9-nine- After短編    作:パドル

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また書いてしまった。

一応、前回からの続きです。

今回も三部作でお送りします。

それと、ネタバレ注意です。

9-nine-をクリア済みの方に推奨します。


都、紙一重の恋 上※ネタバレ注意

Day10.22

 

 

 秋から冬へと移り変わる10月の末。

 

 俺たちは学生にとって貴重な土日を費やしながらもアーティファクト探しに勤しんでいた。

 

 そして今日も一つアーティファクトの回収に成功し、俺の部屋で反省会もとい勉強会。

 

 アーティファクト探しの最中も成績を下げるわけにはいかない。ましてや受験真っ最中の香坂(こうさか)先輩もいる。将来のことを見据え、俺たちは可能な限り隙間時間に集まって勉強会を行っている。

 

 不思議なもので一人で勉強するよりはるかに効率がいい。全員が同じ大学を志望にしているということもあり、団結力はさらに上がった。いい調子だ。

 

 そして今日は全員の予定が合い、俺と(みやこ)(そら)結城(ゆうき)香坂(こうさか)先輩のフルメンバーだ。

 

 そんな中。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

 (そら)が何かを思い出したかのように声を上げた。

 

 

「どうした、(そら)

 

 

「思い出したんですけど、みゃーこ先輩ってもうすぐ誕生日ですよね」

 

 

「あ~うん、そうだね11月2日」

 

 

「だったらあれだ、誕生会しましょう。誕生会!」

 

 

「あ~いいなそれ」

 

 

 (そら)にしては気の利いたことを言う。

 

 

「た、誕生会……」

 

 

 (みやこ)がぎょっとした様子で慌てる。

 

 

(みやこ)はそういうのしたことない感じ?」

 

 

「……お友達に祝ってもらったことはないかな」

 

 

「じゃあ丁度良いですね!香坂(こうさか)先輩と結城(ゆうき)先輩、どうすか」

 

 

「い、いいと思います!」

 

 

「生誕の日に親睦を深めるという考えは嫌いではない。同意する」

 

 

 香坂(こうさか)先輩と結城(ゆうき)も同意する。

 

 

(みやこ)、どうだ?」

 

 

 あとは(みやこ)の意思次第だが……。

 

 

「えっと、みんないいの?アーティファクトとか勉強とか忙しい中でわざわざ祝ってくれるなんて」

 

 

「私たちはエルフヘイムの妖精のもと、聖遺物を探し求める同志、それ以外でもそれ以下でもない」

 

 

 結城(ゆうき)は「けれど……」と続けた。

 

 

「短くない期間、あなたと接してきた結果、私はあなたの正義を求める姿勢に少なからず共感しているだから……あなたのことを、友達、だと思う自分も私の中にあるの」

 

 

「つまり?」

 

 

「つまり……友達なら、誕生日を祝って当然。だから、九條さんの誕生日を祝うことに異存はない」

 

 

結城(ゆうき)もずいぶん柔らかくなったなぁ」

 

 

「ぅ、うるさいっ!」

 

 

 結城(ゆうき)ともずいぶん仲良くなれたと思う、最初のピリピリした空気感は今では全く感じることはなくなった。だから、結城(ゆうき)も俺たちのことを友達と思っていることは事実なのだろう。

 

 

「でも、誕生会って、な、何すればいいんでしょう?」

 

 

「硬いことは考えなくていいんですよ。あれです、みんなで遊びに行きましょう、ラウンドツー!このメンバーで行ったことなかったっしょ」

 

 

「いいですね!……あ、でも」

 

 

「でも?」

 

 

「人の多いところはあまり好かない」

 

 

 香坂(こうさか)先輩の気持ちを代弁するように結城(ゆうき)が漏らす。

 

 

「みんなと遊びに行きたいなって気持ちはあるんですけど……少し」

 

 

「我々、陰の者には気が重い」

 

 

 またしても代弁するように結城(ゆうき)が漏らす。てか陰の者て……。

 

 

「ん~、そっか~、ん~」

 

 

 深く考える(そら)、すると、ひらめいたように顔が変化する。

 

 

「そうだ!人が多いのがダメなら、カラオケに行きましょう!そうすれば私たちだけですよ!どうだこのナイスアイデア!」

 

 

「……」

「……」

 

 

「あれ?」

 

 

「おい、余計にハードル上げてどうすんだ、二人ともフリーズしてるじゃんか。陰の者の意味分かって言ってんのか」

 

 

「カラオケ……みんなで」

 

 

「フェニヤとメニアの賛歌……みんなの前で?」

 

 

 香坂(こうさか)先輩と結城(ゆうき)が白くなっている。結城(ゆうき)に至ってはまたよく分からんことを……。

 

 

 そうだよね、みんなの前でカラオケとか俺でも恥ずかしいわ。

 

 

「そもそも、これは(みやこ)の誕生会だぞ、(みやこ)の意見を聞かなくてどうすんだ」

 

 

「あ~、そうだった。みゃーこ先輩、どうっすか」

 

 

「あ、えっと、カラオケ、行きたいかなって」

 

 

「マジか」

 

 

 意外な答えに驚く。

 

 

「えっと、この前、(かける)くんとカラオケ行ったよね」

 

 

「ああ、だいたい、2か月くらい前か」

 

 

「うん、その時、私、レパートリーが少なくて(かける)くんにばっかり歌わせてたでしょう?」

 

 

「あ~、うん、そうだな」

 

 

「それで、もう一度行って、リベンジしたいなってそう思ってたの」

 

 

「なるほど、それで、いい機会だから、カラオケしようと」

 

 

「うん、あれから色々調べて、レパートリーも三倍くらいにはなったから、その成果、見せたいな」

 

 

「なるほど、みゃーこ先輩はカラオケに前向きと」

 

 

「あ、でも、みんなが行きたくないって言うなら(かける)くんと二人の時にするよ……」

 

 

「いえ、前言撤回」

 

 

 結城(ゆうき)が静かにそう告げた。

 

 

「今こそ、あの忌まわしき封印を解く時、やりましょう、フェニヤとメニアの賛歌!」

 

 

「えっと……?」

 

 

「カラオケのことらしいぞ」

 

 

「そう、カラオケ!」

 

 

 なんか急に、結城(ゆうき)が乗り気になった、つかなんだ忌まわしき封印って。

 

 

「で~、香坂(こうさか)先輩はどうっすか」

 

 

「あ、あの、私はお母さんとなら一緒に行ったことは何回かあって……でも……」

 

「うぇ」

 

 

「なんで突然えずいてんですか」

 

 

「ご、ごめんなさい、お母さんの前なら平気なんですけど、みんなの前って考えると、緊張して……」

 

 

「う~ん、まあ、気持ちは結構分かりますよ、みんなの前で歌うって、緊張しますよね」

 

「でも、みんな、香坂(こうさか)先輩の趣味分かってますから、今更引いたりしませんよ、ねえ」

 

 

「そ、そうでしょうか」

 

 

「私も春風の趣味は把握している、私たちは同類だから、気持ちもわかる、だから、私も一緒に歌うというのはどうかしら」

 

 

「の、希亜ちゃんと一緒にデュエットですか?」

 

 

「ええ、私たちが共通で知っていてデュエットできそうな曲、いくつか心当たりがある、それで慣らせば、一人でも歌えるんじゃない?」

 

 

「……」

 

 

 感慨にふけっているのか、ぼーっとしているのかわかない表情を数秒浮かべたのち。

 

 

「の、希亜ちゃんとデュエット、やります!」

 

 

「決まりね、誕生会はカラオケ」

 

 

「それと、終わったらパーティーしましょう、パーティー」

 

 

「うん、いいな、それ」

 

 

「ということは、11月2日当日は平日だから、ダメですね。土曜日の11月4日でどうでしょうか」

 

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 

「さんせー」

 

 

「異議なし」

 

 

「楽しみですねっ」

 

 

 こうして日程とやることがおいおい決まり、議題は次に移行した。

 

 

 

 

 

 

 

「あと、誕生会と言ったらあれですね、みんなでプレゼント用意しなきゃですよね」

 

 

「そ~だな」

 

 

「い、いいよみんなで楽しくできれば私は満足だから」

 

 

「ダメですよ、みゃーこ先輩。主役がそんな遠慮しちゃ。」

 

 

 (そら)はさらに続ける。

 

 

「いいですか、誕生日プレゼントは大人になるともらえなくなっちゃうんですよ……!」

 

 

「う、うん……」

 

 

 ……何の話を始める気だこいつ。

 

 

「プレゼントは子供の内しかもらえませんおそらく高校生が限度です」

 

「つまり、みゃーこ先輩の場合はプレゼントをもらえるという権利があと二回しかないということになります」

 

「それを!放棄するんですかぁ!」

 

 

「え、えっと」

 

 

「おい(そら)

 

 

「なんですか、にぃに」

 

 

「何を企んでいる」

 

 

「……なんのことやら」

 

 

「目が泳いでるぞ」

 

 

「……」

 

 

 こいつ……。

 

 

「なんでそうまでしてプレゼントを渡したい」

 

 

「いや、だから誕生日プレゼントですよ、限られた権利ですよ、もらわないでどうするんだって」

 

 

「それは親からの話だろ。友人間では関係のない話だ」

 

 

「……気づいたか」

 

 

「よく考えなくても気づくわ、不自然に圧かけにいくからバレバレなんだよ」

 

 

「……実をいうとね、もう買ってるんですよ、プレゼント」

 

 

「もう?」

 

 

「はい……誕生会もさっき思いついた的な体で話しましたけど、実は今日集まる前から話すつもりまんまんでした、はい」

 

 

(そら)ちゃん……」

 

 

「みゃーこ先輩には兄妹含めて日ごろお世話になってるから、そのお礼ってことで。お祝いしたいんですよ」

 

 

(そら)、お前……」

 

 

 (そら)が照れた様子でそうのたまう。

 

 

 ……確かにプレゼントを渡したい理由としては通る。

 

 

 だが……。

 

 

「な~んか不自然なんだよなぁ、妙に強引というか……」

 

 

「新海くん」

 

 

 なおも違和感を感じていたが結城(ゆうき)から声がかかった。

 

 

(そら)はプレゼントを渡したいってただそれだけなんだから、そこまで疑ってかかる必要はないんじゃない?」

 

 

「だが、う~ん」

 

 

 気になる。何か見えない意図を感じる。

 

 

(かける)くん、私は受け取ろうと思う。せっかくのご厚意だもの。無駄にしちゃもったいないよね」

 

 

「まぁ、(みやこ)がそう言うなら……」

 

 

「よし、じゃあ当日楽しみにしててくださいね」

 

 

「うん、分かった」

 

 

「じゃあ、私も用意するわ、プレゼント」

 

 

「私も用意しますぅ!」

 

 

「あ、あんまり高価なのはダメですよ!」

 

 

 そんな感じで各々がプレゼントを用意することで方向性が一致。

 

 

「みんなが用意するってことは、俺が用意しないわけにはいかないな」

 

 

 まあもともと用意する気ではいたのだが……。みんなも贈るということで、より身構えることになった。

 

 

「……負けるわけにはいかないな」

 

 

 誰よりも(みやこ)が喜ぶプレゼントを、用意しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 みんなと解散し、(みやこ)を家まで送り届けた俺は、帰宅してからパソコンとにらめっこしていた。

 

 

(みやこ)が喜びそうなプレゼント……何だろうな」

 

 

 彼女へのプレゼントについて知識が全くない俺はその手の知識をネットに求めた。困った時はG〇ogle先生にお願いだ。

 

 

「彼女へのプレゼント、安価、と……色々出てくるな」

 

 

 膨大なサイトをブラウジングしながら一つ一つ見ていく。

 

 

「ファッション、アクセサリー、健康グッズ……う~ん」

 

 

 俺には馴染みのない単語の数々、どれから調べてよいのやら。そもそもだ。

 

 

「俺、(みやこ)の好きなものとかあんま知らねぇ……」

 

 

 そう、恋人になって半年も経つのにこの体たらくである。

 

 

「話す内容の大半がアーティファクト関連だし、俺自身そういう話を振ったことないからなぁ」

 

 

 今から聞こうかとも思ったがやめた。なんか格好がつかない。

 

 

「だからといって興味ないもの贈ってもなぁ」

 

 

 (みやこ)ならきっとどんなものでも笑顔で受け取るだろう。だがそれでは駄目だ。

 

 

「なんかないかなぁ……」

 

 

 ファッション……服はダメだ。サイズ知らないし、俺のセンスが生きるとは思えない。今のままで十分すぎるほど(みやこ)は可愛い。

 

 

「アクセサリー……頭のやつとネックレスつけてるよな……うん、絶対高い」

 

 

 (みやこ)のことだから意外と安かったりするかもしれないが、その類のものは絶対に高い。(みやこ)も気後れするだろう。

 

 

「美容に関してはノーチャンスだな……近づくだけでいい香りするし、きっと香水もいいの使ってんだろな……」

 

 

 (みやこ)に近づくだけで感じられるあの香り、あのぬくもり、あの柔らかさ……

 

 

 ……。

 

 

 って俺は何を考えているんだ。

 

 

 もう何回もそういうことやってるんだから、いまさら恥ずかしがることはないんだが……。

 

 

 いや、無理だ。俺の彼女をいやらしくない眼で見るとか絶対不可能だ。うん。男なら。

 

 

「あ~、もう頭の中がやらしいことばっか。次、次」

 

 

 頭の中のやらしい気持ちをプレゼントを探すことでかき消す。

 

 

「ゆず茶に湯たんぽに……ハンドクリームはいいか?水仕事多いし、でも、彼氏としての誕生日プレゼントとしては弱いな……」

 

 

 あれでもないこれでもないと探しながら、ネットサーフィンをしていると気づけばいい時間。

 

 

 風呂入ってから考えるか……そう思っていったんパソコンをスリープにしようとしたときあるものに目が止まった

 

 

「これは……プレゼント的にも悪くないがもう一押し……」

 

 

 ふとよみがえったあの時のことば。

 

 

『この合鍵を使わせてもらうね』

 

 

 あの時は部屋に残っていた合鍵の一つを一時的に貸し出したものだ、なら。

 

 

 スマホを起動し電話をかける、相手は……。

 

 

「あ、おとん、まだ寝てない?よかった、頼みたいことがあるんだ実は__」

 

 

 

 

 

 

 

Day11.04

 

 

「いや~やってきましたねラウンドツー」

 

 

「……」

「……」

 

 

「おや、二人とも盛り上がってない様子」

 

 

「いや、(そら)、あれは集中してるんだよ」

 

 

 香坂(こうさか)先輩と結城(ゆうき)はなにやら口ずさみながら歌の練習をしている様子。

 

 

「えっと、カラオケは3階だよね」

 

 

「そうみたいだなエスカレーターで行こう」

 

 

 そうして雑談をはさみながら階を登ったところであった。

 

 

「なんか、妙に騒がしくないか?」

 

 

「カラオケなら騒がしいのは普通じゃ」

 

 

「いえ、そうじゃない、罪のにおいが漂ってくる」

 

 

 結城(ゆうき)が先ほどまでの表情からいつもの表情に戻っていた。

 

 

 まさか……。

 

 

 すぐさま検知のアーティファクトを起動する。

 

 

 ……ビンゴ!

 

 

「検知した、この近くにアーティファクトユーザーがいる!」

 

 

 探知のアーティファクトで得られた結果をみんなに伝える。

 

 

 ……誕生会どころじゃなくなってきたぞ。

 

 

香坂(こうさか)先輩はサポートを(そら)は後ろでできるだけ全員を目立たないようにしろ」

 

 

「はい!」

「合点承知」

 

 

「ソフィいるんだろ?アンブロシアを渡してくれ」

 

 

 数秒たったのちいつものようにソフィが登場する。

 

 

「ハァイ、おまたせ。ご注文のアンブロシアよ」

 

 

「ありがとう」

 

 

 ソフィの口からごろんとアンブロシアが転がり落ち、しっかり受け取る

 

 

「がんばりなさい」

 

 

 そう言ってソフィは消えた。

 

 

「あとは、来い!レナ!」

 

 

「俺の出番か!大将!」

 

 

「俺たちの護衛を頼む、襲われたらみんなを守りつつ迎撃だ」

 

 

「地味な役回りだがいいぜ、やってやんよ」

 

 

「後、結城(ゆうき)はジ・オーダーをいつでも使えるようにしておいて、(みやこ)は敵の視界か、武器を持ってたら優先的に奪ってくれ」

 

 

「承知した」

「分かったよ、(かける)くん」

 

 

 俺たちは騒ぎの中心に歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、包丁が……」

 

 

「浮いてる……」

 

 

 周囲は騒然となっていた。当然だ、包丁が浮いてるんだから。

 

 

 しかもただ浮いているだけではない。

 

 

「何ていうんですかね、人が持ってるって感じしますよね」

 

 

「うん、微妙に揺れてるし、なんというか、息遣い、が聞こえる」

 

 

「ということは、包丁を持った人間があそこにいるてことで、つまり、透明人間?」

 

 

「その線が高そうね、でも、何をしているのかしら」

 

 

 包丁を持っているが、誰かに危害を加えることもない、それが逆に不気味さを醸し出している。

 

 

 その奇妙さからか、遠巻きに観察するものや、わあわあと写真を撮っているものなど反応は様々だ。

 

 

 包丁だけがゆらゆらと揺れるように空を切る音がその場を支配していた。

 

 

「ソフィ、何かわからないか」

 

 

 空間が歪み、ソフィが現れる。

 

 

「そうね、暴走していると言っていいかもしれない」

 

 

「暴走って制御が利かなくなって暴れるんじゃないの?」

 

 

「そうとも限らないわ逆に無気力になることもあれば、感情に正直になりすぎたりもするのよ」

 

 

「暴走にもいろいろあるんだな、で、無気力な暴走状態って認識があってるか?」

 

 

「たぶんね、姿が見えないからはっきりとしたことは分からないわ」

 

 

「どうすればいい」

 

 

「透明になる能力、みたいだけど、たぶん透明化から戻れなくなっているだけで、触れることはできるはずよ。まだね」

 

 

「なら、体があると思われる場所にアンブロシアを打てば」

 

 

「いけるかもしれないわね」

 

 

 光明が見えてきた、だが……。

 

 

「ひ、人が、多すぎます」

 

 

香坂(こうさか)先輩、周囲の人が今の状況から興味を失うように誘導できませんか?」

 

 

「や、やってみます!」

 

 

 こっちには願いを実現できる香坂(こうさか)先輩がいるんだ、これなら……。

 

 

「お~、みんなどっか行っちゃったね」

 

 

 思い通り、みんな包丁から興味をなくし、散っていく。

 

 

 これなら周囲の目を気にする必要はない。

 

 

 俺はアンブロシアを構え、近づく。

 

 

 が……。

 

 

「なっ」

 

 

 包丁が俺めがけて横なぎに振るわれた。

 

 

 そして包丁は一目散に階下に降りていった。

 

 

「あっぶねぇ」

 

 

「なんで?反撃?してきた。さっきまで大人しかったじゃん」

 

 

「なぜ、包丁を持っているのか……。その理由を考えるべきだったわね」

 

 

 結城(ゆうき)はそうごちる。

 

 

「包丁を持っている理由ですか?」

 

 

「う~ん、人を傷つけたい、訳でもないよね。さっきあんだけ人いなかったのに何にもしなかったから」

 

 

「……目立ちたいからか?でも透明人間だろ?なにを持ってても変わらないだろ」

 

 

 仮に透明人間で、持っているものを浮いているように見せられるのなら、何が浮いてても目立つ。

 

 

 食べ物だろうが、本だろうが、包丁でも、浮いていればただの怪奇現象として目立つだろう。包丁である必要はない。

 

 

 ただの目立ちたがり屋ではない。

 

 

「おそらく……だけれど」

 

 

 ソフィは自身の推測を述べる。

 

 

「見つけて欲しいんじゃないかしら」

 

 

「見つける?」

 

 

「推測に過ぎないけど、透明になったのは自分の意志ではない。おそらく能力を使ってないときでも自分の存在が希薄になっていくことに気づいたんじゃないかしら。段々とね」

 

 

「だから目立とうとした、ですか?」

 

 

「ええ、凶器を所持していれば、目立つでしょう?」

 

 

「そうか……街中で包丁持ってたらそりゃ目立つよね」

 

 

 おそらくこのユーザー、最初はちゃんと能力が扱えていたのだろう。だが、能力の濫用でスティグマの浸食が進み、暴走した。

 

 

 そうして自分が周りから認識されなくなっていくことに気づき、完全に認識されるのを恐れた。

 

 

 物を浮かせて目立ちたいんじゃない。目立ちたいから目立つもの、包丁を持ったんだ。

 

 

「本来は凶器をもって目立ちたかったけど、手遅れだったみたいね。既に自分の体は周囲から全く見えなくなり、モノが動く怪奇現象として認識された」

 

 

「何とかなるか?」

 

 

「幸い、見えなくなっているだけよ、体も魂もそこにあった。アンブロシアを打てば戻るでしょう」

 

 

「そうか、よかった。なら……」

 

 

「でも、どこ行っちゃったんだろう」

 

 

「それだよなぁ」

 

 

「ハルカの能力を使ったのは失敗だったかもしれないわね。ユーザーはさっきまで注目されることにある程度満足していた。でも散ってしまったことで欲求も満たされなくなった」

 

 

「え、ご、ごめんなさい」

 

 

「指示したのは俺だから先輩が謝らないでください、俺のせいですよ」

 

 

「はい……」

 

 

「じゃあさっき、にぃにが突然攻撃されたのも」

 

 

「警戒されたのかもね。突然、注目されなくなって、近づかれて、まあほとんど反射みたいなものでしょう、暴走しているみたいだから理性もほとんどないだろうし」

 

 

 なら、急がなくては。

 

 

「確か、ユーザーは下に行ったよな」

 

 

「そうだね、もう一度目立とうとしているのかも」

 

 

「なら、たぶん1階のゲームコーナーだな、人が多い」

 

 

「急ぎなさい、もう時間がないかもしれない」

 

 

「分かった。みんな、行こう」

 

 

 俺たちは1階へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴が聞こえた。

 

 

「なんだ!?」

 

 

 女性がうずくまっている。

 

 

「どうしました!?」

 

 

「何かに……切られて……」

 

 

 見ると、女性の肩に傷がついて、血が滲んでいた。

 

 

 まるで包丁か何かで切られたみたいに。

 

 

「うぉ!」

 

 

「あっぁ!」

 

 

 目線を声がした方に向けるとまたしても人が血を流していた。

 

 

 まずい、これは!

 

 

 走る、被害の方向へ。

 

 

「不味いことになったわね、なりふり構わなくなった」

 

 

「くっ!」

 

 

「ただ見られることに満足できなくなった。いえ、ああしても包丁が浮いているとしか認識されなかった。現実に気が付いてしまったのよ」

 

 

 自分は見られていない、と。

 

 

「人を傷つけて認識してもらいたいってか!何とかならないか!」

 

 

「追いついて、止める。それしかないわ。自分の現状に気が付いてしまった以上、浸食は加速するはず、急ぎなさい」

 

 

「くそっ」

 

 

 それまでにどれだけ怪我人が出る?下手すれば死人も……。

 

 

 そしてユーザー本人も……!

 

 

「先輩!さっきのユーザーが一か所に留まるように願ってください!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「間に合えよ……」

 

 

 最悪の結果にならないように、呟くように祈る

 

 

(かける)くん……」

 

 

 走る。被害の後を横目に見ながら。

 

 

 その内、血を流しながら指をさしている人がいた。

 

 

「どうしました!?」

 

 

「あ、あそこ……」

 

 

 その女生徒が指を刺した先には・・・・・・。

 

 

 ゲームの筐体に傷がついていた。

 

 

 いや、現在進行形で傷がつきつつあった。ガツン、ガツンと。

 

 

 あそこに、いる。

 

 

「離れてください、何とかします」

 

 

「何とかって……」

 

 

「早く!」

 

 

「は、はい」

 

 

 はやる気持ちを抑えながら。指示をする。何と思われるか分からないが、野次馬を増やすわけにはいかない。

 

 

「どうする、(かける)くん?包丁、もう見えてないよね」

 

 

 暴走が加速した結果か、持っているものまで見えなくなった……か。

 

 

(みやこ)、包丁、奪えるか」

 

 

 (みやこ)の左の手の甲が光る。

 

 

「……ダメ、見えない状態で振り回されてるから捉えられない……!」

 

 

「だったら結城(ゆうき)はどうだ?」

 

 

「……見えないというのが痛い。魂まで希薄になっていて捉えるのに時間がかかる」

 

 

「その間に時間切れ……か」

 

 

「その可能性も否定できない」

 

 

 どうする、見えないというのがここまで厄介だとは。

 

 

 包丁という目印が消え、浸食が進んでいる以上いつ本体が完全に消えてもおかしくない。

 

 

 ……考えろ。触れることができるなら、捕まえて、アンブロシアを打ちこめばいいんだ。そのために包丁が邪魔で……。

 

 

 ……待てよ、触れる?

 

 

「ソフィ、まだユーザーの体に触れられるか?」

 

 

「辛うじて、まだ可能ね」

 

 

「だったら!」

 

 

 そうだ。(みやこ)の能力は見えなくても位置さえはっきりしていれば……。

 

 

そして、包丁の形状は把握している!

 

 

(みやこ)!俺が指示を出すから集中していてくれ!」

 

 

「う、うん!」

 

 

結城(ゆうき)は可能ならジ・オーダーをいつでも撃てるように!」

 

 

「承知した、ジ・オーダー、アクティブ」

 

 

「レナ、来い!」

 

 

「おうよ!」

 

 

 俺たちは走る。ユーザーがいるであろう場所へ。

 

 

 手で探る。

 

 

 掴んだ、腰だ!

 

 

「うぉぉぉおぉぉぉ!」

 

 

 そして思いっきり組み伏せる。

 

 

「くっっっっっう、レナ、一緒に押さえつけろ……」

 

 

「ああ、暴れんなよ、暴れんなよ!」

 

 

 見えないが、腰から肩へ、腕へ必死に抵抗を抑えながら手を探す。

 

 

「痛っっっっっっつ!」

 

 

 そして見つけた。

 

 

 手をザックリといかれた感触と痛み。ここだ。

 

 

(みやこ)!俺の左手の中だ!俺の左手の中に包丁がある!奪え!」

 

 

「……そっか!分かった!」

 

 

 (みやこ)の左手の甲にスティグマが浮かぶ。

 

 

「見えなくても……位置を判別する方法はある!」

 

 

 そして、スティグマが光り。

 

 

(かける)くん……あなたのそういうところ、本当に……尊敬する!」

 

 

 手から包丁が消えた感覚がした。

 

 

 少なくない血が滴る。

 

 

「よし、無力化した、あとはアンブロシアを……」

 

 

 無力化。もう包丁を持ってないならそうだろう。

 

 

 だが、油断した。

 

 

 アンブロシアをしまったポケットに手を伸ばした時だった。

 

 

 チャキン。

 

 

 そんな、音がした。

 

 

「え?」

 

 

 気が付いた。

 

 

 右胸に折り畳みナイフが。

 

 

 刺さっていた。

 

 

「……痛っう」

 

 

 刺された、その事実に意識が遠のく。

 

 

 手のアンブロシアが零れ落ちる。

 

 

「大将!」

 

 

 レナが消える。

 

 

「……新海くん!……捉えた!」

 

 

 ……!結城(ゆうき)のジ・オーダーが捉えたようだ。

 

 

 なら、大丈夫か。

 

 

(かける)くん!!!!!」

 

 

「パニッシュメント!」

 

 

 そんな声がした。

 

 

 

 

 

 

 




続きます。

今回も全部書ききってるので完結保証します。

というか、3話目がR18になってしまったので。

その時になったら、R18タグが付いた別枠で投稿します。

ここには投稿されないのでご注意を。

それではよろしくお願いいたします。
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