70話
…数年前、東京レース場。
カサマツから中央に移籍した後も順調に勝ち進み、俺は初のGⅠレースであるジャパンカップに臨んでいた。
ルナやシービー、それに加えて海外の有力ウマ娘も出てきており、相手に不足はない。
…ルナとの中央初対戦であるセントライト記念は2着になり、カサマツ時代からの無敗記録は途絶えた。
ただ、俺にはそれについて興味なかった。…ただ単に「負けたなー…」とは思ったが。
で、ルナとのレース2戦目という訳である。
「…にしても、凄い雨だな…」
ルナは外を見てそう呟いた。
外は雷こそ鳴ってないものの、大粒の雨が降り注いでおり、芝も大分荒れている。
「ねー。でも、いい雨じゃない?」
そう話すのはシービーである。聞いてみたところ雨は好きなんだとか。
俺はそんな2人から少し離れたところで気持ちを高めていた。
「…ふう」
俺は歩きながらそう大きく息を吐く。
俺にとっては初めてのGⅠ、この黒いスーツを基調にした勝負服も初めて着た。
…やっぱり、この勝負服を着ると気持ちが一気に高ぶってくる。
俺の周りからの人気は三冠を達成したルナやシービーに比べたら低い。
だがそんな逆境は俺の大好物である。
「…しゃあっ!」
俺は両頬をパンッ!と叩いて、大雨が降るターフの上へと向かっていった。
◇ ◇ ◇
『8枠16番、シンボリハンター』
「…お願いします!」
ターフに出て、俺はそうスタンドに向けて頭を下げる。
スタンドを見てみるとこの大雨にもかかわらず満員の観客でいっぱいになっている。
…まあルナとシービーの対決を一目見ようという観客の気持ちも分からないでもない。
「ハンター!」
そんな中、俺を呼び止める声があった。
カサマツから移籍した後、俺のトレーナーになってくれた沖野さんである。
「…どうだ、初めてのGⅠは?」
「いや、なんてことないっすよ沖野さん。どんなとこでも俺の走りをするだけです」
俺がそう返すと、沖野さんは「北原さんから聞いた通りで安心したよ」と話してくる。
そう話していると後ろからシービーが近づいてくる。
「何話してんのさ、2人とも。アタシに秘密の作戦でもあるの?」
「いや、同じチームとはいえ相手に作戦教えねえだろ…」
俺がシービーにそう話していくと、沖野さんは俺達の頭の上に手を置いて話してくる。
「…お前ら、俺から話せることはこれだけだ。
思いっきりレースを楽しんでこい!
より楽しんだ方が、このレースを勝てるぞ!」
その言葉を聞いて俺は話していく。
「いつも聞いてることっすけど、今日に限っては安心しますね」
「そうだね。しっかり楽しんでくるよ、トレーナー!」
俺とシービーがそう話すと、沖野さんはこう続けてくる。
「よし、お前ら二人とも、行ってこい!」
「了解です!」
「オッケー!」
沖野さんの後押しを受けて、俺とシービーはゲートへと向かっていった。
…多分シービーはスピカに入ってたんじゃないかなって。リギルみたいに制限されるのは嫌いそうだし、自由なスピカだし。