5日目の早朝、広場から少し歩いた地点だった。
間も無く朝焼けが訪れる薄暗い森林。その一角の僅かに開けた場所で息を切らしている少女は、青年からの助言に耳を傾けていた。
2人は本作戦における戦闘の要であり、命をも狙われている。故に他面での準備を免除されてる分、己の強化或いは維持に努めねばならない。
「良くはなってきたけど、まだ動きに時間差があるかな。もう少し、使うべき技を絞り込んでみよう」
「更にか?」
「ああ、更にだ」
「…分かった」
今行っている鍛練は、言わば戦いにおける思考時間の短縮だ。
言うまでもないが、どんな技にも使い手との相性がある。カイナも例外ではない。
確かに本来なら、相手の動きに合わせて最適な技を繰り出すのが理想だ。ただそれは、その分だけ膨大な技を覚える事となり、結果として使う技の選択肢も増える。そうなると相手の動きに対して、より思考する分反応速度が落ちるのだ。それが相手を殺さずに、しかも情報量の増す集団戦となると、思考時間は更に延びる。
無論、全ての技を反射レベルまで身体に染み込ませれば問題解決なのだが、流石にそんな時間は無い。敵軍の到達まで、残り2日程しかない。
故に、頭の中で分別するのだ。今回の
これをこなした所で、カイナが生き残れるかどうかはニスモにも誰にも分からない。生死の境はそう、戦が始まってみない事には。
それでも、少しでも生へと近づけるのならやるしかない。だから見習い騎士は、今もこうして物騒な銀の薄板を構えるしかない。剣の速度も、重さも、音も、そして「死の意識」も、木剣では再現出来ない。
双方ともに当たったら終わりのソレが、果たして鍛練と呼べるのかは別だが。
2人が同時に奏でる金属音を聞きながら、カイナは心の底から感じていた。怖い、本当はやりたくない、と。互いに殺意が無いとは言え、互いが持つ得物は殺意に満ちている。
それをも超える命のやり取りでさえ、カイナは何とも思わなかった。なのに今は、やはり昨日と変わらず怯えていた。とうの昔に慣れ切った筈なのに。
それでも身体は動き続けた。ある意味では、これまで以上に貪欲に。その姿を、人は「必死」と表現するのだろう。
その単語にもある通り、正しく死への強い意識が彼女にそうさせていた。
何より、その意識と決して切り離せない者が、ずっとカイナの脳裏に焼き付いて離れない。彼女の笑顔が、泣き顔が、何気ない横顔が、そしてはぐらかす様な去り際が、カイナの心を引っ張って離さない。
そうなったのはいつからだろうか。昨日の一件から、もっと前から、それとも出会った瞬間からか。
「愛」
カイナの抱く感情を、ニスモはそう表現していた。
(…何が)
そんな自覚、カイナには抱けなかった。
イゼラが異種族だから、同性だからではない。一つの愛しか知らないからだ、タクトに抱く愛しか。
教わった訳ではない。だが、愛とはそういうものだと、カイナは考えていた。数多くの出会いから厳選し、長い時間を掛けて育むものだと。
だからそう、少なくともカイナの脳髄は違うと判断していた。あの時カイナ自身が偶々弱っていて、偶々気を許した相手がイゼラだったのだと。環境が、カイナにそう錯覚させているだけだと。
イゼラが大切な存在である事は、カイナも分かっている。だからこそ恐ろしいという事も。
ただそこから先は、カイナの頭が理解を許さなかった。ニスモに言われたが故、変に意識してしまっているだけだと。
ではもし愛でなかったのだとしたら、イゼラに抱くその感情は何なのか。イゼラとタクトを隔てる違いとは何か。どうして、最初に自身を受け止めてくれたのがイゼラだったのか。
カイナはそんな事を、器用にも剣戟の最中に考えていた。
だのに、意識は分散されるどころか寧ろ集約されていく。イゼラの事を考えれば考える程、死への忌避は高まる。刃の軌道も、ニスモの足運びも、気持ち悪いくらいはっきりと死が見せてくる。まるでイゼラが剣の軌道を教えてくれている様だ。
カイナにとってのイゼラとは、一体何なのか。
一時の気の迷いが生み出した幻想なのか。それとも、現在のカイナを辛うじて支える、ごく小さな目的の化身なのか。若しくは、ただ愛に飢えているから甘えているだけなのか。
いずれにしても、カイナの「想い人」という枠内には入らない。カイナにとって無くてはならないという依存の対象であり、カイナの弱さそのものだ。
愚かな騎士見習いには、そんなどうしようもない結論しか導き出せなかった。
「カイナー!」
反射的に、或いは本能的に、声のする方角へ首を回してしまった。
視線の先の木陰には、カイナの予想をそのまま形取った絶対的な存在があった。その声からはその姿以外決して有り得ない、可愛らしくも美しいハーピーの少女が。
少し離れていても、多少辺りが薄暗くても、その金塊よりも煌めく瞳は嫌でも脳髄の奥を照らし尽くす。
これ以上稽古の邪魔をしたくはないのだろう。掛け声の後、少女は遠慮がちに手を振ったきり、カイナに近付こうともしない。それとも、昨日の出来事を引き摺っているのだろうか。
対してカイナは、イゼラを見て静止したままだ。自分以外も止まっていて当然と、言わんばかりに。
2人のそんな様子は、昨晩の広場における別れ際を模した様だった。
どうしてなのだろうか。タクトに対しては、恥ずかしくて目を合わせる事すらままならなかったのに。普通ならそうなるのに。
それは「呪術」にも似ていた。どんな状況だろうと、イゼラから決して目を離せないという、カイナにだけ効く魔術だ。
ズゴッ
「ッデ!?」
ニスモの大きく硬い拳が右頬に直撃し、奇声と共に吹っ飛ぶカイナ。
「随分長い硬直だったね。実戦なら5回は斬ってやったのに」
口から流れ出る血を手甲で拭い、歯軋りのまま睨み返すカイナ。ニスモとの稽古で苛立ちを覚えたのは、ペムゼ森林に入ってからは久しぶりだ。
「ゴメーン!やっぱ声掛けない方が良かった?」
「良んだよイゼラ。現を抜かして、鼻の下伸ばす方が悪いんだから」
「ッ!誰が伸ばすか!」
イゼラの謝罪とニスモの返答に、声を荒げるカイナ。
何やら全てが腹立たしかった。ニスモの言葉通りである事も、稽古中によそ見した事実も、よそ見の相手がイゼラだった事も。
そして、未だに良く解らない自身の心にも。
闘いとは、心を乱した方が負ける。
そんな格言の体現者よろしくボコボコにされたカイナは、イゼラから手当を受けていた。生来の頑丈故か重傷こそ無いものの、あちこちに見える打撲痕や切り傷が痛々しい。それらから流れた血が、汗により歪な模様を作っている。
稽古での怪我は日常茶飯事だが、流石に今回のは酷い有様だ。それだけカイナの頭に血が上っていたという事だ。
故に、今回ばかりは治癒魔法の出番という訳だ。この後は、厳選した投げ技の集中鍛練もこなさねばならない。
尤もカイナにとっては、傷の痛みなんかよりも、イゼラに治癒魔法の適性があったという点に気を取られていた。決して高い適性ではないが、それでも珍しい事に変わりはない。少なくとも人間の範囲では、だが。
「もぉー。ニスモも少しくらい手加減したらいいのにね」
イゼラの何気ない言葉に、カイナはムッと口角を下げる。こういう所に、騎士の気質が垣間見える。
「…調子が悪かっただけだ」
「あっそ」
強がりに満ちたカイナの言葉を、イゼラは軽くあしらう。
そんなやりとりの最中も、イゼラの手から傷口へと魔力が注がれる。もっと詳細を言うなら、イゼラの想像を隅まで満たす様に魔力が変換され、送り先で細胞の動きを促進させている。これこそが癒やしの正体だ。
万能に見えるその魔法も、一つの命を取り戻す事は到底叶わないのだから、生命の営みとはよく出来たものだ。
カイナがそんな解り切っている現象にいちいち思考を巡らすのは、やはり多少の気不味さ故だろうか。
確かに昨日のテントでのやり取りは、思い返してみれば中々に恥ずかしいものだ。抱き締め合って本心を曝け出す。それは悪い事ではないが、理性は弁えろと諭してくる。
アレではまるで遠回しな「愛の告白」だ。おまけに「好きだ」と真っ直ぐな言葉を使ってない分、どうにもすぼらしい。勿論、あの時のカイナに告白のつもりなんて微塵も無かったが。
本当にどうかしていたと、カイナは思った。やはり、不慣れな事はやるものではないのだ。
そんな訳で何一つ言葉に出せず治癒を受けていると、イゼラの方が言葉を紡いでくる。
「昨日は…ホントごめんね、取り乱しちゃって。まさか抱き締められると思わなかったから」
口調は普段通りを装っている。だがそのほのかな赤みを帯びた顔と、焦点の合わない照り付いた瞳が、口調による装いを無駄にしている。その様は妙に既視感があった。
昨晩広場で別れる際も、きっとそう言いたかったのだろう。いち早く伝えたかったが為に、こんな早朝に起きたのだろう。
「いや…」
そうとしか返せない、自身の無力感に打ちひしがれるカイナ。それはいつもの悪い癖か、それともイゼラの火照った表情に圧倒されたが故か。
そうこうしている内にも、カイナの傷は少しずつ癒えていき、痛みもそれに伴って引いていく。治癒魔法特有のささやかな音色だけが、自然の中に溶けていく。
今この時間が過ぎ去ってしまうのが、カイナは何だか嫌だった。気の利いた台詞を言えないのはいつもの事で、それで自分を責めたくなるのもいつもの事だ。ただ今この時くらいは、そういう心情無しに癒やされたかった。
いつも悩んでばかりで、分からない事ばかりで、心を落ち着かせる事すら出来ない。唯一無心になれたのは、イゼラと入浴した時くらいだろうか。
そうやって毎度の如く沈んでるカイナを見て、イゼラはクスリと笑う。もうそこに、昨晩から続いていた気恥ずかしさは無かった。
「カイナってホント不思議。儚いくらい繊細なのに、変に強がりで、それでいて格好良かったりもするから」
「…」
そう言われると、どうにもカイナは複雑な気分になる。
それをイゼラが好ましく思ってくれるのなら、それはそれで良いのかもしれない。
ただ、そんな自分をカイナは「矮小な存在」としか見ていない。自分の事でウジウジと悩み、騎士としてのプライドも残っているから無駄に気張っている。それ故に、無心となって心地良い時間を過ごす事もままならない。要は、ただそれだけなのだ。
そもそも、カイナが思い描いていた理想の騎士像からは程遠い。迷い無く、何があっても折れず、正しい方へ人々を付き従える。そんな単純で分かりやすい理想像が、今だってカイナの中にはある。何が敵か分からない今となっては、限りなく不可能に近い虚像に過ぎないが。
だがもしそんなカイナだったら、イゼラはこんな風に愛してくれないのだろう。完璧で何の弱みも見せない者には、想いが介入する余地すら無いという事か。
自分が求める理想像と相手が求める理想像は、必ずしも一致しないのだ。
「…フッ」
此処に来てから皮肉な事ばかりだなと、カイナは小さく笑った。アラクネの出店で、白から灰色へと染まった時の様に。
「アッ!」
イゼラはそう驚くと、カイナをまじまじと見詰め始める。
「カイナが笑ってるとこ初めて見た!」
言われてみればそうだ。カイナは、未だイゼラの前では笑っていなかった。今の自嘲に近いものを笑顔に含めて良いかは、カイナ自身怪しい所だが。
「いやその…すまない。普段笑わないのは別に…イゼラと居るのがつまらない訳では…」
「メッチャ新鮮!もっかい!もっかい笑ってみて!」
(聞けって…)
普段の弱々しい自分が好きなのではなかったかと、気紛れなイゼラに軽く辟易するカイナ。笑ってみせてと言われてもだ。
そんな器用ならこんなに苦労してないとばかりに、カイナはイゼラの要求を却下する。
「作り笑いは苦手なんだ。…悪いが諦めてくれ」
「ちぇーっ」
不満気ながらも、あっさり引き下がるイゼラ。よく考えてみれば、無理に笑顔を作られた所で面白くもなんともないのだから、その反応も真っ当と言えば真っ当だ。
その代わりと言わんばかりに、イゼラは不満顔を明るい表情に戻すと、カイナに向き直る。
「ま、いつかまた見せてよね!気長に待ってるから!」
そう言って、イゼラはお手本の様に白い歯を見せつけ、ニカッと笑ってみせた。
まだ短い間だが、カイナはイゼラのその笑顔をずっと見てきた。本来ならとっくに見慣れている程には。
だが、どこにでも見掛けるごく普通の笑顔の筈なのに、未だ見慣れる事を知らない。見せる笑顔の一つ一つが、どれもこれも初めて目撃したが如く新鮮且つ天然物で、カイナの乾いた心を潤す。笑顔の裏側で喪失に怯えていると知った今では、尚のこと心に染み渡る。
この乾きも、潤いも、全て環境のせいだと言うのか。全ては偽物で、本来のカイナではないと言うのか。何かにより変わってしまう事は罪なのか。
勝手に沈みゆくカイナを余所に、イゼラは続ける。
「そしたらアタシ、きっとますますカイナが好きになると思う」
後先考えず、勢いに任せて言い放ったのだろう。言葉の直後、またしてもイゼラは薄らと頬に熱を帯びては、黄金の視線をカイナに向けたり逸らしたりと繰り返す。
誰よりも分かりやすい程に、彼女はいつだって本音で生きている。
(どうしてなんだ。どうしてイゼラは、こんな私を好きになってしまったのだ。…どうして私なんかを見て、そんな顔になれるんだ)
そう心の中で嘆いてみせても、カイナの高揚は止まらなかった。
色んな顔と出会い、色んな表情をカイナは見てきた。その中から選りすぐっても、今のイゼラの顔は突出していた。荒野に一輪桃色の花が咲いていたとしたら、こんな感情を抱くのだろう。
そう感じる心すら偽物というなら、もう本物なんていらない。どうせ本物も偽物も、イゼラの前では何の意味も力も持たないのだから。
どんなに普遍の律があろうと、自分が従う道理はない。そう変わってしまったのなら、それはもう仕方が無い。
在り方すら変わってしまう程、他者からこんなにも一途に愛される。カイナはもう、その虜となっていた。
カイナは彼を一途に愛した。だが彼は、カイナを良くも悪くも他の異性と同等に接した。その構図が全てであった、カイナだからこそ。
それが「答え」なんだと、カイナは理解してしまった。
(………訊いてくれ、イゼラ)
だが、イゼラの様に自分から伝えられる術を、カイナは知らないし知っていたとしても実行不能だ。
(「カイナはアタシをどう思っているの?」って…訊いてくれ、イゼラ)
だからそうやって、無様に念じる事しか出来ない。そう訊かれれば否応なしに答えるから、お願いだから、と。
だが無慈悲にも、気付けば治癒も殆どが完了している様子であった。短い様で、随分と長い時間を過ごしていたらしい。
過ぎて欲しくない時ばかり、時間は逃げる様に過ぎ去っていく。
「さて、そろそろ皆も起きる頃だし手伝わなきゃ。カイナは稽古の続きでしょ?」
そう言って立ち上がったイゼラを、カイナは座ったまま乞う様に引き留めた。
今生の別れになる訳ではない。だが今言わなければもう二度と言う機会は無いと、どうしてかそんな予感にカイナは襲われたのだ。
少しの困惑を見せるイゼラに対し、カイナは同じ目線へと立ち上がる。何の言葉も、纏まっていないと言うのに。
「イ、イゼラ……わ…私…は……」
イゼラの顔をいざ真正面に捉えると、思い出される。川辺での出会いと抱擁から、今受けた治癒までの全てが。全ての場面において目まぐるしく変容する、彼女の黄金と黄金が。
今から放つ言葉は、まるでそれら全てを凝縮しているみたいで、とても重々しく感じられた。
事実、つい今しがた理解したばかりのカイナが言うには、余りにも重すぎた。
声の編み出す言葉とは、それだけの力を持つ。真の意味での撤回なんて効かない。今迄の事、これからの事、イゼラや団との接し方。それら全てが脳内で暴風雨となり、息が苦しくなる。
「…」
息も絶え絶えといった具合に、口を半開きにするカイナ。稽古による汗が、滲み出た新たなる汗に流されていく。
彼女は泣きそうになっていた。言葉も選べず、声すらも出せない現状に。
コツン
カイナの頬をさらりとした両手が包んだかと思えば、額と額が密着した。それは温かい様な、それでいてひんやりと冷たい様な、どちらか判別し難いがとにかく心地良いものだった。
そんなカイナの視界全ては、目を瞑ったイゼラに覆われていた。
「無理しないの」
思考があやふやになる中、そんな短い言葉がカイナを制した。
それにより、カイナの思考は一瞬で正常化され、動悸も収まった。そして伝えようとしていた「何か」も、どこかへと去ってしまった。
イゼラのそれは、他意の無い優しい言葉だ。その言葉をそんな風に贈られた相手は、もう身を委ねるしかなくなる。
だからこそカイナにとっては、寧ろ残酷であった。
そうして額を離したイゼラは、今度こそ広場の方へと踵を返す。いつもの笑顔で、カイナに手を振りながら。
その姿が見えなくなるまで、見えなくなっても暫くの間、カイナは視線を変える事が出来なかった。
一人残されたカイナもまた、いつも通りの表情をしていた。全てに疲れ果てた、どこか物悲しい表情に。視線も気付けば、地面へと落ちていた。
そうして暫くそのまま、銅像の如く静止していると。
ズドォッ!!
気が付けば、その地面を殴り抜いていた。敵も何も居ない、枯草と雑草で硬く覆われた、どこにでもある地面を。
そんなしょうも無い鬱憤晴らしで、心が本当の意味で晴れる筈も無く。
ただ拳がヒリヒリと痛んだだけだった。
それからは、普段とは異なるものの日常が過ぎていった。ただ当たり前の様に。
準備を進めて、稽古に励んで、休憩を挟んで、非戦闘員と地竜を避難させる。それらの合間は、いつも通りの日々を個々の会話が演じていた。
イゼラとの時間も、いつも通りが支配していった。いつも通り何も伝えられず、いつも通り愛されて、そしていつも通り抱き締められる。
それでもカイナは懲りる事なく、その一つ一つを初めて味わったかの様に噛み締めていった。
それが愚かな自分に出来るせめてもの抵抗だと、己に言い聞かせる様に。
◇◆◇
7日目、夜。
無数の星が大地を祝福している中、運命の刻限がその大顎を開けた。
ペムゼ森林を抜けた草原は、膨大な数の松明により緋色に彩られていた。横長に伸びる緋色の点たちからは、誰一人逃さないという強い意思が星々からも見て取れた。
その帯の中心部分には、誰かを乗せた地竜が佇んでいた。
ただ、その地竜が「玉座」に見えてしまう程には、その乗り手である誰かは太々しかった。それは正に、自分がこの軍で一番偉いのは勿論、いずれこの世界で一番偉くなると知っているかの様だった。
「ヘッヘッヘ、此処からだ。この地こそが、ワシの野望の第一歩となるだろうな!」
勝利と莫大な富を得られる確信があるのだろう。それにより、ゆくゆくは2つの大陸を支配出来るという事も。
頭領は隠す必要性をまるで感じないとばかりに、その蝦蟇口を醜く歪ませた。
兵たちのすぐ頭上では、大量のメムシが頭領の指示を待ち侘びていた。