というわけで9-nine-ファンの皆さんへ私からのクリスマスプレゼントです。
前後編2話の前編となっております。
Day12.24
クリスマス。それはキリスト教においてイエス・キリストが降誕したとされる記念日である。
よく間違えられるが、誕生日ではないらしい。
なんでも、もともとイエスという存在は天上にあり、地上にある体に受肉し、生を受けた。『降り誕まれた』だから降誕だ。
要するに、キリスト教にとって記念すべき日であるということである。
もっとも、世界では宗派を超えて祝われる日となっており、ましてや多種多様な宗教が共存する日本ではほとんどただの『なんかよく分からんけど記念日だやったー』という日に他ならない。
様々な業種、業者がそろいもそろってクリスマスにかこつけて様々なセールを展開する。家庭では決まって、子供がプレゼントをサンタさんにお願いし、祝う。子供にとってはこの上ない最上の日だ。
そして、日本では恋人たちの日というイメージが強い。多くの新たなカップルが生まれ、既にカップルである者たちはさらにその関係を深める。そんな日。
当然、女っ気のない俺には関係ない日だった。
そう、だった。過去形である。
過去形である理由は、ただ一つ。今の俺は……。
立派なリア充であるからだ!
〇
「ハァ……ハァ……」
落ち着いた配色ながらもおしゃれなコートを着こなし、身長は低いながらも服の上からでもわかるボディライン、マフラー越しでも一目で美少女とわかる人物は息を切らしながら、広場の中央でキョロキョロ。
もし勇気のある男がいたら、絶対に声をかけに行くであろう。だが、その少女は、やがて、目的の人物を見つけたらしく、微笑む。
そして駆け出し。
「
「
俺の胸に飛び込んできた。
「
「ごめんね、
俺の胸の中で少し不安そうな顔をのぞかせる
「いや、俺も早くこうしたかった」
「えへへ……嬉しい。
そう微笑みながら、スリスリと俺に顔を押し付ける。
すっげえ幸せだ。
「……なんか、最近の
「そうかな……意識してなかったけど、私、舞い上がっちゃってるかな」
「そうだなぁ、特に二人で行動するときは今まで以上にこういうスキンシップが増えた気がする」
思えば誕生会の日からだろうか、
「……無意識のうちに
「いいんじゃないか?恋人なんだし」
「……恋人、そうだね、恋人だからいい……のかな?」
少し難しそうな顔になる。
「ねえ、
「以前と今って?」
「堅苦しくて、嫉妬だらけの私と甘えたがりで嫉妬しない……前向きな、私」
すぐに嫉妬してしまうのも
「どっちも好き」
「もう、答えになってないよ」
「自然な変化だろ、どっちも
「ふふっ」
「私も大好きだよ」
胸がはねた。
「……」
「……」
俺に抱き着いている
「あ」
互いに目が合う。
……。
……………。
「
「
「なんで?」
「めっちゃ、見られてる」
「……あ、あ」
「なんだか、観察されてるみたい」
見られている。いや、観られている。特に若い男からの羨望の視線、キスするの、しないの?といった興味津々な目線。
「実際、観察されてんだろ」
「なんで?」
「そりゃ、今の俺たちみたいな分かりやすいリア充はいないからな」
「リア充……なの?私たち」
「私たちというか俺、だな」
「行こう、
「う、うん」
そう言って、俺たちは駅の構内に入っていった。
キスしないのかよーという声が聞こえた気がした。これから行うクリスマスデートを尻目に不思議と心が躍った。
〇
今日はクリスマスデート。パーティーは俺も
「
「あぁ」
いつも通り、手をつなごうとした。
「……」
「……」
「なんか違うな」
違う。原因は明白だ。
手袋。
「手袋、外した方がいいかな」
「いや、でも寒いだろ今日」
「そ、そうだね」
……。
しまった、選択をミスった!
「あ!えっと外すか」
「ううん、このままでいい」
「あ、……そうっすか」
やらかした。以前と似たようなミスをまたしてもやらかした。
全く俺は……。
「帰りに、楽しみにしておく」
「帰り?」
「うん、帰りも繋ぐでしょ、その時まで楽しみにするのもありかなって思って」
「あぁ……分かった」
次はしくじらない。
「行こう」
布越しに
〇
今回俺たちがデートスポットに選んだのは一週間前にグランドオープンした複合アミューズメント施設。
『グランシティ
様々な業種が入り乱れる様はまさしく一つの街である。
ラウンドツーのようなアミューズメント施設からスーパーマーケット、本、服、小物に家財道具まで、さらにはスポーツジムとプールもある、ないものはないと言えるだろう。
だから、デートにはうってつけの場所というわけだ。
「さて、どこからまわる?」
「とりあえず、小物売り場行きたい、そのあと映画いこ」
「オッケーじゃあ行こう」
そう言ってエスカレーターで上がる。
「最近出来たって聞いて、来たことはなかったけど、すごい施設だね」
「あぁ、ラウンドツーとモールが合体してもかないそうにない」
「ふふ、そうだね、敷地面積も相当だし、15階建てだからね」
「あ~、そういえばここって一応コロナのライバル企業ってことでいいのかな」
「あ」
「……知らずに来てた。どうしよう、利敵行為だよね」
「これくらいいいんじゃないか、利益でこの町に貢献するのがコロナグループなんだろ?敵に塩を送る行為も町に貢献してるからいいんじゃないのか」
「そ、そうだね。私たち二人で落ちるお金なんて誤差だよね誤差」
「今は客としてきてるんだ。デート兼敵地偵察でいいじゃないか」
「敵地偵察!その手があったね」
みやこに笑顔が戻る。
「さ、行こう、この階だ」
「うん」
そうして階をめぐり、小物売り場に辿り着いた。
小物と一口に言っても、モールの雑貨屋とは規模が違う。
「
「小さいグラスか?」
「うん、ショットグラス。5個セットなんだよ」
「なるほど、ヴァルハラ・ソサイエティのみんなの分にも使えると」
みんなのグラスとして使える。そう考えるとかなり汎用的だ。
それに、見るとこのグラス、それぞれに文様が付いていて見分けがつきやすい。
「なんか、スティグマみたいだよなこの文様」
「
「でも確か……ショットグラスってお酒とか飲むためのものじゃないのか?」
「一応、本来の用途としてはそうなんだけど、一工夫加えるとインテリアとしても使えるんだよ」
「例えば?」
「そうだね……こっち来て」
「お、おう」
「これは、ビーズか?」
「そう、ビーズ。グラス一杯にビーズを入れるの」
「ほう、それで?」
「1つのグラスに1色のビーズ。5つのグラスに5色の異なる色のビーズを入れます。すると」
「うんうん」
「5つのグラスがビーズの色で染まるの。赤、青、黄、緑、紫って。なんだかおしゃれじゃない?」
ビーズを見る。そしてこれがグラス一杯に詰まった様を想像し。
「宝石みたいな感じになるのか」
「そう、宝石。そんな感じになるの」
「面白いなそれ、俺にそういうおしゃれ感覚はないけどおしゃれになりそうだってことは分かる」
「ふふ、でしょ?」
「完成したら俺にも見せてくれよ、写真でいいからさ」
「あ、えと」
……?
「どうした」
「実は、
「俺の家に?」
「うん、いい感じに空いてる棚があるでしょ」
「あぁ、まあ」
「そこに、置いてみたら、いい感じになるかなって思って。私からのクリスマスプレゼントだと思ってくれれば」
「……クリスマスプレゼントかぁ、俺、用意してないんだよなぁ」
「前言ったかもだけど、私、誕生日とクリスマス近いから。この前もらったキーケースで十分だよ」
との一言で止められた。
「だけどなぁ」
……俺だけクリスマスプレゼントをもらうのも何だか変だな。
俺の気がすまない。
「……いくらだっけこれ」
「え、えっと」
ショットグラスの前まで戻る。
「ろ……6000円」
「意外とするな」
「私としたことが、値段を確認し忘れるなんて……これじゃ予算が……」
「ちなみに予算は?」
「……3000円」
3000円……千円出すこともはばかる
……ならば。
「よし、
「折半?」
「お互い、3000円ずつ出して買えばいいんだよ」
「……!」
「でもそれじゃクリスマスプレゼントに……」
「俺が送らないのに
「……」
ちらっとショットグラスを見たり、俺の顔を見たり。そこから
「欲しいんだろ?」
「……うん」
「よし、じゃあ折半だ。さっさと買おう」
「あ、待って待って。分かったから待って」
「なんだ?」
「今は、買わないの」
「今は?」
「今買うと荷物になっちゃう」
「あ~、そっか」
考えもしなかった。割れ物注意なものを抱えながらデートというのも落ち着かない。
「帰る時に、買おう?」
「オッケー。そうしよう」
こうして相互同意の上のクリスマスプレゼントとなった。
〇
「じゃあ次は映画、の前に腹ごしらえだな、もう12時だ」
情報によれば次の開演時間は2時ごろ、ゆっくり昼食を食えば余裕だ。
「何食べようか、モック?」
「ここまで来てモックというのもなぁ」
階数のマップを確認する。
「2階に大規模なフードコートがあるぞ」
「フードコート行ったことないかも」
「じゃあ決まりだ」
そんな感じで2階に向かう。
「……」
少し歩き出して、ふと振り返ると。
「……
「何だ、
「……、いや、その」
?
「そ、そうだ、少し話したいことがあるんだけど」
何か言おうとして。突然別の話題にすり替わった、そんな違和感。
「ん?なに」
「……」
「何か重い話題か?」
「そういうわけじゃないんだけど……お昼食べながらにしようか」
「うん、ああ」
二人で歩きだした。少し後ろを
……なんだろう。一緒にいるはずなのに一緒にいないような、そんな感覚。
デートの初めはあんなによかったのに、手をつなぐのに失敗してからは少し距離感を掴みそこなっている。
そんな感じで悶々としていると、2階までたどり着いた。
〇
モックを含めた各店舗が軒を連ねる大きな食堂、それがフードコートだ。
もっとも俺が知っているフードコートの3倍くらいは広くていろいろとビビったが。
うどん、海鮮丼、ラーメン、カレー、イタリアン、お好み焼き、デザート、何でもありだ。
「何食う?」
「う~ん、いつも食べないものにしようかな」
広い敷地内を巡る。きょろきょろと目移りする。
「あ、海鮮丼」
「確かにいつも食わないな」
「じゃあ、私ここにする」
「じゃあ俺も」
店に向かうと、ちょうど空いていたのでスムーズに注文へ。
「さてどうするか……」
何にするか早速悩む。店の看板にはマグロをふんだんに使ったマグロ丼がアピールされている。それに乗ってみるのもいい。
「マグロ丼で」
「じゃあ私はマグロアボカド丼でお願いします」
お互いに注文が決まり、店員さんの元気な対応で注文が処理される。
そして俺たちに呼び出しブザーが渡される。
「じゃあ、呼ばれるまで席に座るか」
「うん」
二人で座れる席を探し、座る。
しばらくの間待つと、ブザーが鳴り、互いに荷物番をしながら1人ずつ取りに行った。
そして料理が俺たちの前に並び、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
食事が始まった。
「うん、美味いな」
「そうだね」
「そういえば、
「あ~、確かにそうだね、お魚を使った料理はあまり作ったことなかったかも、
「純粋に
「ふふ、じゃあ勉強しておくね」
「楽しみ」
そんな日常の会話をはさみながら話題は
「それで、
「ああ、話があるって言ってたな、なんだ?」
「その、ね」
少し言い辛そうにする。
「何か困ったことか」
「困ったというわけじゃないんだけど」
「まさかこの前ヤリすぎたことが原因でにんし__」
「ち、違うの!この前のは大丈夫だったから、大丈夫だったから!」
席を立ちながら慌ただしく
「み、
「あ!も……もぅ」
そうか、大丈夫だったか。少しほっとした。
「そうじゃないの、お父様がね……」
「
「うん、お父様が
「
「うん、その……」
「交際を反対されてるとか?」
「う、ううん、そうじゃないの、交際自体は反対されてないんだけど……」
「コロナグループの3代目にふさわしいか確かめたいって……」
「……あぁ、そう来たか」
感嘆。ついに来たかと。当然だ、名家の娘と結婚する人物は自然と後継者と目される。なら、俺にお鉢が回ってきてもおかしくないのだ。
「それで微妙な顔してたのか」
「……あ、うん、そうだね、うん、
?
また、違和感。
「……困りはしないが、緊張はするな」
何とか場を繋ぐ。
「……あ、でも、お父様も、もしよかったらって言ってたから今すぐ会わなくてもいいと思うけど……」
「あぁ、えっと……大丈夫だ、
「
「……
覚悟を決めろ。
覚悟を……。
……。
…………。
「ごめん、やっぱできてない」
俺のはかない覚悟は折れてしまった。
「……そうだよね」
……。
人生指折りの難関イベントだよ。
なにを話せばいいのか、全くわからない。
「……」
「……」
無言になる。何と言うべきか迷って。
「……とりあえず、食べるか」
「うん……」
それでも自分の中の整理がつかず、中途半端に答えるわけにもいかず、食べることに集中した。
〇
昼食を終えてほどなく、俺たちは14階まで足を運んだ。
目的は映画を見るため。最近話題沸騰の恋愛映画らしい。
題名は『吹雪の中、傘の下の君に告げる』
「
「そうだな~、その映画が面白いと確信できているものなら買わない。かえって邪魔になるから」
「面白さが未知数な時は?」
「買うかな、ポップコーン。あとポテトとコーラは欠かせん」
「う~わ、贅沢。映画鑑賞って意外とお金かかるんだね」
「そうだな~時間におけるコスパって考えればカラオケが一番だ、でも今日はもうご飯食べてるからポップコーンはいらない」
「ふふ、そうだね」
そんな感じにたわいもないようなことを話しながら開演時間まで待つ。
「今日の映画って流行りなんだっけ」
「そうそう、CMでよく宣伝してるよ」
「俺、配信サイトで見る派だからな~、映画館ってのも
「でも
「好き……なのか?」
「好きじゃなきゃ配信サイトを複数契約したりはしないと思うな」
「まあ、確かに」
「1か月500円、1000円、下手すると2000円それが複数重なっちゃったらって考えると。……私だったら元取らなきゃなぁって、焦っちゃうかも」
グッと手を握りながら不安そうな顔をしながら表情を強張らせる
「あ~、
「あ、ごめんなさい、そうじゃなくてね、サブスクは満足感が大事だから。
「どうかな、俺が与えられているだけで金銭感覚が身についてないってことかもしれん」
「
「しかし、サブスクに金使ってるか~実感なかった」
確か、3つは契約している。一つ1000円と考えると、俺は毎月3000円、映画のために使っているというわけだ。一年に換算すれば3万6000円。
結構馬鹿にならない額だ。
「俺もアルバイトでもして金銭感覚を身につけてみるか」
軽く、そう呟いた。
「なら、ナインボールでバイトしてみる?」
「ナインボールで?」
「うん、お爺様だったら、絶対、とは言えないけど採用してくれるかも」
「ナインボールでバイトかぁ、考えたことなかった」
だが。
「……少なくとも今は無理だな」
「だね……」
「アーティファクトは今年度中に何とかするとして、だ。俺たちには受験がある」
「うん、私のバイトも受験シーズンだから今年度でとりあえず休止しようってお爺様からも言われてる」
一緒にナインボールで働くという夢は今叶えることができない。
だが。
「よし、じゃあ、大学に合格した後、ナインボールの面接、受けてみるか!」
「あ、大学生になってからなら……そしたら、一緒に働けるね!」
一緒に働ける。
その事実を知った
館内放送が鳴り響く。
「あ、入場が始まった、行こうぜ」
「あ、うん、いこ」
〇
座るなりいくつもの映画の宣伝が始まった。興味のありそうなものから興味のなさそうまで、とにかく今現在のトレンドを示しているのだろう。
しばらくして今日見に来た映画が始まる。
主人公は一般家庭に生まれた少年、そしてヒロインである財閥の御令嬢。主人公はヒロインのことを雲の上の存在だと思い、恋愛対象に含めていなかった。だが、ひょんなことから両者の関係は急接近。紆余曲折のさなか主人公とヒロインは互いに思いを伝え合い、結ばれる。
だがこれでは終わらない。交際を親に知られ、財閥の跡取りになれるかの覚悟を問われる。『君は我が財閥に対して何を示せる?何ができる?』主人公は思い悩み冬の大通りにてあてどなく答えを探す。吹雪が激しくなったころいったん戻ろうとしたところに彼女が追い付いてきた。手には赤い傘を持っており、探し回っていたのだという。
『答えは見つかった?』
『まだ駄目だ』
今度は二人で傘をさし歩く。吹雪は依然激しくなり視界すらまともに把握できない。
足を滑らせ転倒する主人公。見えたのは彼女の顔と赤い傘だけ。
吹雪の中でも彼女の顔と傘は見えていた。
『傘、しまって』
『うん』
傘をささずに辺りを見回す。
『やっぱり見えないや』
『もう一度さすから入って』
再び傘の中に二人で入る。
『帰ろう』
二人は歩き出す。
『答えは見つかった?』
『_____』
吹雪の中彼らは歩く。
『一つだけ』
『なに?』
『好きだ』
返答はなくただ歩き続ける。
『着いたよ』
ヒロインの父親の家に戻ってきた。
父親自ら出迎える。
「答えは見つかったかい?」
「はい」
「……」
「_____」
何といったかは分からずエンドロールへ移行した。
〇
「
「あ~最初はオーソドックスな恋愛ものだと思っていたんだがな」
「何となく、うん」
「俺たちにクリティカルな内容だったな」
「結局最後、なんて言ったんだろうね」
「この監督のほかの映画観たことあるけど、色々とはっきり明示しないことが多いからな」
「この監督さんの作風ってこと?柏木倫太郎さんだったっけ?」
「そうだなぁ、最後に自分で考えさせる的な」
思い思いの感想を述べながら映画館を後にする。
「でも、『君に何ができるか」かぁ」
「ヒロインのお父様のセリフだよね」
「あぁ、
「どうかなぁ、ただ会うだけじゃなくて見極めたいだから、結構突っ込んだ質問もしてくるかも」
「……おいおい、大学生の就活じゃないんだからさ」
悩む、向こうからコンタクトをとってきている以上、ズルズル引き延ばすわけにもいかない。
「俺が
俺はただの一介の高校生である。特技とか、誇れるところとか、いいところとか、分からない。
「……大丈夫だよ」
「ん」
「
「……」
「……」
照れる。俺がそれに足る人間か分からない、でも
今はまだわからないけど、必ず見つけてみようと思う。
俺にしかない強み。
俺は何ができる?
続きます。明日、投稿予定です。