…走り終えたハンターはスピードを落として、「よし」と小さく拳を握る。
自分はそんなハンターへ向けて足を進めていた。
ハンターの走りを見て呆気に取られていたほかのトレーナーたちも一瞬遅れてハンターの元へと進んで行く。
「ハンター!君ならルドルフに匹敵するウマ娘になれるはずだ!
ウチのチームに来ないか?」
「ルドルフの妹なんですってね?
さすがにルドルフ以上になるのは無理だと思うけど、匹敵するウマ娘にはなれると思うわ。
スカウト、受けてもらえないかしら?」
トレーナーたちは各々ハンターにそう話していく。
ハンターは「ありがとうございます」とあまり表情には出していなかったが、その目は若干不満そうに見えた。
「…とりあえず、みなさん戻って下さいよ。
この後、ルドルフも走るんすよ?
俺はその後で考えて良いと思うんで。
模擬レース終わったら、三女神様の所に来てください。
俺はそこでゆっくり待ってるんで」
ハンターはそう言って、その場を後にした。
◇ ◇ ◇
…その後に行われたルドルフのレースはまさに圧巻だった。
あの妹にして、この姉ありと感じさせられた。
そしてレースが終わったルドルフの元には数多くのトレーナーたちが駆け寄っていく。
その数はさっきのハンター以上の人だかりであった。
…とりあえず、模擬レース自体も終わったことだし、ハンターの元へ向かうとしよう。
自分はそう思いながら三女神様像の元へと歩いていく。
三女神様像の下で座っているハンターの元には数多くのトレーナーが集まっていた。
自分もその場に入れさせてもらうと、ハンターは話し始める。
「…これで全員っすかね」
ハンターはそう言うと、誰かが話しかける。
「ハンター、君のあの末脚、鍛えればさらに上に行くことも夢じゃない。
G1を獲ることだってできるようになるはずだ。
シンボリルドルフに並ぶこともできると思う。
ウチのチームにはG1を獲ったこともあるウマ娘も何人かいる。
スカウト、受けてくれないか?」
それを受けて他のトレーナーたちも「我も我も」という風に口々に誘い文句を離していく。
そんな中、ハンターは顔をあまり変えずに「G1…か」と呟き、そのまま続けていく。
「…俺、夢があるんですよ。小さい頃からの夢が」
「夢?その夢叶えようじゃないか!できることはなんだってするぞ!」
ほかのトレーナー達もその言葉に同意するように首を縦に振る。
「…本当ですか?
じゃ、言いますよ」
ハンターは一呼吸おいてそこにいる全員に告げる。
「…ルドルフを越えるウマ娘になる。
…それが、俺の夢ですよ」
その言葉を受けて辺りにいた俺以外のトレーナーたち全員の顔が一気に冷めていく。
「ハンター、それ本気で言ってるのか…?」
誰かがそう聞くと、「本気っすよ」とハンターは返す。
「ずっと思いながら過ごしてきたんです。
叶えられると信じてますんでね」
ハンターはそのまま話を続けていく。
「…もし、俺のこの夢叶えられると思ったのなら改めて言ってください。
『スカウトさせてくれ』って。
ダメだと思うなら離れてもらって結構ですよ」
ハンターがそう言うと、続々とその場から人が減っていく。
全員、ルドルフの走りを見た後だ。そう思うのも無理はないだろう。
そんな中、自分はその場にとどまっていた。
あれだけいたのに残ったのは自分だけである。
「…見に来てくれたんすね。
アンタは俺の夢、叶えられると思いますか?」
ハンターは自分のことを覚えていてくれたようである。
ハンターの言葉に自分は言葉を詰まらせてしまう。
(…正直、キツいと思うよ)
そう話すと、ハンターは「やっぱりですか」と返してくる。
「じゃあ、別に行ってもらって良いっすよ。
また探すとしますか…」
ハンターはそう言って、その場を後にしようとする。
そんなハンターに、自分は続けていく。
(けど、0では決してないと思う)
「え?」
ハンターがそう聞き返してくると同時に、自分はハンターのレースを思い出す。
最初のスローペース、アレは出来る限り最後までスタミナを残すためだろう。
そのペースを上げて、最後の強烈な末脚を使うことが出来れば…。
ルドルフに勝てるようになるかもしれない。そう思ったのだ。
(ルドルフに勝つ可能性、多分あるよ。
君ならできるかもしれない)
自分の言葉を聞いて、ハンターは笑みを見せる。
「…3人目っすよ。
俺の夢を聞いて否定しなかったの」
(3人目…?)
俺がそう聞くと、ハンターは続けていく。
「1人はルn…、ルドルフっす。
俺がこう言ったら「それは面白いな」って闘志むき出しにしてきました。
もう1人はカサマツ時代のトレーナーです。
「なれるさ、きっと!」ってすぐに返してくれたんすよ」
ハンターはそう話して、一息つくと改めて書類を取り出して話してくる。
どうやらトレーナー登録に関する書類のようだ。
「…アンタが良ければ、これにサインしてくれませんか?
書いてくれれば、契約成立です」
自分はハンターからその用紙を受け取る。
そして改めて、このシンボリハンターと契約すると言う重さに気づいた。
このハンターというウマ娘をルドルフ以上に育て上げる。
とてつもなく高い目標だろう。
ベテラントレーナーが引き受けるにしても難題と言ってもいい。
正直、新人トレーナーの自分が抱えるべきウマ娘ではないと思う、
(…自分でいいのか?
まだ校舎の場所も分からない新人で…)
ハンターはそんな自分に「大丈夫っすよ」と話してくる。
「…目標は共通じゃないと意味ないっすから。
そこに新人とか、ベテランとかは関係ないです」
ハンターはこう言ってくれている。
顔は笑みを浮かべているが、その眼はレースの時に見せていた真剣な目だ。
(…分かった。後悔はしないで欲しい)
自分はその用紙に自分の名前を書いた。
「ありがとうございます。
これからよろしくお願いします、トレーナー」
(ああ、もちろんだよ)
そう話しながら自分はハンターと固い握手を交わした。