中身入りロボット、魔法少女の騎士になる。   作:ダイコンハム・レンコーン

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ギャザービート

 弾丸とミサイルの雨を掻い潜り、リッターは鞍馬アオを射線から外す様に動き出す。コートの下から取り出したるは銀の地に赤の紋様が入った魔法の杖。

 

 ──彼は覚悟を決め切れていない。それでもやろうとする意志があった。

 

 正体の分からない少女の前で変身するリスクは想像も出来ない。それでも身体が勝手に動くのだ。それが兵士であったからか、男であったからかなど、今となってはどうでも良いと彼は思う。

 

 彼は杖に意志を込める。握る杖の先が光り輝き、虚空に軌跡を残す。

 

 彼は空に銀色の円を描く。小さな円は内に紋様を伴って拡大し、身の丈程はある魔法陣へ変わる。彼はその中を走り抜けた。

 

「狙いはこっちだろう」

 

 変化は一瞬。ソードランスを引き摺りながら飛び出した銀色の騎士は火花を散らしながらくるりと回って静止する。彼に向けられた銃口の数々は、赤熱し白煙を蒸していた。

 

 銀と黒が睨み合う。両者には表情を作る機能などは無いが、それが適切だと言える雰囲気だ。

 

「こちらから──!?」

 

 先んじて動くのはリッター、だが、その足は止まる。

 

 ──否、止(・)め(・)ら(・)れ(・)た(・)。まるで貼り付けられた様に動きを止めた身体に、彼は一瞬思考が飛んだ。

 

『アームレイカー:マスブレード、使用します』

「っ、『颶風(シュツルム)』!」

 

 だが彼は辛うじて鋒が向いていたランスの先から風魔法を噴射し、青い炎を吹かして飛び掛かる鈍色の大剣から逃れた。

 

「動ける……!」

 

 一拍おいて訪れたのは、困惑、驚愕。目の前の機体が何をしたのか、自身が把握出来ない事に苛立ちすら湧きそうな程。

 

『アームレイカー:ミキサー、使用します』

 

 彼は考える。攻撃自体は問題無い。だが近付けば──

 

「っ、また身体が」

 

 ──身体がピタリと動きを止める。

 

 彼は『颶風(シュツルム)』で脱出する。声と意思一つで行使出来る魔法がなければ、とっくに終わっていただろう。だが確かめた事で彼は確信する。近付かなければ問題は無い、と。

 

「『旋風(ヴィルベルヴィント)』」

 

 ランスを覆う様に風がとぐろを巻く。以前はランスをドリルの様に仕立て上げた魔法だが、活用法はまだある。記憶エリアの『mahou.txt』には、使用法はあっても活用法は無い。故に実地で確かめ、知った事は少なくは無い。これもその一つ。

 

「撃ち抜け!」

 

 より集まった風が解き放たれる。唸る風が黒鉄を喰い散らす様に飛び掛かる。まるで風の弾丸の様でもあった。

 

 すると黒い機体は、予想外の攻撃に回避をし損ね左肩肩部の装甲に深い損傷を残す。

 

『左腕武装をパージ』

 

 ミキサーなる複合兵装の保持は困難と判断したか、黒い機体はそれを捨て、両手にマスブレードを握る。女性を模した機体が無骨な大剣を構える様はアンバランスもいいところだ、と彼はこの世界の非常識さを改めて痛感する。

 

 そして、彼は焦っていた。

 

 ──バッテリー残量20%以下。

 

 システムメッセージは警告する。

 

 リッターの魔法はバッテリーのリソースを大きく消耗する。フル充電でも満足に戦えるのは1日一回。夜のパトロールに時間を割く分、より継続戦闘時間は短くなっていた。

 

「──自己管理も出来ないとは、訓練校からやり直しだな」

 

 自らを奮い立たせる慣れない軽口も、今はどこか空虚だ。万全であれば彼は問題なく戦えた筈だ。彼は黒い機体が何をしているか、今理解もした。

 

「ジャミングか……!」

 

 リッターは身体の制御に無線通信を利用している、とはノゾミの談。人間で例えるならば、脳が身体の回路を通し電気信号を送るのに対し、リッターは脳から電波を各部の受信装置に送り、そこから電気信号を送る様なものである。

 

 つまり、その電波を阻害する要因があった場合、リッターの動作は妨げられる可能性があった。

 

 兵士として生きていた彼にもその知識はあったが、それが自分自身に作用するなどとは思いもしなかったらしい。その動揺故にか、判断を誤った。

 

 マスブレード一刀となった黒い機体は、刀身のブースターを蒸して積極的に近接戦を仕掛け始めたのだ。周囲の被害を抑える為、先に火器を排除したが、それが裏目に出た。

 

 リッターは遊園地のアトラクションを盾に、時に移動手段にと距離を取りながら、刻一刻と迫るタイムリミット(電池切れ)に焦りを覚える。

 

(視界から消えての奇襲、いやダメだ。相手を振り切る時間が無い。なら、『旋風(ヴィルベルヴィント)』で遠距離攻撃──は、弾速を上げるにはリソースを消耗する上、機動力の増した相手にどこまで通用するか。運に任せての特攻は最終手段だ)

 

(そうだ──アレを使えば)

 

 リッターは考える。そして、一つの案を思い付く。

 

 ──バッテリー残量10%以下。

 

 システムからの最後の警告だ。間違えば後はない。彼が逃しても無事で居られるか保証はない。

 

 故に、勝ちの目が限りなく高い手段を選ぶ。それが彼だった。

 

 地面を蹴り上げ、迫るのは黒い機体。その姿はまるでリッターの影の様だった。

 

『マスブレード、出力最大』

「『颶風(シュツルム)』!」

『防御します』

 

 迫る影に魔法を放ち、距離を取ると同時に自身は加速。目的地へと飛んでいく。目指す場所は、接敵したあの場所だ。

 

(アレが俺と同型機なら、使える筈だ──)

 

 彼の目には、先程パージされた複合兵装、ミキサーが転がっていた。

 

「取った──っ!」

 

 それを拾い上げ、リッターは左腕を差し込む。

 

 ジャミングを発するあの黒い機体は、無線による操作では動けない。つまり、リッターよりは幾分か反応速度が遅れるのである。弾丸ならば、その遅れを隙として撃ち抜く事も可能だとリッターは判断した。

 

 これはまだ使って日が浅い魔法より、昔取った杵柄である銃器の方が信頼できると考えたが故である。

 

 だが。

 

 ──ドライバインストール中:60%

 

 異なる機械同士を接続するには、ドライバと呼ばれる互いの仕様の差異を埋めるものが必要になる。リッターにはミキサーを使用する為のドライバがインストールされていなかったのだ。

 

「っ! こんな時に!」

 

 彼のバッテリーは底を尽き掛けている。

 

 この一瞬は致命的な遅れだった。黒い機体が迫ればジャミングによって抵抗も出来ず破壊される。

 

 対抗策は限られていた。

 

「こうなれば──」

 

 黒い機体は峰を背後に構え加速の姿勢だ。リッターは捨て身で魔法を行使しようとした。その時。

 

「借りは返すぞ」

 

 リッターの背後から幾つかの銀色の雨が通り過ぎ、黒い機体を撃ち抜かんとする。堪らずそれは防御の為、マスブレードを盾の様に構えた。

 

 銀色の雨粒はマスブレードを貫けず、そのまま霧散する。

 

 だが、その一瞬は何よりも大きな勝機へと繋がっていた。

 

 ──ドライバインストール中:100%

 

 彼の頭の中で、無機質な勝利の女神の声がする。

 

 ──『特殊兵装・収束魔導砲(ギャザービート):使用可能』

 

 咄嗟に選んだ兵装の名は、ギャザービート。ミキサーは中央から上下に開き、内部に隠された未使用の砲身を露出させる。

 

 光が砲身を満たす。それと引き換えに彼の身体から力が抜けていく。

 

『チャージ完了』

 

 目減りするバッテリーも厭わず、彼は叫んだ。

 

「撃(て)ぇっ!」

『防御、不可能。回避行動に──』

「回避などさせん!」

 

 銀色の雨粒が更に数滴打ちつけ、逃げようとした黒い機体を釘付けにした。それが、最後。後は光の奔流が全てを呑み込んだ。

 

 そして、勝負は決した。

 

 最後に立っていたのは2人、リッターと鞍馬アオだった。

 

 リッターは、振り返り、青(・)い(・)髪の少女の姿を見る。

 

「君は、この前の襲撃者だったんだな」

「ああ、そうだ」

「何か、理由があるのか」

「私が選んだ事だ」

 

 遮る様な言葉に、リッターは俯きながら変身を解く。どちらにせよ、限界だった。

 これがあの少女の策ならば、それは完璧だ。と感心すらしながら、膝を突く。バッテリーはもう無い。後は解体されるのを待つだけか、とリッターは覚悟した。

 

「……その杖はどうした」

 

 アオは、地面に転がる銀と赤の杖を拾い上げる。それは彼女にとって見慣れた物。家族の持ち物だった。

 

「受け取ったものだ」

「そうか──あの子が渡したのか」

 

 リッターは少女の名前を伏せた。もしもの事態を避けるために。だがアオは何かに納得した様に、力尽きかけたリッターの側に歩み寄る。

 

「ならば貴様──

 

 ──私達の家族になれ」

 

 リッターは、目の前が真っ暗になった。




アンケートを追加しました。
今後の展開の参考にします。

TS娘のヤンデレは?(本編にエッセンスを取り込む……かも)

  • 好き
  • 嫌い
  • んにゃぴ……
  • ヤンの方向性による
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