噛斬(かみきり)演舞   作:焼きポテト

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      その4

 抗議の目で戒李を見るが、どこ吹く風な彼に通用するはずもない。

 諦めと共に吐息し、威羅も引いていた荷台を地面に固定して両手を上げる。

 どうするんですか? という視線を向けると、戒李は頷き一つを持って応え。そして口を開いた。

 

「ご苦労な事だな、黄巾党の方々。山賊行為なら、荷物をやるから見逃して欲しいところだが?」

 

 どうだ? と問う戒李に応えるのは、総勢8名の賊の中でリーダー格と思しき人物だ。

 何処か優男の様な雰囲気の漂う賊のリーダーが、戒李の正面に立って鋭い眼光を向けてくる。

 が、欠片も物怖じせずに言葉は続く。

 

「俺たちを殺しても利益は無いと思うが?」

「少なからず、こっちの気分は晴れやかになるけどな」

「わあい、お前らそういう思考の人たちかよ」

 

 吐き捨てる様に返って来た言葉へ、吐息で答える戒李は咳払いを一つ。

 まあ、ここで引き下がられても困るし。などと言い訳を考えつつ言葉を進める。

 

「見ての通り、こっちは商人だ。それも洛陽でそれなりの大きさを誇っている」

 

 つあまりだ、わかるか? と優男へ語りかける顔は、口の端を歪める笑顔だ。

 突き付けられている剣の切っ先を横へ逸らしながら。

 

「俺を押さえた状態なら、そこから楽に武具を手に入れられる。と言う事だ。勿論、武具代は払ってもらうが。お前さんたちが街を襲った後の払いで良い。俺は儲かり、そっちは戦力が上がる」

 

 どうだ? と言葉を括った戒李の目前、優男が眉間に皺を寄せている。

 悩んでいるのかと判断してたたみ掛ける言葉を放とうとするも、しかしそれは戻って来た剣の切っ先で押しとどめられてしまう。

 切っ先を向けているのは優男で、僅かに憤りの感情が見え隠れしていた。

 俺は昔、洛陽に家族がいてなと切り出された言葉の着地点がわからず、戒李は眉を顰め。

 

「お前みたいな汚い商売をしてた奴のせいで、死んじまったんだよっ!!」

 

 一閃。

 大上段からの一撃を、右にステップを踏んで避ける。

 

「思わぬところで、変な地雷踏んじゃったー!!」

 

 続く横の一閃をしゃがんで見送り、落ち着けっ!! とか言ってみるが無駄。

 既に3回目の斬撃を浴びせるために、優男の剣が振りかぶられている。

 舌打ち一つで応じる戒李は、地面を転がる様に逃げて距離を取り。

 

「お前の意思で、これを勝手に判断していいとは思えない! お前らの首領に合わせて貰おうか!!」

 

 叫びに、優男の手が止まった。戒李の頭を真っ二つにする3センチ手前で。

 背後で感嘆の声を上げた威羅は後で殴ると決めて、正面の優男へ視線を向ける。

 苦々しげだが、こちらの言葉に理があると判断した顔だ。

 冷汗ダラダラものだが、どうやらこれで大丈夫らしい。

 後は、捕まっている娘さんを助けて夜逃げすればいいわけだが。それとは無関係に、余計な言葉が優男によって追加される。

 

「まあ、お頭もお前みたいのは大嫌いだからな。せいぜい、皆の前で嬲り殺されるといい」

 

 背中に嫌な汗が噴き出す。

 言葉を重ねる毎に、ここまで状況がこじれるのは何故だろう。思わず首を捻りたい気分になった戒李である。

 優男が指示を出すのに従って、他の6名が荷台の移動を開始。更に、本人を含めて残りの2人が戒李と威羅を縛って牽引する。

 腕を縛られて隣を歩く威羅は、ニッと屈託なく笑って。

 

「いやあ、素晴らしい実力を見せていただきました。戒李殿は、人を怒らせる天才ですか?」

「わー、完全に嫌味だよなおい。そこまで屈託のない笑顔で嫌味言われたの初めてだわ俺」

 

 まあまあ、落ち着きましょうよと笑う威羅は、剣を鞘から抜いた状態で後ろにいる二人をチラリと見て。戒李にしか聞こえないくらい小声で言葉を作る。

 

「実際、次はどうするんです? 囮作戦は成功かもしれませんが、趙雲様が来る前に死にますよ。私たち」

「それは早計だな、威羅君。言葉巧みに時間稼ぎでもすれば何とかなるし、趙雲殿が攻めて来た混乱に乗じて逃げればいい。ああ、娘さんの存在を忘れたら駄目だけどな?」

「言葉巧みに、ですか……今の内に、太陽の明るさを目に焼き付けておこうかと思います」

 

 とことん信用してないなっ!!  と叫んだ戒李に剣が突き付けられ、大人しく前を向いて歩くコースへ戻る。

 これ以上下手に喋っていると、見付かった時が恐ろしい。

 黙々と歩き、情報通り坑道の中へと入っていく。

 山肌にポッカリと空いた穴は狭く、人がすれ違うのにも苦労しそうな幅しかない。

 黄巾党の2人が先行し、背後にリーダー格が1人で付く。残りは荷物の処理なのか、入口別れてしまった。

 ここから導き出される答えは1つ。戒李も威羅も逃走するのは、ちょっと厳しいということである。

 曲がりくねった坑道を進み、何本目かの分かれ道を超えた先。辿り着いたのは、広い空間だ。

 壁を見る限り、掘ったのではなく自然発生的な洞窟らしい。そこを使いやすい様に整備した感じだ。

 直径50メートル程の大洞窟には、厳つい感じの黄色い布を身に付けた人たちで満たされており。上座とでも呼ぶべきなのか、一段だけ高い場所には椅子が設置されている。

 座っているのは、意外と言うべきか女性だ。それも、姐御肌な感じではなく線の細い少女。

 え? どういう状況? と威羅へ視線を向けるが、彼の方も困惑しているらしい。どうしたらいいのかわからない風な視線が、戒李とぶつかる。

 

「あー、えっと? 何、あの娘が頭領なの?」

 

 優男に視線を向けてみるが、華麗にスルーされてしまう。

 そのまま少女の方に近寄った優男は、彼女にひそひそと何かを耳打ちして。

 声が響いた。

 少女と言うよりは、大人びた艶のある声だ。

 へぇ……伸びるような音で発音した口は、そのまま屈託のない笑みを作り。

 

「斬首」

 

 言葉には、手で首を斬る様な動作も付随していた。

 

「待って!? いろいろ思い切りが良すぎると思うんだ。ちょっとは弁解の時間とかくれない?」

「あ、私雇われの身なんで。正直、この人の商売とか知りませんし。むしろ、皆さんを支持したいと思います」

「ちょっ、裏切りが早い!! 少しは葛藤とかあってもいいんじゃないかな威羅君!!」

 

 笑みで答える威羅の目は、欠片も笑っていない。それ以前に、笑い声が渇ききっている。

 ああ、半分くらい本気の目だと判断しつつ、咳払い一つで戒李は仕切り直す。

 傍らに大剣を持った男が寄って来ているが、それらを意識的に無視。

 冷たい目でこちらを見ている少女に、戒李は視線を返しながら。

 

「お初におまみえ致します。私、姓は峯鳶。名を戒李と申します。この度は、黄巾党の方が山に潜伏すると噂に聞き訪ねて来た次第。説明の手間を省くため、そちらの方には商人と言いましたが。本当は商売の『し』の字もわからない生き物でして」

 

 振り上げられた大剣に、少女の待ったが入る。

 手での制止に呼応した大剣が、振りかぶられたまま停止。そのまま下ろされる事はなく、いつでもいけちゃいますよ的な状態が維持される。

 少女の口から出るのは、呆れに近い声だ。軽く鼻を鳴らすような音を付け加えて、椅子の上から戒李を見下ろす。

 

「お前は、誰なの?」

「まあ、間諜の様なもので。情報の提供に参りました」

 

 ぴくりと肩を揺らして反応した威羅を、戒李は視線で制止した。

 いいからジッとしていろ。言外に表す笑みを顔に張り付け、少女へ視線を向けると恭しく片膝を付いて見せ。

 

「すぐ側にあります街より、あなた方を討伐するための兵が派遣されたのはご存知で?」

「いつものこと」

「では、それに関する詳細を。兵の数から配置まで、いくらでもお答えできますが」

 

 笑顔で言葉を紡ぐ戒李に対して、一瞬だけ考えた素振りを見せた後。少女は大上段に剣を構えた男へ向け、手を振って合図を送り。

 刹那。戒李の頭上で鉛色の光が走った。

 背中の冷たい感覚に従って身を反らせた戒李の前髪を、鈍い光を宿した鉄が削る。

 はらはらと舞う数本の髪は、判断が遅かった場合首と入れ替わっていたに違いない。

 はらはら首が落ちるなど、考えただけでハラハラものだ。

 

(今、上手いこと言ったな俺)

 

 軽く現実逃避しながらも、次撃が来ないかを警戒。しかし、次が一向に来ないどころか目の前で大剣を構えていた男が退場していく。

 ん? と首を傾げて少女を見れば。

 

「ゴメン、間違えた」

「軽!? なんて軽い謝罪だよ!! 危うく俺の首が無くなる寸前だったというのに……」

 

 戒李の抗議は、少女がひらひらと手を振る事で流される。

 

 

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