ノエル「あ、霜明様・・・」
霜明「む?ノエル殿?ぐったりしておるがどうかしたのか?」
ノエル「エウルア様に御指南頂いたのですが、かなり力の差を見せられました・・・。」
霜明「あはは、それはそうであろう。隊長クラスの騎士だぞ?早々に打ち合えるものでは無いであろう。しかし得られるものもあったであろう?」
ノエル「はい!とても有意義でした!」
霜明「そうかそうか。ならば良かった。今度は拙者とも1つ交えようではないか。」
ノエル「ほ、本当ですか!ぜひ!」
霜明(・・・やはり、来た先は教会か。)
詩人と空を追った先で2人が入っていったのはこのモンドで最も大きく、高い施設である西風協会だった。霜明はこの2人が教会に入る、というのは進行方向からある程度の予見はしていた。しかし不可解なことが1つ、吟遊詩人と栄誉騎士が揃ってわざわざ教会に何をしに来たのか、という事だ。
霜明(中まで追うべきでござろうか、しかしあの建物内でコソコソするのは限りなく不可能、今のこの胸騒ぎが杞憂であると良いのだが・・・)
実際2人の表情や行動から怪しい動きは見られない。いや、そもそもこの組み合わせで教会に来る事が不可解だと思い後をつけたが協会に蓄えになる様なもので悪事を働けるものが置いてあっただろうか。少なくとも霜明はそんなものは知らなかった。
霜明(まあこれ以上追っても仕方あるまいか。酒でも飲んて忘れるとしよう。)
そう結論づけて2人の尾行をやめて背を向けた。そのまま向かった先はエンジェルズシェアと呼ばれる酒屋、つまりはバーだった。霜明が騎士としてモンドに身を置いた時はガイアにここに連れられて共に飲んだくれていた。それから仲間と共に訪れるのはもちろん1人でも訪れる程この店を気に入っていた。カランコロンと聞き心地のいいリズムを奏でるドアを開け中に入る。
霜明「チャールズ殿、いつもの席は・・・お?」
???「ん、君は・・・。」
しかし中に入ると見慣れたバーテンダーのチャールズと呼びかけた男は一見しても姿が見えなかった。しかしその代わりにカウンターの奥に立っていたのは赤く霜明程の長さの髪を後ろに結わえた高身長の青年だった。霜明にとって全く見覚えのない青年であったが酒場や騎士団などでは多く耳にした人物の特徴と合致した。
霜明「お主がディルック殿・・・で間違いなさそうでござるな?お初にお目にかかるでござる。」
ディルック「ああ、そう言う君は最近モンドで噂の春風騎士か・・・噂は兼ね兼ね耳にしている。君のような人物が騎士団にいるのは勿体ない。」
霜明「くっはは、なるほど、聞いた通りの人物でござるな。」
手を抑えながら笑い先程の発言を流すと座り慣れたカウンターの席の真ん中に座る。
霜明「さて、ではオーナー殿のお手並、拝見させてもらうとしよう。今出せる最も高いものをだしてくれぬか。」
そう言うといかにもビンテージそうなビンを数本取りだしそれをシェイカーの中に入れ見てるものをうっとりさせるような美しい手つきで酒を作っていく。
霜明「おお・・・チャールズ殿も中々と思っておったが流石に格が違うでござるな。」
ディルック「当然だ。僕は酒に対して自身も誇りも持っている。早々モンドのバーテンには遅れは取らない。しかし、そう言う春風騎士様はどうなんだ?稲妻から来たと聞くがモンドの酒は口に合うのか?」
少し怪しむような、睨みつけるような目でこちらを見てくる。モンドに来たばかりで騎士の名を受けたのを気に食わないのか、それとも騎士自体が気に食わないのか、霜明にそれを見抜く術はなかったがあくまで動揺していない、というように、
霜明「そんな目で見ないで欲しいでござるよ。拙者、騎士の話をしに飲みに来たのでは無いのだぞ?それに拙者はディルック殿と騎士との話なぞ毛頭聞く気はないでござる。どちらかと言うと酒造りとしてのディルック殿と話をしたいでござるな?」
と言った。それを聞くと驚いたように目を開いたあと先程の緊張した顔をとき少し可笑しそうにふっとわらった。
ディルック「君は、変わっているんだな。」
霜明「なに、ただ酒が好きだだけでござるよ。」
ディルック「そうか・・・君のいい噂しか聞かない理由が分かる気がするよ。また是非ここに足を運ぶといい。僕がいる時はとっておきを用意しよう。」
そういい終えるとシェイカーの中を優雅にグラスに酒を注ぐと霜明の前にことん、とこ気味いい音と共に出した。ふとディルックの顔を見ると表情こそ変わっていないものの雰囲気が少し柔らかくなったように見える。霜明はこういったように自然な物腰で相手に自分を晒すので空いても霜明に気を許すのが凄く早かった。霜明という人間の不思議である。
ディルック「その酒はかなり強い、あまり一気に入れない方がいいぞ。」
霜明「ふむ、ではゆっくり味わうとしよう。」
そういうとふっと目を瞑りグラスを顔に近づけスーっと匂いを嗅ぐ。甘美な鼻腔をくすぐるその香りは飲んでもいないのに酔ってしまいそうになるほどだった。
霜明「では、頂こう。」
静かに一口その酒を流し込む。すると芳醇な香りと共に味わい深いフルーツの味が口の中に広がった。
霜明「ほう、これは・・・」
嬉しそうに穏やかに笑うと一口、また一口とゆっくりと転がすように味わうように酒を飲み始めた。
ディルック「・・・君は美味しそうに酒を飲むな。」
霜明「む?そうでござるか?」
ディルック「ああ。表情も飲み方も。モンド人ではなかなか見られない飲みっぷりだな。」
霜明「モンド人は量を一気に入れる者が多すぎるのでござるよ。それもまた一興ではあるが、拙者は少しずつ飲むのが好きでござるよ。まぁ、一気飲みしたとしても悪酔いはせぬが。」
ディルック「ああ、君が1番酒を飲んでいたのにほかの騎士の介抱をしていた、という話を聞いたことがある。モンド人より酒が強いってのはなかなかな特異体質だな。」
霜明「特異体質とは人聞き悪いでござるな?行儀が良いと言ってもらいたいでござる。」
くつくつと2人で笑っているとカランコロンと急ぎ気味の音とともに見知った2人の姿が入ってきた。
ディルック「ん、いらっしゃい。」
横目で見るとそこには栄誉騎士こと共にモンドの危機を退けた剣士、空と先程も共に行動していた吟遊詩人、ウェンティの姿がそこにあった。
ウェンティ「やぁオーナー!今人の少ない席はどこだい?」
ディルック「ん?2階には人気がないが、詩人なら人がいる方がいいんじゃないか。」
ウェンティ「あっはは、今日は歌わないんだよ。じゃあお邪魔するねー♪」
そういうと風のような軽い足取りで階段を上がって言った。
空「・・・っ」
今バッチリ霜明と目が合っていたが誤魔化すようにウェンティの後を追うように階段を上がった。心做しか額にじんわり汗が滲んでいたようにも見えた。
霜明「・・・うん?」
不可解そうにグラスを揺らしながら少し垣間見える2階席を眺めていると再び急ぎ気味に扉が開いた。
霜明(・・・今日はなんだか忙しいでござるなぁ。)
と再び後ろに目を向けると西風騎士の2人が入ってきた。だがどうにも酒を飲みに来た、という感じではなく目つきは鋭く少し殺気立っていた。
霜明「なんでござる?少し騒々しいでござるよ?」
騎士A「こ、これは霜明様!?失礼しました!」
霜明「なに、別に咎めている訳では無い。ただ、その雰囲気を察するからに只事ではない事が起きたのだろう?一体何事だ?」
騎士B「はっ!霜明様、それとディルック様も。ここらに緑色服装と金髪の2人の人物を見かけませんでしたか?」
騎士「先程、そのもの達が教会から天空のライアーを盗んだという通報が騎士団に入りました。」
霜明「天空の、ライアー?」
聞けばそれは教会に保管された風神の加護を受ける大事なライアーなのだそうだ。そんなものが盗まれたとあって今ちらっと外に目をやるととこどこに騎士団が駆け回っているのが見えた。
ディルック「・・・分からないな。」
騎士A「そ、そうですか。それでは、」
ディルック「なぜ金にもならない物を危険を犯して盗むのか、僕には全くもって分からないな。」
騎士A「ディ、ディルック様、それは・・・」
ディルック「ん、すまなかった。その2人なら、さっき向こうにそれらしき人影を見た。」
霜明「拙者も赴いた方が良いでござるか?」
騎士B「いえ、本日は霜明様は休養なさっていると伺っております。お手を煩わせることはありません!それでは失礼します。」
そういうとピシッと敬礼した後にバーを去っていった。
霜明(・・・十中八九あの2人であろうな。さて、どうしたものか。)
タンタンと足音を響かせながら降りてくる吟遊詩人を横目で見ながら少し頭を抱えた。
桜坂霜明
はじめまして
「拙者、桜坂霜明と申す者でござる。元々稲妻を流浪する武士あったが様々な事情が重なり今はモンドに身を置かせて貰っておる。これから何卒よしなに。」