ちょっと長くなりました。
9-nine-プレイ済みの方に推奨します。
DayXX.xx
「あれ」
気づけば、チャイムが鳴り、昼休みの時間。
「は~い、起立礼はしょうりゃ~く」
成瀬先生のやる気のない声が響く
いつもの風景。
皆が慌ただしく昼食の準備をする。
「俺も食うか」
そう言って、いつも通りコンビニで買ってきたパンを手に取る。すると。
「
「ん、
ん?なんだ。
……強烈な違和感。
「今週はちょうどバイトのシフトが入っちゃって、アーティファクト探しはお休みしていいかな」
「ああ、……いいぞ」
なんだ、この吐き気さえ催しそうな、違和感。
「うん、______にもよろしくね」
「あ、ぁ」
ノイズが入る。
気持ち悪い。
今、誰によろしくねって
……
なんで俺は
なんで
「
「なんで
「……なんでだろうね?」
なんだよその顔は……。残念だけど幸せを祈ってます的な顔は。
「あ、私行くね、呼んでる、またね、
「あ、ぁ、ま、た」
一文字ずつ途切れ途切れに聞こえる。
待ってくれ、俺は。
俺は……。
カメラを切り替えたように場所が変わる。俺の部屋だ。
リビングの向こう側、キッチンの方から声が聞こえる。
「_____」
別の誰かの声。
扉が開かれる。
誰かはわからないけど
「_____」
楽しそうに話す、恋人のように。
距離が近づく。
キスの距離だ。
『かけるくん』
待ってくれ。俺の恋人は
キミじゃないんだ。
それは。
別の枝の俺なんだ。
……。
別の枝?
そうか俺は。
「かけるくん」
俺は。
今見ている枝で。
「
Day11.04
「あっ」
知らない部屋、白いベッド。そして。
「
「みやこ?」
「うん、私だよ」
「俺は……」
「ここは病院だよ、白巳津川医療センター」
「病院?」
そうか俺は。
「
「え?」
「
「……」
「だから、私も、
「……目覚めさせてくれたんだな、
「そうなのかな」
「そうだ、絶対」
「……
「待って
「
さっきの夢が何なのかよく分からない。だけど。
「今は、しばらくこうしていてくれ……」
「……うん、分かった」
〇
その後、みんなが入ってくる。
そう思ってたんだが。
「
「……おかん、来たのか」
「そりゃ、来るわよアンタ、息子がナイフで胸を刺されたなんて聞いたら」
「まぁ、そうだよな」
「そうだよな、じゃないわよ、大丈夫なのアンタ!」
「……大丈夫、みたいだ」
いつにもまして心配するなぁ。まあ当然と言えば当然か。
「まぁ、無事なのはわかるけどさ、どっか痛まない、左手も切ったって聞いたわよ!」
そう言いながらおかんは左手をとる。
「いててててっ」
「ほら、やっぱり痛むんじゃない」
「分かった、心配していることは分かったから、離してくれ、痛いぃ」
左の掌にぐりぐりと指を押し付けて、痛みが走る。
「あ、あの、お
「そうね、心配させたことは分かってくれたみたいだし」
わざと痛ませてたのかよ。
「あんたも悪運?がよかったわね、あんな方法でナイフを防ぐなんて」
「ん、どういうことだ?」
「アンタなんで胸の傷が軽傷なのか分かってなかったの?」
「あっ」
確かに、結構グッサリいった気がしたんだが胸の傷は軽傷だ。
「
「あ、キーケース」
「ちょうど、これを、胸ポケットに入れてたから、これが緩衝材になって、ほとんど刺さらなかったんだって」
「あ~なるほど」
「何他人事みたいに言ってんのよ」
「他人事ではないんだがな」
キーケースを見る。これが命を救ってくれた。
「
「え?私?」
「ああ、これ、
「あ、だから……」
「でも、穴が開いたんじゃ使えないな、鍵を入れるもんだからちゃんとしたもんじゃないと」
「あ、えっと」
「新しいのを改めてプレゼントするよ、だから__」
「う、ううん、これ、これ、もらう」
「ん?いいのか」
「うん、これが、いい、ストラップとして使うから」
「……そうか」
「アンタ、乙女心ってものが分かってないわね」
「うっせ」
「でも安心したわ、
「……どういうこと?」
さっきまで俺の体を心配していたのに突然
「外で待ってもらってる、
「ああ、みんなか」
「そう、そのチーム、朧げにしか聞いてなかったけど、アンタ以外みんな女の子なんて聞いてないわよ、しかもみんな可愛い」
「あぁ……」
「
嫌な予感がする。
「ちなみに、
「アンタが4股してるって」
「いや、な訳ないだろ!というか4股だと
「よくないから聞いてんでしょ」
「ほんとやだアイツやだホント」
「ま、その反応を見て冗談だと分かったわ」
アイツ俺のいないところで何吹き込んでんだよ……。
「はぁ……」
「とりあえず、無事が分かったから私は帰るわね」
「ん、もう帰るのか」
「無事は確認したし、今日宅配便が来るのよね、アンタももう今日中に退院できるでしょ」
「まあ、そうだな」
「お父さんにも
「分かったよ、今日は、心配かけて悪かった」
「分かればいいのよ、じゃあね」
そう言って、おかんは帰っていった。
入れ違いでみんなが入ってくる。
「にぃに!」
「
「
「みんな……」
みんなの顔を見てホッとする。
「にぃに、無茶しすぎだよ……ほんと心配したんだからね……」
……。
「
「へいへい!なんでしょ」
「_____」
「ん、なんだって?よく聞こえないよにぃに」
俺は。
「てめぇこのやろう」
「いったっ」
「いった~、何すんの!」
「何が4股だよ、ふざけんな!」
そんな感じで無事だった緊張感も完全にほぐれていった。
〇
聞かなければならないことがある。
「どうなった、あいつは」
「透明人間の人ならここに搬送されたよ」
「無事か?」
空間が揺れる。
「ええ、無事よ」
「ソフィ」
続いてソフィも現れる。
「知っての通り、アンブロシアを注射した場合、仮死状態になり眠りにつく。契約破棄の効果が表れるのは多少の時間がいるけれど、注射した時点で仮死状態になるからそれ以上の浸食はない」
「注射に成功した時点で確実に破棄できるってわけか」
「そう思ってもらって結構よ」
「そうか、で、被害は?」
「相手ユーザーも含めて一人の死者も無し、あなたたちの大勝利よ」
「誰も死んでないのか」
「ええ。透明のユーザーは自分に気づいてもらいたくて危害を加えていたという仮説を立てたわよね」
「ああ」
「おおむね当たっていたようね、と言っても真意は本人以外分からないけど、被害者に殺意を抱いていたわけではない、だから殺すつもりはなかったようね」
「急所は攻撃してないってことか」
「そういうこと、怪我人は10人近く出たけど、いずれも軽症よ、というか、あなたが一番の重傷よ」
「俺か」
「胸にグッサリいってましたから、
右胸にナイフが刺さった。事実だ。自分の胸を見る。
「結局にぃにってさ、何で刺されたの?包丁は取り上げたんでしょ?」
「もう一本持っていた……としか考えられないわね。体に身に着けていたから、見えなかったのよ、きっと」
「もう一本ある可能性は考えなかったなぁ」
「抑え込まれて、包丁も突然無くなった、でももう一本あった、だからとっさに取りだして反撃したんでしょう、でも運がよかったわね」
「……なんか、悪運が強かったみたいだ。それであの後どうなった?俺、アンブロシアを打ちこめなかったはずなんだが……」
「……」
「
「あ~、そういえば、そんな声を聴いた気がしてきた、で、当の
「……仲間の危機に、間に合わなかった」
「私は正義の味方として、罪を犯すものを罰する気でいた。でもいざ裁く時になって仲間の危機に間に合わなかった。あまりにも致命的。私は……正義のヒーローにはなれなかった」
「でも俺は死んでない、ちゃんと後始末してくれたろ、結果オーライだよ」
「ヒーローに失敗は許されない」
「ヒーローだって人間だ。やらかすことはあるだろ?」
「……ヒーローに失敗は許されない」
同じ言葉を二度続けた。ならば、
だとしても。
「だとしても__結果オーライでいいこともある。誰も傷つかないことが最良の結果だ。だけど、今回は誰も死ななかった。それでいいじゃないか」
「ヒーローは神じゃない。何もかも背負いすぎるな」
「それでも……私は、正義のヒーローであり続ける……」
「それが
「チーム……」
「そう、ヴァルハラ・ソサイエティ、今回は俺たちチームの勝利なんだ、誰も死なせなかったからな」
「ヴァルハラ・ソサイエティの……勝利」
「そう、だから、誇っていいんだよ」
「誇って……」
「誇って、いいのかな」
「ああ、いいんだよ、ヒーローの失敗はその思いを受け継ぐ仲間が果たす、燃えるだろ?」
「……」
「今回は許容できる失敗だった、次、挽回していこう、俺たちはチームなんだから、補いあおう、互いに」
「チームの勝利を、誇りに……、互いを補う……」
目を閉じる。先ほどよりも少し長かったかもしれない。
目を開けた時には。
「……うん!それが、ヴァルハラ・ソサイエティ!」
「よし、
「こちらこそ、あなたの覚悟に敬意を」
よし、もう大丈夫だな。
「これからもよろしくな、
「うん!」
だけど、思うんだ。
今まで、この枝でも
「……」
「……」
「……」
「私たち、置いてけぼりっすね」
「うん……」
「というか、今の
「私も、驚いてる」
「あ、
「そうなんすか」
「あ、これ言っちゃダメだった……」
「……」
「あ、みゃーこ先輩がすごい不機嫌そう」
「そ、そうかな」
「やっぱ、あれっすか、
「そんなこと……いや、そうかも」
「じゃあ、ほら、奪い返しに行ってきたらどうです?彼女としての格の違いを見せてあげるんです」
「……行ってくる」
「お~、マジで行った」
「呑気ねぇ」
そんなやりとりをソフィが呆れるように見つめていた。
〇
それから、
「それで、この事件は扱い的にはどうなるんだ」
「謎の通り魔が次々とゲームセンター内の人間を切りつけ、逃走って感じです。件の透明の能力者も被害者としてカウントされてます」
「そうか、確かにそれが穏便な終わらせ方かもな」
「町の人にとっては全然穏便じゃないですけどね、通り魔が解き放たれたってことになってるんですから」
「彼のせいで10人も怪我人が出た。透明の能力者の罪を裁けないことが心残りだけど、そうね、彼も苦しんでいて、暴走してしまったのなら……少しだけ目を瞑るわ」
結局のところうやむやというわけだ。
「……透明の能力者、本当に厄介だった。ジ・オーダーが捉えるまでにあれほど時間がかかるなんて」
「完全に透明人間になれるなら、単純に
「何だお前、喧嘩売ってんのか」
「単純にそうとも言い切れないわね、あの能力、自分と触れているものしか透明にできないみたいだから」
「あ~、そっか、うまくやれば、遠くの存在も消せるっていう点では
「そうね、イーリスを倒すのに必要だったのは、
「……あの~、一つ聞いて……」
「なに?」
「いや、今度聞くことにします」
「あらそう」
「それでソフィ、アーティファクトは回収できたのか?」
「ええ、できたわ、みんなお疲れ様、よくやったわ」
「そうか、だったら任務完了だな、俺たち」
「みゃーこ先輩の誕生会はおじゃんになってしまいましたがね」
「……」
「……」
「……」
「怪我人を多く出してしまった、透明の能力者を憎む気持ちは強いけれど、
「仕切り直しだ、2週間後でどうだ、みんな空いてるか?」
「空いてるよ」
「大丈夫です」
「異議なし」
「だったら今日は解散しよう、怪我を直して、もう一度カラオケに行こう!」
こうして
〇
Day11.18
傷もだいぶ癒え、冬の気配がより深く訪れたころ、俺たちはラウンドツーから帰宅の途についていた。
「いや~、カラオケ楽しかったですね」
「
「ええ、またやりましょう、春風」
「
「出来て当然。コードゲッシュを愛するものなら」
また
「みゃーこ先輩はどうでしたか?」
「うん、レパートリーも披露できたし満足かな」
「みゃーこ先輩って歌、上手ですよね」
「そ、そうかな、あまり自覚無くて」
「というよりこのメンバーで誰一人歌が下手な人がいない気がする」
そう、誰一人歌が上手い人しかいない、もちろん俺も含めて。これには正直驚いた。だから盛り上がったし楽しかった。
また来ようと前向きになれるくらいは。
「さて、誕生会はまだ終わりませんよ。にぃにの家に行って二次会です」
そんな言葉を聞きながら、俺は静かにため息をつく。
この誕生会は楽しい。だが。
死にかけたあの日から、俺は新たな問題を抱えていた。
「
「い、いや、なんでもない。二次会だよな、行こう」
「うん……」
……。
やばかった。
そう、俺は、今。
ムラムラして仕方ないのだ!
……生存本能というべきか。そういうものが働いているのだろう。
だがそんなことがみんなにばれてみろ、確実に笑い物だぞ。
……
平常心だ、
〇
「いただきます!」
みんなで手を合わせ目の前の料理に敬意を表す。俺の家に唯一ある小さなテーブルの上でパーティーの始まりだ。
「さあ、さあ、皆さん、みゃーこ先輩特製のオードブルですよ」
「オードブルって言えるほどたいしたものでもないけれど……」
「大したものだと思うけれど」
「は、はい、すごいと思います」
パスタ、から揚げ、サラダ、エビフライ、ロールキャベツ、フライドポテト、あと宅配のピザ。それに……。
「この後にケーキも控えてますからね、うひょー、箸が迷いますな~」
「食いすぎてケーキ食えないってなったら本末転倒だな」
「ケーキの分は残しておきますっ」
そんなこんなで食を進める俺たち。だが……。
「
「あ~、大丈夫。刺さったって言っても5mmぐらいだから、もう痛くないよ」
そう言いながら、傷口をさする。
「しかしあれですな、恋人へのプレゼントのおかげで命の危機を免れるって本当にフィクションみたいですね」
「王道で使い古された展開……だがそれがいい」
「はい、王道は最高です!」
「まあ、よくあるパターンだが、それで助かったのなら万々歳だ」
まあ現在進行形でアーティファクト探しというフィクションみたいなことをやっている俺たちが言うのもなんだが今回は本当にフィクションみたいな展開だ。
そんなことを考えていると……。
空間がゆがんだ。
「ハァイ、こんばんは」
「ソフィ、来たのか」
件の異世界人ソフィの登場である。
「あら、ずいぶんと楽しそうなことしてるじゃない」
「今日は改めてみゃーこ先輩の誕生会ですから、お祝いしてるんですよ」
「先日はいろいろと大変だったみたいだけど……元気そうでなによりだわ」
「……まあな、今日もずっと見てたのか?」
「いえ。最大の脅威が去った今、あなたたちのことを四六時中監視しているわけでもないから」
「そうか、それで、わざわざ出てきたってことは何か用があるのか?」
「用、というよりは、疑問ね。それを解消させに来たの」
「疑問?」
「先日の一件でオーバーロードを使わなかったのはなぜ?」
「え?」
「透明人間のユーザーの一件であなたたちは少なくない傷を負った。カケルのように体に傷を負ったり他のみんなも精神的にまいったんじゃない?」
「……まあ、そうだな」
「オーバーロードで戻せば、ハルカの能力のタイミングを調整したり、ジ・オーダーをあらかじめ準備して置いたりして誰も怪我しない運命にだって導けるんじゃないかしら」
「……」
「……」
「……」
部屋に沈黙が続く。確かにオーバーロードして無かったことにするのも手だ。
だが。
「ちょっと驕った考えになるかもしれないけど、先日の事件は俺たちがいたから、死者は出なかったわけだろ」
「だから、俺たちがあの場にいたことは幸運だったんだ。俺たちがあの場にいなきゃ最悪死人が出ていたかもしれない」
「オーバーロードは最善の未来をつかみ取ることができる。あなたが怪我をせず、穏便に終わる未来だってつかめるわよ。きっと」
ソフィは言う。最善の未来をつかみ取れと。でも。
「俺がオーバーロードを使うのは最悪の未来を回避するときだけだ。取り返しがつかないほど誰かが傷つき、死ぬ。そんな未来を回避するために」
「そうね、別に最善である必要はない。誰かが死ななければそれで……」
ふと、
「人生は一回きりだ。そしてそれを覆せるオーバーロードはまさしく反則技だ。きっと最善を目指し続けて力を使い続けたら、最善以外を未来と認められなくなって……きっと壊れる」
「……」
ソフィは何か思うところがあるのか、沈黙したままだ。
「もちろん最悪を回避するためには使うけど、それを鑑みても先日は最善ではないがきっと最悪じゃあない」
「……だから俺は最善を目指さない、これでいいか?」
「ええ、わかったわ」
ソフィは満足したのかふわっと舞い上がり中空に止まる。
「私もあなたの考えに同意するわ。あなたがオーバーロードを濫用しようとしたら小言でも言おうと考えたのだけれど必要なさそうでよかったわ」
「俺がオーバーロードを濫用するやつだったら、ソフィは俺を見限ってるだろ」
「ふふ、どうかしら」
ソフィの人形が妖しく変貌する。
「別の枝の話だけど……ソラがあなたにコーラを買ってくるように頼んだことがあったの」
「……ん?コーラ?」
「ええ、何だったかしらメビウス?のイベントで限定販売されていたという特別なコーラらしいんだけど」
「ああ……」
「それが、買いに行くのに出遅れて、手に入らなかったのよ。で……あなたはどうしたと思う」
「おいおい、まさか」
「オーバーロードで手に入る未来を掴んだ?」
「正解」
「うっわ、にぃにせっこ!せっこ!反則技じゃん、反則!」
「いや、俺じゃねえし!俺がやったんじゃねえし!別の枝の俺の話だろ、それは!」
「まあ、あの枝はかなり特殊な枝だから仕方ないのかもね……とんでもない修羅場になりそうだから」
「しゅ、修羅場?」
「気にしなくていいわ、別の枝の話よ」
ソフィが状況を打ち切るように答える。……修羅場?
「とにかく、私から言いたいのは、あなたのようにオーバーロードを使いたがらないカケルもいれば、必要とあれば簡単にオーバーロードを使うカケルもいるってこと」
「そう簡単には見限ったりしないわよ。私は心が広いから」
「あ~、そうか、……分かった」
別の枝のことはあまり分からないけれど。オーバーロードはその枝の俺次第ということだ。せいぜい使い方を誤らないように気をつけようじゃないか。
ソフィに失望されないために。
〇
「確かにオーバーロードっていくらでも悪用できるよね」
「そうだな~」
食事を再開しながら相変わらずオーバーロードのネタは尽きなかった。
「ちなみに、にぃにだったらどんな悪用が思いつく?」
「ん~、そうだな、宝くじだろ、競馬だろ、というか賭け事全般いけるな」
「さっきあれほど格好つけてたのにすぐ最適解出せるとかクズかよ」
「クズ言うな。そういうお前はどうなんだよ」
「株」
「あ~、それがあったか」
そんな実行する気もないオーバーロードの悪用方法についてだべっていると。ソフィが業を煮やしたのか高く浮遊する。
「そろそろ、私はお邪魔のようだから帰らせてもらうわね、それじゃ__」
「あ、待って、ソフィ」
「ソラ?」
帰ろうとしたソフィを
「あの~、よかったら枝について詳しく教えてもらいたいんですが」
「枝?どうして?」
「さっきからその……枝?の話するとにぃにとみゃーこ先輩、あと
「……枝の何について聞きたいの?」
「その……イーリス?を倒すためにどういう枝が生まれたのか知りたいです」
「ダメよ」
「うわぁ」
ソフィが即答する。
「……ちなみになぜですか」
「単純にあなたたちのためにならないから、カケルとミヤコも含めて」
「ん?ためにならない……にぃにたちはなにがあったかを知ってるんじゃないの?」
「いや、俺も何があったか全て知ってるわけではないんだ」
「え、そうなの」
俺たちは事の真相を知っているが、真実は知らないという不思議な状態だ。
例えるなら、時間の流れが普通電車なら俺たちが知っている知識は急行電車だ。しかも終着駅についた後をほとんど覚えてないような歯抜け具合。相棒が意図的に教えないでいたんだろうが……。
「そうね、ミヤコだったら教えてはいけない理由がわかるんじゃない?」
「は、はい。ダメです教えちゃ、ダメです」
「なんだよそれ、気になるなぁ」
最終決戦の記憶は
……何となく何があったか察しがついてないわけじゃないんだがな。
「でも、確かに気になるわね、それが私たちにとって多少不都合があろうと知らないというのは居心地が悪い」
「そうね、教えない方がいい。でもそうね……」
幻体ごしだからよくわからないがソフィは数秒の思考ののち。
「差し障りのない程度に教えてあげるのもやぶさかではないわ」
「え、いいんすか」
「いいのか」
意外な答えに思わず声が重なった。
「あ、あの……」
心配しないでミヤコ。と一言、そして。
「言っておくけど、本当に差しさわりのない程度よ。疑問もたくさん出ると思うけど答えられないと思ってちょうだい」
「あ、はい」
じゃあ。といってテーブルの30cmほど上に降りてくる。
「世界は様々な可能性の重なりの中にできている。今あなたたちがここで食事をしているのも無数に存在する可能性の一つに過ぎない」
「世界は可能性の数だけ枝分かれするの。あなたたちの言葉でいうところの並行世界、それを私たちは『枝』と呼んでいる」
「あ、そこまでは知ってますっ」
「ねえ、エルフヘイムの妖精」
「なに?ノア」
「この状況が無数の可能性の一つに過ぎないのならヴァルハラ・ソサイエティが結成されるのも奇跡的ということかしら」
「……いえ、私の知る限りあなたたちの組織は高確率で結成される」
「そう、よかった」
そう言う
「まあ、
「話を戻すわよ。私の『世界の眼』はその枝を観測し知ることができる。私の体験したことに限るけどね」
「そして、観測して結果、この世界は多くの場合カケルの行動によって分岐していくことがわかったわ」
「
「そう、ここまで運命に……何というのかしらまとわりつかれてる存在は珍しいわよ」
「運命にまとわりつかれているねぇ」
正直ピンとこない、が、得た記憶から推察するに俺の行動が運命に影響を与えていることは事実なのだろう。
「人間の可能性は無限大というでしょう?でも実際は運命を世界レベルで揺るがせる人間はそういない。カケルを中心にして異なる運命に分岐していったの」
「異なる運命……ちなみに何が変わるんです?」
「……」
「な、何で黙るんですか、怖いんですけど」
「……ここから先は言うべきではないと思ったからよ」
「エルフヘイムの妖精からすれば私たちには知る必要のない知識ということかしら」
「そうね、あくまで別の枝の話だから言ってしまえばあなたには関係のないことよ」
「バッサリ言ったな……」
「でもそうね、特別サービスで一つだけ教えてあげる」
「お、なんですか?」
「この世界ではカケルとミヤコが恋人になっているけれど、それもあくまで無限の可能性の一つに過ぎないの」
「……そうなの、意外ね」
「ってことはですか、にぃにとみゃーこ先輩が付き合っているこの枝は奇跡の産物ということですか」
「そうね、なにかボタンをひとつ掛け違えてしまえば、カケルとミヤコは結ばれることもなく、ただの友達のままで、カケルは別の女の子と恋人になる」
「別の女の子と……何、にいやん浮気してるの?」
「してねえよ!別の枝の話だ!」
「あ、あの!」
不意に
「その可能性の中には、その……私と……」
「……」
「……いえ、やめときます」
「でも、みゃーこ先輩とにぃにが結ばれない可能性あるのって少し納得できるかな」
「なんでだよ」
「あなたそりゃ、もともと、身分違いの恋でしょうが、二人が付き合ってるのは自然なようで自然なことではないんですよ」
「……!」
ギュッと
目に不安が宿る。
「うわ、みゃーこ先輩が今までにないような怖い顔してる」
「こ、怖い?ご、ごめんね
そう言いながらも
あの夢のように。
気が付けば俺は震える
「
「大丈夫だ
「うん」
そう言いながら握った手をさらに深く握りこむ。
すると。
「あの~、私たちがいること忘れちゃったりします?」
「っあ」
やべえ、
「それで、こんだけ、イチャイチャラブラブしている二人が恋人にならない未来っていうのが想像できないんですが……」
「そうね……じゃあこれが最後よ」
「は、はい」
「カケルとミヤコが結ばれる可能性は4月22日を境に枝分かれする」
「4月22日ってなんだっけ」
「確か私が
「あ~
だいぶ前のことだから記憶が薄れている。だが疑問だ。
「あの日がなぜ結ばれない運命に分岐するんだ?夕食でなんか
「そんなことはなかったと思うよ……」
「問題はその後よ、ソラが無理やりカケルの部屋に泊まろうとしてたじゃない」
「ああ、ありましたな、強引に追い返されてめちゃくちゃむかっ腹立った思い出がある」
「もしあの時、カケルが根負けしてソラを部屋に泊めていたら、
「えっ」
「え」
「えええ」
「
「そうよ、観測してきた結果そういう結論になった」
「……」
「……」
声が出なかった。
……ソフィは嘘をついていない。嘘をつく理由もない。
「結果として、ソラがこの部屋に入り浸るようになり、ミヤコとの可能性はついえてしまうのだけれど、不思議ね、その変化がイーリス打倒のために必要な行動なのだから」
だから認めなければならない、俺と
不意に思い出す、先日の夢のこと。
俺と
そんな未来になる可能性はおおいにあったんだ。結果的に俺たちはこの道を選んだ、そんな紙一重の可能性。
「そう暗くなることもないんじゃない、あくまで別の枝の話よ。選択の段階は過ぎたわ」
「あなたたちは無限の可能性の末にここにいる、それがどんなに紙一重だったとしてもあなたたちにとってただ一つの真実。紙一重の恋をあなたたちはしているの」
「紙一重の……恋……私たちにとっての真実」
だが、目は違っていた。先ほどより力強く。
決意に満ちたそんな目に。
〇
「そうね、この辺りが話せる限界と言ったところかしら」
「……別の枝では
「……まるで、物語の主人公……ですね」
「しかも、別の枝では別の恋人がいるらしいし、あれですね、ハーレムものの主人公ですね」
「ハーレムの主人公……もしかしたら、私とも……デュフフフ、フフフ」
「せんぱーい、お顔が大変なことに……」
てかさっきあんなこと聞いてたのに切り替え早いな……。
「さて、枝のことはこれくらいでいいかしら」
「最後に一つだけいいっすか?」
「何?」
「にぃにが4股している枝はありますか?」
「ちょ」
何聞いてんだ!
……まぁそんな枝あるわけないよな。
「……」
「あれ、ソフィさん?」
予想に反して、ソフィが押し黙る。
あれ、嘘だよね、嘘ですよねソフィさん。
「……ノーコメントでいいかしら」
「はい、よく分かりました、あざっす!」
嘘だろ、別の枝の俺!
「はいはい、こちらこそ、それじゃあ私は帰るわね、長居しすぎちゃった」
「あ、ソフィさん、ありがとうございました!」
「私は何もしてないわよ、じゃあね」
「ソ、ソフィさん、今の話はどういう__」
「やっぱり、別の枝の話なんてするべきじゃなかったわね」
そう言い残し、俺の声には答えず、ソフィのいる空間が歪み、消えた。
最初から何もなかったかのように。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
俺を見る目が変わっている。まるで変態を見るような目に。
「ま、待ってくれよ、ソフィは肯定してないじゃないか」
「そ、そうだよ、
「だよな、
「でも、別の枝では私以外の人と付き合ってるみたいだし、無限の可能性の中にはそういうこともありうるのかな……」
「おい、めっちゃ疑われてんぞ」
「うぅ!」
「4股ってことは、それはつまり、ハーレムってことですよね!つまり……デュフフフ」
「先輩、アカン、妄想の中に入らないで!」
「ヴァルハラ・ソサイエティがハーレムの巣窟になるとは……どうやら私は、仲間を裁かなければいけないようね」
「違う!
必死に弁明する、それはあくまで別の枝の話で、他の枝の俺が何をしたか知らないが、きっと何か理由があるはずだ。
「……それもそうね、別の枝のあなたがしたことで今のあなたを裁くのも気が引けるわ」
「分かってくれたか!」
そう。あくまで別の枝の話。そういう形で話はまとまろうとしていた。
「でも、あれ、4股ってことは
春風先輩の唐突な疑問。
空気が凍った気がした。
「……」
「……」
「……」
「……」
「あれ、待てよ私自身本気で考えてなかったけどマジで4股ってことは、あれ?」
「そ、
「
「いやいやいや、何かの誤解がある気がするなぁ!」
「実は義理の兄妹とか?」
「いや、実の兄妹っすけど」
「……」
「……」
「えぇ……?」
引かれた。
「ま、待ってくれ、きっと何かの間違いだ!な、
救いを求めるように、
「……」
あれ。
「み、
「私も……ノーコメントで……」
苦笑い。否定はしない。それはつまり。
嘘だろ。
……。
「嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!?????????」
夜だというのに、近所迷惑になるかもしれないのに。
俺は絶叫せざるを得なかった。
〇
「さ、さて、食うか」
「「「「はい」」」」」
強引に話を切り替える。
最初のシリアスな雰囲気はどこへやら。色々とぶち壊れた。
特に俺の名誉。
だが、せっかく
これ以上、悠長にしてたら冷めちまう。
「ソフィの言う通りだった。別の枝の話なんて聞くもんじゃないな」
「そうだね……」
「そうですね……」
「そうね……」
そんな中で
そしてこちらを向いた。
「にぃに」
「なんだ」
「襲わないでね?」
「襲うか!」
オーバーロード……しようかな。
本気でそう思う俺だった。
〇
結局先ほどの、空気感を振り払うのにそこそこの時間を要し、みんないつもの調子に戻るころにはオードブルが終わっていた。
オードブルが終わってもパーティーは続く、お次はバースデーケーキの番だ。
帰りしに予約したケーキ店で購入した本格的なホールケーキだ。そこそこ値は張ったが、必要な出費だ、目をつむろう。
「思ったんですけど、ケーキの五等分てどうやってやればいいんでしょ」
「確かに、難しそうですよね、五等分って」
「……私は別に多少小さくてもかまわない」
「あれやりますか、各々が五等分だと思う位置に切り込みを入れていくんです。そうすれば各自で決めたことだから不満が出ようもない。みんなハッピー、どうだ」
「そうなると思って、家からこれを持ってきたよ」
「クッキーの型ですか?星形の」
「そう、これをケーキの真ん中に置いて……と」
「そして中心を爪楊枝で穴をあけて……」
「そしてケーキカットナイフで星の頂点の延長線上にまっすぐ切り込みを入れる、と、ね?」
「おお、五等分だ」
おおむね五等分に切り分けられた。
「すごいですね、みゃーこ先輩!」
「ふふ、ちょっとしたテクニックだよ、知ってれば誰でもできるし、今ではそれ専用のアプリもあるし」
「これが女子力の差ってやつですか、細かいところで見せつけられますね……」
「……」
「……」
「女子力なんてたいそうなものじゃ……」
「……紅茶をいれてもいいかしら」
「ああ、どうぞどうぞ」
沈黙を破るように
「そういえば、みんな、飲み物は
「いいよ」
「異議なし」
「お願いします」
そうして全員分の飲み物がそろい、ケーキも切り分けた。後は……。
「ハッピバースデイトゥーユー、みゃーこ先輩!」
「お誕生日おめでとうございます!」
「誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうみんな」
「誕生日おめでとう、
「……ありがとう
「誕生日プレゼント、今もってるか?」
「うん、ここに」
キーケースを持った
合鍵をその上に置いた。
「守ってくれて、ありがとう、
「
「ああ、いつでも好きなタイミングで来てくれ、ここは
「うん……ありがとう」
顔が朱に染まる。
パンッ
クラッカーが鳴った。
「ほら、そこ~、イチャイチャすんな!」
「ははは、
パンッ
パンッ
「クラッカーを使うなら今しかないと思ったのだけれど」
「私もそう思いました!」
俺と
「
「何だ?」
「楽しいね」
「ああ」
〇
ケーキを各々食べ終え、片づけに入っていたところ。
「みなさん、にぃにがどさくさで渡しているのをスルーしてますが、忘れてますよ!」
「?」
「プレゼントですよ、プレゼントは私たちも用意してるんですよ」
「あ~、プレゼント、そうだった。みんな用意してるんだったな」
「プ、プレゼントですか?そうでしたねっ」
そう言いつつ
「
「ありがとうございます、水回りの仕事が多いので助かります」
「では、次は私ね、これ」
「
「へぇ~仕事用か、いい狙いどころだ、猫耳ってところも
「それは褒めてるのかしら……」
「
そう言って頭を深く下げる。
……ここまでおおむね順調に
「フフン」
「一体何を送るつもりだ、
「教えませ~ん」
「は?」
「今この場では渡しません」
「えっ?」
「今日帰る時に渡します」
「う、うん、分かった」
「一体何をそんなにもったいぶってんだよ」
「にぃににも無関係じゃないからちゃんとわかりますよ、後でね!」
「はぁ」
本当に何を考えてんだか。
〇
パーティーが終わり、みんなでお片付け。それもつつがなく終わり、時計を確認するといい時間。
「今日はこれで解散にしますか」
「賛成~、いろいろあったけど誕生パーティーできてよかったですね」
「皆さん私のために今日は盛大なパーティーを開いていただいてありがとうございました」
「私も楽しかったです!カラオケもまた今度、もう一度しましょう!」
「そうね、私も楽しみにしてる」
各々荷物をまとめて玄関に集まる。
「みゃーこ先輩はもう少しにぃにと一緒にいるんですよね」
「あ、うん。そうだね」
「じゃあ、ついにこれを渡しましょう、これが私からのプレゼントですぜ」
「あ、ありがとう、
そう言って包装された箱を渡す。
「開けてのお楽しみです、我々が帰ったらすぐに開けてくださいね。それと……」
「なんだ?」
「これは、にいやんの分ね」
「俺?」
そう言って包装された小さい箱を二つ渡してきた。なんで俺にもプレゼント用意してんだ。
「なんでまた……」
「それも、あとのお楽しみ。それじゃあ、お邪魔しました~」
「お、お邪魔しました」
「お邪魔しました」
全員が扉をくぐって帰宅の途につく。
……。
……。
「何だったんだ。
渡された箱を見つめながらそうぼやく。
だが気を取り直してもう一度息を吐く。
「ふぅ……」
終わった。楽しい時間だった。
不測の事態があって、怪我をしてしまったわけだが、まあ……最悪の未来を回避した。
俺の名誉は負傷してしまったわけだが……。
だが、それでいい。オーバーロードは使わない方がいい。それが俺のポリシーだから。
「
「
「みんな、行っちゃったね」
「ああ」
「二人っきりだね」
「……ああ」
沈黙。何から話せばいいか。
「
「何を」
「
「?」
「先日の、透明人間の人、止めるのに必死だった」
「それは……そうだろ、あれ以上被害を増やすわけにはいかなかったし」
「被害者の人だけじゃない、加害者の人も助けようとしてた」
「……」
「私の能力を信じて、包丁を掴みに行ったよね」
「ああ、あの時はそうするしかなかったから……」
「
「幻体って蔦にできるのか?」
「……あ、この使い方ってこの枝の
「“最終決戦の枝”の俺が使った技か?」
「あ、うん」
「そうか、幻体を蔦にか、確かにできるか?」
幻体を蔦に……イメージしろ。
すると。
「あ」
「お」
できた。一本の蔦が伸びた。
「これで、もっと練習を積めば、相手を拘束できるか」
「すごい、一発で出来た」
「幻体って色々応用の利く技なんだな、こういう使い方も相棒が教えてくれたらよかったのに」
「それは……」
教えられない理由がある、か。おそらく、この能力を使って何をしたか。それが問題だな。
たぶん俺はこの使い方をして与一を……。
いや、やめよう。
「幻体はいろいろ応用の利く技だ、それだけ覚えとくよ」
「う、うん」
「それで、何で俺が直接包丁を掴みに行ったかだったか」
話を戻す。
「ぶっちゃけ、ただの思い付きだ。アンブロシアも俺が持ってたし誰かに任すことも難しかった。だから、まず武装解除して無力化することが先決だと思ったんだ」
「だから、包丁を?」
「ああ、モノを奪うには
左手を見せて苦笑い。包帯は取れたが、握ると痛いから、握力はまだ戻っていない。もう少しかかりそうだ。
「でも、あとから考えると正直ここまでするのが正解だったのか分からなくなった。
そして自己嫌悪。はたしてこれは名誉の負傷と言えるのだろうか。
「……」
「……」
互いに無言。
「……
「え?」
「私が、みんなが、誰かが。自分以外の誰かのためばっかり。今回だってそう」
そして左手を取る。
「あの人にこれ以上罪を重ねて欲しくない。だから、まず武器を取りに行ったんでしょ?」
「……」
「そのために、包丁を直接掴みに行くだなんて、無茶だよ。そんな勇気、私には無理だよ。そのために、こんな怪我して……」
左手を優しくなでる。その優しさがとても心地よかった。
「
「そんなことない、ここに、いる」
「あ」
撫でられている左手を握る。強くは無理だが力強く。
決して離さないように。
「俺は、
「私の?」
「そう、この町を守ろうとする、
「……」
そして赤くなる。照れてるのだろうか。可愛い。
「そ、そんなことはあるのかな。だとしたら……」
小さく呟く。
「少し誇らしいかも」
その言葉が不思議とここちよく染み渡った。
「でも少し納得できたかも」
「何が?」
「
「な、なんだ、いきなり」
「私たちが仲良くなり出した時、あの火事の日の時点で私は既に
「う、うん」
「その
「あ~……つまり?」
頭が回らない。
「えっと……そうだね」
「最初の話に戻るけど、
そしてそっと目を開ける。
「そんな
とびっきりの笑顔でそう言った。
「元々大好きだったんだけど、先日の一件で惚れ直した。もっと……大好きになった!」
……!
「わ、顔真っ赤」
「
照れ隠しにそう言う。
「そ、そうかな?」
「……でも、だからかな、他の枝だと他の子にとられちゃうのは」
目を背けたまま話す。でも手は握ったまま。
「……他の枝の話か」
「ご、ごめんね、また他の枝の話しちゃって、でも……」
少し
「今日、ソフィさんに教えてもらってあらためて分かったの。私たちがこうして恋人でいられるのはいろんな奇跡の上に成り立っている紙一重の恋なんだって」
「……」
つないだ手をもう一度握る。
「私、
「他の子に取られちゃった。
「
「かけるく、ん……む、ん……ちゅ」
「ん、……は、ちゅ……ぁ」
その不安をかき消すように。
「っぷは……」
「ん、は……」
そして、しばらくののち、名残惜しく離す。
「
「約束、守れたか?」
「うん」
あらためて見た
「私が嫉妬しちゃったから、上書き、してくれたんだね」
「ああ、そういう約束だったからな」
「うん、嬉しい」
「……はは、そうだ
雰囲気が少し落ち着かなくなって、さっき言おうと思っていたことを話し始めた。
「改めて言っておきたいんだけどさ」
「うん」
「たとえどんなことがあっても確実に言えることがある」
「なに?」
「他の枝がどうだろうと、俺たちが歩いてきた足跡は紛れもない真実だ」
「……うん」
「だから、きっと大丈夫、二人なら」
「……二人なら、うん、二人ならきっと大丈夫だね」
「……」
「……」
沈黙、そして。
「ははは」
「ははは」
互いに笑う。
今ならはっきりわかる。
隣に最愛の彼女がいる限り、俺はどんなことだって乗り越えられる。
たとえ今の状況が数多の可能性の末に辿り着いた奇跡なのだとしたら。
俺はその価値に感謝する。
〇
「……」
「どうしたの、
「い、いや、なんでもない」
……やべぇ、キスして
そんな今までの雰囲気をぶち壊すかのように俺は悶々としていた。
平常心、平常心だ。
「あ、そうだ。
「あ、ああ……いいんじゃないのか、ついでに俺にもなんかプレゼント、なんだろうな」
「じゃあ、開けるね」
そう言って
「えっ?」
「そ、
一応、続きます。
中編で話はまとめたつもりですが……。
後編はR18になっちゃったので別枠で投稿します。
ここには投稿されませんのでご注意を。
よろしくお願いします。