「…じゃあ、フジ。後は任せるよ。スぺも書類は俺が預かっとくから今日はゆっくり休みな」
「ええ、任せてくださいよ、ハンターさん」
俺の言葉にフジはそう返してくれる。
あの後、レースはスズカがリギルでは珍しい大逃げをかまして勝利を飾った。
…沖野さんの表情と言い方からして何か囁いたのは間違いないだろうけど。
その後、スズカのウイニングライブを見届けてから俺がスぺの寮、栗東寮に送り届けて今に至る…、という訳だ。
「…あの、今日はありがとうございました!」
スぺはそう言いながら俺に頭を思いっきり下げる。
「いーよいーよ。俺はこれが仕事だしな。
お礼はレースで見せてくれよ」
俺はそう言って栗東寮を後にした。
◇ ◇ ◇
静まった校舎の中、俺の足音だけが廊下に響いていく。
俺は生徒会室の扉を叩く。
「俺だ、入るぞ」
俺が入るとそこにいたのは椅子に座って話をしていた俺の姉のシンボリルドルフと周りから女帝と呼ばれているエアグルーヴ、そして来客用ソファで寝ているナリタブライアンの姿だった。
「…ハンターか。スペシャルウィークの出迎えお疲れ様だったな」
俺が扉を閉めると、俺の姿に気づいたルナが俺の方に声をかけてくれる。
「まあな。今日レースやってて良かったよ。コレ、スぺから預かった書類、生徒会関係の方な」
「ありがとうございます、ハンターさん」
書類はエアグルーヴが受け取ってくれ、後は…っと。
俺はソファで寝ていたブライアンの方に向かう。
「…おらー、ブライアン起きろー」
「…む、ハンターさんか。どうした?」
俺はブライアンを起こして何枚かの書類を渡す。
「寝てるとこ悪いけど、これ理事長に届けてくれるか?さすがにまだやってると思うし」
「…分かった」
そう言ってブライアンは生徒会室を出て行った。
「…で、何話してたんだよ」
俺は生徒会室に転がっている俺用の『ウマ娘をダメにするソファ』(たまにブライアンにも使われている)に腰を下ろしながらルナに伝える。
「実はサイレンススズカがリギルを離れることになってな…。ハンター、何か知っていることはないだろうか?」
ルナはそう俺に聞いてくる。
「俺か?なんでそう思ったよ」
俺の問いに答えたのはエアグルーヴだった。
「…実はスズカとスピカのトレーナーが話している所を何人かの生徒が目撃しているんです。
スピカ所属のハンターさんなら何か知っているかなと」
…やっぱそうだったか。
「…多分ウチのトレーナーが何か囁いたんだろ。それ以外でもなんでもないはずだ。
…でも俺はスズカはリギルを離れるべきだと思うよ」
「どういうことです?」
エアグルーヴの言葉に俺は続けていく。
「単純にスズカがリギルの作戦に合ってないんだよ。
…ホラ、リギルって終盤まで足を溜めてぶっ差すのが基本戦術だろ?
ルドルフやエアグルーヴはそれでいいんだろうけどスズカはそうじゃないんだよ。脚的にもメンタル的にも」
「…確かに、ウマ娘は十人十色。先行が得意な者がいれば、差しが得意な者もいる」
俺はルナの言葉に同意するように続けていく。
「そういうことだ。スズカに多分あってるのは一時のマルゼンとか今のファル子がやってるみたいな最初からフル加速していく大逃げ型。
リギルは厳しいチームだ、スズカだけ特別扱いする訳にもいかないだろうからウチみたいに自由に走れる方がいいと思うよ。
まあスピカに来るんだったらしっかり俺が面倒見てやるから心配しなくても大丈夫だよ、2人とも」
俺はそう二人に告げる。
「…まあサイレンススズカが走りやすくなって心満意足するならそれもいいだろうな。」
「そうですね。…ハンターさん、スズカがスピカに行くことになれば頼みますね」
「分かってるよ」
そう話していると生徒会室の扉が開く音がした。
「…理事長に提出してきたぞ。特に不足もなかったらしい」
ブライアンがそう言いながら部屋に入ってきた。…あーよかった。
「ありがとなブライアン。手間増やしちまって」
俺の言葉にブライアンは「別に構わない」と素っ気なく返す。
「…それじゃ作業が一段落したことだし寮に戻ろうか。今日はもう遅い」
「だな。早く戻らないとヒシアマが怒るだろうし」
ルナはそう言いながら立ち上がる。俺とエアグルーヴも同様だ。
4人で生徒会室を出て廊下を歩いてると、俺はふと思った。
「…ちょっと待て。思ったんだがスズカが離れるってことは明日リギルの選抜レースするんだろ?」
「…そう、ですね」
俺は続けていく。
「お前らがそっちに行くってことは、明日俺一人じゃねえかよ!?」
「…頑張れ」
ブライアンからの励ましの言葉が俺の耳に届いた。
「…全く、こういう時に限って忙しいんだよホント。
いや3人がいないから忙しくなるんだろうけど…」
「まあ終わったら私たちも合流するよ、ハンター」
そう話しながら俺達は帰り道を進んで行った。