女騎士は巡る   作:いんの

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ヒロインの前にまずは兄貴分。


第1話 黒眼の青年

 安寧なる時間と空間から一転。目を覚ませば、見ず知らずの洞窟。

 そんな状況下にて青年を視認した瞬間、当然の帰結としてカイナは凄まじい勢いで飛び起きる。

 

「貴様何者だ!?ここは何処だ!?私に何をした!!?」

 

 相手の事などお構い無しな、一遍なる問いの嵐を巻き起こしながら、カイナは反射的に剣を構えようとする。

 

「ッ…」

 

 だが、その手は虚しく空気を掴むのみ。そこで漸く彼女は、自身が寝間着姿のままなのだと思い出した。

 ならばと周囲を見渡すも、装備品らしきものは見当たらない。

 

 そんな半狂乱に近いカイナを前にしても、青年は何ら動じずその口を動かす。

 

「落ち着くんだ。僕は君の敵ではないよ」

 

 淡々とした声を再度耳にし、カイナはまたしても青年に目を向ける。今度は、相手の外見や状態をよく確認する様に。

 歳の程は25前後。その整った顔立ちもあってか、白髪も老いというよりどこか美しさを感じるものだった。何より目を引く()()()には、黄色い瞳が堂々と居座っていた。表情は乏しく、心の内は読めない。

 今、彼は地に座しているが、背の丈は推定190程。黒の薄い布地には、美しい顔立ちからは想像出来ない隆々とした肉体が浮き出ていた。傍らには鞘に収まったロングソード、短剣やナイフもちらほらと見える。間違いなく「武」に通じた者だ。

 

 一先ず青年から敵意は感じないが、相手には武器が有り自身には無いと把握したカイナは、警戒心を解かないでおく。

 

「外の草原だよ。そこで君は寝ていて、揺さぶっても起きなかった。そのままにしておく訳にも行かなかったから、今君は僕と此処に居る」

「………は?」

 

 青年から与えられた簡単な情報。だが目が覚めて早々、初対面の相手にそんな事を言われて信じられる筈も無い。

 いやそうでなくても、仮にタクトたちが言ったのだとしても、とても信じられない。つい先程まで、仲間達と決戦前の語らいをしたばかりではないか。慣れ親しんだあの宿で。

 

 カイナは外へと走った。

 

 その時の彼女の貌は、酷く歪んでいたのかもしれない。夢であると信じて疑わないそれは、傍から見れば狂笑に近かっただろう。

 出口から降り注ぐ月明かりが、ゴツゴツとした岩道を照らすが、彼女は構う事無く素足で駆けていく。その度に生じる痛みにより、これが夢ではないのだと嫌でも理解しそうになるが、違う違うと懸命に頭を振った。

 

 そうして、歪な円を描く出口へと辿り着く。

 

「そんな……」

 

 青年が言った通りの空間を、満月が映し出していた。

 カイナは未開の地以外、ティランタニアは勿論、ほぼ全ての地を巡り尽くしていた。その内どんなに平凡な草原だろうと、暗闇で視界が悪くとも、一度でも訪れたのならその光景を忘れない。

 一面に広がっているそこは、カイナの記憶のどこにも無い広大な草原であった。見た事の無い緩やかな隆起が深緑に覆われており、月明かりの途切れた先には街灯一つ無い暗黒が広がっていた。

 視覚だけではなかった。匂いも、音も、大気も、味覚を除く全ての感覚が「知らない」と嘆いている。

 

 魔王城が行く手を阻む「未開の地」。まさかとは思うが、ここがそうだとでも言うのだろうか。皆で足を踏み入れる筈だったそこに、カイナ一人が放り込まれたのか。

 

 それだけを思うと、カイナはその場で膝から崩れ落ちた。

 新たな世界へと抱く胸の昂り故ではない。もうタクト達と会えないかもしれないという、絶望からだった。

 

 

 

 洞窟内に引き戻されたカイナは焚火を見つめていた。混乱こそ引いてきたが、その瞳は虚ろだった。

 

 ひたすらに思うは直近の過去、先程までの宿。普段には無い緊張感がありながらも、あくまで普段通りの日常。物理的距離があるというだけで、それがまるで遠い過去の様にすら感じる。

 だが実際、熟睡してから時間が経っていないのは間違いない。髪はあの時と同じく整っており、肌や衣服にも劣化は見られず、酒の酔いも僅かに残っている。第一、草原で無防備に寝ていて無事だったのだから。ニスモの言を信用するなら、だが。

 

 なら今頃、タクトたちはどうしてるだろうか。血眼になって自分を探しているのだろうか。その後、魔王との戦いはどうなるのか。もし決戦が先延ばしになるなら、どれだけ民に犠牲が出るのか。

 そんな中、自分はこれから何をどうすれば良いのか。

 

 いくら過去に思いを馳せても、結局はそんな風にこれから先の事へと思考が向かってしまう。過去には決して行けず、未来は確実に訪れる、それらと同じ様に。

 現実逃避をした所で、目の前の現実からは逃れられないのだ。

 

「少しは状況を理解できたかな?」

 

 嫌でも考える余裕が戻って来ていたカイナは、青年の問いに力無く頷く。もう少し沈黙に浸っていたかった彼女だが、兎にも角にも情報が足りないという事もまた理解していた。

 ならば現状、この青年から情報を集めるのが最適だ。

 

「なら、次は自己紹介だね。僕は『ニスモ』、一応冒険者だ」

「…カイナ。見習い騎士だ」

 

 相手が名前しか言わなかったので、カイナも家名は伏せておいた。やはり、まだニスモを信用しきった訳ではないらしい。距離と時間的に、そして武に通じ切ったカイナ相手なら尚更不可能ではあるのだが、ニスモに攫われたというごく僅かな可能性も燻っている。

 普段の彼女ならここまで人を疑ったりしないのだが、それはニスモの「ある部分」が原因だった。人ならば誰しもが持っている、顔の印象を決定付ける部分だ。

 

「…私から質問に入らせて貰う。ニスモ殿…失礼を承知で訊ねるが、貴方はか?それとも魔物か?」

 

 ニスモの「黒き眼球」を睨みながら、カイナは問い質す。

 その見た目で言葉が話せるなら、彼が人間であるのはほぼ確定的だ。敵意も変わらず感じない。

 だがその眼だけは、間違いなく魔物のソレだった。禍々しき気配すらも。本来なら白い眼球に収まっているべき黄色い瞳は、黒い眼球の中で不気味に浮かんでいる。

 

 仮にもし魔物なら、彼女はニスモを狩らねばならない。

 

 対するニスモは、カイナの質問の意図を直ぐさま察する。

 そして哀れむ様な、諦観した様な視線を彼女に向けながら答える。

 

「成程…君はティラント人か」

「答えろ」

 

 何故先の質問だけでそこまで分かったのか、気になったカイナだが後回しにする。人か魔物か、その答えが最優先だ。

 

「僕にも分からない。だから、君が答えを決めればいい」

「…」

 

 結局、答えは灰色のまま終わってしまう。

 だがこのままでは先に進めないので、カイナは仕方無くニスモを「人間」と見なした。幾ら王国随一の剣士たる彼女とて、武器が無い以上は確実に勝てるとも限らない。何より、助けてくれた恩を仇で返すのは神の教えに背く。ニスモが犯人であるというしょうもない可能性も、一旦頭から消しておこう。

 ならば、先ずは他に言うべき事がある。先程岩道で傷付いた足にも、今は包帯が巻かれているのだから。

 

「…礼がまだだったな。私をここまで運んでくれた事、足の手当をしてくれた事…感謝する」

「気にしなくていいよ、久しぶりに話し相手も欲しかったし。足の傷は悪いけど、僕も治癒魔法の適性が無いものだから…」

「いや、そんな…謝らないでくれ(私だって無い)」

 

 人も魔物も、当人に合った魔法というものがある。全属性の魔法を行使出来る者こそごく少ない。当人が秘めている魔力量も個人差がある。

 どうやら、それらはこの地においても変わらない様で、ほんの僅かな安心がカイナの中に生まれた。

 

「一応『ウアルの薬草』も塗っているから、一晩経てば傷は塞がると思うけど」

「そうか…」

「僕にもっと魔力があれば、もう少しやりようもあるんだけどね」

 

 無表情ながらも、ニスモは鼻で自身を嗤う。

 そんな小さな自棄も短く、彼は次なる状況確認に移る。

 

「君は気がついたら此処に居た様だけど、その前は何処に?」

「ティランタニアの首都、ガリナにある宿だ」

「何か、いつもと違う事はしてたかい?」

「…寝る前に、酒を少々」

 

 確かに強めの酒ではあったが、まさか遠くの土地までトばされる作用がある筈も無し。

 いや或いは、聖戦を前にして酒を飲んだ事への、神からの天罰か。それにしては度が過ぎる気もするが。

 

「……そうだ、「戦い」だ。私と仲間達はその日、魔王との戦いに備えていた」

 

 ニスモも、魔王という単語は何度か耳にした事がある。だが見た事も害を受けた事も無いので、特段反応は示せなかった。

 ただ、原因を絞り込む事は出来そうだ。

 

「魔王の刺客が、その邪魔をすべく君を仲間から遠ざけた…?」

「だがそれも妙だ。パーティの分裂を狙うなら、私ではなくタクト(リーダー)を狙う筈。そもそも、寝込みを襲うのなら何故私達を殺さなかった?」

「じゃあ、別の目的を持った第三者の仕業かな?」

 

 「誰が何の目的で」を見つけ出そうとする2人。だがカイナもニスモも、ある大前提を意識的に避けていた。「転移魔法」についてである。

 どんなに遠い位置だろうと、瞬時に移動可能な夢の魔法。だが「夢」が付く通り、未だ実現した前例は無く、大魔法使いらによる研究も尽く失敗している。

 仮に可能だとして、もし使うのであれば膨大な呪文の描かれた魔法陣とそれを準備する人員、発動には何十人もの魔法師と莫大な魔力が必要だ。それで発動の最低基準を満たせるかどうかだとか。そんな規模の魔法陣、カイナの部屋に入り切る筈も無く、誰にも気付かれず準備・発動をこなすとなると結局不可能だ。

 

 だが不可能と決めつけては何も進まない。現にカイナは、ティランタニアからこの地まで移動している。冒険すれば年単位で掛かるかもしれない距離を、たった一瞬で。

 故に、転移魔法を使われたという前提で話を進めるしかない。

 

「地図を広げてみよう。何か犯人の意図が分かるかも」

 

 そう言うと、ニスモは丸まった地図をリュックから取り出し、その全容をカイナの前に晒す。古ぼけてはいたが、広げられたその大きさはカイナの身体がスッポリ入ってしまう程だった。

 

「凡そこの辺りが、今僕達の居る場所だ」

「!」

 

 地図の一点を指差され、カイナは驚愕から目を見開く。今自分達が身を置く未開の地、その恐ろしい程の広大さに。

 地図の左側には、ティランタニア王国が領土の大部分を占める『ユートリアン大陸』が。そして地図の右大半には、ユートリアンの倍以上の面積はあろう未開の地『ギヤ大陸』が、まるで地図の主役とばかりに堂々と載っていた。

 両大陸を辛うじて繋げている細い通路の様な陸地には、魔王城らしきマークがポツンと描かれていた。

 

 その地図を見て、カイナは改めて思った。自分は、本当に「新世界」へと足を踏み入れてしまったのだと。

 

「この地図は……貴方が一人で作ったのか?」

「色んな地図を照らし合わせたり、伝聞を精査したり、実際に歩いたりしながらね。それなりに正確な筈だよ。ギヤ大陸に至っては、未だ巡っていない地域も多いから、何とも言えないけど」

 

 一体どれだけ旅をすれば、これ程事細かな地図が出来上がるのか。現在は冒険者であるカイナだからこそ、その途方の無さが手に取る様に分かった。

 そんなカイナを気にせず、ニスモは続けた。

 

「やはりティランタニアは、魔王城から近いね」

「ああ。魔王軍から諸国を護るは、宗主国であるティランタニアの務めだからな」

「対して、今僕達が居る『ケピア草原』はギヤ大陸の東端。君が居たガリナと比べれば、魔王城から遥かに離れている。やはりこうして見ると、君を魔王城から遠ざけたかった様に見えるね」

 

 だとしたら、やはりカイナだけを転移させた犯人の意図が読めない。

 そんな事を思ったニスモは、ある「重大な見落とし」に気付く。

 

「そもそも、本当に君“だけ”を転移させたのかな」

「…ッ」

 

 犯人は、誰にも気付かれずにカイナを転移させる程の力を持つ。もしその犯人にとっての転移が、1人も4人も変わらないものだとしたら。

 そう考えると、カイナだけでなく全員を別々の場所に転移させたという方が、仮に魔王の仕業だとするなら辻褄が合う。

 

「なら…!この大陸にもパーティの誰かが!?」

「飛ばされているかもしれないね」

 

 この大陸の何処かに仲間が居るかもしれない。仲間の誰かが、遙か遠くの地で自分以上に辛い思いをしているかもしれない。

 そう思うとカイナは、段々と居ても立ってもいられなくなってきた。

 彼女のそんな変化を、見逃すニスモではない。

 

「はやる気持ちは分かるけど、冷静にね。仲間が飛ばされていない可能性もあるし、飛ばされたとて何処にいるのかも分からない。となると、君にとって最良の「選択」は何だい?」

 

 問い掛けられ、カイナは暫し目を閉じる。

 

 答え自体は、割とあっさり導き出された。が、問題はまた別にあった、カイナ自身である。

 ここから先、どうやって前に進めばいいのか。装備も何も無い状態で、どれ程強い魔物がどれだけ居るのかも、地理の一つも分からない異界を。文化もしきたりもまるで異なるに違いない。

 気力と精神力の問題もある。目的地へ行くにしても、それはかつて無い程の遠大な道のり。飛行魔法なんて都合の良い魔法、カイナは使えない。今この瞬間にでもそこへ辿り着きたい気持ちを抑えながら、一歩また一歩と地道に進み続けねばならないのだ。

 カイナ「一人」では、早く着くどころか辿り着けるかすら怪しい。

 

(ではニスモ殿に同行して貰うか?…いや、私の問題に彼を巻き込んではいけない。それに、騎士たるこの私が「魔物である」可能性を秘めた者と、旅を共にするなど。ましてや頭を下げて頼むなど…)

 

 無論カイナも、ニスモには感謝の念を抱いている。だが、それとこれとは話が別だ。

 神の教えは、それ程までにカイナの中身を染めている。魔物は全て神の敵であり、例外無く排除対象だ。

 

 いや最早、手段を選べる状況ではない。騎士道精神を貫き通すか、仲間の為に恥を捨てるか、そのどちらかだ。

 だとしたら神は、どう感じられるのだろうか。仲間を想う自身を称えてくれるのか、半魔と行動を共にする自身を罰するのか。それを裁量出来るのは教会だけだが、今ここにそんなものは無い。

 それら全てを踏まえた上で、カイナはどうしたいのか。

 

 悩んだ末、カイナは口を開いた。

 

「最良の選択は「ガリナへ向かう」だ。各々の位置が分からない現状、闇雲に探すより元居た場所へ帰ろうとする筈。飛ばされたのが私だけだとしても、拠点であるガリナへの帰還は自然だ」

「正解だ」

「それと…」

 

 カイナは立ち上がり、そして姿勢を正すと、ニスモに対して深々と頭を下げた。それこそが、彼女の選択だった。

 

「無理を承知でどうかお願いする、ニスモ殿。私の旅に…同行しては貰えないだろうか?より早く辿り着くには、この地を知る貴方の助力が必要だ。礼はするからどうか…頼む!」

 

 迷いの無い言葉、頭を垂れながらも見る者に覇気すら感じさせる姿勢。ニスモは、そんな彼女をしかと視界に収める。

 彼はその瞳の奥に、郷愁の灯火を宿していた。

 

(…騎士として、他人に頼りたくはなかったろうに。半魔の者と組みたくはなかったろうに)

 

 余り騎士らしくない、見習い騎士の判断。騎士道よりも仲間を選ぶそれは、未だ子供故の割り切れなさか。それとも、割り切ったが故の選択なのか。

 

 一つだけ分かった事がある。輪郭の見えないあやふやなものだが、カイナは“何か”を持っている。ニスモがこれまで会ってきた騎士とは、明らかに違う何かを。彼女の言葉から、思考から、或いは纏う気から、そんなものをニスモは感じていた。

 目的の為、彼女からすれば半魔の彼に頭を下げたというのも勿論ある。それ程、彼にとっては異例の事だったのだ。見習いとは言え騎士が、人かどうかも分からぬ者に何かを頼むなど。

 だがそれ以上に、「神」に対する彼女の姿勢だ。騎士にとって「教え」は主人以上に絶対であり、「教えの中にある神」こそが絶対者なのだ。それとは僅かに違う“何か”が、彼女にはあった。

 彼女のそれは未だ微々たるもので、一見有象無象の騎士と変わらない。だが、戦闘力などでは測れない内側のもっと奥に備わる「強さ」が、砂漠の中で小さく光っていた。

 

(……「真の騎士」…か)

 

 彼女ならもしかしたら、万に一つの確率だが、そうなり得るのでは。そんな、極小ながらも確かに煌めく思いが、ニスモの内に湧いた。

 

 ニスモは、嫌という程に知っていた。騎士道精神など、神に媚びへつらう為の、暴力を正当化する為の方便でしかないのだと。ニスモの師は、そのせいで命を落とした。

 だが絶望する反面、希望も捨て切れなかった。神の言いなりではない騎士に、もし会えるものなら会ってみたいと。それがどんな存在なのか、この目で見てみたいと。

 師が言っていた「真の騎士」と、いつの日か肩を並べてみたいと。

 

 師が亡くなってから今まで、絶望の中でずっと抱き続けてきた僅かな希望。ニスモは初めて、その希望を解放してみる事にした。

 目的無き旅は、もう味気無い。ならばいっその事、吹けば飛んでしまいそうな希望にこの身を預けてみるのも一興だろう。

 この旅を通じて、この若き見習い騎士が、どんな騎士へ向かうのか、と。

 

「良いよ。君の旅に、僕も同行しよう」

「ほ、本当か!?無理をしなくても…良いのだぞ?」

「どうせ当ての無い旅だったし、全然構わないよ」

 

「けれど一つ、言っておく事がある」

 

 ニスモの一言を境に、場の空気が一変する。まるで刃が張り巡らされた様な、時間が消し飛んだ様な、そんな空気に。

 同時に、ニスモの瞳にはこれ以上無い真剣さが宿り、釣られてカイナは再びその表情を引き締めた。

 

「本当に…過酷な旅になるよ?肉体的というより寧ろ精神的な、これまでの君を全否定する様な、そんな壁に必ずぶつかる時が来る。しかもそう遠くない内にね。…覚悟は良いかい?」

 

 より低く、より圧の入ったニスモの声により、カイナは思わず唾を飲み込む。今まで出会ってきた、どの魔物よりも濃い威圧感であった。

 だが、もう彼女の決意は揺るがない。揺らいではいけないのだ。

 

「覚悟などとうに出来ている。私は必ず…仲間達と再会する!」

 

 濁りの無い清廉な眼光を互いに飛ばし合う、カイナとニスモ。それは正しく、紙を用いない契約が如くであった。

 

 睨み合いと言う名の調印が済んだのか、ニスモは漸くその腰を上げた。

 

「分かった。これから宜しくね、カイナ」

 

 右手を差し出すニスモ。他意の無いそれは握手の形だ。

 カイナは、その右手と頭上の黒眼を見比べながら、恐る恐る自身の右手を差し出す。この手を握ればもう止まれない。半魔かもしれない者と、組む事になる。

 そして漸く、深呼吸した後にその大きな手を握った。

 

「宜しく頼む、ニスモ」

 

 そうして2人は互いに握手を交わすと、今後必要なものについて話し合う。

 

「先ずはそう、君の装備を整えないとね。予備の中に、君の身長に合いそうな剣と靴がある。靴は僕が子供の頃に使ってた奴だからボロいけど、補強すればそれなりに持つと思う。行商の通る場所に出るまでは、それで辛抱して欲しい」

「何から何まで忝い(その靴もしかして結構大事な物なのでは…?)」

「新しい衣服は、魔物の毛皮から拝借しよう」

「狩りなら任せてくれ。後は「馬」さえ手に入れば…」

「それなら───」

 

 

 

 この時、カイナの覚悟に偽りは無かった。これまでの鍛錬と冒険で鍛え上げてきた己の精神力を信じ、何が起ころうと決して屈したりはしないと心に決めていた。

 

 

 

 その覚悟が如何に薄っぺらいものだったのか、彼女は思い知る事になる。




と言う訳で一人目の仲間、白髪黒眼イケメン高身長ムキムキお兄さん登場回でした。
主人公の師匠的存在に出来たら良いなと思います。
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