中身入りロボット、魔法少女の騎士になる。 作:ダイコンハム・レンコーン
友達と遊びに行く。僕はこれほど難易度の高い行為を知らない。今の僕には尚更。
なんたって僕の脚は全く動かない。そんな身体で誰かと遊ぶと、気を遣わせてしまう気がしたから。僕くらいの美少女と一緒ならそれだけで楽しいって子も居るかもしれないけど、少なくとも僕は気を遣っちゃうね。
「ここが遊園地ですのね、初めて見ますわ」
「チエさん、あまりはしゃぐと周りの人に──」
「大丈夫だよ、遊園地ははしゃぐ場所なんだから」
「それもそう、ですね」
キズナちゃんはともかく、チエちゃん気兼ね無く遊んでくれそうで良かった。でも内心後ろめたさがある。だってこれは、彼女達の事を知る為の行為、それも敵となるか味方となるかを見定める為の、打算まみれの約束だったから。
今の僕は、何よりもリッターを優先してしまうし、僕自身がそれを望んでいる。不誠実、分かってるさ、でも。
「じゃあまずは絶叫系行こうか!」
「ぜっ、絶叫系ですか。別に他意はありませんが別の物に──」
「まあ、楽しみですわ!」
今日の日に、僕は何を得られるだろうか。
──✳︎──
「……ふぅ、無事入れた様ですね」
「貴様は彼奴らを何だと思ってるんだ」
「だって、彼女達はまだ子供なんですよ?」
園内に入った3人を追って、大小2人の姿が後からやって来る。普段のメイド服から一転し張り込みを行う刑事の様な姿をしたリッターと、支配の二文字がデカデカとプリントされたダサTに身を包む少女、鞍馬アオの姿だ。
「心配が過ぎるだろう。一口に子供と言っても色々だ」
「……それでも、油断したくないんです」
2人は顔も見合わせず会話する。声色は、焦り、不安。滲み出す様に絞り出された音声には、一言とは思えない重みが含まれている。
「正直に言うと、貴女の事も心配しています」
「はぁ? 何故私が貴様の心配などする」
「入園料、払えませんでしたよね」
アオはその言葉に、思わずリッターの顔を見上げる。すると2人の目が合った。鞍馬アオは年中金欠、稼ぎも自分の為に使わず家に納めている。故に、遊興費なんてものは彼女の辞書に存在しない。
「私は借りを作らん。必ず返すつもりだ」
「対価を求めている訳ではありません。ただ、貴女が何か苦しい立場にいるのなら、何かを手伝いたい、そう思っただけです」
「それがいつか余計な世話にならなければ良いがな」
「それでも止めるつもりはありません」
心当たりがなくもないリッターだったが、ノータイムで言い返す。言葉のジャブが飛び交う一見険悪なムードだが、これでも2人は存外に会話を弾ませているつもりだった。互いに似た所があり、それでいて似た立場を持つからこそである。最も、互いにメイドであると確証は抱けてはいないが。
「見ろ、小娘どもが行くぞ」
「問題ありません、追いましょう」
リッターは何気なくアオの手を引き歩き出す。遊園地を行く人混みに流されない様に。アオは反射で手を振り解こうとしたが、恩人(?)に対して不義理だと感じ、渋々連れられていく。
遊園地の賑わいは、朝から昼にかけより一層増していくだろう。そうなればリッターはアオの手を離さない。それが予想されても尚、アオが不愉快に思わなかったのは、リッターの手が雪解け水の様に冷たかったからだろう。彼女が水と卑近な存在である故に。
「……機械人形が貴様の様な奴だらけなら、1つ調達するのも悪くはないな」
アオの心には、初めての
──✳︎──
「や〜久しぶりで楽しかったぁ」
「……あれが、ジェットコースターと言う物ですのね、今までで感じた事のない恐怖を感じましたの」
「うぷっ……」
三者三様。気持ち良さげに伸びをするノゾミ、震えるチエ、顔色が悪いキズナ。最後の1人は2人に背中を摩られていた。
「わかりません。何故人はあんなものに乗りたがるのでしょうか」
まるで怨嗟の如き声色で呟く彼女を2人は苦笑いしながら見ている。
「じゃあ、休憩しようか」
ノゾミは、ここぞとばかりに提案した。この機会を設けた1番の理由を果たす為に。彼女達が何者であるか、己の中に定める為に。
『リッター、僕達休憩するから、次行きたいアトラクションの待ち時間を確認して欲しいんだけど、大丈夫かな?』
『承知しました』
リッターにこの場面を見せない様、予め用意していた言い訳をメールで送信したノゾミは、了承を確認するとベンチへ2人を案内する。ノゾミ自身は車椅子でベンチの隣に並んでいた。
「──2人はさ、意味の分からないルールってどう思う」
「それが、どうしたと……うっぷ」
キズナは、チエの健康的に実った太ももに頭を置き、げっそりとした顔で横になっている。ノゾミは少し羨ましいと思った。
「キズナちゃん、無理をなさらないでくださいまし」
魔法使い。一言で言えばファンタジックな物だが、厳密に言い表すとなると難しい物がある。敵、味方、思想。むしろ、何一つとして同じ物は無い。真に自分と同じ視座に立てるのは、それこそそこに居る自分自身だけだ。ノゾミは今、彼女達を仲間とは思っていない。
多少の差異なら受け入れよう。ノゾミは決別すらも手段としてこの場面に臨む。
「……どうして、あんなルールがあるのかなって」
「それは」
2人はノゾミの言葉を察した。
「スパイ映画みたいに、自分の姿を映した監視カメラを破壊するみたいなノリなのかな? まあ、僕には
チエは、ノゾミと共に魔法使いとして活動する事をこの機会に目論んでいた。1人で戦う事は、寂しい事だと知っていたからだ。けれども、その計画には早くも暗雲が立ち込めていた。
「それは、仕方ない事です。前に言った事がありますよね、最悪のランプの魔神の話を」
──『人の欲望の行き着く先、それが機械です。ですがそれはあくまでも道具でしかない、それも人の願いを叶える為の。それがあらゆる生命体の願いに結びつく力、魔力と出会えばそれは……人の願いの為に全てを歪める最悪のランプの魔神になってしまう』
ノゾミの脳裏を過るのはいつかの日の彼女の言葉。機械とは人が自ら作り上げた願いを叶える願望機。
「
「それは、例えば石ころでも?」
「……そうですね。あり得ない話ではありません。十人、の人間が同じ石ころを偏愛したとすれば、そこに強い祈りが篭り、あらゆる願いを叶える
彼女は続けて語る。
──物に魂は無い、それは水鏡の様に刺激に波紋と飛沫を返し、映した物を映し返すだけ、と。
「……ノゾミさん。貴女はやはりリッターさんから距離を取るべきです。いつか貴女の祈りが、彼女を願望機としてしまう前に」
「『トライスター』だっけ、まさか、それに勧誘してる?」
「情報は知っておくに越した事はない、違いますか」
ノゾミはまだ頷けなかった。近くに置けばリッターが変質し、遠くに居ればいざと言う時に助けられない。ここまで矛盾を抱えてしまう事に、運命はリッターを嫌っているのかと嫌気が差すノゾミ。
それを見て、キズナは体を起こし、ノゾミの方を見る。
「──私も、彼女を破壊する様な事はしたくありません、から」
ノゾミは見た。色付き眼鏡の奥にある鋭い瞳が右往左往し、頬を赤らめ毛先を弄ぶ彼女は、まるで──
「……まさか、僕からリッターを離そうとした理由って」
「ち、違います! そんな邪な考えで私は──」
「じゃあ、僕とリッターの間に挟まるつもり」
「だから、違いますって!」
そんなやり取りの最中。
──ズバン!
とチエが手を叩く。余りの大きな音に、道行く人々が振り返るが、彼女は気にせず2人の間に割って入った。
「折角の楽しい休日なんですから、難しい話はやめに致しましょう。ここは遊ぶ場所なんでしょう?」
笑顔一つにクルリと回った彼女は、そのまま群衆の中へ走り込んでいく。2人は一瞬惚けて顔を見合わせると。急いでチエを追い始めた。
「……確かに、キズナちゃんの言う事は正しいのかも知れない」
「それは納得したと、そう言う事ですか」
「いや、寧ろ納得しない理由が増えた。だって僕は、そんな理由で好きを諦められないから」
「ノゾミさん……」
それでもまだ、2人は平行線のまま──
──✳︎──
「何故私までアトラクションの待ち時間を見に行かねばならぬ」
「私の主人がそう言った以上、他の方にも見せる訳にはいきませんから」
そう言って俺達は園内を歩いていた。小さな子供にロボット1台。周りの人は賑やかな声に混じりひそひそと呟く。
「ねえ、アレって──」
「ロボット1台に子供? 虐待じゃない?」
「あの子、可哀想」
眼下の少女の顔は見えないが、雰囲気は徐々に不機嫌そのものになっていく。子供のお守りには慣れていない、ノゾミは特別賢い子供だったからだ。不機嫌の理由を聞くのも躊躇われるが、そのままにしておくのはもっと問題だ。
やや大人びた、と言うか傲岸不遜な口振りだが、それでも子供は子供だ。
「……何か、嫌な事でもありましたか」
「現在進行形で起きている。何故に奴らは貴様を悪しき様に言う?」
「それは、仕方ない事です。人は人に育てられてこそ。人が機械に育てられるのは、まるで家畜や植物の様な物だと言う生理的な嫌悪によるものです」
そう言うと、尚不機嫌さを増した彼女。困った、俺には少女の機嫌を取る方法なんて心当たりが無い。……ん? アイス、ポップコーン、チュロス。
「これだ」
「何だ、どこへ行く、小娘どもは真反対だが──」
「失礼します。バニラ味ソーダ味のアイスをカップ、BOXポップコーン、チョコ味のチュロスを」
「だから何を──」
俺は、彼女の前に菓子を差し出す。困惑の中にあった彼女は、やがて理解したかの様に菓子に指を指した。
カップ入りのアイスに、紐付きのキャラクターBOXに入ったポップコーン、袋入りのチュロス。
「まさか、これを私に?」
「ええ、嫌な事があれば甘い物ですよ」
すると彼女はそれらを受け取り──ただ手に持っていた。それもそうだ、両手にアイスとチュロスを持てば食べられないだろう。俺は片方を持っておこうとして──
「これは、妹達にとっておく」
「妹が居るんですか?」
「……ああ、私が私である理由の様な物だ」
そう語る彼女の様子は、先程までのどこか冷めた様子とは違い、母性を感じさせる優しい笑みを浮かべていた。それ程までに、彼女は妹達を想っているのだろう。
恐らくは、自分の為に金を使う事すらもせずに。
「アイスだけでも食べて下さい。溶けてしまいますから」
「別に、アイス程度私の力にかかれば──」
「力?」
力、もしかして彼女も魔法使いでは──
「──私の永久凍結の邪気眼に掛かれば、この様な氷菓などたちまちに氷付いてしまうだろう」
──いや、
「……危ない所だった」
「危ない所?」
「いや、この茶色い棒を落としそうになっただけだ」
「では、私が持っておきます。それに元々、貴女に食べて欲しくて買ったんです。一つ位は食べて下さい」
そう言うといよいよ諦めもついたのか、彼女は俺にチュロスを預けると、アイスをプラスチックのスプーンで掬い一口。
「……甘い」
「たかがアイスでも食べる場所が違えばまた格別です」
「貴様、これの味など知っているのか?」
「と、データにはあります」
多分、悪い子ではないんだろう。俺がそう信じ始めたその時。
「馬鹿な……!」
「何が──あれは」
──空が割れた。