9-nine- After短編    作:パドル

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後編です。遂に完結、長かった……。


都の新海家訪問 下※ネタバレ注意

 

 

(みやこ)が発した怒声にも近い訴えに俺たちあっけにとられた。

 

 

そして、こう続けた。

 

 

(かける)君は私にとって生涯でただ一人お慕いする男性で……、尊敬すべき大切な人で……、私が過ちを犯した時も見捨てずに寄り添って、一緒に背負ってくれる人で……」

 

「だから、私は、私がいるこの世界では、他のどの世界にも負けないぐらい……いや、絶対に負けない!」

 

(かける)君と一緒に…必ず幸せになってみせる……そう、誓ったんです!」

 

 

「……」

「……」

 

 

その場にいる全員があっけにとられていた。特におとんとおかんは(みやこ)がここまで強く出るタイプとは思ってなかったようで。

 

 

「……ふふ、(みやこ)ちゃんって意外と熱血なのね」

 

 

「あ、あ、あの、ごめんなさい、出過ぎたことを言いました……」

 

 

「いや、嬉しいよ、息子のことをそんなに強く思ってくれるなんて」

 

 

「ごめんね。ちょっと試すようなこと言って」

 

 

「いえ、あの、確かに私は欲張りです。そのうえ、嫉妬深くて(かける)君の全てを手に入れようとしてしまうかもしれません」

 

 

一息吸う。

 

「だから」

 

もう一回吸う。さっきよりも深く。

 

「私は(かける)君の、お……お嫁さんになりたいです。病める時も健やかな時も共に考え支えあい、道を照らす月のように(かける)君を……、(かける)君と……共にそういう家庭を築きたいです!」

 

 

「……」

 

 

あれ、俺って今プロポーズされてる?

 

 

「み……(みやこ)さん?」

「……」

「……」

「………っ」

 

 

ボフンって音がしたかのように(みやこ)の顔が赤く染まる。

 

 

「わ、わ、私、い、今、今!あああ!」

 

 

「あら。(かける)、逆プロポーズされちゃったわね」

 

 

「うわ~、こんな熱烈なプロポーズ。見たことないわ、というか…生のプロポーズ初めて見た……」

 

 

ど、どうすればいいんだ。こういう時は。え~と。

 

 

「ご、ごめんなさ~い!、で、出過ぎたことを申しました~!」

 

 

「あっ」

 

 

俺が悩んでいると顔を真っ赤にした(みやこ)がベランダに飛び出した。

 

 

「にいやん、行ってこい」

 

 

「え?」

 

 

「あの状態のみゃーこ先輩を鎮められるのは兄やんしかいないぞ」

 

 

「……行ってくる」

 

 

俺は意を決してベランダに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

(みやこ)はベランダに突っ伏していた。

 

 

(みやこ)

 

 

(かける)君」

 

 

「さっき俺逆プロポーズを受けたっぽいんだが……」

 

 

「……それは、ちょっと忘れてください……」

 

 

「忘れる?」

 

 

忘れてたまるか……。

 

 

「……(みやこ)、俺の顔をみろ」

 

 

「……(かける)君」

 

 

ごく短い時間。もしかしたらもっと長かったかもしれないがごく短い無限の中で俺たちは見つめあった。

 

 

「落ち着いたか」

 

 

「少し、まだ足りない。ギュッとして」

 

 

「分かった」

 

 

それからというもの俺は(みやこ)を抱きしめた。そうしないと消えてしまいそうな気がしたから。

 

 

「うん、もう大丈夫」

 

 

(みやこ)、それでさっきの続きなんだがプロポーズは」

 

 

「聞かなかったことにしておいて……!」

 

 

「でもうれしかった」

 

 

「だからさっきのプロポーズにもお返ししないとな」

 

 

「駄目ッ!」

 

 

「どうした」

 

 

「私は軽々しく、プロポーズしちゃったけど、(かける)君にはそうして欲しくないの」

 

 

「あ、ああ」

 

 

「私たちまだ高校生だから……。結婚にはまだ少し早いから。だから、(かける)君が今だって思った時、今がベストだって感じた時、(かける)君からプロポーズしてほしいな」

 

 

「……なるほど」

 

 

確かにプロポーズを安易にやるべきではない。それは俺が男を見せる時。

 

 

「分かった。俺がいつかプロポーズする。(みやこ)が喜ぶプロポーズを」

 

 

「ふふ、待ってます」

 

 

「あ、でも結婚するとなると色々必要な物とか出てくるし、その辺りはご家族と相談だね」

 

 

「はは、そうだな」

 

 

「……」

「……」

 

 

雰囲気が、何だろう。何とも言えない空気になった。互いに頬が上気し……。

 

 

キスがしたくなってくる……。

 

 

いかんいかん。ここは実家だぞ。家族に見られたらどうするんだ。全力でからかわれるぞ。

 

 

ここは話題をそらす。そうだそうしよう。

 

 

「そういえば、なんで月なんだ?」

 

 

「え?」

 

 

「あの…さっきさ。俺を照らす月になりたいって言ってたじゃん」

「照らすっていったら俺は太陽を連想するから、なんで月なのかな~って」

 

 

「ああえっとね、太陽は夜になると沈んじゃうよね」

 

 

「ああ」

 

 

「太陽は私たちを強く照らしてくれるけど、それは昼間だけ。夜になると引っ込んじゃう」

「でも月は夜だけじゃなくて昼もちゃんといてくれる、よく見えないだけでね。」

 

 

「ああ、昼間にも月は見えるって聞いたことあるな」

 

 

「私は(かける)君が暗闇にいる時の道標になりたい。明るいときもそばにいたい。だから私は月になりたい…でどうかな理由になってる?」

 

 

「何というか…意外だ」

 

 

「何が?」

 

 

(みやこ)がそういう詩的な表現するの」

 

 

「もう……」

 

 

いつも一歩引いたところからニコニコ笑顔で俺たちを見守ってくれてる、楽しい時も辛い時も分かち合って。

 

 

「そうか、(みやこ)は俺にとってのお月様か…」

 

 

俺は(みやこ)を見る、(みやこ)も俺を見る(みやこ)から薫る芳香が俺を狂わせる。

 

 

だ、駄目だ、さっきより悪化している……。ええいままよ!

 

 

(みやこ)も俺の覚悟を感じ取ったのか、ゆっくり目を閉じ、唇を……。

 

 

「にいや~ん、みゃーこ先輩!コーヒーわきましたんでどうで……」

 

 

(そら)が見たのは今にもくっつく手前の唇と上気した(みやこ)の顔。

 

 

「……すみませんでした」

 

 

(そら)は家の中へそそくさ戻っていった。

 

 

「……」

 

 

これでよかったのだろうか。いや、いいんだ、(そら)に感謝しよう。

 

 

「と、とりあえず落ち着いて中に戻ろう」

 

 

「そうだね……」

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても……」

 

 

おかんが(みやこ)をまじまじと見ながら言う。

 

 

「あらためて、本当に(みやこ)ちゃんみたいな子がいるとは思わなかったわ~」

 

 

「あ、えっと……」

 

 

(みやこ)が居心地悪そうにもぞもぞする。

 

 

「あ、決して悪く言ってるわけじゃないのよ。ただ事前情報のような子が本当に存在して、しかも(かける)の彼女だなんてあまりにも出来すぎだな~って」

 

 

「存在自体疑ってたよな。俺の妄想だとかなんとか」

 

 

「でも実際に会って安心したわ。いや~これで新海家も安泰だ」

 

 

「え」

 

 

「ん?どうしたの(そら)

 

 

「いや、新海家安泰なのかな~って」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「いや、このままにぃにとみゃーこ先輩が上手くいったとします」

 

 

「うん」

 

 

「そして最終的に結婚するとして」

 

 

「けっこん……」

 

 

(みやこ)がひっそりと赤くなるが。(そら)は続ける。

 

 

「その時にぃには新海(かける)なのかなあと」

 

 

「う、ん?」

 

 

話が見えない。俺が新海(かける)じゃなくなる?

 

 

「いやですね、新海家と九條家ではその……何?家格が違うわけですよ」

 

 

「うん、まあそうだな」

 

 

なんの変哲もないただの中流層である新海家とコロナグループの九條家の間には大きな隔たりがある。

 

 

「だからさ、二人が結婚するとしたらにいにが婿入りするって形になるんじゃない?みゃーこ先輩一人っ子だし」

 

 

「あ~」

 

 

そういえばそうだ、(みやこ)は一人っ子である。必然的に九條家を継承できるのは(みやこ)しかいない。となれば。

 

 

「確かに、そうなるのか~」

 

 

「あ、えと」

 

 

「つまりどういうことだ……」

 

 

おとんが恐る恐るといった感じで(そら)に聞く。

 

 

「にぃには九條さんになるので新海家は断絶です」

 

「……!」

 

 

おとんとおかんが崩れる。

 

 

「なんかガーンって音したねガーンって」

 

 

「……俺が九條さんねぇ」

 

 

「どうすか、にぃに。順当にいけばにぃにがコロナグループの三代目ですよ」

 

 

「そんな簡単なものじゃないだろ、社長とか、俺の器じゃ無理だろ、なあ(みやこ)

 

 

「……」

 

 

(みやこ)?」

 

 

(みやこ)が黙っている。何だろう。

 

 

(みやこ)?みーやーこ」

 

 

「な、なななな何?」

 

 

あからさまにキョドっていた。

 

 

「話聞いてたか?」

 

 

「き、聞いてたよ?」

 

 

「じゃあなんの話してたか言ってみ?」

 

 

「え、えっと……(かける)君と私が結婚……」

 

 

「……」

 

 

「結婚して……」

 

 

「…………」

 

 

「結婚……」

 

 

「……………………」

 

 

「うぅ……」

 

 

顔が真っ赤だ。というかさっき自分から俺と結婚したいって言ってなかったっけ……。

 

 

結婚の具体的な話を聞いて恥ずかしくなったのか?

 

 

「いちゃついておられる」

 

 

(そら)からのつっこみが部屋に響くぐらいに静まり返ったので。両親と(みやこ)がいったんリセットされるまで待つことになった。

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく、だ。この話はまだ早い。大学に受かる前から就職の心配をしてどうする」

 

 

「でもさ、社長云々は置いておいてもさ新海家にとっての問題は解決してないよね?」

 

 

「……」

「……」

 

 

おとんとおかんは黙ったままだ。先ほどまでと違って呆けてはいないが。

 

 

「あ、あの!」

 

 

(みやこ)が突然声を上げた。

 

 

「えっと、お父様とお母様は新海家の存続についてご心配をなされているようですが、ご心配には及ばないと思います」

 

 

「えっとそれはどういう……」

 

 

おとんが訝しそうな様子だ。

 

 

「私が新海家に嫁ぐことも可能……だと思います!」

 

 

「え?」

 

 

「み、(みやこ)ちゃん、それでいいの?」

 

 

「はい、あ……私のお父様にちゃんと話す必要はあると思いますが、たぶん大丈夫かと」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「以前お父様から言われたことがあって。」

 

 

「『九條家が真に残すべきは家名ではなくその精神』だと」

 

 

「九條家の精神っていうと家訓ってやつか?」

 

 

「うん、『親しき中にも礼儀あり』、『家族にも礼を尽くせ』これはその一部ですけど。こういう精神をお爺様やお父様は残したいと思っているんです」

 

 

「それに、我々はコロナグループです。九條グループじゃありません」

 

 

そうか、組織名に九條の姓が入ってないから跡継ぎが九條の名を持ってなくてもいいというわけか。

 

 

「だから、新海家に九條家の家訓を受け入れてもらえれば私が嫁入りしても何の問題もないと思うんです」

 

 

「おおお」

 

 

おとんは希望を見たようなように生き生きしている。

 

 

「新海家存続の希望が出てきたぞ」

 

 

「といっても、まだ未来の話だから分からないんですけどね」

 

 

「その辺りは両家族が応相談でいいな」

 

 

「異議なし」

 

 

こうして新海家存続についての会議はとりあえず終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

「あと20分くらいかあ」

 

 

午後8時30分過ぎ。(みやこ)の迎えが来るまであと少しである。

 

 

「……」

 

 

「どうしたんだよおとん」

 

 

おとんが先ほどからなにやら考え込むそぶりを見せていたので思わず聞いていた。

 

 

「いやぁ、な~んか忘れてる気がするんだよな」

 

 

「忘れてる?」

 

 

「あぁ、今日、(かける)が彼女さんを連れてきたらしようと思っていたことあったはずなんだ」

 

 

そして再び、思考に戻る。

 

 

う~ん忘れてることか。正直色々なことがありすぎて整理すらできてないんだが。

 

 

ん?

 

 

視界の端で(そら)(みやこ)とひそひそ話をしていた。こっそりと覗いてみると……。

 

 

「なぁに、(そら)ちゃん」

 

 

「こいつを見てくだせぇ」

 

 

そう言って(そら)はスマホの画面を(みやこ)に見せる。

 

 

「……!あっそれ!」

 

 

(みやこ)が突然焦ったような驚いたような。そんな声を上げた。

 

 

「その写真は……」

 

 

「どうすか、みゃーこ先輩、取引をしませんか」

 

 

写真?取引?まさか、(そら)のやつ……。

 

 

(そら)、お前、あの写真をだしに一体何を__」

 

 

__考えてるんだ。そういうつもりだった。

 

 

「そうか写真だ!」

 

 

言う前におとんが先に反応した。

 

 

「え、なに。突然」

 

 

(かける)(みやこ)さんの写真を持ってないと言ってなかったか?」

 

 

「あぁ、焼肉の時の……」

 

 

「え、写真?」

 

 

(みやこ)だけ状況を理解できなくてあたふたしている。

 

 

「俺たち、互いの写真持ってないだろ、彼氏彼女なのに」

 

 

「……あ、確かに!」

 

 

「いい機会だ、今撮ってはどうかと考えてね」

 

 

確かにいいアイディアだ。ナイスおとん。

 

 

「えっと、どこで撮るのがいいかな、と」

 

 

「うーん、外は夜だし、うち狭いし、リビングでいいんじゃない?」

 

 

「立ってるやつとくつろいでるやつ撮ろう。ソファ使って」

 

 

「よし、じゃあ。倉庫から三脚とってくる」

 

 

そうしておとんが三脚を調達し、撮影タイムとなった。

 

 

「おとん、いつものカメラ使うの?」

 

 

「あぁ、あのクソ高いカメラですか」

 

 

「もちろんだ家族の成長を写すのにこのカメラは不可欠だからな」

 

 

気合の入り方が違うな、さすがおとんの数少ない趣味の一つであるカメラ撮影だ。

 

 

「後でデータ、スマホに入れてくれよ」

 

 

「もちろんだ、さあ始めようか」

 

 

「まず、(かける)(みやこ)さんのツーショットからだ」

 

 

「は、はい」

 

 

俺と(みやこ)が隣り合い撮影タイミングを計ろうとするが。

 

 

(かける)(みやこ)さんと手をつなぎなさい」

 

 

「手?」

 

 

「あぁ、それでだいぶくっついて見えるようになる」

 

 

その通りである。俺と(みやこ)の間はだいぶ縮まった。お互いの芳香が感じられるくらいには。

 

 

「……」

 

 

「で、次に表情が硬い。(かける)、何とかしろ」

 

 

「いきなりぶん投げえてきたなあ」

 

 

「互いのことを思いあえ、そうすれば表情は落ち着くはずだ」

 

 

お互いのことを思う……。そんなこと、等の昔に通り過ぎた場所だぜ。

 

 

「なあ、(みやこ)

 

 

「なに、(かける)君」

 

 

「今楽しいか」

 

 

「楽しいよ」

 

 

「じゃあ思いのたけ笑って」

 

 

「それでオッケーのはず」

 

 

「よしいい感じだ、二人とも準備はいいか?5,4,3,2,1,」

 

 

パシャッという音と共に俺たちの写真は完成した。サンプルを見せてもらったがかなりの出来栄えださすがおとん。

 

 

その後、シチュエーションを変えたりしながら撮影をしていると

 

 

(みやこ)のスマホが鳴った。

 

 

「あ、迎えがもうすぐ着くってお爺様から」

 

 

「じゃあ、後一枚だ。ここにいる全員で撮ろう。ソファに腰掛けて、もちろん(かける)(みやこ)さんが中央ね」

 

 

「よしよし行くぞ。5秒前!」

 

 

そう言いながらおとんがバタバタと移動し配置につく。

 

 

そして。

 

 

パシャッとカメラが光った。

 

 

 

 

 

 

 

ドタバタしながらの写真撮影だったが、何だかんだで盛り上がることができた、おとんに感謝だ。データはおいおいスマホに入れられるそうだ。

 

 

「家族写真だね、(かける)君」

 

 

「ああ、いい写真だ」

 

 

「私たちこれからもたくさんの思い出を作っていこうね」

 

 

「うん」

 

 

「みゃーこ先輩」

 

 

「な、何」

 

 

「取引考えてくれますか」

 

 

皆が撮影に勤しんだ後、(そら)(みやこ)に仕掛けた取引を蒸し返してきた。

 

 

「別に難しいことを言ってるわけじゃないですよ」

「ただ、__を撮ってほしいだけで」

 

 

「……うん、分かった」

「……」

「え?」

 

 

(そら)の要求は(みやこ)にとってはかなり意外だったようで。

 

 

「……(そら)ちゃん、なんでそれなの?」

 

 

「別にいいじゃないですか理由なんて。ほら、どうすんですか、どうしちゃいますか?」

 

 

「……わ、分かった」

 

 

「やった~、ありがとうみゃーこ先輩」

 

 

「えっと、ごめんね(かける)君」

 

 

「なんで俺に謝るんだ」

 

 

「先に謝っておかないとだめだな~って思って」

 

 

(みやこ)は苦笑いを浮かべながらそう言う。

 

 

「はぁ……?」

 

 

この二人、どんな密約を結んだんだ。

 

 

 

 

 

 

 

終わることない歓談。初めはどうなることかと思ったが、(みやこ)もこの家の空気に馴染んだようでよかった。

 

 

夜空はすっかり暗くなり、住宅街からも車の音は消える。

 

 

時刻は午後9時。

 

 

(みやこ)を送るため玄関の外に家族が集まっていた。

 

 

「ふふ、本日は楽しい時間をありがとうございました」

 

 

(みやこ)から硬さは感じられない。この家を訪れた時とは大違いだ。おとんやおかんと楽し気に挨拶を交わしている。

 

 

「……」

 

 

「にいやん、なんか言いなよ」

 

 

「え、俺?」

 

 

「そうだよ、みゃーこ先輩が帰るんだからちゃんと話さないと」

 

 

「いや、でも、明日も明日以降も会うし、おとんとかおかんがもっと話したら……」

 

 

「いいから、さっさと行きなっさい」

 

 

そう言って(そら)は俺をぐいぐいと(みやこ)のいる方に押す。

 

 

「分かった!分かったから!」

 

 

俺向き直りは(みやこ)の方に歩を進めた。

 

 

(みやこ)……」

 

 

(かける)君……」

 

 

「その、なんだ、楽しかったか?」

 

 

「うん、すごく楽しかった。お父様とお母様にご挨拶できて……それに……」

 

 

「……」

 

 

先ほどまでのことを思い出したのか、(みやこ)の顔が赤く染まる。

 

 

「あ、明日は頑張ろうね」

 

 

「ん、明日ってなんかあったっけ」

 

 

「あれ~、(かける)君忘れたの?明日は順番的に私と(かける)君が日直だよ」

 

 

「……あ、そうか」

 

 

ハハハと二人で笑いあう。

 

 

日常だ。

 

 

俺たちは日常を生きている。取り戻した日常を生きている。

 

 

だってこんなにも大切な人と笑いあえるから。これからも生きてゆけるから。

 

 

(かける)君、明日も頑張ろうね」

 

 

「ああ……」

 

 

不意に住宅街にエンジン音が響く。

 

 

優しく風を切り、黒塗りの高級車がゆっくりと家の前に止まった。そして助手席から人が下りてくる。

 

 

それは、(みやこ)だけでなく俺もよく知る人物。

 

 

「み、(みやこ)のお爺さん」

 

 

「お爺様!迎えにいらしたのですか」

 

 

「ああ、せっかくの機会なんだからと思ってな」

 

 

背筋をビシッと伸ばした精悍な好々爺が現れ、俺や家族みんなに向けて深々とお辞儀した。

 

 

「夜分遅くに失礼いたします。新海家の皆さん。(みやこ)の祖父です。(みやこ)がご迷惑をおかけしなかったでしょうか」

 

 

ナインボールの店長であり、(みやこ)の祖父が直接迎えに来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

家族全員に挨拶を終えた後、お爺さんは俺に向き直った。

 

 

しかし、改めて対面すると風格がすごいな。いつもは客と店主の関係だからそういう威圧感は感じなかったが。

 

 

今日は何だかいつもと違う。何というか凄みを感じる。

 

 

「はっはっは、ナインボールの外で会うのは初めてだね、(かける)君」

 

 

「は、はい、いつも(みやこ)……さんにはお世話になりっぱなしで。あ、あとナインボールも」

 

 

「ああ、君の食べっぷりは身内も評判でね、あ~(みやこ)から聞いてるかい?」

 

 

「え、ええ、多少は」

 

 

「でも最近はあまり来てくれなくなったじゃないか。そんなに(みやこ)の料理が美味いかい」

 

 

「は、はい、(みやこ)さんの料理にはいつも助けられていまして」

 

 

「料理だけかい?」

 

 

え~と、なんて言えばいいんだここは。

 

 

「い、いえ。公私両面で非常に助けられています……」

 

 

俺の『公』ってなんだよ。って自分で突っ込んでる暇じゃない。

 

 

「はっはっは、そうか、では今日はこれくらいにしておこう、ご近所迷惑になるといけない。また話す機会があったらよろしく頼むよ」

 

 

「え、ええ」

 

 

「それと……(みやこ)をよろしく頼みます」

 

 

「……はい、任されました!」

 

 

これだけはちゃんと言っておこう。(みやこ)に恥じない男であることを少しでも示すために。

 

 

「……」

 

 

(みやこ)のお爺さんは満足そうに笑うと一歩引き。

 

 

「……またのご来店をお待ちしております」

 

 

そう言って俺に頭を下げ、続いて家族に頭を下げ、助手席に戻っていった。それに(みやこ)も続き。家族全員にお辞儀した。

 

 

「皆さん今日はありがとうございました!」

 

 

「また来てね~みゃーこ先輩!」

 

 

「こんな息子ですがどうかよろしくお願いします」

 

 

「また来てくれるといい、いつでも歓迎するよ」

 

 

家族全員に挨拶し別れを惜しむ。そして最後に俺を見る。

 

 

「ふふ、それじゃあ(かける)君、また明日学校で」

 

 

「ああ、また明日」

 

 

そしてもう一度俺たちに深く一礼すると車に乗り込み、(みやこ)は帰っていった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

車のエンジン音が聞こえなくなったあたりで俺は深く息をついた。

 

 

終わった。

 

 

終わったのだ。彼女を実家に呼ぶという一大イベントが。

 

 

そう感慨にふけっていると。

 

 

「にいやん、お疲れ様」

 

 

不意に(そら)が肩を叩く。

 

 

(そら)

 

 

「いや~一時はどうなるかと思ったけどね、あれですね、これは成功といっていいんではないでしょうか」

 

 

「そもそもの発端はお前のせいだろ」

 

 

「あ~、聞こえないな~」

 

 

「こいつ……」

 

 

話をややこしくした自覚はあるらしい。

 

 

だが。

 

 

「ありがとな、(そら)

 

 

「ん、いきなり何」

 

 

「なんでもねえよ」

 

 

「いや、聞こえてたから、ねえ、何に対して感謝してたの。ねえ、ねえ」

 

 

「うっせえな」

 

 

「も~う、素直じゃないんだから、ほら、言ってみろ!おら!」

 

 

「張っ倒すぞ」

 

 

「そういうガチトーンで脅すのはやめてくださる、リアルにビビりますので」

 

 

「あんたたち、いつまで玄関先で騒いでるの。近所迷惑になるからやめなさい」

 

 

「はーい」

 

 

「はーい」

 

 

そうして俺たちは家に戻っていく。

 

 

「……」

 

 

振り返る。

 

 

さっきまで(みやこ)がいた。この家に(みやこ)がいたんだ。

 

 

「……」

 

 

そうして空を見上げる。(みやこ)会だからか星はほとんど見えない。

 

 

だが、月は見える。

 

 

きっとこれからもいろいろあるだろう。楽しいことも辛いことも。だが月は変わらず空から俺たちを見守ってくれるだろう。

 

 

(みやこ)……」

 

 

だからきっと大丈夫。俺には(みやこ)がいる。(みやこ)には俺がいる。

 

 

互いを見守ろう。互いに月であろう。

 

 

「にいやん、何してるの、早く入りなよ」

 

 

「あぁ、悪い。今行く」

 

 

これからもずっと……。

 

 

 

 

 

「そういえば、みゃーこ先輩私の服着たままだよね」

 

 

「あ」

 

 

(みやこ)の服は後日クリーニングして無事に返された。

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、俺と(みやこ)が日直になった。

 

 

日直になったからといって特段何かが変わるようなこともなく、いつも通りに過ごした。

 

 

そして帰りのホームルーム。

 

 

「は~い、伝達事項は以上~、日直さん挨拶して~」

 

 

いつも通り、気だるげに沙月先生が帰りの挨拶……。

 

 

しようとしたところで。

 

 

「はいはい、先生!」

 

 

「ん、山崎さんどうしたの」

 

 

「新聞部からの質問です」

 

 

そして特大の爆弾が投げ込まれた

 

 

「九條さんと新海くんっていつ結婚するんですしょうか?」

 

 

「ん?」

 

 

山崎からこのような質問が飛んだ。

 

 

まったく、あいつはどういうタイミングで仕掛けてきてんだ、言うわけないだろ。

 

 

それに対して(みやこ)が。

 

 

「えっと……。……高校を卒業したらすぐ……はちょっと早いから……。大学を卒業してから……?(かける)君はどう思う?」

 

 

え。

 

 

「やっぱり、結婚はご家族ともっと相談してからの方がいいよね……。資金の問題もあるし。でもやっぱり私個人としては一生に一度のことだから少しぐらいお金をかけてもいいかな~なんて思うの」

 

 

「やっぱり結婚資金は自分たちで稼ぎたいって気持ちはあるんだけど、そしたら結婚遅くなっちゃうよね。お父様に相談しようかな」

 

 

「あ、あの(みやこ)さん……」

 

 

「あ、そうか。そもそもプロポーズのタイミングは(かける)君に任せるんだったね……へへへ」

 

 

(みやこ)、今、帰りのホームルーム、みんな見てる!」

 

 

「え?」

 

 

(みやこ)が周囲を見渡し、自分がさっきまで口走ってきた言葉を思い出す。そして。

 

 

「あ……あああ!」

 

 

自分が結婚に関して妙に生々しい具体的なことを口走っていたことに気づいた(みやこ)。顔を真っ赤にしてうつむき加減になる。

 

 

そこにカメラのシャッター音が鳴り響いた。

 

 

「いい一枚取れました。まさか、結婚まで真剣に考えてらしたとは…九條さん、もう一言!」

 

 

山崎の妙な押しにタガが外れたのか、覚悟を決めたのか。(みやこ)は前を向いて答える。

 

 

「コホン……私は、(かける)君の彼女です!そしてこれからも共に歩んでゆく、ただ一人の殿方です。いつかはわからないけれど、私たちは必ず結婚します!」

 

 

とたん、俺の幻聴だっただろうか、クラスメイトの心がへし折れるような音を聞いた気がする。

 

 

「ありがとうございました。素晴らしい記事が書けそうです。それでは!」

 

 

と言って山崎は教室から出ていった。

 

 

「あ~、本当にあの子自由だね。起立礼なしでいいよ。お疲れさまでした~。それと……結婚式には私も呼んでよね~」

 

 

流れで解散となってしまったが、ほとんどの生徒がすぐには帰らず、女子生徒は(みやこ)に、一部の男子生徒は俺に集まってきた。というか、大方の男子生徒は現実を受け止められず呆けている。

 

 

「結婚?九條さんが?嘘だ……」

「おかしい、こんなことは許されない……」

 

 

……まるでアイドルが結婚と引退を宣言したみたいだな……。付き合ってるのはともかく、さすがに結婚宣言は重かったか。

 

 

山崎の言う通り、婚約発表になっちまったな。

 

 

それから俺はほとぼりが冷めるまで特に話したことのない同級生からの質問に対処しながら(みやこ)の様子をうかがっていた。

 

 

あっちも同じようなものか……。

 

 

(みやこ)の方もずいぶんと質問攻めにあっているようだ。まあ大半は「おめでとう」とか「お幸せに」とか言われて(みやこ)が照れてるだけのようだが。

 

 

一方俺の方はというと……。

 

 

「新海ィ、お前よくも九條さんを……九條さんを…アァァ」

 

まるで血の涙を流しそうなやつとか。

 

 

「よかったねぇ、新海くん、まあ分かってたんだけど、分かってたんだけどねぇ…あはははははは」

 

表面上は祝福してるけど目が死んでるやつとか。

 

 

「まあそうだろうなとは、思ってたけど……幸せにな!」

 

まあまあ普通?に祝福してくるやつとか。

 

 

……うちのクラスってこんな奴らいたっけ。俺がこのクラスに馴染んでなかっただけか……。

 

 

このクラスになってから初めて色々なクラスメイトと会話した気がする……。

 

 

ただ、なんだろうこの違和感は。何かが欠けてしまった感覚。もう戻ってこない大切なもの……。

 

 

「……」

 

 

そうか、あいつがいないからだ。

 

 

なあ、与一。お前がここにいたらどんなことを言ってただろうか。

 

 

俺と(みやこ)が初めて思いを伝えあったあの時。当時すれ違いかけてた俺たちにきっかけを作ってくれたのはお前だったよな。お前は『面白そうだから』って言ってたが…。

 

 

いや、きっと本音だったのだろう。相棒から得た記憶によればあいつは絶対に他人に対して共感しない……いや、共感できない。100%自分自身のためにしか行動しないやつだ。

 

 

俺と(みやこ)がくっつくかくっつかないかそれを見届けるのがただ楽しかったから。俺や(みやこ)のことなんか一切配慮しないやつだ。

 

 

あの後、俺は(みやこ)にフラれたって嘘をついたが…。きっとあいつは嘘だって分かってたはずだ。

 

 

……。

 

 

あいつのことを考えるのはよそう。だってあいつは。

 

 

もうここにはいないから。

 

 

(かける)君」

 

 

(みやこ)、もう解放されたのか」

 

 

「うん、このあとバイトもあるし、今日はってことで」

 

 

「送るよ」

 

 

「うん、お願い」

 

 

今日はお開きということを周囲に伝え、鞄を手に取り、(みやこ)と共に教室を出る。

 

 

教室から出ていく俺たちをヒューヒューとからかうものもいれば、未だに立ち直れぬ者、泣きながらハンカチを片手に見送るものなど十人十色だ。

 

 

「……行こう」

 

 

歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほら、やっぱり!九條さんにフラれたってのやっぱりウソだったじゃん!みんな言ってやりなよ、このウソつきめ!ってさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 

振り返る。

 

 

目に入るのは見慣れたクラスメイト達。

 

 

あいつはいない。

 

 

「……」

 

 

(かける)君?」

 

 

「いや、行こう、(みやこ)

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは帰りの途についた。

 

 

先ほどの恥ずかしさからか終始無言で。いつの間にかナインボールの前まで来ていた。そのまま別れを告げて店の裏口へ行こうとした所で(みやこ)がこちらに向き直った。

 

 

(かける)君」

 

 

「何だ、(みやこ)

 

 

「いつかその時が来たらね」

 

 

「結婚……、してくれる?」

 

 

「……ああ、もちろん。(みやこ)を幸せにして見せる。誓うよ。でも今は少し早い。だから……」

 

 

「もっと話し合おう。勉強して、いちゃいちゃして、からかわれて、俺たちの青春をしよう、俺たちの青春はまだ半ばだ。いろいろとバカやっていこう」

 

 

「うん……!」

 

 

(みやこ)は心底嬉しそうに笑う。

 

 

「……」

 

 

と思ったら笑顔がそっと曇った。

 

 

「どうした、(みやこ)?」

 

 

「……別の枝では同じようなことを別の子に言うんだろうなあと思うと少し……いや、(そら)ちゃんには言えないよね…」

 

 

「……」

 

 

ここで発動するか…(みやこ)の嫉妬癖…。

 

 

「あのさ」

 

 

「ご、ごめんね。別の枝の話だって分かってはいるんだけど、どうしても、別の枝の私は(かける)君に選ばれなかったんだなあって思っちゃって」

 

 

(みやこ)

 

 

(みやこ)が顔を上げる。香る、(みやこ)自身の甘い芳香。うるんだ瞳。

(みやこ)の不安を取り払うことができるのなら、俺は。

 

 

「かけるく…んっ…」

 

 

俺は自分の意志で(みやこ)に口づける。最低だろうか。それでも覚えてほしかった。別の枝じゃない。今俺たちが生きているこの枝で息づいている真実。

 

 

九條(みやこ)を愛している新海(かける)が確かにここにいるということを。

 

 

「ん……、は……っ」

 

「ふう……。はぁん……、……、……うむぅ」

 

 

何度も何度も繰り返しいつしか二人は唇を離していた。

 

 

「……うぅ」

 

「……はぁ」

 

 

「……」

「……」

 

 

(みやこ)

「はい…」

 

 

「他の枝の俺がだれを思っていても。今ここにいる俺の気持ちは変わらないから」

「この枝の新海翔(にいみかける)九條都(くじょうみやこ)を愛している。それだけは忘れないでくれ」

 

 

「……ふふ、嬉しい」

 

 

「もう嫉妬しない?」

 

 

「うん、しない……。よ?」

 

 

「なんでそんな不安げなんだ」

 

 

「だって私、気が付いたら別の枝のことを思い出して……嫉妬しちゃうかも」

 

 

「そしたらもう一度上書きするよ」

 

 

「じゃあ私がまた嫉妬しちゃったら上書きしてね」

 

 

「ああ」

 

 

「……お店の前でキスなんて大胆なことやっちゃったね。お爺様が見てたらお小言もらっちゃいそう。」

 

 

「……(みやこ)が叱られるなら、俺も一緒に叱られるよ」

 

 

「ふふ、一蓮托生だね」

 

 

「はははっ」

「ふふふっ」

 

 

「未来はどうなるか全くわからないけど…もう(みやこ)を離したりはしない」

 

 

「うん、信じてる、(かける)君…幸せになろうね…」

 

 

「ああ!」

 

 

俺は(みやこ)を力強く抱きしめた。

 

 

この枝で失われたものはあまりにも多い、罪も過ちも飲み込んでそれでも俺たちは生きていく、明日に向かって歩いていく。

 

 

もう絶対離さない。

平穏な日々が訪れたこの世界で。

君と未来へ行くんだ。

 

 

 

 

 

(みやこ)の新海家訪問 完

 




都の新海家訪問完結です。

ここまで見てくださったすべての方々に感謝を。

そして9-nine-
および
9-nine-シリーズ制作にかかわったすべての方々に感謝を。

思えば読み専だった自分が書き手になったのは9-nine-シリーズをもっと多くの人々に知ってほしいという思いからです。

初めての創作にはいろいろありましたが約半月の時間をかけて書いたことに一切の後悔はありません。

これからも9-nine-シリーズの世界が広がることを信じて……。

また次の作品でお会いしましょう。
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