女騎士は巡る   作:いんの

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GLタグ付けたいけど、百合要素途中からだからやっぱ駄目ですよね?

………駄目ですよね?

訂正:最新話にて漸く一人目のヒロインを出せましたので、GLタグをつけさせて頂きました。百合タグも一応つける予定です。


プロローグ 決戦前夜の騎士見習い

 君ならどうする。瞼を閉じ、そして開けてみれば、何もかもが変わっていたとき。

 

 君ならどうする。生涯信じて疑わなかったものを、否定しなければならないとき。

 

 君ならどうする。大切な何かを護るべく、同じ程に大切な何かを失ってしまったとき。

 

 少女は―――――

 

 

 


 

 

 

『魔王』

 

 それは、人々に危害を加える悪なる魔族、その全てを統べる悪の親玉。そして、未だ全容が明かされていないこの世界における、未開の地を閉ざす最後の関門。

 世界最大の国家『ティランタニア王国』における共通認識は正しくそれであり、なればこそ人々の意識は「打倒魔王」へと集約される。

 誰しも悪を定めたいのだから、その悪を成敗したいのだから、そしてその先を見たいのだから。何より、そうしないと護れない「命」が数多くあるのだから。

 

 

 その王国の首都『ガリナ』に拠点を置く、少年一人と少女三人。齢にして16と少し、大人と子供の狭間に身を置く彼等もまた、そんな人々の悲願を成すべく活動していた。

 

 タクト・オヤマ。別段述べるべき特徴の無い、見た目はごく普通の少年。それでも少女らは、人々は、彼を勇者と定める。

 カイナ・リッツァート。黄金色の長髪が目を引く、見目麗しい少女。騎士見習いを自称しており、剣技に長ける。

 レザ・キリシュ。見た者に庇護欲を感じさせる、愛くるしい少女。魔法使いの名の通り、カイナとは真逆の立ち位置。

 ミィリ・カメル。快活さの溢れる美少女。仲間のバックアップ兼回復役は、治癒師である彼女の役目だ。

 

 

 特技も、出自も、性格さえもまるで異なる4人。

 数少ない一致している点は2つ。一つは魔王を滅するという最終目的、もう一つは彼等4人が途方も無く強いという点である。

 

 そんな、物語で言うならごく終盤近くに位置する程強い彼等は、宿で最後の休養を取っていた。王宮が手配する最高級の宿ではなく、実家の如く慣れ親しんだ、町外れにある宿で。

 そう、「魔王との決戦」に備えて。

 

 

 

 

 

 窓から淡い夕日が差し込む廊下を、カイナは当てもなくただ歩いていた。硬い表情と気の張った佇まいは、和やかな宿の空気と相反する。その様は、落ち着きが無いと思われても仕方ない。

 装備確認もとうに終え、明日に備えて直ちに休むべき今、見慣れた内装と共にただ時間だけが無為に過ぎていく。

 

「ラウンジでホットミルクでも飲んできたら?」

 

 この見慣れた光景以上に聞き慣れた明るい声が、カイナの後方から響く。ただ明るい様で、どこか柔らかい様な大人びた様な、或いは包み込む様な声が。

 振り向くまでもなくそれがミィリの声であると知っているカイナは、それでも振り向いた。前衛である自分を少しでも長く休ませようとする、治癒師の気遣いを知っていたからだ。少しでも仲間と話して気を紛らわせたかったという魂胆も、少なからずあるが。

 

「ありがとうミィリ。今すぐにでも休むべきと、分かってはいるのだが…」

「うん、アタシも分かってる。決戦前夜で、気なんて休まる筈無いって」

 

 ミィリは、あくまで軽くそう返す。流石に、無理矢理寝かせるつもりは無い様だ。

 優しい彼女を見て、ばつが悪そうに苦笑いするカイナ。するとミィリは、ある種の「まじない」を言い渡す。

 

「じゃあこうしましょ。前衛であるアナタがしっかり休まないと、アタシも治癒師として気が休まらない。だからアタシの為にも、どうか休息を取って欲しい」

 

 成程、自身の為よりも他者の為に動こうとする、カイナの心理を良く突いたまじないだ。

 そう言われてしまえばカイナも(とこ)に入るしかなく、加えてミィリがトドメの一言を添えてくる。正しくカイナの剣の如く鋭利な。

 

「大丈夫!タクトに夜這い仕掛けたりしないから!抜け駆け無しって約束だもんね?」

 

 実は最も聞きたかった言質が取れて、カイナは漸く安堵する。

 

「…分かった、休むとしよう。それと、別に私はタクトに惚れてなどおらぬからな?」

 

 この期に及んでそう言うカイナに対し、ミィリは全てを透視してる様なニヤついた顔を晒す。

 

 

 

 言われた通りラウンジへ赴いたカイナの視界に、また新たな影が飛び込んでくる。付け加えると、先程のミィリより一回り小柄な。

 

「お待ちをカイナ!」

「うぉっと」

 

 レザはその小さい身体でカイナの行く手を阻むと、怪しむような視線のまま告げてくる。

 

「アナタ…今日が最後の夜になるかもしれないからって、タクトに()()()()仕掛けないで下さいね?」

 

 どうやら皆、危惧している事は一緒らしい。魔王との戦いはまた別にして。

 仲間の内全員、好意を抱く相手が同一人物且つ同パーティ内という偶然。彼女たち3人は、性格も育った環境も異性への耐性もまるで違う。だのにタクトに好意を抱くのは、他の追随を許さないその圧倒的強さ故か。まるで「別世界」から来た様な、異質な思考なり雰囲気のせいか。

 何はともあれ、それ程に異性から愛される彼女たちの勇者殿は、外見は地味なれどやはり常人には無い何かを持っているのだろう。外見よりも内面を重視する、彼女たちの見る目もあるのだろうが。

 

 つまりは彼女たちは、掛け替えの無い仲間であると同時に、ライバルでもあるという事だ。

 そんなライバルの一人に、カイナはあくまで理に叶った返答を浴びせる。付け加えると、少しだけ感情的な。

 

「案ずるな、明日の戦いに響く様な真似はせん。それと何度も言うが、私に意中の男性など…」

「いくら仲間でも、こればかりは信用出来ません!全員生き残る保証なんて無いんですから」

 

 後半の強がりだけを完全無視するレザだが、彼女の焦燥は尤もだ。明日死ぬかもしれないなら、人間誰しも本能に任せてやりたい事をやるものだ。そこに愛が絡むのなら尚のこと。

 ついさっきまで同じ焦燥を秘めていたカイナはそう理解すると、今度は真摯に答える。

 

「私も騎士を目指す者だ、仲間の命を護る為なら己の情事など…。所詮見習い如きであるが、騎士として誓ってもいい」

 

 騎士とは神の忠実なる信徒であり、信仰者の象徴でなければならない。故に「騎士として誓う」という事は、即ち「神に誓う」という事。嘘偽りは許されない。

 曇りの無い眼差しでそこまで言われれば、レザも仲間を信じて引き下がるしかない。元より、彼女も単にカイナの緊張を解したかっただけかもしれないが。

 

「そういう訳だから、お前もそろそろ寝るのだ。さもないと、治癒師殿の胃に穴が空くぞ?」

「約束ですからね?」

 

 小さく可愛らしいバリケードが開かれ、カイナは今度こそホットミルクを頂きにカウンターへと向かった。

 

 

 

 既にホットミルクを飲み干したカイナは、溜息混じりに自室へと続く廊下を歩いていた。寝ると決めたは良いものの、底知れない不安感は彼女の足取りを重くする。

 

「カイナ」

「!」

 

 俯きながら進んでいると、少年の声が前から聞こえてくる。

 カイナが慌てて顔を上げると、想像した通りの顔が眼前にあり、不安感は一時的に消え去る。その代わりに、胸の鼓動が少し早くなる。

 

「タクト…」

「…」

「…」

 

 空気に任せて、黙り込んでしまう2人。若しくは、これまでの事にこれからの事、語りたい事柄の量に押し負けているのだろうか。

 何せ今は「決戦前夜」なのだから、もう二度と話せなくなるかもしれないのだから。

 

 そんな中、先に口を開いたのはカイナであった。

 

「この戦いが終わったら…タクトはどうする?」

 

 タクトの答えなど、カイナには凡そ予想出来ている。質問というより確認に近いが、それでもカイナは本人の口から直接聞きたかった。

 対するタクトは予想外の問いに少々面食らうが、あくまでいつも通りを装って話す。それ以外有り得ないと言いたげな、若しくはそれしか見つからなかったと言いたげな、どちらとも取れる口調だった。

 

「オレは、ただ変わらない日常を過ごしたい。オレと、カイナと、レザと、ミィリの4人で、魔物を狩って稼いで、馬鹿騒ぎして…。虫のいい願望だとは思うけどさ、そんな「いつも通り」が、オレは欲しい」

 

 予想通りの答えが返ってきたので安心するカイナ。

 彼女としては想い人を独占したいという気持ちも、決して無くは無い。だがそれは、レザとミィリを切り捨てる理由にはなり得ない。

 それだけ、4人で過ごす日々は“夢”の様に楽しかった。騎士という閉鎖的な身分であったカイナにとっては、特に。

 

 嬉しさに浸るカイナへ、今度はタクトが同じ問いを掛ける。

 

「カイナは?」

 

 その問いが返って来る事は、カイナも分かっていた。だが、タクトの様に迷わず返答する訳には行かなかった。

 

 魔物を斬り、人々を救う。民を護り、助け、導き、徳を生涯に渡り積み重ねる。そんな自身が人として正しいのだと、人々の規範にならんとする。お伽話の様なそれらこそ、本来騎士のあるべき姿であり、彼女にとって唯一の憧れだった。生きる目的にすら匹敵する程の、苛烈さと美しさがあった。

 だが今の騎士達に、そんな高尚な心持ちは無い。魔物との長きに渡る戦いは、数の限られし騎士達を次第に疲弊させた。代わりに求められたのは、安い賃金で数を揃えられ、そしてより戦いに専念出来る傭兵や冒険者。騎士の存在意義は薄れ、肩書きだけがペタリと貼られた、単に馬を持っただけの小貴族・小領主となった。民を護るどころか、その民からただ地代を搾取する存在に成り果てたのだ。

 魔物との戦いなど、今や騎士の役目ではなくなっていたし、誰も見向きもしなかった。

 そんな騎士が没落し切った時代でも、騎士としての能力を求められずとも、同じ騎士である筈の父から冷ややかな視線を受けても、カイナは騎士見習いとして鍛錬を続けた。安い金の為ではなく、民の為に戦う一人の騎士として、神と人間の仇敵たる魔物を誰より多く狩ってやるのだと。そんな騎士こそ、民を護る盾であり魔物を討ち滅ぼす矛として、戦士達を纏め上げるに相応しい。さすれば再び王も諸侯も騎士を重宝し、騎士は栄光を取り戻す。

 魔物を狩る為ならば、騎士たるリッツァートの名を世に広める為ならば、カイナは冒険者と行動を共にする事も厭わないつもりだった。

 そのカイナが冒険者であるタクト達と出会い、更にはタクトが彼女の騎士としての腕前を必要としていたとあれば、運命を感じずにはいられないだろう。であれば、地方での停滞を望む父と決別するのは、最早必然であった。

 こうしてカイナは一時的ではあるが、タクトを己が主に据えてその剣を振るう事となった。いつか「本当の騎士」となる為に。そうして今や国内随一とも言える剣士となったカイナは、「家を離れた騎士見習い」という汚点を含めても尚、王や諸侯から一目置かれる存在となった。これで魔王を斃したという実績があれば、国もカイナの願いの一つや二つ、多少無理を押し通してでも叶えねばならないだろう。

 

 だからこそ、カイナにとっては悩ましかった。

 国の有力者と主従の約定を結ぶには、即ち騎士であると真に認められるには、先ず第一に「冒険者」という枠組みから外れねばならない。

 だがタクト達と袂を分かつという事は、他ならぬタクトの願いを踏み躙る事となる。

 それより何より、彼女自身タクトと離れたくはなかった。

 

 悩んだ末、カイナは次の様に返すしかなかった。

 

「……すまない。今はまだ、決められない」

 

 申し訳なさそうな彼女に、タクトは「無理するな」と言いたげな優しい笑顔を見せる。

 しかし、彼女の言葉はそれだけに留まらなかった。

 

「だがなタクト。私は、お前と共に剣を振るえて良かったと、心からそう思っている。そんな日々がずっと続けば良いのに…ともな」

「カイナ…」

 

 互いに小さく微笑み合う、タクトとカイナ。これまでの長いようで短い旅路に、お互い悔いは無い様だ。

 タクトは楽しかった。短くも濃密な4人での冒険が、戦いと平穏の混在した4人の時間が。

 カイナは嬉しかった。大好きな少年と共に戦えた事が、大好きな少年の刃となれた事が。

 

 そうして暫く経って、漸くカイナはタクトと見つめ合っていた事に気付き、恥ずかしさから濃い赤面を晒す。騎士の道に全てを捧げてきたからこそ、彼女はこういう時どうすべきか分からない。

 

「で、ではな!私も明日に備えて、自室で休まねば…」

「?…お、おう」

 

 これまでと同じ、最早幾度目か分からない、タクトに対するぶっきらぼうな反応。気になる異性への接し方を、もっとミィリやレザから学べば良かったと、カイナは数少ない悔いを噛み締める。

 

 そしてカイナは自室へと急いだ。

 

 

 

 

 

 白の寝間着姿となったカイナは、一先ずベッドに背中から倒れ込む。日は未だ落ち切っていない。

 慣れ親しんだ、簡素ながらも優しく受け止めてくれるベッド。だが、やはり想定通り寝れそうにないカイナは、何気なく頭を巡らす。これからの事を思うと尚更寝れなそうなので、主にこれまでの事を。

 

(本当に、数え切れない程戦ってきたな。家で黙々と研鑽していた日々が、今では信じられん)

 

 オークにゴブリン、リザードマンにウルフマン、四肢を地に着けた獣から羽音五月蠅い蟲、見るに堪えない吐き気を催す異形まで、様々な魔物を斬ってきたカイナ。

 思い返す度、その達成感からどうしても笑みが零れる。魔物を斬り、神敵を減らした。魔物を斬り、子供の命を救った。魔物を斬り、村々の消滅を防いだ。魔物を斬り、その度に人々から賞賛された。魔物を斬り、その肉を食した。魔物を斬り、素材を換金した。そして魔物を斬り、仲間が喜んでくれた。そのどれもが誇らしかった。他でもない自分が、自分達が成したのだという事実は。

 研鑽の日々が十全に発揮された、戦いと救済。これまでのそれらが、カイナという人間を形作っていると言っても過言ではなかった。そう思うとますます、カイナの表情は柔らかくなってしまう。

 

(…神に感謝を)

 

 安らかに瞼を閉じながら、彼女は軽くそう念じた。彼女が騎士に憧れたその大元、神への信仰心。それが今の自身に至るのなら、正に神の御業も凄まじきと言った所か。

 

 だが、いつまでも思い出に浸ってなどいられない。心の奥底から大笑いするのも、真に神に感謝するのも、全ては魔王を斃してからだ。そしてそこから、新しい大地で、また新しく始まるのだから。

 その戦いに万全の状態で挑むのなら、十分に身体を休めねばならない。

 

(……仕方が無い)

 

 そう思いながら、彼女はベッドの脇に置いてあった「強めの酒」を手に取る。こんな時の為に、一応買っておいたものだ。

 騎士を目指す自分が、大事な戦いの前にこんな物を飲むなど、本来ならよろしくはない。だが、こうでもしなければ寝れる自信が無い。幸い、悪酔いはしない方だ。

 

(神よ、今晩ばかりはお赦し下さい)

 

 仇敵を斃すべく必要な行為なのです…と、神に対して再び念じ、カイナは一口分だけその酒を煽る。苦みと辛みが口内で短く暴れた後、喉を焼きながら身体の中へと落ちていく。

 

(…よし)

 

 これで30分後には寝れるだろうと、安心し切ったカイナは再度瞼を閉じる。

 その安心感が、眠気を助長する。そのままじわりと、酒が眠気を更に強めていく。まるで身体がベッドの中へ沈んでいく様な感覚に、カイナは陥る。

 

 

 そしてきっかり30分後、カイナの意識は暗黒へと落ちる。

 

 

 

 

 

 この世界には“魔力”が満ちている。大気中に、水中に、草木の中に、それらを食らう人々と魔物の体内に。それは果たして神が用意したものか、それとも最初からただそこに在ったのか。

 人間は、魔物は、この魔力を操る事が出来、それは様々な「力」へと変化する。己が肉体を内から強化するに留まらず、時には炎として吐き出し、水を自在に操り、雷を迸らせ、土の一粒一粒を蠢かせ、大気の流れをも変えてしまう。

 あらゆる力にどうとでも変化してしまうそれは、時にこの世の理をも書き換えてしまう。「距離」も、そしてそこから生まれる「空間」と「時間」という概念すらも。

 

─────こんな風に

 

 

 


 

 

 

 短い様でその実は長い、暗黒からの浮上。目覚め。カイナの視界は、早朝にはありふれた薄暗い自室の天井が映っている。

 

───筈だった。

 

 仰向けになっているカイナの視界を埋め尽くすのは、黒々とした「岩」だった。

 恐らくは暗闇の中にある、形の不揃いな岩、岩…岩。だのに、暗順応するまでもなく最初から見えているという事は、それら岩が何かに照らされている証。横から入る木の弾ける音により、その明かりが「焚火」によるものだと気付く。

 だが、仰向けの状態で知れる情報などそれだけだった。

 

 カイナは、あらゆる状況の変化に即応出来る自信があった。そうでなければ、ここまで名を馳せる事も無かったのだから。

 しかし、目覚めた瞬間、居る筈の無い場所に居る。

 余りに突然、尚且つただの一度たりとも経験した事の無い出来事に、流石のカイナも混乱すら抱けないでいた。ここが「洞窟」の中であると、簡単な予想すら出来ない程に。

 

「目覚めたね」

 

 低く、か細い様で力強くもある声。そんな聞き覚えの無い声が、延々と続く焚火の音と共にカイナの耳奥へ侵入する。

 訳も分からないまま反射的に、声の方へと振り向くカイナ。

 

 

 

 白い髪、黒い眼の青年が、視線の先に映っていた。

 

 

 

 それが新たな旅の始まりを告げる号令である等と、カイナには知る由も無く。




ヒロイン登場はもう少し先になるんじゃ。

早く登場させたいんじゃ…
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