女騎士は巡る   作:いんの

7 / 12
情勢とか考えるのが難しかったです。
少し長くなっちゃいましたが、早めに投稿出来て良かったです。


第6話 黒狼の行商団

 団長の許可無く出歩くな。

 

 最近作られたその小さな掟を破ったバイゼルとその娘を、ニスモも含めた全員で探していた。空を飛ぶ種族は皆総じて自由気ままな質が多いが、その娘は特に顕著だった。

 

 のだが、付近の川辺であっさり見つけてしまう。偶然にもニスモの手で。

 そこまでは良いのだが、問題はその状況だった。休憩から抜け出し勝手に娘を探してたバイゼルと、事の発端である娘と、もう一人。3人居る状況が。

 

「ニスモ殿…」

「あー!ニスモじゃん!おひさー!」

 

 バイゼルは明らかに困惑しており、娘は相も変わらず天真爛漫だ。

 

 尤も、困惑したいのは他ならぬニスモの方なのだが。

 

「…何があったんだい?」

 

 娘に背負われながら熟睡している3人目の女騎士を見たまま、ニスモは2人に訊ねる。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 朝の匂い、朝の眩しさ、朝の肌寒さを身体が感じ取り、カイナはその意識を覚醒させる。

 仰向けの状態で、白い閉鎖空間であるのを視覚が読み取り、まるで自分の意思ではないかの様に上体を起こす。

 

 知らない時間に、知らない空間。だが、不思議と警戒心は薄かった。ここ最近、毎日の様に過去の夢を見ていたカイナにとって、久々の快眠であった。

 羽毛みたいに、身体が軽かった。

 

「あ、おはよー!」

 

 カイナの起床とほぼ同じタイミングで、入口がはらりと捲られる。それで漸く、カイナはここがテントの中だと気付く。

 

「よく寝れた?」

 

 入ってきたその相手を見て、カイナは熟睡時の如く、されど目と上体はしっかり起こしたまま停止してしまった。思い出す為か、それともその可憐さ故か。

 桃色の羽毛、扇情的な身体、そして黄金色の瞳。間違いない、忘れよう筈もない。カイナを優しく包んでくれた、あのハーピーの少女だ。

 

 その少女の言葉が、やはりカイナには理解出来ていた。どう見ても魔物でしかない筈なのに。

 

「…っ……その」

 

 では自分の言葉は相手に伝わるかと、カイナは一瞬言葉を躊躇ってしまう。漂う魔気が少女を受け入れていると、頭では理解しても心は中々ついていかない。

 

「………ああ、寝れた」

「そう?良かったじゃん!…あーそうそう!朝ごはん置いとくね!」

 

 そう言うと、彼女はお盆に乗せた「肉のスープみたいな何か」を、寝床の隣に置いた。彼女が作ったのだろうか。

 彼女がテントに入ってから、物事がトントン拍子に進んでいくので、カイナは追いつくのでやっとだった。寝起きには、中々に堪える展開だ。

 それと、彼女が無意識なのかは分からないが、いちいち距離が近い。その度、彼女の香りがカイナの鼻腔を撫で、頭がボーッとする。

 

 そしてまた、彼女の方から言う。

 

「そういえば自己紹介まだだった!アタシは『イゼラ』、アンタは?」

「………カイナ」

「わぉ!何となくそれっぽい感じ」

 

 何がどうそれっぽいのかは分からないが、ひとまずは何も言わないでおくカイナ。

 カイナも決して人見知りという訳ではない。冒険者として名を馳せ、周囲から信頼を勝ち取るには、その分高い社交性が求められる。

 ただ、慣れないものは慣れない。魔物と言葉を交わすというのは。

 

 それでも、何か言わねば。何をと問われれば、それはやはり「昨日の事」だろう。

 普通に理由を訊くべきか、それともいきなり感謝の言葉を述べるべきか。何を言うか、どう切り出すのが正解なのか、カイナには分からない。

 そう思い出していると、何やらカイナは気恥ずかしくなってきた。齢16にもなる者が、母の如き抱擁を受けてそのまま寝てしまうなど。抱き締めた張本人が目の前にいるなら尚更。

 

 何か言いたそうなのを察したのか、黙ってカイナを見据えるイゼラ。2つの丸い黄金が、カイナを捉えて離さない。

 耐えられなくなったカイナは、思わず目を反らしてしまう。自身の言葉により、その黄金が濁ってしまうのを見たくなかった。

 

「…朝飯、頂こう。それと、一晩も泊まってしまい…申し訳ない。装備を買ったら出て行く」

「えー!?もう少し居ようよぉ!」

 

 言いたい事も言えない己の不器用さを呪いながら、カイナは匙を進める。ただ、早く出立せねばならないのは本当だ。一日でも早く、タクトたちと合流せねば。

 

 イゼラは不満そうに頬を膨らます。行って欲しくないと言う事は、カイナの事を気に入っているのだろう。

 

 カイナはその好意に気付いてないのか、或いは気付かないフリをしているのか、ただ弱々しく黙食に務める。

 

 そんな彼女を、イゼラは楽しそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 朝から齷齪動く商人たちに、異質な筈のニスモは違和感無く紛れていた。

 

「わざわざすみません」

「ただのお節介だよ。何もしてない方が辛いし」

 

 商品を売り場へと運んでくれているニスモに、同じく一緒に運んでいるバイゼルは軽く頭を垂れる。

 溶岩の様に赤々とした彼の羽毛は、娘であるイゼラと同じくよく目立つ。ただ、顔はどうにもやつれ気味で、赤い羽毛に比べてどこか冴えない印象を受ける。事実、娘よりは遙かに物静かだ。

 ただ、薄暗い雰囲気は生来のものなのだろう。次に放たれる2人の言葉が、それを物語っていた。

 

「それより、昨日は色々あって言いそびれたけど、元気そうで何よりだよ」

「ええ、皆には良くして頂いてます。娘も…よく団長に怒られてますけど、楽しそうにやってます」

 

 そう返すと、バイゼルは一旦荷物を置き、ニスモに改めて頭を下げる。

 

「本当に…紹介して下さってありがとう御座います。貴方がいなければ、私たち親子もどうなっていたか」

「君たちはただ、行き着く所に行き着いただけさ」

 

 そんな時、噂をすれば何とやら。遠くのテントからイゼラが歩いてくるではないか。バイゼルが言った通り、とても楽しげに。

 否、それ以上に。

 

「ついて来なくていい。それとひっつくな」

「ついてくもーん」

 

 更に付け足すなら、もう一人の腕に掴まりながら。もう一人は傍から見ると迷惑そうだが、その腕を振り解こうとはしなかった。

 そんな2人を見て、バイゼルが昨日零した困惑を再び声にする。

 

「…娘の人懐っこさは承知してますが、それにしたって何があったのか」

「さぁ。大方、僕の馬鹿弟子が何かやらかしたんだろう」

 

 

 何はともあれカイナとイゼラが到着すると、ニスモは一日遅れで漸く互いの紹介に入る。本来なら先ず団長殿に紹介したいのだろうが、ここで居合わせたのなら仕方ない。

 

「紹介が遅れてすまないね、バイゼル、イゼラ。こいつはカイナ、一応騎士見習いだ。カイナ、こちらはイゼラの父バイゼルだ」

 

 ニスモに仲介され、怪訝そうにバイゼルを見据えるカイナ。やはり、イゼラ以外には抵抗がある様だ。

 

「初めまして、バイゼルと申します。私もイゼラも、半年前からここの行商団の一員です」

 

 バイゼルの挨拶を聞いたカイナは、どういう訳か戸惑いの表情を見せる。そして落ち着き無く瞬きを繰り返し、居辛そうに少し右往左往した後、無愛想に会釈だけ返す。

 その反応を、ニスモは見逃さない。どころか想定内であった。

 

 そんなニスモの内心を知らないカイナは、手短に用件だけ述べる。

 

「それよりニスモ、さっさと調達を済ませて出よう。寝過ごしたのは私の失態だが、長居は無用だろう」

「駄目だ」

 

 本来なら色々と調達して即出発の予定だった。故に、ニスモのそれは余りに予期せぬ返答であった。一瞬だが、問い詰めるのも忘れて立ち尽くしてしまう程に。

 が当然、それも過ぎれば憤りが彼女の口を動かす。

 

「何だと?」

「君、まだ皆の言葉が理解できてないだろう。イゼラだけは例外みたいだけど」

「…だから何だ?」

「当たり前だけど、買い物はここだけじゃないんだ。この先もし僕が死んだら、君はどうやって現地民と商談する気だい?」

「…」

 

 全てを理解したカイナは、俯くだけで何も言い返せなかった。何やかんやで、彼女はニスモの強さを過信していたのだ。だが彼だって何かあれば死ぬし、そうなればカイナの一人旅だ。まさか誰にも会わず大陸を渡る、なんて出来る筈も無し。そうでなくとも、いつどこでどんな支障を来すか分からない以上、いつまでも他種族と話せない訳にもいかない。

 要するに「魔物に慣れるまでここに居ろ」と、ニスモは言っているのだ。長い目で見れば、寧ろその方が早いと判断したのだろう。この団が暫くここを動かない事は、モース団長から確認を取っている。

 

 すると、ただでさえ明るいイゼラの表情が更に輝く。貴重な宝石を独占する時、人はこんな表情をするのだろう。

 

「やったー!!じゃあ暫く一緒に居れるねカイナ!ありがとニスモ好き好き!」

「イゼラには悪いけど、暫くカイナの面倒を任せる事になるかも」

「全然!寧ろアタシ以外に渡したくないし!」

「バイゼルもそれでいいかい?イゼラの穴は僕が埋めるし、団長にも話しておくよ。食料と寝床もこっちで何とかする」

「ええまぁ、イゼラがやりたい様なら…」

 

 こうして、黒狼の行商団とその周辺が、暫くの間カイナとニスモの活動拠点となった。

 

 

 

 

 

 イゼラに手を引かれ、広場を行き来するカイナ。木々が何かを避けている様な丸い空間には、未だ準備中の露店がいくつもある。

 

「…」

「もー!ムツけないのカイナ!」

 

 別に彼女もムツけている訳ではないが、気が乗らないのは確かなのだろう。進みたいのに進めない、歯痒い気持ちは察するに余り有る。

 第一、この集団に居ること自体、カイナにとって気分の良いものではない。あの魔物一体一体の素振りが、人間のそれに重なる。それが、どうしてもカイナには恐ろしかった。

 

 とは言えいざゆっくり回ってみると、新鮮な発見があるのもまた事実だった。

 その証拠に、カイナはある違和感に気付く。荷馬車がこれだけあるのに、肝心な「馬」が居ない。代わりに居るのは―――

 

「馬がどうかした?」

 

 立ち止まったイゼラの言葉で、自身がさっきから目を向けていたものに気付くカイナ。だが、カイナが見ているのは馬ではなく「地竜」だ。

 

「…馬が…居ないものだから」

「馬ならそこらに居るじゃん?」

 

 そう言って、イゼラはカイナが見ていた地竜を同じ様に見回す。その反応で、やっとカイナは気付く。どうやら互いの認識に差異があった様だ。

 

「…地竜が馬の代わりなのか?」

「カイナの故郷では違うの?」

 

 澄んだ瞳で、カイナを覗き込むイゼラ。もっとカイナを知りたいのだろう。一見興味津々なその目は、嘘を絶対許さないという美しい威圧も内包させていた。

 話しても良いものだろうか。彼女の故郷、ティランタニア王国について。

 等と一瞬血迷ったカイナだが、やはり言える筈がなかった。魔物の討伐を生き甲斐としている国の話なんて、魔物に聞かせて何になる。ただ無駄に気分を害するだけだ。

 かと言って、こんなにも純粋な瞳で問うてくるイゼラに、嘘を付くのも騎士見習いとしては気が引ける。

 

 故に、またカイナは何も言えずに黙るしかなかった。情けなく目を背けるしかなかった。

 

 そろそろ嫌われるだろうか。そんな思いに、ただ無闇に頭を巡らせるしかなかった。

 毎回毎回、カイナは気付くのが遅い。彼女はイゼラに嫌われたくないと、そう感じているのだ。

 

「カーイナ好き!」

 

 嫌うどころか、ますます気に入ったとばかりに抱き付くイゼラ。

 

 意外過ぎる反応に当惑するカイナだが、昨日の抱擁ほどの衝撃は無い為か、変に取り乱しはしなかった。

 

「…私のどこにそんな要素が?」

 

 草臥れた声で訊ねるカイナとは対照的に、イゼラは変わらずはつらつとした声でただ一言答える。

 

「そーゆーとこ!」

 

 本当に不思議な少女だと、カイナは思った。レザもミィリも個性的ではあったが、正直彼女たち以上な感じがした。優しいというのは何となく分かるが、それ以外は知れども知れども解らない。

 ただ、悪い気はしなかった。

 

ドダドダドダドダ…

 

 そんな中、一頭の地竜が荷馬車を引いて森の外へと消えていく。御者はオークが1体で、後ろには武器を持ったコボルドが1体乗っていた。他に積荷は無い様だ。

 四つ脚で走る地竜は、荷馬車に接触しない為か尻尾が短かった。牽引中にしては中々の速度だったが、カイナの知る馬には流石に及ばなかった。

 御者のオークもコボルドも特に焦っている様子は無く、日常の一部に組み込まれてる様な自然体であった。

 

「あーやって定期的に走らせないと、荷馬車も馬も駄目になっちゃうんだって。ここ3ヶ月は、全く移動してないからねぇ。巡回も兼ねてるんだろうけど」

 

 抱き付いたまま、カイナの耳元でイゼラが説明する。

 確かに、油も塗らず長期間放置しては、車輪や軸にガタが来てしまうだろう。それは地竜も同じで、走らねば筋力も持久力も衰えてしまう。

 

「まぁでも、結構燃費は良いんじゃないかなあの子たち。餌は腐肉を月1回で良いし、それなりに賢いし、何より速いし!」

 

 一度の餌の量にもよるのだろうが、確かにそれは凄い。本来の馬なら、干し草や穀物等を毎日与えねばならないというのに。水分はまた別なのだろうが。

 

 ただ、やはり異様な光景だとカイナは思った。地竜が車を牽引し、それをオークが制御するというのは。眼前の物事を拒絶していた昨日と比べれば、カイナの反応も大部マシと言えるが。

 

 そんなカイナに構わず、あれやこれやと目まぐるしく露店へと連れ回すイゼラ。

 

「見て見て!あーやって色合いの良い果物とか木の実とかは、露店の一番前に出すの!ここペムゼ森林にはさー、珍しい実とか草とかいっぱい生えててー、仕入れ代も輸送費も節約できるってゆーかー。あ!あっちは買取屋でーあっちは防具屋―――」

「分かったから落ち着け…」

 

 見た事の無い果物、見た事の無い薬草、あらゆる情報を無理矢理詰め込まれるみたいで頭が破裂しそうなカイナ。

 

 それでも、イゼラの勢いは収まる様子を見せない。強引に腕を組んでは恋人の如く密着し、今が人生の最高潮とばかりに意気揚々としている。

 

 それだけならまだしも、挨拶がてらに団員と喋る事の多いこと。彼等も準備で忙しいだろうに、迷惑そうな素振りも無く寧ろ進んで会話に乗る。

 こんなにも自由奔放なのに、よくもこれだけ愛されるものだ。今この瞬間も井戸端会議に勤しむイゼラを見て、カイナはそう感じずにはいられなかった。堅苦しい自分とは偉い違いだ、とも。だからこそ、カイナの本能もイゼラを受け入れたのだろうか。

 どうであれカイナにとっては、そんなイゼラが微笑ましいというか、どうしようもなく眩しかった。

 

 

 時間は未だ午前。

 カイナの一日も、行商団の一日も、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 だが準備が終わってからの時間の流れは早いもので、気付けば太陽は橙色に傾いていた。

 それが合図なのだろう。あらゆる場所から訪れていた客は、既に帰路についていた。

 

「ふぃー…」

 

 行商団を見渡せる丘の上で、モース団長は一息ついていた。それはまるで監視を兼ねてる様でもあった。

 

「お疲れ」

「おう」

 

 短い労いを言い渡すと、ニスモはそのままモースの隣に座る。

 

「僕は役に立てた?」

「勿論よ!イゼラ(誰かさん)と違って真面目だし、フラフラほっつき歩かねぇしよぉ」

「それは何より」

 

 軽い冗談を飛ばし合う、ニスモとモース。古い付き合いの成せる技だろうか。

 

 すると一転して、ニスモが妙な緊張感を孕んで訊ねる。恐らくは、こちらが本題だったのだろう。

 

「そう言えば「許可無く出歩くな」って、前は無かったよね。何かあったのかい?」

「ああ、それか…。悪い、後回しにしてたわ」

 

 モースはばつが悪そうに頭を掻くと、神妙な面持ちで語り出した。

 

「…近くに「厄介な連中」が来てるらしいんだ」

「厄介な連中?」

 

 心当たりがある様な無い様な、そんな具合でニスモが復唱する。

 

「話は遡るが、10年前から陛下がやってる「大陸間運動」知ってるだろ」

「勿論」

 

 大陸間運動。ユートリアン大陸からギヤ大陸へ、飛龍(ワイバーン)を使った空輸、船による海運を利用した運搬事業である。運搬されるのは、逃げ場を無くした魔物たちだ。

 つまり、ユートリアンの人間から魔物を保護する為の事業である。ギヤ大陸から発たせた飛龍や船舶を、宗主国の目の届かないユートリアン大陸南部または南東部に停泊させ、魔物を連れて戻る。ユートリアンは飛行魔法も造船技術も未発達なので、追われる心配が無いのだ。

 ただ、生存率は高くなかった。海運の場合、嵐やら水不足やら食糧不足やらで、帰らぬ船が続出したとか。

 また、ここ最近は事業自体が行き詰まってるらしい。既にティランタニア付近の魔物は狩り尽くされ、現在はユートリアン西部や南西部を主軸とした保護活動なのだが、今度は輸送路が大幅に伸びてしまっている。

 そんな状況で果たして、ティランタニア付近への空路や海路は残っているのだろうか。もし無ければ、ユートリアンとギヤを繋ぐ陸路を通るしかなくなる。カイナとニスモの旅路に、大きな影響を及ぼしそうだ。

 

「救えない命も多かったが、助かった連中も少なからず居た。そこまでは良かったんだが…ニスモ、助かった連中は感謝の次に何を思うか分かるか?」

「…人間への「憎しみ」かい?」

「ああそうだ。故郷を追われたのは勿論、肉親を目の前で殺された奴も数知れずだったからな」

 

 どうしようもないと言った具合で、モースは吐き捨てる様に肯定する。綺麗事が許されるなら、肯定したくはなかったのだろう。

 

「んで最悪なのが、そいつらを上手い事嗾けて纏め上げたクソ野郎が居るんだ。目的は勿論「カネ」、そんでもってギヤ大陸には元々住んでた人間種も数多く居るときた。…後は分かるな?」

「復讐を隠れ蓑にした、実質的な略奪か」

「話が早くて助かるぜ。復讐というか、最早「信仰」に近いがな」

 

 そのクソ野郎が何を言い聞かせたのか、ニスモには容易に想像出来た。

 人間種が危険な存在である事実は、諸君らなら理解出来るだろう。連中は、このギヤ大陸にも蛆の様に蔓延っている。奴等を根絶やしにせねば、真の安寧は有り得ない。そして人間を匿った者たちにも、何らかの罰を与えねばならない。正義は我等にある。

 的な事を。人間種は老若男女問わず皆殺し、村に残った食料や金目の物は押収、要は賊と一緒だ。そして人間と魔物が分け隔て無く暮らしていた村も、そいつにとって恰好の的だったのだ。人間を匿った「罰」として、「略奪」を正当化出来るのだから。

 

「信仰ってのは恐ろしいもんでよ、派遣された兵隊を何度も返り討ちにしてるらしい。クソ野郎も無駄に指揮力がある分、たちが悪い」

「そいつらが、この付近まで来てる訳かい?」

「ギヤ大陸の西端から東へ、長い年月を掛けて…な。人間種以外は殺さないらしいが、用心するに越した事はねぇ。だから見回りも強化してるし、皆には悪いが色々と制限を設けてる」

 

 今日昨日と訪れた客の中にも、人間種は居なかった。即ち今この周辺で、人間種はカイナとニスモの2人だけという事になる。

 

 するとモースは、覗き込む様に自身の行商団を見下ろす。黒狼の視線の先には、楽しげなハーピーの少女があった。

 

「流石に人間種が2人居る程度なら、奴等も気に留めねぇとは思うが、イゼラとバイゼルが居るとなると話は別だ。ハーピーの身体は、今じゃ稀少価値が高いからな」

 

 言わずもがな、モースには()()()()()()は一切無いし、ハーピーの稀少価値とやらにも興味は無い。だが、普通なら羽毛の一本でも欲しがる筈で、それが賊なら身体ごと欲するだろう。

 確かにそれなら、ハーピーを手に入れるべく、大義名分の元に襲ってくるかもしれない。

 

 そこまで聞き終えると、ニスモが立ち上がる。モースを見下ろすその目には、申し訳なさと少しの憤りが籠もっていた。

 

「もっと早く言ってくれたら、僕も居座るなんて言わなかった。…カイナを連れてすぐここを出るよ。そうすれば、連中がここを襲う大義名分もなくなる」

 

 だからこそ、モースも初日の内に言わなかったのだろう。言えばこうやって、会って早々出立しようとするから。

 

「馬鹿にすんじゃねぇ」

 

 その場を去ろうとするニスモに、モースは引き止めついでに告げる。

 

「そんな保身で旧友を追い出す、薄情な野郎ってか?オレたちが。…それに、見てみろよ」

 

 さっきから自身が向けていた視線の先を、ニスモにも共有する。夕暮れ時で分かりにくかったが、モースの横顔をよくよく見ると、我が子を見守るが如くとても穏やかな表情だった。

 きっと、下ではしゃいでいる少女の姿を見た時から、そんな貌だったのだろう。

 

「イゼラがあんな心底から笑ってんの、初めて見んだよオレぁ。普段の笑顔が、何の意味もねぇってくらいだ。…この半年間、同年代の友達も居なかったからなぁ」

 

 だからもう少し、一緒に居させてあげてもいいではないか。

 そんな横顔で、そんな優しく語る旧友の芯は、流石のニスモでも曲げられない程に強い。

 それが分かっているから、ニスモも折れるしかなかった。

 

「…分かったよ。そこまで言うなら、お言葉に甘えさせて頂くよ」

「分かればよろしい」

 

 今度は不敵な笑みを横顔に滲ませながら、モースが言い放つ。

 

「へっ、格の違いを見せてやるってもんよ。復讐に縋り続ける連中と、復讐より大切なものがあるオレたちのな」




なんか女同士野郎同士でイチャイチャしていますが、次回も行商団での日々が続きます。

様々なご感想、お待ちしてます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。