それからしばらくして。
「…うん、もう大丈夫そうだね。
走り始めても大丈夫だよ」
「分かりました、ここまで付き合ってくれてありがとうございます」
俺は担当医さんにそう話していく。
とりあえず怪我を完治、リハビリで普通に動く程度には戻ってきた。
…宝塚記念に向けて、何とかギリギリ間に合いそうである。
「…それと、君に伝えておきたいことがある」
「…なんですか?」
担当医さんは改めてそう俺に話してくる。
「…君の怪我は、酷使に耐え切れずに発生したと考えられる可能性が非常に高い。
君の末脚は専門外の僕から見ても素晴らしいものだって思うよ。
…ただね、その末脚の使用には君の脚に大幅な負荷がかかってる。
一応他の部位も見てみたけど、結構怪我になりそうなところが多い。
今まで君がしっかりケアを続けてきてたから、ここまで続けてこれたと思ってる」
担当医さんは「改めて」と話してくる。
「君たちの担当医として言わせてもらうよ。
君が凱旋門賞を獲りに行くとしたら、宝塚記念で無理をさせることはできない。
いつもの急な末脚の発動はドクターストップとさせてもらってもいいかな?」
「…マジっすか」
俺がそう答えると、担当医さんは「うん」と返答してくる。
「怪我明けだからね、万が一にも備えて様子を見たいんだ。
ホントならG2かG3の一戦を挟んて宝塚記念って行かせたいんだけど…。
今のところは宝塚記念、選ばれる予定なんだよね?」
「…今のところは、ですけどね」
俺の怪我は対外的に「宝塚には間に合う」と発表されており、怪我明けの俺にも票を入れてくれた人たちが多数いる。
さすがに1番人気…とまではいかないが、このままなら選ばれると思う。
「…僕から話せるのは「急加速はやめてほしい」ってことだけ。
いつもよりスピードを徐々に上げていくなら問題はないよ」
担当医さんも色々と考えてくれた上でのこの考えなのだろう。
…確かに俺の最終目標は凱旋門賞の制覇だ。
そのためにもこの宝塚記念で怪我をするわけにはいかない。
「…分かりました」
俺は担当医さんにそう返していった。
◇ ◇ ◇
「…ってなわけで、いつもの追い込みはドクターストップで使えなくなりました」
久しぶりの練習で、俺はトレーナーにそう話す。
「なるほどな…」
俺の言葉に残念がるのはシービーだ。
「残念だなー。
また君との追い込み対決できるかなって思ってたんだけど」
「ああ、ちょっとの間辛抱しておいてくれ、シービー」
そんな中、トレーナーは俺に話してくる。
「…それで、ハンター。
宝塚でどういう走りをするつもりなんだ?」
俺はそれに答えていく。
「それなんですけどね…、エース一ついいか?」
「ん、どうした?」
エースがそう返してきた後、俺は彼女に向けてこう話した。
「…逃げのやり方、俺に教えてくれないか?」