霜明「む、どうしたのだ?」
空「聞いた話なんだけど、霜明は戦いが好きなの?」
霜明「そうでござるよ?拙者は剣術、和歌や川柳に詩歌とともに育って来た故もはや先天的なものと言えような。」
空「そうなんだ?旅をしながらできた趣味とかはないの?」
霜明「ふむ、それであったら拙者は料理が好きでござるよ。機会があれば拙者の腕を披露しても良いぞ?」
空「本当?きっとパイモンも喜ぶと思うよ。」
霜明「む?それはパイモン殿を料理するのでござるか?」
霜明「うーん?そうだね。ゆっくり火を通してくれると助かる。」
パイモン「勝手な話を進めるな!!」
西風騎士団、名の通りモンドを守護するために結成されている。しかしリサのように騎士以外の人物も騎士団本部内で天職を全うしているものもいるのだ。そしてそのうちの一つが錬金術師と呼ばれるものである。様々な物質を合成して違うものを作り出したり元々あるものに改良を施したりと謎の多い専門職だ。そしてその錬金術師のひとりにスクロースという少女がいた。翠玉色に輝く神の目をぶら下げえっさほいさと荷物を運んでいた。そしてその隣。倍近くの量の箱やら実験道具を軽々と運んでいるのはおなじみ春風騎士の霜明だった。
霜明「これは・・・ここでよかったか?」
スクロース「うん、いつもありがとう。」
霜明「なに、いつもこの量を1人で運ぶのは厳しいであろう?拙者がいれば何時でも頼ってもらって構わぬぞ?では拙者はこれで。」
スクロース「あ、まって!今日は久しぶりにアルベド先生が雪山から降りてくるの。それで貴方に会ってみたいって・・・」
霜明「ふむ、噂に聞く錬金術師の首席殿でござるな。」
アルベド、普段はドラゴンスパインと呼ばれる雪山で研究のために籠っている西風騎士団の首席錬金術師だ。スクロース曰く今日はほかの錬金術師との意見交換のために山を降りてくるそうなのだがモンドで噂になっている霜明に興味を示しているようであった。
スクロース「アルベド先生のことだから直ぐに飽きちゃうかもしれないし長いこと興味を持つかもしれないし分からないけど貴方さえよければ会ってみない?」
霜明「ふむ、構わぬぞ?いつ頃到着する予定になっている?」
スクロース「もうそろそろ・・・」
そのタイミングでコンコンとノック音が響き渡る。霜明の経験上好き好んで個人的な錬金術の実験室に入ってくる者はいない。となれば今の音を鳴らしたのは噂していた人物以外はほぼほぼありえない。
スクロース「ど、どうぞ!」
アルベド「ああ、邪魔するよ?」
霜明「ほう・・・お主が?」
アルベド「お初にお目にかかるね。僕はアルベド。知ってると思うが、西風騎士団の錬金術師だ。」
霜明「拙者は流浪武士であり、西風騎士団の春風騎士の桜坂霜明でござる。お見知りおきを。」
短い挨拶を交わして軽く、しかししっかりと握手をする。2人の顔には少々不敵な笑みがふっとこぼれていた。
スクロース「え、えっと、2人ともなんだか怖いよ・・・?」
アルベド「ん、あぁ。話に聞いてたより面白そうだったからね。体を回っている元素粒子、その佇まい。只者じゃないのがわかるよ。それこそ蒲公英騎士に匹敵する実力をもってそうだ。」
霜明「む?そうであるか?拙者はただ立っているだけでござるよ?」
アルベド「それで分かるくらい君が尋常じゃないんだよ?戦い方や剣術も兼ね兼ねきいているよ。実に興味深いね。」
アルベドはつま先から頭まで霜明を一瞥すると何度がこくこく、と頷いてスクロースに向き直った。
アルベド「スクロース、意見交換の話だが、できるだけ手短に終わらせよう。思ったよりも彼に興味が出てきたよ。」
スクロース「は、はい。分かりました。ティマイオスさんがいつものところで待ってるのでそこに行きましょう。」
霜明「ふむ、では拙者は鹿狩りで待つとしよう。何が注文を取っておいた方が良いか?」
アルベド「気は使わなくて大丈夫だよ。軽く話を聞きたいだけだからね。」
それじゃあ、と踵をかえすと部屋を出ていった。霜明もその部屋のものを極力触らないように気をつけながら部屋を出た。鹿狩りとはモンドで一二を争う人気を誇る食事処だった。霜明も昼や夜、忙しい時はよくお世話になっている。
サラ「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」
霜明「では満足サラダと・・・主菜は任せるとしよう。」
サラ「わかりました。お好きな席でお待ちください!」
注文を済ませて数分もすると満足サラダとモラミートが運ばれてきた。そしてリンゴで作ったと思われるサイダーもその場に置かれた。
霜明「む?サラ殿?拙者は飲み物までは注文しておらぬぞ?」
サラ「いつもご贔屓にして頂いているのでサービスです!ごゆっくりどうぞ?」
ニッコニコの笑顔で全ての品を置いてカウンターに戻っていった。霜明はいただきます、と手を合わせ品々をゆっくりと口に入れ味わいながら食していた。全て食べ終わるとちょうどいいタイミングで、やぁという声と共にアルベドとスクロースがこちらに歩いてきた。
アルベド「待たせたかい?」
霜明「ちょうど食べ終わった頃でござるよ。いい時間でござる。2人もなにか頼むでござるか?奢るでござるよ?」
スクロース「そ、そんな、悪いよ。」
霜明「奢ると言ってるうちに奢られた方がいいでござるよ?気が変わらぬ内にな?」
アルベド「ふむ、そう言うなら僕はご馳走になろうかな。食べながらになるが幾つか質問しても構わないかな?」
霜明「もちろん。スクロース殿?頼まないなら勝手に頼んでしまうでござるよ?マッシュルームだらけになってしまうやもしれぬぞ?」
スクロース「ま、マッシュルーム!?わ、わかったから、自分で選ぶから!」
マッシュルームという苦手な食材の単語を聞くと震え上がっていそいそとサラの所に注文を取りに行って暫くして料理が運ばれてきた。
アルベド「そこまで時間は取らせないようには努力するよ。それじゃあ始めてもいいかな?」
霜明「まあ別に掛けても構わぬのだが・・・わかった。なんでも聞いてくれて良いぞ?」
スクロース「ほ、ほんとにすぐ終わるのかなぁ・・・」
スクロースの心配を他所に質問が始まった。
アルベド「まず元素と戦い方についてだね。君は体に元素を纏って戦うと聞くよ。かなり珍しいタイプだね?」
霜明「ふむ、そうであるか?」
アルベド「人間でその戦い方をしているのはかなり少ないよ。せいぜい武器に纏わせる位だ。なぜその戦い方なんだい?」
実際モンドにはそう言うと戦い方をする人は居ない。協会の祈祷牧師も似たようなことはするがあれは治療用で決して強化ではない。実際体に纏わせて己の強化というのは繊細かつ大胆な元素の扱いをしなければならなくかなりの高等テクニックだった。
霜明「ふむ、拙者の身体能力では勝てない相手がいるのであるよ。」
スクロース「勝てない相手?騎兵隊長にはよく勝ってるって聞くし、噂だけどジン団長と同等かそれ以上って・・・」
霜明「拙者が見ているのはそこでは無いのでござるよ・・・もっと大きく、恐ろしい相手でござる。」
そう目を閉じながら語るその顔は普段は見ることがないくらい落ち着いていてそれでいて憤っているようだった。
霜明「ともかく拙者は倒したい相手がいるのでござる。そうでなくとも元々この戦い方であったが、この戦い方でなければ絶対的に叶わぬ相手がいるのであるよ。」
そう言う霜明の脳裏には紫電の刀を振りかざす1人の武人・・・いや、武神の姿とたった2人の親友だったうちの1人の姿が鮮明に思い出されていた。
アルベド「そうか、その理想が叶うことを信じているよ。それじゃあ次だね。君はスクロースが好きなのかい?」
スクロース「ええ!?!?アルベド先生、何を!?」
突然全く違うベクトルの質問にスクロースは顔をリンゴのように真っ赤にしてしまった。
霜明「それは何故?」
アルベド「スクロースからよく君が手伝いをしてくれるという話を聞くからね。好意からの行動かなと、言ってしまえば僕の興味本位さ。錬金術や実験に何も関係ないよ?」
霜明「あぁ、なるほど。確かにスクロース殿は好いておるがそれはガイアやノエル殿に向けるものと同じ・・・要は友としてという意味でござるな。特別な意味はないでござるよ。」
特に動揺の仕草が見られないことから嘘は無い、とアルベドは判断づけた。
アルベド「ありがとう。それじゃあ、次が1番聞きたかったことだね。霜明、今から僕と戦ってくれないかい?腹ごなし程度のものと思ってくれて構わない。」
霜明「む、どうしてまた?」
アルベド「君の戦い方に興味があると言っただろう?君の元素の扱い方は言ってしまえばかなり特殊なものだ。それは戦う時に1番発揮されるだろう?」
霜明「確かに、では場所を変えるとしよう。修練室でよかったでござるか?」
アルベド「あぁ、構わないよ。スクロースも来るかい?」
スクロース「は、はい!」
代金を払って直ぐに騎士団本部に移動する。首席錬金術師と春風騎士の試合、というのはかなり特殊な組み合わせでありそれなりのギャラリーが出来てしまった。
霜明「・・・これは軽く、とは行かなさそうでござるな。」
アルベド「ふむ、これは僕も予想外だったよ。キミ、相当の人気者みたいだね?」
霜明「お互い様でござるよ・・・ではそろそろ。」
そう言うと2人はシャン、という光と共に剣を取った。
霜明(アルベド殿は騎士ではない・・・実力はどのようなものなのであろうか。)
霜明が相手の様子を伺っているとまだ構えを取ってないアルベドから声がかけられた。
アルベド「どうしてこないんだい?いつでも来ていいんだよ?」
霜明「そうか、ではお手並み拝見させてもらうでござるよ?」
そう言うお互いにジリっと構えを取った。この瞬間に霜明は背中に少し身震いを覚えた。アルベドが只者ではないことを勘が告げていたのだ。
霜明「・・・いざ。」
そう言うとビュン、と風を切り裂くような勢いで霜明はアルベドに距離を詰めたしかしアルベドは剣を持っている右腕を動かさずに何故か左腕を上にあげた。
アルベド「擬似陽華!」
そしてその左手を地面に向かって振り下ろした。するとその場所に岩でできた花のようなものが現れる。その衝撃でアルベドに突っ込んでいた霜明はその衝撃波をまともに受けて宙に浮かされてしまう。
霜明「なんの!」
その瞬間に霜明の体が淡い光に包まれる、そして背後に小さな爆発を起こす、反動でまた吹き飛ばされる向きを逆転させてアルベドに突っ込んで行く。
霜明「はぁ!!」
アルベド「・・・っ!!」
霜明の身体能力、元素力、そしてそれよ扱いは結果からいえばアルベドの想像を遥かに超えるものだった。普段の自分より強い力を使うのはかなりの技術が必要になる。しかしそれを霜明はなんでもないようにやってのける。元素の流れ、体の動かし方、思考、全てが連動している。アルベドは1種の感動すら覚えていた。
霜明「ふっ、はぁ!!」
アルベド「・・・くっ」
実際アルベドは防戦一方だった。先程咲かせた岩の華の効果がアルベドが剣を振るう度花のような衝撃波が霜明の剣を弾くが素の速度が霜明に圧倒的に劣るため徐々に追い詰められていた。
アルベド(まさかこれほどとは思わなかったな・・・)
霜明「・・・ここでござるな」
次の瞬間霜明はアルベドの剣・・・ではなく思い切り袈裟斬りを空中に放った。その瞬間に水の竜巻がアルベドを上に打ち上げて地面に叩きつけた。ハッ、とアルベドが顔を上げると目の前に切っ先が向けられていた。
アルベド「・・・参ったよ。」
そういいアルベドは剣をヒョイっと投げてしまった。何よりの戦う意思はもうない、という証拠だろう。
霜明「・・・なぜ攻めなかったのでござる?機は幾度かあったであろう?」
アルベド「君の全力の攻めに徹した姿を見たかったからね。守りよりも攻めの方が当然体も元素も大きく使うだろう?結果的にいいものが見れた。ありがとう」
ケロッとそう言われてしまって霜明も言及する気が失せてしまった。なるほど、こういう人なんだなとむしろ少し割り切れてし待ったくらいだ。
アルベド「しかし、ギャラリーにとっては少しつまらなかったかな?」
霜明「ふむ、まあ気にする事はなかろう。して、アルベド殿?」
アルベド「なんだい?」
霜明「もう質問とやらはおしまいでござるか?」
アルベド「ああ、だがまた興味深いことが出来たよ。今度雪山の僕の拠点に来て欲しい。君の実験のデータが欲しくなったよ。」
霜明「ふむ・・・では気が向いたら赴こう。」
スクロース(わたし、初登場なのに、出番少なかったなぁ・・・)
不敵に笑うふたりとは裏腹に少し凹んでいるスクロースなのであった。
桜坂霜明
桜坂霜明・剣術
「拙者の桜吹雪舞を使った剣術はどちらかと言えば対人戦向きであるな。む?なぜって、それはヒルチャール共には別に強化などなくても倒せるであろう?あれは格上の、そう、神の様な存在にも立ち向かえるように編んだ拙者の技なのであるよ。」