中身入りロボット、魔法少女の騎士になる。 作:ダイコンハム・レンコーン
※今回は掲示板要素はないです
追記
よくよく考えたらただのメガネじゃ目つきの悪さ誤魔化しにくいとわかったので、メガネは色入りメガネに変更になりました。
追記2
二人称が途中で変わるとか言う初歩的なポンをしていたので修正。リッター→キズナの呼び方は『枯草さん』で固定です。
「材料運搬地点設定ヨシ、ドローン飛行軌道設定ヨシ、全機体座標設定ヨシ」
あれから数日、解体工事も終わり、私の作業は再建作業へと差し掛かっていた。
タブレットに示された各項目を一つ一つ確認し、フックを付けたドローンや無骨な作業用ロボットを起動していく。こうなれば後は作業の確認、停止ないし再開の命令を出す以外の仕事は殆ど無い。
機械は黙々と作業を進めていく。ドローンやロボットが
手元のタブレットでスケジュールを確認する。浸水していた一階部分の床を張り替えるなど、予想より作業時間は伸びそうだが、これを勘定に入れてもそうここに長居する事もないだろう。
「……そうなると、あのお昼ご飯とはもうお別れですね」
短い間だったが、毎日の昼時にあった差し入れ。あの味がどうにも忘れられない。
初日は焼きそばだけだったが、翌日には主菜に加えて茹で野菜やカットフルーツが付く様になった。それらをややバツが悪そうにしたノゾミさんが渡しに来るのがこの数日間の習慣だった。
初日以外はいつも出来たての物が出て来ていた。炎天下の中で過ごす私の事を考えてか、ややしょっぱい物が多めだった事も覚えている。それは、誰かに料理を振る舞ってもらう事が初めてだったからだろう。
──……私には母親も姉妹も居ませんでしたが、居たらこの様な感じだったのでしょうか。
そう思ってすぐに私はかぶりを振ってそれを忘れようとする。……だってあれは……あれを作ったのは、ノゾミさんの所有するロボットなのだから。
そう、これは
「下手に肩入れすれば……後が辛いだけ」
──自分にそう言い聞かせて働く内に、今日もまた昼が来た。
腕時計のアラームが鳴り昼を知らせる。私は休憩場所に向かい、そこにあった切り株に腰を下ろす。折れた木を撤去し切り株にしたこの場所は屋敷の裏口にもほど近い場所にある。直に差し入れを持ったノゾミさんが来る事だろう。
そう思っていると、裏口の戸が開いた音がした。
私はヘルメットを脱ぎ、汗を拭く。そして作業着のポケットの中からメガネケースを取り出して色の入ったメガネを掛ける。
これは私が他の人と面と向かう時の作法だ。私は目付きが悪く他人を怖がらせてしまうからこれで誤魔化せ、と先輩からこのメガネを貰った。それ以来私は人を相手にする時は出来る限りメガネを着けて話す様にしている。
「初めまして、枯草さん」
が、私は掛けていたメガネを外した。目の前に現れたのが人ではなくロボットだったからだ。
「……初めまして、リッター……さん」
白い塗装に青く光るカメラアイ、緩やかな流線型の女性らしいフォルム。
あのヒト型ロボット、イータを見るのは私も初めてだった。このタイプのロボットは少なくとも街を走る車よりも遥かに高額な製品で、まともに暮らす分には見る機会もない代物だ。
だが、私には金持ちの趣味と言う物が分からない。なぜロボットに紺のメイド服を着せているのだろうか。
「今日の献立はシャケおにぎりとおかかおにぎり、肉じゃがとほうれん草のおひたしにひじきと蓮根の煮物です。どうぞ」
「ありがとうございます」
目の前のロボットは、差し出したその手に積み重なったタッパーを携えていた。私はそれを受け取り、切り株に座り食べる支度をする。
「いただきます」
そう言った時、ロボットが何やら頷いていたのを見て一瞬引っ掛かったが、今は早々にこの場を去りたいが為に、私は黙々と食べ始めた。
ノゾミさんが運んで来たのなら、いつもはこの辺りでその場を去っている、が、ロボットは一向に動こうとはしなかった。
それどころか──
「隣に立っても宜しいでしょうか」
──ロボットはそう言って切り株に座る私の隣に立つ。
はっきり言えば、気が散ってしょうがなかった。だが顔の表情も何もないロボットがどんな事を考えているかなど知りようもない、何故そうしたのかなど人間の尺度で答えるとも思えない。
だから私は黙って食べていた。
「枯草さん。お話、良いですか?」
……暫くすると、ロボットがこちらに問いかけて来た。人の声と聞き間違いそうになる程の、
「……何を聞く必要があるのでしょうか」
それが妙に気に食わず、私は思わずつっけんどんな態度を取ってしまった。それでもロボットの顔は真っ直ぐこちらを向いていた。
その所為で真っ白な塗装が日の光を反射し、その光で目が眩んだ私はロボットから顔を逸らす。このロボット、日の下では眩し過ぎる。
「……ノゾミの様子を教えて貰えませんか」
私の様子を見て、それを拒絶の反応と受け取ったのか、ロボットはやや語気を落としてそう言った。
だが、その言葉を聞いた私の頭の中には疑問符が浮かんでいた。
「そちらの方がずっとノゾミさんの事を見ている筈では? 何故私にそんな事を聞くんでしょうか」
私が言った疑問に対し、ロボットは滔々と語り始める。
「……ノゾミは昔から賢い子でした。赤子だった時から夜泣きする事もありませんでしたし、無茶なわがままを言う事もなかった。誕生日には何でも用意すると言えば、私が居てくれるだけで良いと言ってくれました。
……ですが、それは私
ノゾミにとってこの屋敷は牢獄です。私は看守の様なものでしょう。私はあの子の立場を守ると言う体のいい理由であの子が外に出ない事、他者と触れ合わない事を良しとしていました。あの子も自らそれを望む事はありませんでした。自分の立場に気付いていたからでしょう。
この時点で私も共犯者です。足の悪いノゾミの部屋が2階に割り振られていた理由も既に分かっていたのに。
だから私はあの子の親代わりである事は出来ても同じ目線で、同じ立場で物事を見られる理解者にはなり得ない。あの子の隣には理解者が必要なんです。友人でも恋人でも構いません、ただ、そんな人が居れば……
ああ、すいません……少し話が逸れましたね。今話した様にノゾミは訳あって他人とあまり接する事が出来ませんでした。枯草さんはあの子にとって久しぶりの他者なんです。
私ではなく、そんな枯草さんから見て今のあの子に何か気になる事があったか、私は知りたいのです」
「……そう、ですか」
いっそ不気味だと言えたら楽だっただろう。だが私にはどうにもこの言葉を一蹴出来る程の無慈悲さは無かったらしい。
どこかの古いZ級映画にそんな物があった気がする。大工の父が暇潰しに見ていた映画のワンシーン。
ロボットのシスターに、ロボットの犯罪者が懺悔する。どこか安っぽく滑稽だったが、熱意はあった。
こうして実際にロボットの懺悔を見れば、あの映画とはまるで違う。あんなにも真に迫った懺悔をするロボットなど出ていなかった。ただ一つ同じなのは、そこにある熱量だけだ。
そうだ、熱量と言えば──
「ここに来た初日、私はノゾミさんにある悪口を言ってしまいました」
「悪口を? 一体どの様な」
「リッターさん、貴方への悪口です」
「……私の、ですか」
あの時の事はすぐに思い出せる。数日前の事を思い出せないのは色々と不味いが、それくらいあの時のノゾミさんは鬼気迫る顔をしていた。
「すると、ノゾミさんは怒ったんです」
「ノゾミが怒る? そんな事があり得るんですか?」
ロボットは……リッターは顎に手を当て訝しむ様な態度を見せる。
『ロボットに命はあるか』それへの問いは今も変わらない。ロボットに命は無い、それは確かな事だ。
……だが『ロボットに魂はあるのか』それへの問いの答えは、揺らぎかけていた。
今こうして目の前に居るリッターは、私の目から見ても限りなく人に近い。それも不気味の谷を越えた所にいる様に見える。今まで破壊して来たロボットにはそれが全く感じられなかったと言うのに、このリッターだけは違っていた。
私の心が、認めかけている。
浮かび上がるのは、一つの想像。
──もし、リッターが自力で魂を得たと言うのなら。もし、その領域に辿り着ける可能性が他のロボットにもあったのなら。
それを度外視し、排除して来た私は……ああ、心が、軋みそうになる。
「……ええ、それはもう酷く怒られました。ですが、怒られて当然の事だったのかもしれません」
彼女の怒りが、いや思想が正当な物であるならば。
「申し訳ありませんでした。リッターさん」
「……何を言ったかは分かりません。でも、貴女も貴女なりの考えがあってそう言ったのではないですか? 私には貴女が事実無根の悪口を言う様な方には見えません」
立場が入れ替わる。
懺悔する私と、それを聞くリッター。言えば楽になれるだろうか、だが言えば私は彼女を
──……いや、既に私は何
思い返せば、記憶の中にあるロボットのカメラアイが、人の目の様にぎょろりと動く。ただの思い込み、その筈だ。だが私の脳裏を離れない。
「だから、私に謝る必要はありません。ですがノゾミには謝って貰っても良いでしょうか」
「……もう、謝っています。ノゾミさんの方から先に謝ってくれて、私は後から。……ノゾミさんは良い子だと思います。過ちをすぐ認められて……とても良い人に育てて貰っていたのだと、今分かりました」
「私と違って」……一瞬、投げやりになりかけた私を自制してその言葉は飲み込んだ。
『──人間、正しく生きてナンボだ。お天道様はちゃんと正しく生きてる奴を見てくれてるんだ』
そう父から言われて育った私は、世界を守ると言う正しい事がしたくて魔法使いになった。
けれど、誇り高い大工の頭領だった父が仕事をロボットの進出によって無くし、酒に溺れて冬の川に転落して亡くなった日。私は正しさとは何かを見失った。
いつまでも大工に拘り続け、他の仕事を探そうとしなかった父は間違っていたのだろうか、だから死んでしまったのだろうか、と。
──今の私は、正しさを見失ったまま正しさを振るって来たツケを払う段階に居るのでは?
そう思うのは、不自然な事だろうか。
「互いに謝って仲直り出来たのですね、良かった」
喧嘩したら仲直り。正しさとは本来、そうあるべき物だった筈だ。仲直りなんて、子供でも知っている正しさの概念だ。
でも、私はとっくに
ああ、どうしよう。どうしよう。
リッターを見る。するとグラリ、渦を巻く様に視界が歪む。
そして、青く光るロボットの目が、ぎょろりと動いた気がした。
身体が、熱い。意識が、朦朧として来た。
──生きてる? 生きて、る? ああ、ロボットが生きてる!!
「私は……私は……? あれ? 私は……何が、したかった……」
──あ、ああ、そんな
「枯草さん?」
──私を怖がらないで。今、
「……キズナ、さん?」
──ほら、私、怖くないよ。悪い子じゃ、ないよ?
立ち上がろうとして、身体がふらりとグラついた。
「枯草さん!?」
食べ掛けのお昼ご飯が、地面にバラバラに散る。
──ああ、勿体ない。こんな事して、私、悪い子、なのかな。
「大丈夫ですか!」
──白い、真っ白な顔。眩しくて、見れない。
「これは……熱中症! 日陰は……」
──
「どうしたのリッター!?」
「ノゾミ、ここで彼女の様子を見ていて下さい! 私は救急に連絡し氷嚢を作ります!」
「オッケー分かった!」
──悪口言ったり、ご飯をダメにしたり、悪い子で、ごめんなさい。
「大丈夫! リッターならすぐ来てくれるから安心しててよ」
──だから、行かないで……今度は良い子になるから。
揺れる木漏れ日が、無数の目に見える。
『お天道様はちゃんと─────────見て───る──』
ああ、ああ。向こうで見ている、目が、ロボットの、生きている目が。
──ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。悪い子でごめんなさい。
しまったままの記憶の中だけにある、割れた酒瓶。壊れたハンマー。首に掛かるゴツゴツとした手。
──助けて、許して、助けて、許して。
──だから、
何故だろう、キズナちゃんが錯乱するシーン、今までで一番筆が乗ってた気がする。ただ文体が荒い気もする。
因みにアンケートの方ですが、今現在コテハンが一位なのでこれまでの掲示板回でハッキリとさせるべき転生者達にはコテハンを付けていこうと思います。
誤字報告ありがたや。