9-nine- After短編    作:パドル

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中編です。

プレイしたことない人はネタバレ無しverか原作をプレイしてね。


都の新海家訪問 中※ネタバレ注意

 

 

10分後

 

 

「……」

「……」

 

 

リビングはお通夜状態だった。

原因は簡単。スーパーお金持ちのお嬢様へのずいぶんと手荒な挨拶である。

(みやこ)は家のお風呂を使用中。

おかんは(みやこ)の服を洗濯したりして後始末をしている。

(そら)は汚れた玄関の掃除を手早く済ませて戻ってきた。

 

 

ふと(そら)が話しかけてきた。

 

 

「にぃに」

 

 

「なんだ」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

ずいぶん素直に(そら)が謝ってきた。

 

 

「……パイ投げはお前の発案か?」

 

 

「はい」

 

 

「……」

「……」

 

 

「後でちゃんと(みやこ)に謝っとけよ」

 

 

「はい」

 

 

「……」

「……」

 

 

「にぃにとみゃーこ先輩、緊張するだろうなって思って……にぃににぶつければ緊張ほぐれるかなって」

 

 

「そうか」

 

 

こいつなりに配慮あってのことか。

 

 

「にぃやん」

 

 

「なんだ」

 

 

「だからさ」

 

 

「うん」

 

 

「オーバーロードしてください」

 

 

「うん……ん?」

 

 

今なんて言った?

 

 

「オーバーロードしてください」

 

 

「……」

 

 

「お願いします」

 

 

「は?」

 

 

「お願いします!」

 

 

……こいつ、オーバーロードで失態自体を無かったことにしようとしてやがる。

 

 

……少しでも同情した俺が間違いだった。

 

 

「さっきのパイ、みゃーこ先輩じゃなくてにぃやんが受ければさ完全に笑い話にできるじゃん、にぃにもみゃーこ先輩に負担かけることも防止できる。私も失態を無かったことにできる。誰も悲しまないじゃん、win-winじゃん」

 

 

「お前なぁ……」

 

 

「何だよぉ、こっちだって誠意見せるからさあ、ちょっとぐらいいじゃん。ちょっと時間戻すだけじゃん!お願いします~!」

 

 

そう言いながら、(そら)は持っていた財布から千円札を1枚俺に握らせた。

 

 

「……」

 

 

誠意っていうか……買収じゃないか。いつぞやと完全に逆転したな……。

 

 

(そら)

 

 

「はい」

 

 

「『誠意は言葉ではなく金額』って聞いたことあるか?」

 

 

「……」

 

 

しぶしぶ財布からさらに千円札を1枚追加する

 

 

「はぁ…」

 

 

まあ、さすがに冗談だ。

俺は千円札2枚を(そら)につき返す。

 

 

「にぃやん?」

 

 

「駄目だ」

 

 

「え?」

 

 

「オーバーロードは駄目だ」

 

 

「なんでさぁ!」

 

 

「こんなくだらないことで一々時間戻せるかよ。それに決めたんだ、この力はもう使わない、よっぽどのことがない限りな」

 

 

「……」

 

 

「人生は一回きりだ。……何度もやり直してここにいる俺(正確には俺じゃないが)が言うのもなんだが…この力はそれに反している」

 

 

「……」

 

 

「だから使わない……アーティファクトが絡まない限りはな」

 

 

「わかった……」

 

 

(そら)も俺の思いが分かってくれたのか声のトーンを落とす。

 

 

それにだ。

 

 

「それにな、やり直したらこのことお前は覚えてないから俺にメリットがない」

 

 

「あ」

 

 

「やり直したら『お前に買収されてオーバーロード使ったから二千円よこせ』って改変された枝の何も知らんお前に言うことになるぞ」

 

 

「いや、無理っしょ。払わんでしょ」

 

 

「だろ?だから、メリットがない、俺には」

 

 

「ふぅ~ん、あれ、でもオーバーロードって記憶植え付けることできるんじゃないの。それでさ、改変された枝の私に植え付ければいいじゃん」

 

 

「それは無理だ」

 

 

「なんで?」

 

 

「オーバーロードで記憶を植え付けることができるのは俺か俺と眷属化している人……この枝では(みやこ)だけだからお前に植え付けるのは無理だ」

 

 

「眷属化?」

 

 

「それは……ソフィに口止めされてたな……」

 

 

うっかり口を滑らしてしまった。

 

 

「何それ~、気になる~、あ、みゃーこ先輩出てきた」

 

 

どうやら(みやこ)が出てきたようだ。

 

 

「そういえば、(みやこ)の服はどうするんだ」

 

 

「私の着てないのでみゃーこ先輩に似合いそうなのあったからそれを着てもらうつもり」

 

 

「それもあるが、(みやこ)の着ていた服に汚れが残ったりしないよな?」

 

 

「パイ投げ用のパイだからそこらへんもたぶん大丈夫だと思います、はい」

 

 

「はぁ……」

 

 

おかんもリビングに戻ってきてこの話は中断になる。

 

 

そして

 

 

「この度は大変申し訳ありませんでした!」

「この度は大変申し訳ありませんでした!」

 

 

(そら)とおかん。二人揃ってジャパニーズ・土下座である。

 

 

「あの……お顔を上げていたただいても……」

 

 

「うっす。無理っす……」

 

 

「同じく……」

 

 

パイを食らった(みやこ)はお風呂を借り、(そら)の服を借りてリビングに現れるなり、二人は秒で土下座に移行した。

 

 

「こ、この度は娘がとんだご迷惑をお掛けし大変申し訳なく存じます」

 

 

「は……はい」

 

 

おかんがいつになく真剣な声色で(みやこ)に謝罪する。

 

 

「此度の一件は私の監督責任をひどく痛感しております。娘の責任は私の責任です。私の責任としてどうか……。つきましてはどうか寛大なご処分を……」

 

 

「いえ、そこまで深刻に受け止めていただかなくても……」

 

 

(みやこ)がすごいタジタジだ。

 

 

「我が家は(かける)が3つの時に建てた物件です。先祖代々の土地で新築しまして。少々狭いですが思い入れのある家なんです」

 

 

ん?何でこの家の話になるんだ?

 

 

「ローンも……あと20年ばかし残っておりまして……」

 

 

ん?ん?

 

 

「どうか、この家だけは奪わないでください…それ以外の身なら斬りますので」

 

 

「え……?」

 

 

「待て待て待て」

 

 

「何よ(かける)、今新海家は未来をかけた生存戦略の途中なのよ」

 

 

「なんで、この家がとられる、みたいな流れになってんだよ。コロナグループは地上げ屋じゃないんだぞ」

 

 

いかん、おかんのやつビビりすぎてる。

 

 

……ここは(みやこ)自身に何とかしてもらうしかない。

 

 

「しないよな、(みやこ)!」

 

 

「……コロナグループの事業の中に不動産部門もあるからそういう可能性も無くは無いかな……」

 

 

「あ……コロナ不動産!?」

 

 

そういえばありました、聞いたことありますわ。え、うち、地上げされるの?

 

 

「あっでも、こんなことで怒ったりなんかしないです。ちょっと……いや……すごく驚きましたけど…」

 

 

だよな、しないよな!

 

 

「でも……ふふふ」

 

 

ん?

 

 

(みやこ)が笑い出した。

 

 

「……どうした、(みやこ)

 

 

「だって……どんな挨拶しようかってずっと悩んでたのに……パイ投げ……ははは」

 

 

(みやこ)が口元を抑えて悶えている。

 

 

「……(みやこ)

 

 

「ふふふ……いいですよ、許します。お顔を上げてください」

 

 

「ほ、本当ですか……」

 

 

おかんが心底安心したって顔して(みやこ)を見た。

 

 

「だから、ちゃんと自己紹介させてください」

 

 

そう言って(みやこ)は立ち上がり背筋を伸ばしておかんを見た。

 

 

「こんにちは、九條都(くじょうみやこ)です。白泉学園の2年生で(かける)君…ご子息と同じクラスです。この度はお招きいただき誠にありがとうございます。(そら)ちゃん…ご息女とも仲良くさせていただいております」

 

 

「本日はその、ご子息との交際についてご報告させていただくために参りました。お母様にはお夕飯代を出していただき、誠にありがとうございます。あ、えと、何かと至らぬ身ではありますが、す、末永くよろしくお願いいたします」

 

 

「……は、はい。こんな息子でよければ、こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 

(みやこ)的には完璧ではないだろう。だが、(みやこ)らしさはちゃんと伝わっているはずだ。言い切ったのだ。九條都(くじょうみやこ)の挨拶が間違いなくできていた。

 

 

気が付けば緊張は消えていた。(みやこ)を見るととてもすっきりした顔をしている。きっと(みやこ)もそうなのだろう。もう緊張に苛むことはない。

 

 

道中であんなに緊張してたのが嘘みたいだ。

 

 

「ありがとな(そら)

 

 

「……?にぃやん何か言った?」

 

 

「いや、何でもないよ」

 

 

やはりオーバーロードしなくてよかった。俺も彼女を実家に招待するというこのイベントを謳歌しよう。

 

 

こういうハプニングも含めて人生なのだから。

 

 

 

 

 

 

そして改めて(みやこ)と対面したおかんはその事前情報と遜色ない(みやこ)の姿に驚いたり、本当にコロナグループの令嬢であると聞き冷や汗を流したりしつつもとりあえずダイニングに腰掛ける運びとなった。

 

 

そして。

 

 

「あの、(みやこ)ちゃん。本当にこんな息子でいいの?」

 

 

雰囲気がリセットされた場でおかんが放った第一声があまりにもぶっちゃけすぎて笑ってしまった。

 

 

「何がおかしいのよ、(かける)。普通に考えておかしいじゃない。家柄とかもろもろ全然釣り合ってないじゃない。」

 

 

「まあ、確かに。会った当初は住んでる世界そのものが違うな~って思ってたんだけど」

 

 

「もう、(かける)君。そんな風に思ってたんだ。」

 

 

(みやこ)が不満げにぶー垂れる。そんな顔もとっても可愛い。

 

 

「……っ」

 

 

とっさに目をそらす。

 

 

「どうしたの、(かける)君」

 

 

「いや、何でもない」

 

 

やばい、にやけ顔が止まらない。

 

 

「悶えておられる」

 

 

(そら)に突っ込まれるが仕方ないじゃないか。彼女だよ、彼女。こんな可愛い子が俺の彼女なんだよ。これでにやけないでどうするんだ。

 

 

「それで、どんな経緯で仲良くなったの?」

 

 

「えっと……私は祖父が経営する喫茶店『ナインボール』で社会勉強も兼ねてアルバイトをしているのですが、その時に店員と客として出会いました」

 

 

「うんうん」

 

 

「それで、2年生になった時、メビウスフェスで、コスプレしまして…」

 

 

「あ~沙月ちゃんのとこでやってたやつね、でもなんでコスプレ?」

 

 

「みゃーこ先輩がスポンサー代表として尻拭いに立候補したんですよ」

 

 

「あぁ……」

 

 

そういうことに興味がないであろうおかんでさえ察してしまっている。それくらい白巳津川(しろみつがわ)の人間にとってメビウスリングは悪い意味で有名なのである。

 

 

「その時に、(かける)君にはフォローしていただいて、その時からです、関係が進展し始めたのは」

 

 

「フォローって?」

 

 

「えっと……地震が起きて、大勢のカメラマンさんが避難してくれなかったところを間に入って助けてもらったんです」

 

 

「へぇ~、やるじゃん(かける)

 

 

「大したことはしてないよ」

 

 

「まあ、あの時のにいやんはちょっ~とかっこよかったよね」

 

 

「で、それからそれから?」

 

 

「……」

「……」

 

 

ここからが俺たちにとっては肝要なのだが、さすがにアーティファクト騒動のことを言うわけにはいかない。必要になったのはアーティファクト騒動を踏襲したカバーストーリーだ。

 

 

「俺と(みやこ)がさチームを組むことになったんだよ、学年とか学校とかの枠組みを超えて」

 

 

「ちなみに私もチームの一員です」

 

 

(そら)が自分も参加していたと付け加える。

 

 

「へ~、どんな?」

 

 

「メビウスリングのファンクラブ」

 

 

「ん?あんた別にあれのファンでもなかった気がするけど」

 

 

「あぁ、ファンじゃない。元々は、(みやこ)が始めたメビウスリングの研究部……が元なんだ」

 

 

「研究部?」

 

 

(みやこ)はスポンサー側の人間だからあれが悪く言われる原因を自分なりに研究して少しでも悪評が鎮められる一助になりたかったんだ。そのための研究部」

 

 

意味不明な物でもちゃんと理由付けができれば納得してしまうのが人間というものだ。

 

 

「あれが一応、白巳津川(しろみつがわ)の伝承に沿って作られてるのは知ってるだろ」

 

 

「まあね」

 

 

「あのめちゃくちゃなアニメが一体どれほど白巳津川(しろみつがわ)のそれと符合してるのか実際少し気にならない?」

 

 

「まあ……分からなくはない……」

「……」

「いや分からないわねぇ」

 

 

バッサリ斬られた。

 

 

「町内会の催し物でさ、数日にわたって見せられたことあるんだけど本当に意味不明、あれほど時間の有用性を感じられた体験はなかったわぁ」

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

「あ、(みやこ)ちゃんに言ってるわけではないのよ。ただ、ちょっとねぇ」

 

 

まあ言いたいことはすごくわかる。あれを研究したいかと問われれば俺でもNOである。が…。

 

 

「俺のきっかけはさ逆なんだよ」

 

 

「逆?」

 

 

「『アニメから白巳津川(しろみつがわ)の伝承』じゃなく『白巳津川(しろみつがわ)の伝承からアニメ』に興味を持ったんだ。沙月ちゃんが大学時代に白巳津川(しろみつがわ)の伝承を研究していたのは知ってるだろ?」

 

 

「ええ」

 

 

「それを見せてもらう機会があってさ、それをもとにアニメが作られたって聞いたらどんなものか気にならないか?」

 

 

沙月ちゃんの『世界の眼』によれば、俺と(そら)が自分の学生時代の論分を見せてくれと言ってきた枝があるらしい。この世界でもそうだったと口裏を合わせてもらうことにした。というか俺も読ませてもらった。

 

 

「なるほどねぇ、それで逆説的にアニメにも興味をもって研究したくなった……と」

 

 

「そうそう」

 

 

「……解せないわねぇ」

 

 

「何が?」

 

 

「あんたらしくない」

 

 

「……」

 

 

「アンタがそう言う事柄に興味をもって研究したくなった、ってのは分かった」

「でもあんたってさ、人とつるむことを嫌うタイプでしょ、(そら)にもそういう傾向あるけどあんたは比較にならない。本気で興味を持ったらさ、一人で地道に研究するでしょ。誰かと共同して研究するとは思えない。そのチームって何人?」

 

 

「……俺と(そら)(みやこ)含めて5人」

 

 

「5人。大体、学校の班行動と同規模だけど別の学校の子もいるんでしょ、となれば学校の外で集まったりすることが中心になる。私の知ってるアンタなら間違いなく嫌がると思うんだけど。そもそもさ、なんで(みやこ)ちゃんのグループに加わったの?」

 

 

「……さすがにおかんは騙せないか」

 

 

「当たり前よ、何年アンタの母親やってると思ってるの」

 

 

……さすがに母である。その辺りには違和感を覚えるか。

 

 

「わかったよ、おかん」

 

 

だけど問題ない。なぜなら。

 

 

これはカバーストーリーのカバーストーリーだからだ。

 

 

白巳津川(しろみつがわ)の伝承に興味を持ったのは間違いない。だけどそれだけじゃチームを結成するほどの理由にならないが……」

「おかん、ここまでは建前だ」

 

 

「建前?」

 

 

「少し考えてみてくれ」

 

 

俺は(みやこ)に向き直りその手を取る。

 

 

(かける)君」

 

 

「こんな、かわいい子が、協力を求めてきたら、男なら間違いなく『うん』と答えるだろ!」

 

 

「あんたまさか、チームを組んだ理由って」

 

 

「そう」

 

 

「下心か!」

 

 

「その通り!」

 

 

建前の向こうには真実がある。俺は一切ウソをついてない。下心で(みやこ)に協力したことは事実だからだ。

 

 

これでカバーストーリーを守ったまま真実を述べたことになる。真のカバーストーリーの完成だ。

 

 

(みやこ)ちゃん、それでいいの、うちの息子、下心であなたに協力してたらしいけど、失望とかしてない?」

 

 

「大丈夫です、というのも私も(かける)君に対して下心を持ってましたから…」

 

 

「お、おう」

 

 

「いろいろあって私たちは研究を進め、先陣を切って私にはとてもできない発想や努力で私を導いてくれたんです。そんな(かける)君に私は少しづつ惹かれていきました」

 

 

「それからはクラスメイトによって二人っきりにされてお互いの気持ちをさらけ出しあい。無事ゴールイン。これが俺と(みやこ)が恋人になるまでの過程だよ」

 

 

「ふ~ん、要するに下心に任せて研究を続けたらお嬢様のお眼鏡にかかったと」

 

 

「まあそういうことだな」

 

 

「納得していただけましたか?」

 

 

「う~ん一応。筋は通っているから~」

「まぁ良しとしますか」

 

 

納得してくれたみたいで一安心。

 

 

と思ったのだが。

 

 

おかんは俺にだけ聞こえるような声でつぶやいた。

 

 

「あんた、まだなんか隠してるでしょう」

 

 

ビクリと背筋に悪寒が走る。

 

 

「いや、別に」

 

 

「まあ、アンタが話しにくいって言うなら別に話さなくていいわよ」

 

 

「息子が過程はどうあれ彼女を連れてきた。その事実を上回る喜びはなかなかないんだから」

 

 

おかんはそれ以上追及する気はなさそうだ。

 

 

ふぅ。最大の難関を乗り切った。

 

 

 

 

 

 

 

おかんが、昼食を作りにキッチンに向かったころ(みやこ)が手伝いたいと申し出た。

だが。

 

 

「いや、ここは私に作らせてちょうだい。新海家の味ってのを(みやこ)ちゃんに味わってもらいたいの」

 

 

「わかりました……」

 

 

(みやこ)が残念そうに引き下がる。それを見たおかんは何か思いついたように(みやこ)に提案する。

 

 

「その代わり、夕食は一緒に買い物に行きましょう?買い物上手だとか、私よりうまいとか聞いてるからハンバーグで白黒つけようじゃないの」

 

 

「は、はい!」

 

 

(みやこ)もうれしそうだ。

 

 

そして昼食が完成するまでの間、俺、(そら)(みやこ)の3人で待つことになったのだが。

 

 

「ねぇ、にぃやん、眷属化って何?」

 

 

「お前、その話を蒸し返すのかよ」

 

 

「だって~気になるじゃん」

 

 

「眷属化はソフィさんに言うなってどの枝でも言われてるらしくて」

 

 

「まぁ、今更お前ひとりに言ったところでどうとなるわけでもないし言ってもいいか」

 

 

「え、いいの(かける)君」

 

 

(そら)一人が知ったところでどうにもならんだろ」

 

 

「うん、まあ」

 

 

「お、お、ついに聞かせてもらえるんですかい?」

 

 

「眷属化ってのは文字通りその人物の眷属になること参照元の人物が持っているアーティファクトを使えるようになる。ほぼ下位互換になるがな」

 

 

「ああ、にいやんの『世界の眼」を介してオーバーロードでみゃーこ先輩が記憶を受け取れるのもいやんと同じ能力を持っているからってこと?」

 

 

「そうだ、(みやこ)も俺の『世界の眼』が使える。だからオーバーロードで記憶を与えられるのも俺と(みやこ)だけってことだ」

 

 

「なるほどね~、それでさ、その眷属化ってどうやるの」

 

 

「なんでそんなこと教えなくちゃいけないんだよ」

 

 

「ここまで聞いたんだから方法も教えてよ。口外しないし、自分でも絶対やらないからさ」

 

 

「はぁ……参照元の『血などの体液』を摂取することだ」

 

 

「ん?それだけ?」

 

 

「それだけだ。ただだいぶリスキーらしいし死ぬこともあるらしいからやめとけよ」

 

 

「はい、やめときま~す」

「……」

「……ん?」

 

 

「なんだ?」

 

 

「思ったんですけど、お二人はどのようにして眷属化なされたので?」

 

 

「……」

 

 

「にぃやんの血を摂取したんですか?」

 

 

「ああいや、う~ん」

 

 

「その様子だと違うっぽいすね」

 

 

くそ、なんだか鋭いな(そら)のやつ。そこら辺のことは一応説明しておいたが。

 

 

「となれば……『血などの』って言葉が枕詞に来ているからわかりにくいけど『体液』の部分か。体液、よだれとかでもいけるのか?」

「じゃあ……キスとかか」

 

 

「……たぶん可能だと思う」

 

 

「そういう言い方するってことはもっと濃厚な体液交換したのかよ」

 

 

「……」

 

 

……しまった墓穴掘った!素直に『そうだ』って言っときゃよかった。

 

 

「……体液交換、体内に……」

「……まさか」

 

 

(そら)がなんか、ただならぬ顔でこちらを見ている。

 

 

「にぃに、みゃーこ先輩。あなたたちもしかして……」

 

 

「……」

 

 

「ヤったのか?」

 

 

「……」

 

 

「うわ~、ヤったのかよマジで!」

 

 

「おい、声がでかい!」

 

 

「したんだろ!高校生の身で!何やってんだよにいやんのバカ!」

 

 

「いや……それは……反論できねえ」

 

 

「あ……えと、大丈夫だよ。その……私のアーティファクトで外に出したから……!」

 

 

「そんな生々しい補足いらんわあい!」

 

 

「えっと……ごめんね」

 

 

「あ~私の中の清純派みゃーこ先輩像が~崩れるぅ~」

 

 

「うぅ……」

 

 

(そら)が机に突っ伏し、ボンッと(みやこ)の顔が真っ赤になる

 

 

「あぁ~こうしちゃいられない、お母さんに言ったろ、にいにが不〇異性交遊してたって言ったろ!」

 

 

「待て、早まるな(そら)!」

 

 

そう言ってキッチンへと向かう(そら)を引き止め、(そら)にだけ聞こえる音量で話す。

 

 

「頼む、……おかんたちには黙っててくれ……!」

 

 

俺は財布から千円札を取りだす。

 

 

「……どんだけ必死なんすか」

 

 

「……頼む」

 

 

「……はぁ」

 

 

(そら)は千円札を受け取りながらも複雑な表情で。

 

 

「にいやん、こっちこっち」

 

 

(そら)に誘導されて、隣の部屋に移動する。

 

 

「……なんでしょう」

 

 

「なにかあった時に傷つくのはみゃーこ先輩なんですよ」

 

 

耳が痛い。まさかこいつからこんな正論を聞かされるとは思ってなかった。

 

 

「……分かってる。最近はちゃんと気をつけてるんだ」

 

 

「じゃあ付き合った直後?」

 

「ああ……あの頃はいろいろあったから……」

 

 

「みゃーこ先輩が命狙われたりしてた頃ですよね。それで、命の危機を感じたら発動する、人間の根源的な欲求があれしてこれしてと」

 

 

「はい……」

 

 

「……」

 

 

まさか、(そら)からこの手の説教を受けることになるとは。

 

 

そう思っていたんだが。

 

 

「……こう見えて、私はにいやんをかってるんですよ?」

 

 

「ん?」

 

 

「無愛想に見えて、面倒見はいいし、ぶっきらぼうに見えて、優しいし、自慢の兄なんです。だから、信じてる」

「にぃにならみゃーこ先輩のことを幸せにできるし、みゃーこ先輩ならにぃにのことを幸せにしてくれる」

 

 

「お、おう」

 

 

なんだこいつ突然。

 

 

「『なんだこいつ突然』みたいな顔するなよ、私だって真面目な話ぐらいするよ」

 

 

「悪い」

 

 

「だからさ、こんなつまんないことで不幸になったら後悔が残るでしょ。だから、気を付けなよ」

 

 

「分かってる、(みやこ)を不幸になんかしない、絶対に」

 

 

「うんうん、みゃーこ先輩を幸せにするのがにいにが示せる最大限の誠意だよ」

 

 

「ああ」

 

 

「それはそうとして」

 

 

とたんに、(そら)の顔がキリッと切り替わる。

 

 

「ん?」

 

 

「ここからが本題なんだけど」

 

 

今まで本題じゃなかったのかよ。

 

 

「ほい」

 

 

(そら)が掌を差し出す。お手?

 

 

「……なんだその手は」

 

 

「え、分からない?」

 

 

「分からん」

 

 

「にいやんが言ってたことじゃん」

 

 

(そら)は何か意味ありげに笑った。

 

 

「誠意は言葉ではなく……?」

 

 

「金額……お前まさか」

 

 

つまりこいつはこう言いたいのだ。

 

 

「もっとよこせ♪」

 

 

いやいやいや、なんで今の話の流れでそうなる。

 

 

「おかしいだろ、(みやこ)を幸せにするのが俺が見せられる誠意だって自分で言ってただろ!」

 

 

「いや、こんな特大スキャンダルを隠すのに千円っての誠意が足りないんじゃないかな、で~、どうする?お母さんに言っちゃおうかな~、どうしようかな~」

 

 

こいつ……。珍しくシリアスしてると思ったら……。

 

 

「くっそ、覚えてろよ……」

 

 

部屋に置いてあったバッグから財布を取りだし、千円札2枚を手渡した。

 

 

「やった~、とんでもない臨時収入だ」

 

 

「本当にこれで黙ってくれるんだよな」

 

 

「もちろん私の心の中にしまっておくよ、じゃね~」

 

 

そういってダイニングに戻っていくのだった。

 

 

「はぁ……」

 

 

なんだかすごく疲れた。だがこれでいいんだ。

 

 

「みゃーこ先輩」

 

 

「は、はい」

 

 

「……あ~、日数の読み間違いとかしてやべえってなったらすぐに私を頼ってください、その手の薬の入手法は心得ているので」

 

 

「あ、うん……」

 

 

「……お前ってどこからそういう情報仕入れてくるんだよ……」

 

 

「それはえっと、気にするな気にするな……」

 

 

(そら)が若干顔を赤くしながら話題をそらす。なんだ?

 

 

「はぁ、まあいいけど」

 

 

俺たちが騒いでいる間に(みやこ)は赤くなっていた。

 

 

「できたわよ~、運んでちょうだい」

 

 

「お、できたってさ」

 

 

ちょうどよく昼食が完成したようだ。

 

 

 

 

 

 

その後、昼食を済ませた後は狭い我が家を案内したり引き続き、(みやこ)と俺の話を聞いたり、おかんと(みやこ)が買い物に出かけたりとあっという間に過ぎていった。

 

 

「いや~(みやこ)ちゃん本当にすごいわ。私の知らない安いお店知ってるし、タイムセールまで把握してるし」

 

 

「いえいえ、これも節約術の一環ですので」

 

 

おかんと(みやこ)はお互いが主婦肌であるせいか妙に波長が合っているようだ。

 

 

「いや~、ほんとに仲いいですな~あの二人。嫁姑問題も起こらなさそうで旦那としては気が楽じゃないですか?」

 

 

「よせよ、照れるじゃないか」

 

 

「こいつ、もうみゃーこ先輩の旦那になったつもりかよ」

 

 

「当たり前だ」

 

 

「うわぁ」

 

 

(そら)からのからかいも今なら躱せる。あの時とは違うのだよ。

 

 

 

そんなこんなで日は傾き、玄関が開く音がした。

 

 

おとんの帰宅だ。

 

 

よし、第二ラウンド始めっか。

 

 

 

 

 

 

 

九條都(くじょうみやこ)です__!」

 

 

そしておとんにもおかんにしたのと同じような自己紹介をする。

 

 

「不束者ですが、どうかよろしくお願いします!」

 

 

「……」

 

 

「おい、どうしたんだよおとん」

 

 

おとんが動かない。

 

 

「……(かける)の父です。よろしくお願いします。(みやこ)さん」

 

 

と思ったらちゃんと動き出した。何だったんだ。

 

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 

(みやこ)ちゃ~ん、ハンバーグそろそろ作らないと間に合わないわよ~」

 

 

一通り最低限の挨拶が済んだところでキッチンのおかんから声がかかる。

 

 

「は~い、あ、で、でも……」

 

 

みやこがどうしようかといった様子だ。

 

 

「あ~、(みやこ)としてはもう少しちゃんと話したい感じ?」

 

 

「う、うん」

 

 

(みやこ)としては初めての挨拶なのだからおとんとは話しておきたいのだろう。

 

 

「ああ、大丈夫大丈夫。夕食の支度の方が優先だ。話すだけならその時にできるからね」

 

 

「だってさ。(みやこ)

 

 

「あ、はい、ではお言葉に甘えて……」

 

 

そう言って(みやこ)は部屋をあとにして、俺とおとんだけが部屋に残された。

 

 

(かける)

 

 

「何?」

 

 

応じるとおとんはぎこちなく振り返った。

 

 

「一体どこのアイドルグループのセンターを引っ張ってきたんだ」

 

 

「……」

 

 

「この前の焼肉の時にも言っただろ……アイドルグループのセンターばりの美貌を持ったクラスメイトだよ」

 

 

「いや、だからってあれほどとは……。絶対、誇張が入ってるものだと……社会の荒波で鍛えられた切り替え術がなかったら、挨拶すら危うかった……」

 

 

ああ、最初に固まってたのはそういう……。

 

 

「俺が嘘なんてついてなかったって分かってくれたか?」

 

 

「ああ……いや、まだレンタルという線が……」

 

 

「だからレンタルじゃね~よ!」

 

 

まったく……。おとんのやつホントに大丈夫か……?

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで夕食になった。おかんと(みやこ)が作った料理がダイニングに所狭しと並んでいく。

 

 

「今日はパーティだからプチビュッフェ形式にしたの。私から見て右半分が私、左半分が(みやこ)ちゃんの作った分ね」

 

 

「へぇ~よくこれだけのものを」

 

 

「あくまでプチだからね、半分は総菜とお寿司」

 

 

それでも十分にごちそうである。そして最後にメインディッシュである。それぞれのハンバーグが姿を現した。

 

 

「よし、それじゃあ食べ比べと行きましょうか」

 

 

「いえ~い」

 

 

「ぱちぱちぱち」

 

 

夕食が完成、運ばれてきた料理に思わずのどが鳴る。

 

 

「まずは私から、新海家伝統のハンバーグ、召し上がれ」

 

 

別に伝統ってほど頻繁に作ってるわけじゃないと思うが…。まあいいか。

 

 

「いただきます」

 

 

全員が手を合わせて食に感謝を込める。

 

 

「さて……あむ」

 

 

食べた。

 

 

「何というか……」

 

 

うん。

 

 

「……普通だな」

 

 

「なんかもっと言い方ないの?」

 

 

「でも、何だろうな、えっと、すごい安心する味?」

 

 

「なんで疑問形なのよ」

 

 

「え~、あれだ、心の奥が暖かくなるような。懐かしい感じ」

 

 

あれはいつだったか。小学生のころ、原因は……何だっただろう……。

 

……。

……。

……。

 

「……」

「……(かける)、どうしたの?」

 

 

「……いや、この味でなんか思い出すかなって思ったんだが」

 

 

うん。

 

 

「びっくりするぐらい、なんも思い出さねえ!」

 

 

「なんでよ、そこはおふくろの味補正で回想シーン入るところでしょうが」

 

 

回想シーン言うな!

 

 

「うむうむ、やっぱり、お母さんの味は一味違うねぇ」

 

 

「父さんもやっぱりこの味が一番だ」

 

 

……(そら)とおとんはこちらのやり取りそっちのけでバクバク食ってる。

 

 

「……あ、おいしい、でもそれだけじゃない」

 

 

ふと(みやこ)を見ると難しそうな表情。

 

 

「……どうした、(みやこ)

 

 

「あら…(みやこ)ちゃん、お口に合わなかったかしら?」

 

 

「い、いえ、そうではなく!とても美味しいです。ただ……」

 

 

「この味は…私には真似できないなぁ……って」

 

 

「まあ、どうして?」

 

 

「…お母様の料理は、(かける)君や(そら)ちゃん、この家庭のみんなを喜ばせるために根付いた味です。私は九條家の料理、ですからそういうことはできないなあと」

 

 

「はは、当たり前じゃない、私は(かける)(そら)の母親なんだからそれしかできないのよ」

 

 

「……」

 

 

「さてさて、次は(みやこ)ちゃんの番よ」

 

 

「は、はい」

 

 

「おふくろの味VSみゃーこ先輩。レディーファィ!」

 

 

「いただきます」

 

 

1分後

 

 

「食べ比べとのことだったので、なるべくオーソドックスなデミグラスソースを使った王道な味付けにしてみました」

 

 

「はぁ~めっちゃ旨、おふくろの味ではないけど、単純に美味い!」

 

 

「ほ~う、こんなに肉汁が中にチーズが入っているだと」

 

 

「やっぱり、(みやこ)のハンバーグは最高だ」

 

 

「そ、そう、ならよかった」

 

 

(みやこ)がほほ笑むその裏で。

 

 

「……あぁ負けた。完全敗北だわ」

 

 

リビングのそばで真っ白になっているおかんを見つけた。

 

 

「えっと、お母様の料理もその……とても美味しかったです」

 

 

「勝者であっても気づかいを忘れないみゃーこ先輩であった」

 

 

「いや、気づかいとかじゃなくて……」

 

 

(みやこ)ちゃん……」

 

 

「は、はい」

 

 

いつの間にかおかんが復活していた。いや、復活はしてないか。座ったまま、(みやこ)に話しかけていた。

 

 

「おふくろの味を自分は出せないって言ってたけど当然じゃない、あなたはまだただの高校生なんだから」

 

 

「は、はい」

 

 

「おふくろの味は自然と生み出されるものよ」

「おふくろの味は自然と家族の舌に馴染んじゃうからそれが普通と感じるようになる。だから簡単には感謝されないのよね……」

 

 

「そういうものなのでしょうか」

 

 

「あなたもお母さんになればわかるわよ」

 

 

「おか……えっ」

 

 

「あら、ちょっと早かったかしら。新海家の味、教えて欲しいなら言ってちょうだい。どれだけ役に立つか分からないけれど」

 

 

「は、はい。よろしくお願いします!」

 

 

(みやこ)の新海家の味修業が内々に決定した。

 

 

 

 

 

 

 

夕食も一段落して、自然と会話が弾み始める。(みやこ)が洗い物を手伝おうとするが「お客さんにそんなことさせるわけにはいかない」というおかんの一言で止められ、ダイニングに引き腰を下ろす。

 

 

「そういえば、(かける)、勉強の方はどうだ」

 

 

「あ……勉強?」

 

 

学生の本文は勉強だ。そして、人生の中でも指折りの大事な時期があと1年後に迫っている。

 

 

「大学受験かぁ」

 

 

「そうだ、お前の第一志望は最寄りの白巳津川(しろみつがわ)大学だったよな」

 

 

「ああ、うん」

 

 

白巳津川(しろみつがわ)大学__文字通りこの町、学園都市白巳津川(しろみつがわ)を代表する大学である。

 

 

白巳津川(しろみつがわ)大学ってかなり難しい部類に入るよね……確か一番低い学部でも偏差値60ぐらいあった気がする」

 

 

(そら)が言っている通り白巳津川(しろみつがわ)大学はかなり難しい。〇京六大学……に匹敵するぐらいには難しいと言っていい。

 

 

「どうだ、いけそうか?」

 

 

「……正直、今のままじゃきつい」

 

 

「確か先日の模試はD判定だったか……」

 

 

そう、D判定である、E判定じゃないだけかなり頑張った方ではあるのだが……。

 

 

「確か、あれだよね。白巳津川(しろみつがわ)大学からコロナグループの企業に就職するのがこの町の住人の花形っていうか王道だよね」

 

 

「確かにお父様からも、白巳津川(しろみつがわ)大学から採用する人が多いって聞いたことあるよ。もちろんそれだけじゃないけど……」

 

 

「じゃあ、にぃに。なおさら頑張らないとじゃん」

 

 

「そうだな……」

 

 

受験の話になって気が少し落ち込む。こっちは、アーティファクト回収で手いっぱいだって言うのに……。

 

「あ~、ところで(みやこ)さんはどこ志望で」

 

 

「あ、私も同じです。白巳津川(しろみつがわ)大学。祖父も父も卒業生ですから。模試ではB判定でした」

 

 

「ほ~、もしかして(みやこ)さん、勉強はかなりできる方かな」

 

 

(みやこ)は学年で5番より下に落ちたことは見たことないな」

 

 

「それは頼もしいな、もしかして(かける)の成績が最近上がったのも…」

 

 

「ああ、(みやこ)に勉強を見てもらったからだよ」

 

 

アーティファクト回収の間も成績を落とすわけにはいかない。俺と(みやこ)は空いた時間で勉強会をして俺の成績は上向いた、だが……。

 

 

「目標が同じというのはとてもいいことだが、今のままじゃ(みやこ)さんはともかく(かける)はきついんじゃないのか?」

 

 

「そうなんだよな~」

 

 

「もう少し勉強時間は増やせないのか?」

 

 

「う~ん」

 

 

受験は非常に重要だ。だが俺たちにはアーティファクト回収という使命がある。ソフィは急がなくていいと言ったが、タイムリミットは思った以上に近い。高校在学中、いや、なるべく今年度中にはアーティファクト回収を終えなければならない理由がある。

 

いつだったか、アーティファクトに選ばれる人物は大半が白巳津川(しろみつがわ)の学生だから海外まで散らばる可能性は考えなくていいと言われた。

 

だがその者が高校を卒業したらどうだろうか。多くのものが大学生になる。そして少なくない人数が白巳津川(しろみつがわ)以外の大学を選択することとなるだろう。そして今年卒業する学年がアーティファクトを所有している可能性は非常に高い。

そうなれば、海外とは言わないが日本各地にアーティファクトが散らばる可能性が出てくるのである。だから、アーティファクト回収は急がなくてはならない。

 

 

……だが早急に受験に対する作戦が必要なのも事実で。

 

 

「ほいほい、にいやんに提案です」

 

 

「発言を許す」

 

 

「とりあえずさ、量が増やせないなら質を増やしましょう。みんなで勉強会しましょう、勉強会!みゃーこ先輩と二人きりじゃなくてさ」

 

 

「ん~結城や香坂先輩を巻き込んでってことか?」

 

 

「それとあたしも、人数増えた方が緊張感も結束力も高まるっしょ」

 

 

「でも、結城はともかく香坂先輩はリアルに受験中だろ邪魔にならないか?」

 

 

「香坂先輩だったら間違いなく食いつくと思いますよ『友達と集まってと勉強会だなんて~』って感じで」

 

 

……まあ、香坂先輩ならそうだろうな。

 

 

「……まあ、ありだな。後でみんなに呼び掛けておくか」

 

 

「それと、みゃーこ先輩とにいにが二人きりで勉強するのはなるべく禁止ね。そういう時は私が加わります」

 

 

「なんでだよ……」

 

 

「だってお前ら二人きりだとイチャイチャしまくって勉強にならんだろうが!」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

反論……しようとしたが……。

 

 

 

 

 

 

『ここは……この公式が当てはまるから……ん?……もう……(かける)君、私じゃなくて…参考書を見て……』

 

『え、近い?あ……勉強しないと』

 

『もう我慢できない?しょうがないなぁ……』

 

『あ、(かける)君……今日は……ね、大丈夫な……日だから』

 

『する…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

できない。色々と心当たりがありすぎる。

 

 

「あ……そうだね……」

 

 

(みやこ)も俺と同じらしい。

 

 

「というわけで、二人ともよろしくて?」

 

 

「はい……」

「はい……」

 

 

「ふふ、気づかないうちに友達が増えたみたいだな(かける)

 

 

「……まあな、最近はこういうのも悪くないって思えるようになったよ」

 

 

「そうか、まあ引き続きがんばれ、彼女さんと同じ大学に行けるようにな!」

 

 

「ああ」

 

 

するとおかんが後片付けが終わったようで戻ってきた。

 

 

「ああ、終わった終わった」

 

 

「あ、お疲れさまでした」

 

 

「ありがとう、(みやこ)ちゃん。家事ってこなしてるのが当たり前みたいにみられてありがたられないのよね~」

 

 

「あ~、私は好きでやってますので」

 

 

「そう?でも、やってるのが当たり前だ、なんて周囲に思わせたらだめよ。家事は主婦の労働なんだから」

 

 

「は……はい」

 

 

「感謝しろとは言わないけどさ、なんかこうさ、もうちょっとお礼を言われてもいいとは

思わない?」

 

 

(かける)ったら母の日にもな~んにもなかったんだから」

 

 

「……母の日って何日だったっけ」

 

 

「そこからか、5月8日よ」

 

 

「5月8日……」

 

 

「……」

 

 

「何?なんか5月8日に思い入れでもあんの?母の日だぞ~なんかないのか~って連絡しようとか考えてたんだけど」

 

 

5月8日……。俺たちにとっては忘れもしない日だ。他の枝の(みやこ)の死がソフィから伝えられた時、狼狽した(みやこ)を抱きしめ…。そして俺たちは…。

 

 

「あ~、あれか、初デート記念日とかだったりする?」

 

 

「いや、初デートは5月7日……」

 

 

「へぇ~、じゃあもっと生々しい記念日?」

 

 

(そら)が意地の悪そうな顔で聞いてくる。

 

 

「生々しい言うな!ちげ~よ」

 

 

違わないけどな……。電話してこなくてほんとによかった…。

 

 

「まぁ、あれだ、一人暮らし初めてわかったよ家事の大変さってのが少しは、だから、い

つもありがとな、おかん」

 

 

「あら、そういうことについて初めてお礼言われたかも」

 

 

「俺はいつもおかんには感謝してるよ。母の日なんか特にな」

 

 

「嘘つけ」

 

 

まあウソだが。

 

 

「母の日の日付すら忘れてたじゃない。どうせ『心の中でお礼を言ってたよ』ってパターンでしょ」

 

 

「ご名答」

 

 

母の日、父の日の忘れやすさは異常である。そして今年もアーティファクトの一件で流されてしまう不憫な日だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、(みやこ)ちゃん何度も確認して悪いんだけど、本当にうちの息子でいいの?」

 

 

「はい、(かける)君がいいんです。」

 

 

「ふぅ~ん……」

 

 

何かを考えこむようなそぶりを見せるおかん。珍しいな。

 

 

「質問なんだけど」

 

 

「は、はい」

 

 

「あなたは(かける)の何になってくれるの?」

 

 

「え?」

 

 

「夕食の時、あなたは(かける)のおふくろの味になれないことを残念がってたわよね」

 

 

「は、はい」

 

 

「おふくろの味って母親の味じゃない。そこは私の場所よ。その座まで奪っちゃおうと企んじゃうなんて」

「それってちょっと欲張りじゃない?」

 

 

「あっ……」

 

 

「別にそういう性格であることは問題ではないのだけれど。あれもこれも欲しがっちゃうとね、最終的に自分が何になりたかったのか忘れちゃうと思うのよね」

 

 

「お、おいおかん、一体何を……」

 

 

(かける)は少し黙っててちょうだい」

 

 

いつもは聞かないようなはっきりした拒絶。

 

 

「にぃに、少し黙ってた方がいいみたいですぜ」

 

 

……(そら)の言う通りかもしれないが、おかん、何のつもりだ?

 

 

「だから、はっきりしてもらいたいの。あなたは(かける)の何になってくれる?」

 

 

「わ……私は」

 

 

「いいのよ、まだそこまで言い切れる関係ではないかもしれないし、親である私が言うのもなんだけどあんな息子だし……もしかしたらすぐ別れるかもしれない」

 

 

ひどいな。

 

 

「……ッ別れません!」

 

 

……!

 

 

(みやこ)はおかんに強く言い放った。

 




まだ続きます。次回とりあえず完結。
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