中身入りロボット、魔法少女の騎士になる。   作:ダイコンハム・レンコーン

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就活で忙しくて全然作業できなんだ。
久しぶりに書いたからガバガバかも。

今回は少しだけ掲示板要素あるよ。


クロスロード

 魔法少女である事以外は殆ど何も知らない。

 

 そう、枯草キズナ、彼女の事だ。

 

 魔法を識る彼女はリッターの近くに地雷が撒かれているのと同義だ。リッターが注意深く踏まなかったとしてもキラー◯イーンよろしくの自走地雷スタイルで突撃されたら敵わない。そんな恐怖に怯えなければならないのは、彼女の事を何も知らないからだ。

 

 無知は罪ってよく言うけど、あれは自戒の言葉なのかも。

 

 そう、霧があるなら払えば良い、未知は既知へと変わるだろう。

 

 素直に調べてみれば良いのだ──

 

「──って思ったけど、どうすれば良いかなあ」

 

 自室のベッドで寝転びながら、僕はキズナちゃんの事を考えていた。恋煩いって訳じゃない。ただただ漠然とした不安が根っこにあるんだけど、どうすれば良いかが分からない。

 

「……このままで良いのかも」

 

 ふとした拍子に溢れたバッドプラクティス、ややインドア寄りな回答に持って行きがちなダメな癖。だって僕は美少女になっただけでヒーローでもヒロインでもない。加えて元男で、この世界じゃ引きこもりで女の子としての社会経験もない、服の名前はおろか化粧品の名前すらも知らないし、女の子の髪型の知識も少ししかない。そんな女の子の気持ちも分からない僕に会って間もない女の子の心を開くなんてムーヴは求められるもんじゃない。ああ……ないない尽くしで嫌になる。

 

 それにあの一度きりで姿を見ていないリュウコちゃんと違って彼女は単純な仕事の関係だ。いかがわしい意味じゃなくてね。

 

 これは彼女がこの屋敷を元通りに直せばお金を払ってお終いの関係、別れてしまえば彼女がリッターの前に現れる事も無くなるだろう。魔法少女としてでも特撮やアニメの追加戦士とは違ってあくまでも僕は専守防衛、自ら首を突っ込むなんて事はしないから僕と彼女がこの先会うって事も無いんじゃないかな。寧ろ無い事を祈りたいくらいだ。

 

 ……だから、これが終わればきっと終わり。この先一生彼女と僕らの人生は交わらない。なんとなく、そんな気がした。

 

「こう言う時、リッターなら躊躇いなく突っ込むんだろうなあ。昔から思ってたけどリッターって主人公っぽい性格だし」

 

 ……だからロボットだなんて思えない。

 

 ただ、リッターの力は借りられない。これが魔法に結びつく事柄なら速攻ドボンのトラップになるからだ。きっとリッターなら、誰かを救う事に理由なんて必要としない。だから僕はその前に彼女が隠す物を暴き立て、己の不安を払拭しなければならない訳で……厄介な不発弾が自宅の庭に埋まっている、そう言われているのが今の気分だ。

 

 解体するにしても近付く時点で危険な香りがするけど、やるしか無い。

 

 ……そう考えていると、僕は一つ閃いた。

 

「……そう言えば、掲示板にも女性が居た。それに世界を見通す目を持った人も」

 

 引きこもりでも、やれる事はあるらしい。

 

「聞いてみるか……」

 

 僕はすぐさま意識をあの喧騒の待つ場所へと沈めた。

 

 

 

 ──✳︎──

 

 

 

【女の子の秘密は】我、金髪碧眼色白美少女に転生せり。part3【蜜の味?】

 

1:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 女の子の秘密を暴くスレ、はっじまるよ〜! 

 

2:異世界の名無し ID:e3q4S4Pqv

 ガタッ! 

 

3:異世界の名無し ID:lvYvYdGNd

 またイッチが急展開迎えてる……

 

4:異世界の名無し ID:E4hrU/VM6

 >>3

 迎えてるんじゃなくて台風の目になってないこれ? 

 

5:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 本題行きまーす。このスレに女性の方と千里眼持ちは居ませんか〜? 

 

6:異世界の名無し ID:05b/jKRzS

 >>5

 なんや? ワイ女やけど

 

7:異世界の名無し ID:fbjHwc3Uj

 ワイも

 

8:異世界の名無し ID:tLQj/e6du

 ワイもワイも

 

9:異世界の名無し ID:sRTu5jJPx

 >>6

 >>7

 >>8

 何で全員女なのに一人称ワイなんだよ?! 

 

10:異世界の名無し ID:mX+wXxA8C

 ショタ勇者と結婚して一児の母になったワイの出番か? 

 

11:異世界の名無し ID:K3vUM6xj3

 奴隷になってから女らしい尊厳なんて無いに等しいけど、私も一応女ね。一応だけどね

 

12:異世界の名無し ID:aUY3NPcd2

 >>10

 お前は元男じゃね? 

 

13:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 千里眼ニキは居ないのか

 

14:異世界の名無し ID:KWe0NWJQo

 確かにおらんな

 

15:異世界の名無し ID:7HnuxhP3x

 >>13

 まあ24時間張り付いてたら現実が疎かになるからな。どうしても噛み合わん時はあるやろ

 

16:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 なら仕方ないし説明入るか。

 今回君達に集まって貰ったのは>>1の通りある女の子の秘密を暴く事、だが我はこの世界で引きこもり生活を満喫していたせいでコミュ力が落ちている。更に女の子として扱われる経験も無かった為に僕には女の子の心が分からない。そこで助けを求めた訳だ

 

17:異世界の名無し ID:ANXl10+Tx

 >>16

 まず言わせろ

 一人称ブレッブレやんけお前! 

 

18:異世界の名無し ID:zHLG18Xhs

 なるへそ、要するにギャルゲーの攻略方法が知りたい訳やな。任せろ処女歴500年のエルフなワイの神の舌先《ゴットタンサキ》にかかればどんな女の子でも下半身ビチャビチャ間違い無しや

 

19:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 >>18

 女性経験皆無の我でも分かるこいつダメ

 

20:異世界の名無し ID:05b/jKRzS

 >>18

 その処女歴、年々更新されてない? 

 

21:異世界の名無し ID:fbjHwc3Uj

 >>18

 だっせえなゴットタンサキ、せめてゴットタンだけにしろよ

 

22:異世界の名無し ID:tLQj/e6du

 >>18

 中年童貞

 

23:異世界の名無し ID:zHLG18Xhs

 ボロカス言われてるやないか……流石のワイでも傷付くで

 

24:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 得体の知れないエルフは置いておこう。まず君達に質問だ。君達は同性の友達、つまりは同じ女性に対してどう会話を始める? 

 

25:異世界の名無し ID:fbjHwc3Uj

 >>24

 は? 居る訳ないやろ

 

26:異世界の名無し ID:05b/jKRzS

 >>24

 友達って人生のDLCコンテンツでしょ? 

 

27:異世界の名無し ID:tLQj/e6du

 >>26

 没データの間違いなんだよなぁ……友達をバグ技で召喚するリア充はグリッチャーってはっきりわかんだね

 

28:異世界の名無し ID:mX+wXxA8C

 >>24

 ワイは旦那様一筋やし……

 

29:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 良く分かった。君達に友達と聞いたのが間違いだった。他人以上知人未満の同性に対して無難に会話を始める方法を教えてほしい

 

30:異世界の名無し ID:JgVJMbs0c

 >>29

(^^)

 

31:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 >>30

 おい笑って誤魔化すな

 

32:異世界の名無し ID:K3vUM6xj3

 >>29

 同じ奴隷仲間の子とは何度か話した事はあるわよ。今日の昼食のパンに何個カビ染みが付いてたかとか

 

33:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 >>32

 待って、ここ地獄を作ろうのコーナーじゃないよ? 

 

34:異世界の名無し ID:zHLG18Xhs

 皆まだまだ社会経験が足りへんな。女の子との会話では女の子から話題を引き出すのが大事なんや。せやから女の子から話しかけて来た時の会話は比較的イージーに進む筈やで、適当に相槌を打ってればええからな。勿論この場合の適当は正確な意味での適当や

 

35:異世界の名無し ID:eNDQ1RTw7

 へ、変態がマトモな事喋ってる……

 

36:異世界の名無し ID:fbjHwc3Uj

 >>34

 コイツ偽物だろ

 

37:異世界の名無し ID:zHLG18Xhs

 >>36

 何でまだ3レスしかしてへんのに偽物扱いやねん! おまいらがワイの何を知っとうねん! 

 

38:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 >>34

 なるほど、会話さえ引き出せれば後は流れで行けると

 

39:異世界の名無し ID:tLQj/e6du

 >>37

 変態性……ですかねぇ

 

40:異世界の名無し ID:zHLG18Xhs

 >>38

 せやせや、最初は遠巻きに近況を探りながら、相手が語り出したそうにしてる所を見つけて引っ張り出すんや、女の子はいつでも共感を求めとるんやからな。後これは男でも女でも同じやけど餅つきみたいな会話と相槌のテンポの良さも無いと、ナイーブな子からしたら自分との会話を楽しめていないんじゃないかって不安にさせるかも知れんから気つけなアカンで

 

41:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 なるほど、相手に進んで語らせるのと会話のテンポ感

 

 ……出来たら>>24みたいな質問はしてないんだよなあ

 

42:異世界の名無し ID:zHLG18Xhs

 せやろな。でもな、そもそも相手がどんな人物か分からん以上こっちも当たり障り無い事しか言えへんねんな

 

43:異世界の名無し ID:xVvOQVyWM

 確かになあ。せめて歳は教えてくれない? 

 

44:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 >>43

 高校生位の女の子。それ以上はちょっと言えないかな

 

45:異世界の名無し ID:8juC0KLuP

 イッチは確か16位やったよな、なら普通に遊びに行こうぜで良いんやない? 

 

46:異世界の名無し ID:K3vUM6xj3

 >>45

 そうね明日の約束を果たせる環境ならそれが一番じゃないかしら。私は同い年の子が居ても文字通りの奴隷の首輪自慢しかする事なかったけど。あの子、まだ生きてるかしら

 

47:異世界の名無し ID:DM93nYCfr

 >>46

 隙自語。

 

48:異世界の名無し ID:tLQj/e6du

 >>46

 隙を見せたワイらが悪いのは分かってる。頼むから闇を広げんでクレメンス

 

49:異世界の名無し ID:mX+wXxA8C

 >>46

 旦那様パワーで助けに行こか? 

 

50:異世界の美少女イッチ ID:nNcEEDidp

 >>45

 無難だけど、一度それで行ってみるか

 って事でしばらく居なくなるから。報告は一通り終わってからでね

 

51:異世界の名無し ID:C6gChviE2

 幸運を祈る

 

52:異世界の名無し ID:lsnz8lL/L

 当たって砕けてこい

 

53:異世界の名無し ID:4OQ7Q3Lxe

 頑張れー

 

 

 

 

 ──✳︎──

 

 

 

「……」

 

 俺は1人、自室で杖を見つめていた。この前の騒ぎで俺に謎の力を与えてくれた贈り物を。

 

「……返そうと思えば返せるが」

 

 心の中ではそう思ってはいるが、人間、一度手に入れた力を手放すのは億劫になるものだ。それに俺はこの杖を使った事で『魔法使い』なる者の存在とそれを縛るルールを知った。書かれていたのは「mahoutukainoru-ru.txt」、句点はおろか改行すらない地獄の様なテキストファイルだった。

 

「もし彼女がこの杖の力を知っていて俺に渡したと言うなら、いやそれは希望的観測か」

 

 出来れば、あの様な少女がこんな力を持っていたなどとは思いたくないが、それは今現在不可能だろう。

 

 恐らく彼女は……鞍馬ミドリは魔法を知っていた。

 

 更に推測を重ねれば、彼女は魔法使いではないのだろうと思う。

 

 彼女がもしルールを守る魔法使いだったなら、俺に魔法に関連する物を渡す筈もない、渡したとしてもそのまま破壊される所だ。

 

「それに彼女の態度は今思えば妙だった」

 

 俺は関わった人の多くからロボットらしくない、正確に言えばAIらしくないと思われているらしい。尤も、自分がそう認識している訳ではなく昔ノゾミに言われて気付いたのだが。

 彼女は俺と関わってもロボットらしくない、なんて感想も顔も漏らさなかった。子供だからと言えばそれまでだが、どうにも気にかかる。

 

「いや、子供を疑うなんてどうかしている」

 

 しかし、そうは言っても思考の間隙に潜む「もしも」の3文字。既に俺はあり得ないを通り越している。今立っているのは何もかもがあり得るかもしれない魔法の世界。マトモな考えは捨てるべきなのか。

 

「夜回りで他の魔法使いと出会えれば少しは他の情報も掴めただろうが、結局会えたのはあの1夜だけ。魔法使いとはやはり人手不足なのか?」

 

 俺は力を得てからと言うもの真昼街(しんちゅうがい)の夜回りを毎日していた。理由は人助けと掲示板では言ったが、それ以外の理由もまだある。

 杖によって生まれたデータの中には魔物なるものの存在も刻まれていた。酷いと一言で片付けるのも憚られる……血と悲鳴に満ちた虐殺を背景に魔物が全てを蹂躙する悪辣なスナッフフィルムの様な記憶を見てしまった以上、この街に魔物がのさばる事を見過ごす訳にもいかなくなった。

 

 それ以来、夜回りを欠かす事は無い。充電時間に余裕が無くなり、常に充電残量に気を配る事になったが。

 

 またそれと共に、私のメモリには謎の映像が断片的に記録されていた。それには赤毛の少女の姿ばかりが映っているが、どうも靄が掛かった様に不鮮明で未だに正体は分かっていない。

 

 そう、考え込んでいた時だった。ノックの音が部屋にこだまし、俺は咄嗟に杖をメイド服のエプロンの下に隠す。

 

「ねぇリッター、居る?」

 

 鈴の鳴る様な声色、ノゾミの声だ。声紋検査に掛ける必要もない。

 

「居ますよ。ドアを開けますので下がってください」

「はーい」

 

 俺は返事を聞いて少ししてからドアを開く。そして、車椅子に乗ってしおらしく待っている彼女を見て、何かいつもと違う雰囲気を感じた。

 

「その、リッター。話があるんだよね」

 

 電動車椅子に身を預ける彼女の姿はいつもと同じでもその声はどこか……ソワソワした様な、浮わついた猫撫で声だった事を。

 

 ……どうしたと言うのだろうか。この前の青髪の女の騒動を思い出した? 

 

 いやいや、これは恐らく違う。頭の中に残る物はそう示している。俺があの時杖を取り変身してからと言うもの、謎のデータが記憶領域に残り続けていた。

 

 例のテキストファイル、そこには魔法使いと呼ばれる存在が何らかの手段……恐らくは魔法によって一般人の魔法に関する記憶を消す事が可能だと取れる文言があった。と同時に、ロボットなどの自律思考型の機械が魔法の存在を知れば破壊すると言う少々過激なやり口についても記載されていた。

 

 つまり、魔法使い達はロボットに魔法の存在をどうしても知られたくないと考えられる。その「どうしても」があるのなら、脆弱な効力しかないとは考え難い。

 

 ならば他に可能性としては……

 

「その……さ、外に遊びに行きたいんだけど、良いかな?」

 

 瞬間、俺の思考回路はフリーズした。

 

「はい? 外? 庭ですか?」

 

 そうは言う、肩透かしを喰らいたくないからだ。けれども頭の片隅には期待が滲む。

 

 今まで自分の為に何かを願った事の無いノゾミが……俺の目を見て言う。澄んだ碧眼に、決意の赤が混じっている様に見えた。

 

「キズナちゃんと、外に遊びに行きたいんだ」──車椅子の手すりを血管が浮き出る程に強く握って、そう言ってくれた。

 

 初めは、困惑。いきなりの事だ、少し面食らってしまった。表情に現れる事などないがそれでも驚いた。今までノゾミがこんな風にお願いをしてくれた事など無かったからだ。

 

 次に、喜びだ。

 

 誰かと遊びに行きたいと、その言葉に勇気を必要としたのは見て取れる。それを必要とさせてしまった己の至らなさに不甲斐無さを覚えながらも、俺は早々と記念すべき今日に向けて送れる最大限の持て成しを考えていた。

 

「……今日の晩ご飯は赤飯ですね」

「ちょっと大袈裟じゃない?」

「大袈裟ではありません。ノゾミの従者とも言える私にとって貴女の成長はこの上無い喜びです」

「誰かと外に行くだけで祝われてたらキリ無いよ?」

「そうですね、でも私にとっては重要な事です」

「あ〜頑固だよね、見た目以上に中身がお堅いよ」

 

 人の記憶は胡乱なものだが今の俺は人では無い。ずっと鮮明にこの頭の中にある。声も、形も、色ですら、克明に刻まれている。

 

「私の記憶は人間の様に朧げに残ってくれる訳ではありませんから。記念すべき日に何もしなかったと言う記憶まで残ります。いつまでも残る記憶になるのなら、いつだって華やいだ物を残したいんです」

 

 するとノゾミは、目尻を下ろし、どこか仕方なさげな笑みを浮かべて言った。

 

「やっぱりリッターって普通のロボットと違うよね。ソフトウェアとかハードウェア以外の、理屈の通らない場所で動いてる。……僕は思うよ時々。人らしさって何かって。それはきっと自分で自分を動かせる事だよ。例えどんな姿形になっても自分で自分を動かせる実感がある限り、人らしさや人の尊厳を持てる。だからリッターも人として認められる日が来る。必ず」

 

 ……ノゾミは一体何を考えているのか、時々俺にも分からなくなる事がある。少なくとも俺を思っている言葉に違いはない筈だが、いや、その確信が持てているだけ良しとすべきなのか。

 

 とにかく今は、今の話をしよう。

 

「所で、先程の話ですが……ダメです」

「どうして!? 今リッター祝おうとしてくれてたじゃん!」

「それはそれ、これはこれです」

 

 この前の事件からかれこれ一週間。屋敷のエントランスの復旧もとい屋敷全体の補強工事も秘密裏に進んではいる。

 ただ外に出るとなると話は変わる。あの様な事件が外でも起きるとなれば、俺が一緒に居たとしてもノゾミは勿論、枯草さんや他の人々にまで危害が及ぶ可能性がある。掲示板の「ノゾミを軸に事件が起きるのでは」と言うアドバイスを鵜呑みにする訳では無いが、もしそうなったらを考えた時、無責任に「いいですよ」とは言えない。現実になれば、何よりノゾミを傷付ける事になる。

 

「……お願い」

「悲しそうに言ってもダメです」

 

 車椅子に座って居る都合上大体の人に対して上目遣いにならざるを得ないノゾミだが、その金髪碧眼に際立って美麗な顔付きが合わさると最早凶器と言える。そう、外に出せば変な男に狙われかねないと言う懸念もある。幾ら技術の発達で美人が量産出来るとしても、需要があるから量産されるのは当たり前の前提だ。

 

 勿論一番は一緒に出られる事だが、最近は人助けではなく不審者を探すパトロールにシフトして来た夜間外出の都合もあり、充電がフルに行えない日も増えて来た。外で充電切れを起こそうものなら優に100kgを超える粗大ゴミが誕生してしまうだろう。それはそれでかなりの迷惑になる。俺の代わりが居れば……いや、それはそれで心配が勝るか。

 

「ダメ……?」

「貴女の事を思っている、などと押し付けがましくは言いません。ただ私があらゆる懸念を抱えているからです」

「懸念? この前のは純粋な災害で運が悪かっただけだよ」

「機械の私が言うのも難ですが、運と言う物もあながち馬鹿には出来ませんよ」

 

 かと言って彼女を納得させる理由も無いのが苦しい所だ。魔法などの話が通じるとは思えない。どうするか。

 

「ならさ、リッターはどうしたら良いと思う?」

 

 唐突な質問、俺は反射的に答えを返してしまう。

 

「それは……私の目が届く範囲なら」

 

 そう言った瞬間、彼女の口元が僅かに上がったのが見て取れた。

 

「……じゃあさ。リッターも来れば良いんだよ」

「私が、ですか」

 

 少し考える。この提案は確かに俺の懸念を軽くするものだが、俺がその中に居ると周りが堅苦しくなるのではなかろうか。

 

 と、思っていると彼女は一言付け足した。どこで覚えてきたのかと思える悪い笑みで。

 

「最近何かコソコソやってるみたいだぁ〜し?」

「──知っていたのですか?」

「知ってるよ。リッターが充電を始めたら僕のスマホに通知が来るようにしてるからね。『説明書を読んだのよ』的な感じ?」

 

 そんな機能があったのか、と驚く暇も無かった。自分が意図的に使う機能は意識すれば呼び出せるが、無自覚に使用される機能に関しては俺自身、全てを把握している訳ではないのだ。

 

 説明書があれば良かったのだが、ロボットに対して自分の機能を把握する為に説明書を読めと言う人がどこに居るだろうか、当然オハラから貰っているなんて事もなく。ネットで見るにも機械音痴の俺にとっては天外魔境と同義の空間に飛び込むのは憚られたのだ。

 

「なるほど、ノゾミは賢いですね。その説明書はネットのモノですか?」

 

 無我の境地とはこの事か。厚い面の皮、いや硬い面の皮でさも心当たりがある様に返事をする。ロボットである以上、自分の事を知らないなんて言ってたら彼女に不安を与えるかもしれない。そう、俺はロボット……表情も変わらないのだから違和感無く返事を──

 

「あ〜、やっぱり知らなかったんだね」

「? ……なぜ」

 

 まさか、カマをかけられた? いや、これは……

 

「今はさ、何でもかんでもデジタル化されててね。説明書とかもネットでダウンロード出来るんだ。だから昔、リッターのメンテナンスする時に説明書を見ようと思ってリッターに刻まれてた型番を調べたんだけど──

 

 ──その型番の説明書なんて、どこにも無かったんだよね」

 

 ……説明書が無い? 俺の? どう言う事だ。

 

 彼女は、笑みを真剣な表情に変えていた。

 

「それは、デジタルの説明書だけが無いと言う事では?」

「そう、僕も最初はそう思ってた。だからフリマアプリ、まあネットショップの方で紙の説明書が売られてないか探したんだ。説明書は単品の需要も結構あるから割と売ってたりするんだけど、そっちもハズレだった。もしリッターが紙の説明書の存在を知ってたら、ネットで、じゃなくてあの説明書を読んだのですかって言うよね?」

 

 まさか、真っ当な製品に説明書が存在しないなどあり得るのか。

 

「リッターに直接聞けば良かったんだけど機会が無くてさ。良い機会だと思ってね。この様子だと、リッター自身も知らない機能があるんだね」

「……申し訳ありません。私は嘘をつきました」

「嘘をついた理由は追及しない。リッターは僕を心配してくれたんだよね。でもそれは僕も同じなんだよ」

 

 ふと、ついこの前の枯草さんとの会話を思い出した。

 

『ここに来た初日、私はノゾミさんにある悪口を言ってしまいました』

『悪口を? 一体どの様な』

『リッターさん、貴方への悪口です』

『……私の、ですか』

『すると、ノゾミさんは怒ったんです』

『ノゾミが怒る? そんな事があり得るんですか?』

 

 ノゾミは、両手を車椅子の手すりから浮かし俺の白い鋼の()を握る。

 

 指一本握るのがやっとの手だった頃の彼女は、もう居ないのだ。

 

 ああそうか、彼女は『私』が留守番するのが不安だと言いたいようだ。確かに、彼女からすればあの騒ぎで被害を受けたのは彼女より屋敷自体なのだから、そう思うのも無理は無い。

 

「そう、ですね。ノゾミのメイドとして、ノゾミの想いを踏み躙る訳にはいきません。ノゾミが私をとても大事に扱ってくれているのは理解していたつもりでしたが、それでも過小だったと言う事ですね」

「ちょ、そう明け透けに言われると恥ずかしくなるんだけど僕!」

 

 俺はどうやら、まだノゾミを手のかかる赤子と見ていたらしい。彼女を育てるのに俺が成長せずどうするのか。身体は変わらなくても魂や心は変われる筈だ。

 

 見えない恐怖に怯えていると、きっと彼女に置いて行かれてしまうだろうから。

 

「ええ、分かりました。私も同行しましょう、ただし──」

 

 

 

 ──✳︎──

 

 

 

 ──私は直接ついて行きません。後ろから見ているだけです。話も盗み聞きはしないので気兼ねなく楽しんでください。

 

「……まあ、リッターらしいかな」

 

 僕はリッターを決意させると同時に決意した。僕は僕のやらなくちゃいけない事をやるって。

 

 車椅子に揺られながら僕は流れる景色に目を通す。そうしていると背後から声がした。

 

「? その、質問になるのですが」

「やだなあキズナちゃん、そんな固くならなくて大丈夫だよ。何かな?」

 

 更にその隣からもう1人の声がする。どこか高貴さを感じさせる雰囲気と共に。

 

「そうですわよキズナちゃん、折角のお出かけなんですから」

「……いや、その。これは──」

 

 キズナちゃんは僕の車椅子を押しながら首を左右に振って辺りを見回していた。リッターと比べると車椅子の運転が少し早足だから安定感に欠けるかな。たまに後頭部がキズナちゃんの胴に当たるし、悪くは無いけど……いや、悪くはないんだけど、実家の様な安心感には代えられない。

 

 キズナちゃんとチエちゃん、キズナちゃんは無地のシャツの上にパーカーを着たラフなスタイルで、チエちゃんはシンプルながらもピンポイントにあしらわれたフリルが豪奢なワンピーススタイル。どっちも可愛い、役得役得。

 

「ノゾミさん、耳を貸してください!」

 

 と、何か難しい表情をしたキズナちゃんが僕の耳元で囁いてくる。ちょいくすぐったい。

 

(私はノゾミさんが私達と『魔法使い』についてお話ししたいと言っていたから付いてきたんです。どこまで行く気なんですか!?)

(勿論そのつもりだよ。でもさ、まだ僕って君達の事知らないんだよね〜?)

 

 キズナちゃんはきょとんとしている。ま、そりゃそうか。

 

(まだ信用するしないの段階に僕達は居ないんだ。互いに知ろうとしないと)

(……確かに、互いを知らないまま話し合いをするのは正しくありませんね)

(そう、だから僕とキズナちゃんとチエちゃんの3人で行くんだよ、遊びにね)

 

「なるほど、なるほど? ──いえ、何故そうなるのですか?」

「お父様に外出のお許しを貰えて幸運でした。けれども興奮して10時まで夜更かししてしまいましたの……道中で眠くならないか不安ですわ」

「……待ってください、チエちゃんはどうして遊ぶ気満々なんですか」

「え? 先程ノゾミさんにそう言われてその気に、はっ! まさか何か私が勘違いを!?」

「大丈夫大丈夫、合ってるよ。キズナちゃん、ここを左ね」

「ほっ……安心しましたわ」

 

 チエちゃんはお嬢様だけど、典型的なタカビー(高飛車)じゃなくて優しいしコミュニケーションしやすいのがグッド。これから対人感覚を忘れかけた僕でもなんとかなりそう。

 

「お、そろそろ見えて来たんじゃない?」

「あれは──」

 

 車椅子の動きが止まる、僕は目の前の景色にどこか普遍的な懐かしさを覚えた。

 

 朝日に煌めくパステルカラーの観覧車。絢爛に光るメリーゴーランド。絶叫響くジェットコースター。

 

 いくつものアトラクションが客を楽しませる為に懸命に働いている。あの生真面目さに肖りたいものだね。今日の目的を成功裡に収める為に。

 

「……遊園地、ですか」

「これが一般的な娯楽施設なのですね!」

「一般的、うんまあ最近はデジタルな遊び場と有名テーマパークで肩身は狭いけど、確かにそうかな」

 

 さぁ、今日は頑張ろうか。

 

 

 

 ──✳︎──

 

 

 

 時を同じくして。ノゾミ達の後をつける影が1つ

 

 彼女達の遥か後ろで悠々と歩くその姿は、茶色のハンチングに同色のコート、顔には太い黒縁のメガネを掛けて真っ白な身体と青の瞳を隠す。

 

 彼女の名はリッター、平井ノゾミのただ1人のメイドだ。

 

 リッターは遠巻きに彼女らを見つめていた。

 

「……無事着いた様ですね」

 

 安堵の言葉を漏らすその姿は、子供の独り立ちに一喜一憂する母の様にも見える。

 

 しかし、その更に後ろから近付くもう1つの影。

 

 リッターの背後を取ったその影は、何もせずただ声を投げた。

 

「おい貴様、あの小娘に何か用か」

「ん、いえ私は──」

 

 リッターが振り返った瞬間、2つの影は驚きを共にした。

 

(女の子?)

(機械人形?)

 

 胸元に大きく『支配』の2文字が書かれた謎のTシャツを着た黒髪の少女。リッターは彼女の顔にどこか見覚えがある気がしたが、記憶の中をあたってもそんな少女はどこにも居ない。

 

「私はあの車椅子の女の子のメイドを務めているんです」

「ん? 奇遇だな、私もあの濃紺の髪の小娘の召使いを務めている」

 

「この言葉遣いでメイド?」とリッターは疑問に思いつつも話を続けた。

 

「でしたら私達の目的は同じだと思われますが。私は彼女の警護に来ています」

 

「何故メイドが警護役などしている?」と少女は疑問に思いつつも答えを返す。

 

「私はあの小娘の見張り役だ。尤も、勝手にやっている事だが」

 

 少女は腕を組み、ふんすと鼻を鳴らす。しかしリッターにとっては全く知らない誰かでその素性を明らかにしない限り、不審は拭えない。

 

「……」

「……」

(勝手にって……本当に雑賀さんのメイドなのか?)

(機械人形でメイドで警護役? 胡乱な奴だな)

 

 

 

(──怪しい)

 

 

 

 この時、2つの心は1つになった。

 

「なら、一緒にそうすれば手間もないでしょう」

「確かにな、ならば暫く行動を共にするか」

 

 相互監視の体制が期せずして組まれたのは、運命の悪戯か。

 

 少女の名は鞍馬アオ、またの名をホワイトライダー。幸運にも彼女は水の魔法で髪の色と顔の細部を変えていた。でなければ、リッターは即座に勘付いていただろう。

 

 メイドであり騎士でもある2人はあまりにも早い再会に気付く事もなく歩き出す。互いの名を語ることもなく。

 

 その先に待つものは、果たして。




かしこさステは実はノゾミの方が上です。

後、人に嘘つくロボットとか相手がノゾミじゃなかったら即処分モノだと思う。

誤字報告ありがたや。
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