコロは嗤って言葉を続ける。

 

「あの様子……おそらく理性がないのだろう。ふっ、いくら力を持とうと、知性無き獣に、このピッコロ大魔王が後れを取ると思ったか!」

 

 邪悪な笑みを浮かべ、右手を突き出す。

 その中心に膨大なエネルギーが集中したことを察知したのか、大猿となったシータはピッコロに視線を向けた。

 

「はっ! 今更こちらに気づいたとてもう遅い! くたばれ小僧ォ‼」

 

 放たれる強烈なエネルギー波は、シータの体のど真ん中に直撃した。

 シータが後方に倒れるのを見てピッコロは嗤う。

 まず間違いなく、街一つ消し飛ばしても余りある力だ。この結果はむしろ当然だ。

 そう思い、ピッコロはシータが死んだかを確認するために接近する。

 

「ふっ、さて……まだ息の根は――」

「っ――。……カ――――ッ‼」

 

 無防備に近づくピッコロに、シータは全力のエネルギー砲撃を浴びせた。

 突然の不意打ちに、ピッコロは反射的に身を逸らすも、すべての攻撃は躱せず右肩から先をすべて持っていかれた。

 激痛に苦しみ、蹲るピッコロの耳に、聞こえていいはずのない声が聞こえた。

 

『……へっ、ザマァ見やがれ!』

「! き、きさま……なぜ……⁉ 

 ――そ、そうか、理性が無い振りをして、儂の油断を誘ったのか!」

『……負けるわけにはいかないんだ。どんなセコイ手を使おうと、勝たせてもらうぞ!』

「くっ……だ、だが……計算が外れたな」

 

 ピッコロは笑みを浮かべると同時に、額に青筋が浮かび上がるほど全身に力を籠める。

 より正確には、失われた右腕に対して。

 変化はすぐに起きた。

 ピッコロの消し飛んだ右腕が再生したのだ。

 

「はぁ、はぁ……ど、どうだ……? 儂はこのように、再生することもできる! 貴様に勝ち目はない!」

『へっ……そいつはどうかな?』

 

 勝ち誇るピッコロに、シータは得意げに指摘する。

 

『その再生……体力をごっそり持って行っちまうだろ?』

「……⁉ な、なぜそのことを⁉」

『今のアンタのパワーで俺を仕留められるのか?』

「……な、舐めるな!」

 

 叫び、ピッコロは両手を前に突き出す。

 もはや手加減などしない。全力のパワーで目の前の怪物をねじ伏せる。

 そう思い、彼は全力のエネルギー波を放った。

 ……放った、はずだった。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 無傷、と言う訳ではない。

 しかし、先ほどのような手応えはなく、また、自身の肉体を巡ったあの万能感も失せてきているのをピッコロはヒシヒシと感じていた。

 

『へっ、さっきよりも軽いぜ、攻撃が! やはりパワーが落ちてるな……』

 

 シータは月の光を背に、狼狽えるピッコロへ宣言する。

 

『さあ、終わらせようぜ。――この戦いを!』

 

 





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