噛斬(かみきり)演舞   作:焼きポテト

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      その2

 やってきました山の前。

 街にいる間、趙雲がいったい誰と話していたのかはさっぱり不明だが。話し合いによって兵を幾らか借りて来たらしい。

 お陰さまで、戒李の背後には200の兵力がいるわけで。

 情報によると、賊の数はせいぜい50~60ぐらいらしく。普通にぶつかれば余裕なんじゃなかろうか? という戦況だったりするわけだ。

 もちろん、あくまで『普通にぶつかれば』の話だが。

 賊は、どうにも山の中にある古い坑道を巧みに使っているらしく。刃物屋の主人に聞いた通り、はっきりとした拠点の位置がわからないらしい。

 

「で? そんな状況でどうするつもりですか、趙雲殿」

「知れたこと。相手は烏合の衆なのだから、一騎当千の勢いで当たれば問題ない」

「問題ありまくりだから、やめてください趙雲さん」

 

 合唱と共に、戒李は深く深く頭を下げる。

 頭の上から響くのは、趙雲が短く唸る様な声。

 これで思いとどまってくれれば、素晴らしく幸いだなと愚痴に近いなにかを呟きながら代わりの案を考える。

 却下した以上、何か別の方法を提示しないと趙雲は本当に突貫しかねない。

 思案。

 もういっそ、出口で焚火でもして焙り出すのが早いんじゃないか? と思わなくもないが。

 

「ああ、それは駄目だ。何しろ、街の娘が数人捉えられているらしいからな」

 

 という趙雲の一言で却下される。

 出来るなら、そういう情報は早めに提示しておいて欲しいものだ。

 吐息一つで気分を切り替え、再度の思案に耽る。

 あまり長考していると、趙雲が勝手に突撃とかしそうなので迅速に思考を纏めていく。

 

(にしても、情報が少な過ぎやしないか?)

 

 わからないという事がわかっているよ、なんてレベルの情報しか手元にない。

 こういうのは、場合と状況によるが基本的に無駄な情報だ。

 映画とかドラマの中で言っているのは、単純に格好いい台詞だからに過ぎないだろう。

 そもそも、殆どの場合「わからない事がわかっています」とか言った瞬間殴られるんじゃないか? と戒李は思う。

 順調に思考が逸れてきているな。そういう自覚を持って、戒李は正面を見た。

 紅い派手な装飾の直刀槍――龍牙というらしい――を抱えた趙雲が、まだか? と焦れた様な表情を向けてきているのしか見えない。

 背後を見る。

 手に武器を持ち勇壮と並ぶ兵士たちが、最後の頼みはアンタだけだと言わんばかりに血走った視線を向けてきているのしか見えない。

 

(……追い詰められている? 主に俺が)

 

 戦闘も始まっていないと言うのに、変な話だ。

 とりあえず、斥候を放って周囲を探らせ見付かれば吉。

 見付からなかったら、彼らが帰ってくるまでに次の案を考えとくという方向で決着を付ける。

 むしろ、自分で自分の首を絞めた感が否めないが。そこは順調に斥候が見付けてくれる事を願いつつ脳みそを回す。

 戒李が山に潜伏する賊の話を聞いたのは、趙雲と刃物屋の店主からだけだ。

 その会話の中に、使えそうな情報があったか思い出すところから始めてみる。

 

「ん? そういえば、山越えをしようとする人間から荷物を巻き上げるんだったか?」

 

 確か、そんな事を刃物屋の店主が言っていたはず。

 襲いに来ると言う事は、つまり賊が姿を現すと言う事で。

 流石に全員でぞろぞろと盗賊行為をするとも思えないので、実行の際は少人数だろう。

 つまり、囮とか使えばほいほいと捕まえられそうである。ゴキブリホイホイならぬ、黄巾党ホイホイというやつだ。

 とりあえず斥候を背後に見送って、戒李は正面に整列した約200の集団へ視線を向ける。

 仮に囮を使う前提で話を進めるとしよう。

 そうなると、この中から10名ほど選んで追跡部隊を編成する必要がある。誰かをわざと賊に捕らえさせた上で、撤収していく後ろを追跡部隊に追わせるのが効果的だろう。

 囮役は、生きたまま捕らえられるのが最善だ。と言うのも、いざ追跡が失敗したときの保険が必要なのだから致し方ない。

 極力、口のまわるやつを任命した方がよさそうだ。

 

(荷物の偽装は、持ってきた物資で可能。なら、商人辺りの設定が無難か?)

 

 ふむ? と僅かに首を捻って、戒李は脳内を整理していく。

 手元の少なすぎる情報と共に、作戦実行時の成功確率というものを大まかに予測。

 低くはない。

 だが、決して高いわけでもない。

 白でも黒でもない、ある種のグレーゾーンというやつだ。

 

「まあ、俺が自分で囮になるのなら問題なし。クリアだな」

「くりあー? なんだ、その言葉は」

 

 頷き、予測思考を済ませた戒李の後ろ。さっきまで斥候に指示を飛ばしていた趙雲が、いつの間にかそばまで来ていた。

 これで運良く賊を発見出来れば、こんな綱渡りの必要は無いのにな。と思う反面、実行することになるだろうという予感もある。

 正直、街の領主殿が何度も探して見付からない賊だ。

 自分たちは今回が初の捜索なのだから、そうそう見つかるものでもない。

 不思議そうな表情で、眉間に皺を作る趙雲を見て吐息。

 どうして俺がこんな事を考えているのかと文句を言ってやりたくもなるが、ここはぐっと我慢だ。

 

「クリアは、はっきりやすっきりとかを意味するが。今の使い方の場合は、一定の条件に対しての問題点を改善できた。と言う意味で使ったことに……ぶっちゃけるが、何故言語学習になった?」

 

 勉強は置いといてだと前置きしてから、戒李は趙雲に今し方考えた内容を説明する。

 内容は具体的に、時には手持ちの情報で意見の補強までして。

 何をやっているんだろうと失笑をかみ殺し、必要な物と人員の説明で締めくくった。

 どうだ? と僅かに首を傾け問えば、趙雲からは沈黙が来る。

 答えがないわけではない。単純に、戒李の意見が何処まで通用するのかを予測しているようだ。

 たっぷり呼吸3つ分の間が空き、趙雲の口から「ふむ」という音が漏れ。

 

「いいだろう。但し、荷台が大きなものしかない。馬車の大きさから考えて、一人歩きの商人というのはおかしい。付き人役で、もう一人連れて行ってもらうが?」

「趙雲殿でないなら、誰でもかまわんよ? と言うか、流石に指揮官なんだからそんな無茶言わないよな?」

 

 ははっと笑いつつ、冗談のつもりで吐いた言葉に。しかし、笑いではなく驚愕という反応が来る。

 なにぃっ?! と叫び出しそうな本人から視線を逸らし、約200の人員に向かって声を張り上げ。

 

「誰か、俺と敵地のど真ん中まで行く奴! 挙手っ!!」

 

 いろいろ空気の読める彼らは、一瞬にして全員が手を挙げた。主に、指揮官無しとかいう無茶な戦闘を避けるために。

 素晴らしい判断能力だなと満足気に頷きながら、再度振り返る戒李の目前。苦々しげに唸る趙雲の姿が、そこにある。

 こいつ、乱闘とか好きなタイプだなと頭痛を感じながら。

 

「今回は諦めてくれ、趙雲殿」

「……まあ、致し方ない。案を出したのは戒李殿だ、先鋒は譲るとしよう」

「ははは、嬉しくて涙が出そうだよ」

 

 どうしたと敢えて聞き返してくる趙雲に、何でもないと答えて流しつつ、約200の集団に向けて再び振り返る。

 どういうからくりにしろ、これまで上手く逃げてきた賊たちだ。おそらく斥候は、手ぶらで帰還するだろう。

 ならば、準備が必要だ。

 

 

 

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