「ハンター。お前に頼みたいことがあるんだが、いいか?」
「…何ですか?」
沖野さんに呼ばれた俺はトレーナー室に来ている。
「…スぺにピッチ走法をマスターさせて欲しいんだ」
「ピッチ走法ですか…」
レースで使われる走法は主に二つ。
一つ、ストライド走法。
これは距離(ストライド)を大きく取って走る走法。
加速力はピッチ走法に比べると劣るが、その分最高速度に達した時の速度を維持することができ、体力の消費は抑えられるため長い時間ロングスパートを掛けられる。
そしてもう一つがピッチ走法。
こっちは逆にストライドを減らす代わりに脚の回転力を上げる走法。
加速力が得られることによりダートや重バ場の芝、そして坂路などで使用される。
沖野さんの言うことには今のスぺはほぼストライド走法で走っている。…というか走り方全く教えてないらしい。
ずっとトレセン学園でトレーニングを続けているスカイやキングに比べるとその差で劣ってしまったのだろうというのが沖野さんの考えだ。
「ダートが得意なお前ならその辺り教えられるだろ、できねーか?」
「了解です。できる限り伝えさせてもらいますよ」
◇ ◇ ◇
沖野さんに言われた次の日。
「じゃ、お前にはピッチ走法をマスターしてもらう」
俺はスぺを連れて、ターフに出ていた。
「ピッチ走法?」
スぺはそう頭を傾げる。
「ダートとか坂とかで使われる走り方でな。
…まあ、これ見てもらった方が速いな。
右がルドルフ、左がファル子。この2人の走り方の違いをよく観察しろよ」
俺はタブレットでスぺにある動画を見せる。
これは昨日、俺が編集したもので芝が得意なルナとダートが得意なファル子の走り方の違いを見やすくさせたものだ。
「…どうだ。何か違いは分かったか?」
「…えーと、左の人の走り方の方が足が地面に着くのが速い…ですかね?」
スぺは悩みながらそう話す。
「…正解だ。
平地なら今までの走り方でいいんだけど、坂を登る時はどうしてもスピードが落ちる。
ピッチ走法は加速力が高いから坂とかダートみたいな足を取られるコースで使われてるんだ」
俺はそう言いながらタブレットを芝生に置く。
「まあこればっかりは習うより慣れよだな。今から坂路を徹底的に走っていく。
ある程度ピッチ走法をマスターしたら走り方の切り替え方法とか、その辺りのことを教えて行くつもりだ。
で、今トレーナーが手配してくれてる模擬レースで最終調整かな。相手はまだ決まってないらしいけど。
お前のダービーまでなら俺のレースもないし、生徒会業務の合間にはなるけどビシバシ鍛えていくぞ。
覚悟はいいな?」
「も、もちろんです!」
スぺはそう気合を入れた。