中身入りロボット、魔法少女の騎士になる。   作:ダイコンハム・レンコーン

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一万字超えてるのにまだ魔法少女の変身まで行かないとかウッソだろお前? プロットガバガバじゃん。

今回は掲示板要素無しです。


嵐の先触れ

 燦々と照り付ける日差し、絶え間のない蝉時雨。

 

 急いでいた、俺はこの上なく急いでいた。

 

 こんもりと膨らんだエコバッグを二つ抱えてクラシックなメイド服を着ながら街を行くロボットは屋敷のあるこの街、真昼街(しんちゅうがい)ではもはや見慣れた光景となっている。他ならぬ俺な訳だが。

 ただ今日は珍しく急ぎ足と言う事もあり、普段なら通り過ぎる見慣れた人々も奇妙な物を見る様に目で追ってくる。

 

 急ぎの理由は先程の掲示板とやらで得た情報が理由だ。それは近々俺の身の回りで事件が起きると言うもの。もしそれがノゾミに降り掛かると言うのなら気が気ではなかった。

 

 しかし急いでいる時程足を止めたくなる出来事に出会ってしまうと言う物。急いでいる所為か、前を見ている所為かは分からないが。

 

「……何故、こんな場所に」

 

 俺は人通りの少ない市街地で、道端に倒れた緑の髪の少女を見付けたのだ。今は初夏の季節だと言うのに厚手のコートを着たその姿に面食らったが

 

 これが戦時中ならブービートラップの一つではと考えるが、ここは今の所平和な世界、あり得ないと思考の外に追い出した。

 

「大丈夫ですか?」

 

 取り敢えず倒れているヒトが居れば肩を叩く。決して無理に動かしてはならない。

 ついでに首筋に手のひらを当てて体温を測る。俺がこのロボットに搭載された機能を使うには念じるだけで良いと気付いたのはノゾミが初めて風邪を引いた時の事だったな。体温計測機能を使いたいと念じれば俺の視界の片隅でウィンドウが開く。その中にある数字は35.2、思った以上に低い体温だ。熱中症と言う訳でもなさそうだな。

 

「……けほっ、こほっ」

 

 すると突然、見ているこちらが不安になりそうなくらいに咳き込みよろめきながら少女は立ち上がった。季節と相まり、まるで陽炎の様な儚さに見える。だから支えになろうと手を差し出すと、少女は肩を跳ねさせ、俺から距離を取ってしまった。

 

 見ず知らずのロボット故に、警戒されてしまったのだろうか。俺は少女の気持ちを慮れなかった不覚を恥じる。

 

「アナタは、誰? ……くしゅん!」

「私は通りすがりのロボットです。買い出しの帰りで倒れていた貴女を見つけたのです」

 

 ずるずると鼻を啜る少女に対し、俺は違和感を与えないよう、俺はロボットの口調を真似て話す。

『不気味の谷』と言う言葉がある、ヒト型ロボットがヒトそのものではなくヒトに近過ぎる言動を取ると嫌悪を感じると言う話だ。俺はその言葉に倣いあまり人間らしさを出さない様にしている。それはもうかつて上官にしていた様な恭しい態度で、いつもの事だ。

 

 向かい合ってみると、少女はマスクにニット帽にマフラーと防寒着を着込みに着込みまるで季節感の無い格好をしていた。話し合いの最中にも関わらず、赤い顔で絶えることなく咳とくしゃみを繰り返す。これは風邪、なのだろうか。いささか重症に思えるのだが。

 

「どうして……アナタは平気なの?」

 

 少女は声を震わせややゆったりと話す。もしかすればまだ彼女はロボットの概念に疎いのかも知れない、だから俺に風邪が感染ると考えたのだろう。

 ノゾミはこの少女と同じ歳くらいの頃には既にロボットの事を理解して実際に俺のメンテナンスを業者の代わりに出来るレベルだったからか、俺も少し常識離れ"慣れ"してしまった様だ。この世界で暮らすにもまだまだ至らない事だらけだな。

 

「私はロボットですよ。病気には罹りません」

「そう……なんだ」

「だから心配の必要はありません。絶対に大丈夫です」

「けほっ……ありがとう」

 

 マスクをしていた為はっきりとは分からなかったが、それを聞いた少女は笑っていた気がした。次の瞬間には緩慢な動作で俺の身体にもたれ掛かって来たのでよくは分からなかったが。

 

 だが俺もずっとこうしている訳にもいかない。少女が何か困っているのなら早々に解決し帰宅しなければ。

 

「貴女は何故倒れていたのですか」

「今日、少し体調が良かったからお外で遊ぼうと思って……でも無理だった……こほっ」

「となると、今から帰ろうとしていると言う事ですか」

「……うん」

 

 彼女は躊躇う事なく肯首したが……俺は何とも言えない不安感を抱いていた。彼女の足を見ると、生まれたての子鹿の様にプルプルと震えている。炎天下の帰り道を生き残るビジョンがまるで見えないのだ。

 

「貴女の家に、今家族は居るのでしょうか」

「うん、お姉ちゃんが三人」

「大人の方は居ますか」

「一番上のお姉ちゃんは大人だよ……けほっ」

 

 なるほど、なら家に帰ればひとまずは大丈夫だろう。問題は帰る道程なのだが。

 

 少女を見る。真っ直ぐに伸ばされた緑の髪に透き通る翠眼、マスクに隠れていても分かる幼なげではあるが妙に大人びた雰囲気のある顔立ち。それはいつかの昔のノゾミに似ていた。

 

 ……仕方ない。このまま彼女を一人で帰らせる訳にもいかないだろう。

 

「家はどちらですか」

「えっ?」

「貴女を家まで運びます。家はどちらですか」

「いい……の?」

「勿論です」

 

 腰を落とし、少女の方を見る。首をこてんと傾けている彼女の仕草は萌黄色に近い緑の髪もはらりと靡き、目は潤み、どこか色気を感じさせるものだ。どこかこの世とは思えない──生まれ変わった俺が言うのも何だが──得体の知れない何かを見た、そんな不思議な気分だった。

 

「じゃ、じゃあ……いく、よ?」

「はい、どうぞ」

 

 少女は、壊れ物でも扱う様に、慎重に足と手と俺の身体に掛けていく。子供一人、特に重さなども感じない身体である。何の問題も無い。

 

 俺は少女の道案内を頼りに彼女の家へ向かった。

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 少女を背中に乗せたロボット──俺は彼女の案内のまま進むと、そこには古びたトタン屋根の一軒家があった。所々錆があり、今にも崩れそうな、そんな有り様だ。未来の世界にあって良い物件なのだろうか。

 

「ここが、貴女の家ですか」

「うん……そうだよ」

 

 背中の彼女は俺の顔に自分の顔を擦り付ける様な距離感で会話する。信頼を得たのか今の彼女は妙に気安くなっていた。俺が男のままなら多少は注意していた所だが、今はただの汎用ヒト型ロボット(女性型)である為敢えて言う必要もないだろう。

 ……だが背負っていた時に胸の膨らみがある部分をやたらに触っていたのはどうだろうか。いくら服越しとは言え、柔らかみのないただの隆起した板金だとしても。

 

「家には家族が居るのですよね」

「くちゅん! ……お姉ちゃんが待ってる」

「ならここで別れましょう。私が貴女の家族の前に出ると色々と説明しなければなりませんから」

「えっ……こほっ」

 

 すると彼女は何か絶望した様な声を出した。そんなにも別れるのが嫌だったのだろうか。

 

「大丈夫ですよ。この街で暮らしていればまた会う事だって出来ます。一生の別れじゃありません」

 

 だからこう言った。これは嘘でも方便でもなく本当の事だ。この家からノゾミと暮らす屋敷のある雑木林まではそう離れた距離ではない。俺も定期的な買い出しで外に出る為いつかはまた出会える筈だ。

 

「……ほんとに? わたしの前から消えない?」

 

 すると彼女は深刻そうな声色で喋りながら、俺の首元をぐっと両手で締め付ける。痛くも痒くも苦しくもないが、音で分かる。

 

 きっと彼女は病気がちの子供なのだろう。そのせいで数え切れない程失われた縁があったのだろう。

 

 なら、俺は切れない縁を結ぼうじゃないか。

 

「なら、約束します、私と貴女は必ずまた会える。そしたらまた約束しましょう、次も必ずまた会える様に。規則正しく動くロボットにとって、予定は決定です。必ず果たします」

 

 俺は腰を静かに落とす。少女は背中から降りて、屈む俺の前に回り込み、小指を差し出した。

 

「約束……だよ?」

「約束を忘れるロボットなんて居ませんよ」

 

『ゆびきりげんまん』──随分と懐かしい所作だ。幸いにも俺の手の指も五本ある、その中から白い小指を伸ばし少女の小さな肌色の小指に絡める。

 

『ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった』

 

 ……そうして少女と俺は約束を交わし、家の前で別れようとした。

 

「けほっ! こほっ! ま、待って!!」

 

 すると突然背中を向けた俺に向かい、何かを思い出した様子で彼女は寄って来た。

 

「これ……お守り。何かあったら、これに祈って……えほっ!」

 

 彼女はコートの中から黒をベースに赤い血管の様な模様の入った手首から肘程の長さのあるどこか禍々しい()を取り出し、俺の腹に押し付けた。俺は彼女がそのまま杖を握る手を解こうとしたので、慌ててその杖を手に取ってしまった。

 

「私は当たり前の事をしただけで何かを貰うなど」

「……わたしの大切なもの、要らない?」

「貴女の大切な物ならば尚更──」

「持ってて、欲しい!」

 

 咄嗟に返そうとしたものの、少女の必死な形相に俺は頷く他なかった。この雰囲気で無理に返そうとしても受け取ってくれそうにない。……後で頃合いを見計らってこの家の家族経由で返すべきだろう。

 

「それでは、また──」

「……鞍馬(くらま)ミドリ、お姉ちゃん達にはペイルって呼ばれてるけど、けほっ……わたしの、名前。その、ミドリって呼んで、欲しいな……えほっ」

「──でしたら私の名前も必要ですね。私の名前はリッター。ドイツ語で騎士と言う意味です」

「じゃあ、()()()……リッター」

「ええ、()()()()()()()()、ミドリ」

 

 こうして、ミドリと言う少女との奇妙な出会いは終わった。

 

 病気がちだが思い遣りのある、可愛らしい普通の少女。

 

 屋敷へと帰る道すがら、彼女とまた会えた時には娘の話でもしようと、俺はそう考えていた。

 

 ──しかし、まさかその再会があの様な形で訪れるなど、この時の俺は予想だにしていなかったのだ。




誤字修正ありがたや。
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