阪神競バ場に着き、そのパドックにて。
「さ、スぺのデビュー戦、見守ってやろうじゃねーか」
ゴルシがそう言いながらパドックの方を見る。
「むー、私より先にデビューなんてずるいー…」
「まー、そのうちデビューできるよ。焦るな焦るな」
スカーレットがそう頬を膨らますが俺はそうなだめる。
「…ってか、トレーナー。スぺに教えたんすかパドックでの見せ方。ここまでそんな練習してるとこ見たことないっすけど」
「あ、練習させるの忘れてた」
沖野さんの言葉を受けて、俺の心の中は一気に不安が増していく。
『続けて、8枠14番、スペシャルウィーク』
アナウンスと共にスぺが出てきた。
…うん出て来たのはいいんだけども。
「あっちゃー、アイツ手と足が一緒に出てやがるよ」
「…うっわー、ガッチガチだな。凄い緊張してるなアイツ。…まあ緊張するなって方が無理な話だけど」
パドックでのスぺはゴルシの言葉通り、手と足が同時に出て、動き方もすっごく固いものだった。
…あそこまで動きがガッチガチなやつ、久しぶりに見たよ。
その後、スぺが上に羽織った体操服の上着を脱ぎ捨てようとするがなかなかうまく行かず、そのまま転んでしまう。
…あー、見てられねえ。
そんな中、沖野さんが口を開く
「あー、ゼッケン渡すの忘れてた。
…スズカ、これスペシャルウィークに渡してくれるか」
スズカはその言葉を受けて、スぺの元へと駆けていく。
俺は沖野さんに話していく。
「トレーナー、ゼッケンスぺに渡すの忘れてたのってわざとじゃないですか?」
「…ん、なんのことだ?」
トレーナーは何も知らないという風に俺に話す。
…うん、わざとだなコレ。
「とぼけないでくださいよ、全く…。
トレーナーががその顔してるときは大体そうなんです。何年の付き合いだと思ってんですか」
俺は沖野さんにそう話しながら、スタンドへの道を歩いていった。
◇ ◇ ◇
…そして、地下バ道から出てきたスぺの姿を見てみると。
「あれ、さっきと…」
「全然違うじゃねえか…」
スぺの表情は、さっきのパドックでの不安そうな表情とは打って変わり、顔は真剣なものになり、いつもの元気そうな目になっていた。
…スズカは何を話したんだろうか。まあそれは本人たちだけの話にしておこう。部外者の俺が割り込んじゃいけないかもだし。
スズカも戻ってきて、スターターが旗を振り、ファンファーレが響き渡る。
それに合わせて、観客のボルテージが上がっていくのもひしひしと感じる。…やっぱレースはコレだよな。
ファンファーレが終わると同時に、ウマ娘が続々とスターティングゲートへと入っていく。
スぺが最後に入ったがゲートに入るのを嫌がるような仕草はなく、その辺りの問題はなさそうだ。
ゲートの入り口が締められ、阪神レース場全体に沈黙の時間が流れていく。
…そして、今。
ゲートが開かれ、スぺのデビュー戦となるレースがスタートした。