中身入りロボット、魔法少女の騎士になる。   作:ダイコンハム・レンコーン

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※今話は掲示板要素ありません。


青の運命(ブルー・ディスティニー)

 ──あの敗北から1週間が過ぎた。

 

 私の身体はあの騎士に敗れた事で小さくなり、それは今も変わらない。

 

「ふふふ、斜め上と意味不明なのはいつもの事でしたけど、今回のは流石に酷いですよぉ? お姉さんはやっぱり私が居ないとダメダメなんですねぇ」

「……ど、どうしたらそんな斜め上の解釈になるんや。殺せなんて一言も言ってへんでワイは! あ゛あ゛あ゛っ゛、信頼度壊れる゛〜!!」

「ホワイトお姉ちゃん……焦り、すぎ? ……こほっ」

 

 帰って来て早々正座させられ、レッドとブラックとペイルからの冷たい視線を浴びるのは来るものがあった。お姉ちゃん久しぶりに泣きそうになったぞ。もう半分泣いてたぞ。

 

 それに加え、私の見た目が幼くなり働ける場所も見つからなくなった事で、ますます家内での私の立場は苦しくなって来た。レッドとブラックは家計を賄う為アルバイトに出ていると言うのに、私は雛鳥が如くそれを待つしかない。

 

 分かるか? 働きもせず子供用の足の長い椅子に座り、妹達が稼いで来た金で食べる飯の味は? カカオを丸齧りするより苦いぞ。

 

 そして、そんな私には2つの選択肢しかなかった。あの騎士との再戦は情報収集の必要性もある以上確定事項。問題はその前だ。

 

 一つは、体力の回復を待つ為に何もせずに待つ事。メリットは早く元通りに戻れると言う事。デメリットは私の精神が情けなさで死ぬ事だ。

 

 もう一つは、今から出来る仕事を探す事。メリットは私の精神の安寧が保証される事。デメリットは回復が遅くなるかもしれないと言う事だ。

 

 そうして選択を迫られた私は──

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

「レッド! ブラック! ペイル! 見つかったぞ!」

 

 軋む床を跳ねる様に蹴り、私は妹達が集う居間に顔を出す。

 

「あらあら? お姉さん、今度はどんな問題を起こして来たんですか?」

「違う! そうじゃない!」

「じゃあ、特売のもやしでも見つけたんか?」

「それも良いが違う!」

「じゃあ……カレシ? ……えほっ」

「どうしてそうなる?!」

 

 私は背中に隠したスーパーのチラシを妹達の眼前に突き出した。妹達の驚く顔が目に浮かぶぞ……。

 

「ん? やっぱり特売やんか。お、ナス安いな」

「だから違うと言っているだろう、ここだ! 広告欄だ!」

 

 チラシの端を私はパンと指さした。指先に灯るのは希望の光、赤と黄色のチラシの中にひっそりと刻まれた言葉は……

 

「ええと、時給5000円、福利厚生完備、メイド募集中、定員一名限り……まあ!」

「5000円? それって、高いの?」

「高いな……特殊なヤツならありえへん事もないけど、特殊清掃やら翻訳やら、今の時代それは殆どロボットや機械の領分やしな……。怪し過ぎへんか?」

「大丈夫だ、問題ない」

「それ問題あるやつのセリフやねん」

 

 揃って顔を顰める妹達に、私は懇切丁寧に説明した。

 

 ──まず、既に面接を受けている事。

 

「……あらあら、また独断専行ですかぁ?」

 

 ──次に、雇い主はどこかの企業の令嬢だと言う事。

 

「どっかの企業って何やねん!? 下調べなく面接行くとか夏休みから活動始め出す就活生か!?」

 

 ──最後に、面接会場で令嬢の前に立った瞬間に私は採用されたと言う事。

 

「……えっ、面接は? と言うか、子供の姿のまま? えほっ、ビックリし過ぎて咳が止まらない……ごほっごほっ!」

 

 ここまで言えばもはやこれ以上の説明も必要ないだろう。私にかかれば面接など只の面通しにしかならないのだ。

 

「お姉さんって、割とガサツな殿方も多い魔界でよく今まで純潔を保ててましたねぇ、びっくりです」

「相互理解の限界を今垣間見たわ」

「お姉ちゃん……目、こわい……」

 

 待っていろ人間ども、明日から私は再び社会に舞い戻る。ふっ、その辺の有象無象の令嬢の世話などこれまでの世界でこなして来た。何のことはない。

 

「くくっ……興奮したら少し眠くなって来たな。歯を磨いてくる」

「……生活スタイルまで見た目相応になっちゃってますねぇ。どうせなら赤ちゃんになってくれたら色々お世話出来たんですけど〜」

「やめてくれやレッド、幼児退行した長女を介護する次女とか色んな意味で地獄や」

 

 ここからだ。私達の華麗なる逆転劇の幕が上がるのは──この時はそう、思っていた。

 

 ──翌日。

 

「……地図アプリとやらはどうしてこうクルクル勝手に回るのだ。人間とは解せぬ物を作るばかりで能がない」

 

 道に迷いながらも辿り着いた隣県の働き先。手元の『スマートホン』と言う複雑怪奇な機械から目を上げれば、そこには長大な鉄柵と豪奢かつ巨大な鉄の門扉が私の前に立っていた。

 

 鉄柵状の門扉からは、白塗りの宮殿の様な豪邸が見える。やや成金趣味に見えるな。権威を象徴するにもし過ぎれば下劣だ。

 

「しかし、どこかで見たような……そうだ」

 

 これは……この前破壊したあの屋敷にどこか似ている。古めかしい造りといい西洋にありそうな意匠といい。偶然だろうが……何か嫌な予感がするぞ。まさか扉が開いたら中から騎士などが飛び出したりしないだろうな。

 

『お待ちしておりましたわ』

 

 独り訝しんでいると、門扉に取り付けられた四角い箱から女の声がした。これは『インターホン』と言う奴だろう。確か離れた場所にも声が届く、だったか。そう、機械の役割などこれくらい単純なくらいが丁度いい。

 

 そしてこの声の主は、この豪邸に暮らす件の令嬢のものだろう。こうして会うのは面接の時以来になる。

 

「今日からここで働きます、鞍馬アオと申す者です」

『ご足労頂き感謝致しますわ。話の続きは是非こちらで致しましょう」

 

 すると、巨大な門が私を歓迎するかの如く、象の咆哮の様な音を立てて開いていく。兵士の1人も寄越さずに門を通すなど、随分と不用心な。

 

 私は豪邸の前に広がる花畑の甘ったるい香りにどこか言いようのない引っ掛かりを覚えながらも、豪邸の扉の前に行き着く。今の背丈では叩き金(ドアノッカー)も使えん。

 

 と、考えた所で思い出す。そう言えば、この世界の者は叩き金など使わないのだったな。今となっては殆ど飾り程度の認識らしい。……改めて、私が居るのは未来だと実感する。

 

 超常の代物よりも、身近な物の概念が変わってしまう方が旧き者にとっては衝撃なのだ。今日も空がくすんで見える様にな。

 

 ……さて、余計な事を考えるのはここまでだ。

 

 私は開かれた扉の向こうに立つ洋装の少女に目を移す。

 

 柔和な白のワンピースを着こなす少女、私のそれより深い青を湛えた髪を螺旋に巻いて肩に通す彼女は、背後に広がる豪奢な装飾に引けを取らない美しさを持っていた。

 

 しかし、記憶の中の令嬢共に比べれば所作や立ち姿はまだまだ未熟だな……身体は男を籠絡するには申し分無い卑しさだが。評価としては令嬢と呼ぶにも烏滸がましい小娘が精々だ。

 

「ごきげんよう」

「この度は貴女様の元で働く事が出来、光栄に……」

「そう畏まってもらう必要はありませんわ。あまりそう言うのには慣れていませんの。出来れば友達の様に接して欲しいのですけれど……」

 

 はぁ……これから給仕になろうと言う者に対して低頭が過ぎるぞ小娘。ましてや友達、それが他者の上にある者としての振る舞いか? 

 

 ……いや、これは私を試しているのか。それならば──

 

 そう考えた時、小娘はやや頬を赤らめてひっそりと呟いた。

 

「そ、その、私の事はチエちゃんと呼んで頂きたく……」

「……」

 

 これは試験か? 如何にふざけた振る舞いをしようと有無を言わず付き従う給仕を見つける為の試験なのか? 

 

「チエ……」

「はぁっ……!」

「……様」

 

 ──いや待て、逆かも知れない。主からの怒りを恐れず忠言出来る者を見極める為の試験の可能性もある。

 

「チエちゃん、そう呼んで頂けないのですか? わたくしも貴女をアオちゃんとお呼びしたいのに……」

「……」

 

 本当にそうなのか? 私が様付けをした途端浮き上がった笑みが萎んで死に掛けの魚の様になっているが……まさか本当に? 

 

 いやいやまさか──

 

「ダメ、ですの?」

 

 ──……はぁ。何が悲しくて妹達以外をちゃん付けなどしなければならないのか。嗚呼、私の不始末の所為か。そうかそうか、ならば仕方ない……

 

「……チエ、ちゃ……ン゜ッ!!」

「っアオちゃん!!」

 

 嗚呼、妹達よ。

 

 ……どうやら私はとんでもない小娘の下で働く事になったのかもしれない。

 

 目の前で満面の笑みを浮かべながら抱き着いてくる小娘の姿を見ながら、私はそう思っていた。

 

「……はっ! そう言えば挨拶がまだでしたわね、アオちゃん。

 

 ──わたくしの名前は雑賀(ぞうが)チエ。『雑賀重機工業』でお馴染み雑賀の()()()ですわ!」

 

 そう言えばこの小娘、誰かに似ている様な……だが、思い出せないな。いや、思い出せないのならば、どうせ大した奴でもないのだろう。

 

「ならばこちらも改めて自己紹介を。私の名前は鞍馬アオ、齢は21、人より成長が遅い身ですので、余りそれについては触れないで貰いたいです」

「ええ、承知しましたわ。これからよろしくお願いします、アオちゃん!」

 

 にしても、顔に押しつけられる胸が鬱陶しい。

 

 全く──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 瞼を閉じれば、暗闇の中にぼんやりと、彼女が居た場所にうっすらと青の陽炎が見えるのだ。

 

 これは姉妹が持つ魔力と魔法に対する特殊な感応能力だ。私は"目"、レッドは"耳"、ブラックは"舌"、ペイルは"手"、どれも微弱な物で強く意識する必要はあるが、至近距離ならばそれで相手が魔法に触れた事がある者か否か暴く事が出来る。

 

 ただし、同じ属性の魔法を扱う相手同士ならば、この力が無くてもそれを知る事が出来る。この小娘に見た魔法の色は青、私と同じ水属性の魔法だ。

 

 つまりこの力が無くとも遅かれ早かれ察する時は来ただろう……当然、小娘が魔法使いであるならば向こうも気付ける事になる。普段から私は見つからない様に魔力の流れを制御している上、今の私は力が弱っている分気付くのは至難の技だ。が、用心するに越した事はないな。

 

 だが私は彼女の下で働くのをやめる気は無い。私には譲れない流儀があるからだ。支配を司る第1の死の"騎士"として生まれたその時から定めて来た流儀が。

 

 それは"騎士として、己が定めた主には仕え続ける"事だ。

 

 元々これは私が働いて妹達に格好をつけたいと言う見栄から来たものだ、ならば尚更に流儀を伴わなければ話にならない。人間の命など長くとも精々50かそこら、私達にとってはごく僅かな時間に過ぎないのだから待つのもそう苦ではない。

 

 そもそも、金が無ければ食っていけない。食っていけなければこの世界では生きてもいけない。私達は任務を果たす為に生き続けなければならず、生きている内は世界の奴隷だ、誰も彼も。

 

 ……まあ悪い事ばかりでもないだろう。それなりの地位があるのなら、それなりの情報もある。それを得ようとすれば時として敵対者と同じ飯を食らう事も必要だ。いつの世でもそれは変わらない。

 

 淡々と忠実に役割をこなすだけ。この世界でも同じ事をすれば良い。そしてあわよくば誇りに土を掛けた銀騎士をこの手で、倒す。

 

()()()()()()()()()()()()()()、精一杯働かせて頂きます。……チエ、ちゃん」

「ええ、喜んで。アオちゃん」

 

 全てが終わるその日が来るまで、精々世話になるぞ、小娘。

 

 

 

 ──だがこの時、私は思いもしなかった。この出会いが、更なる苦境に私を誘う事になろうとは。

 

 

 




この話を書いて思った事。

自分キャラ作りする時に某競争バゲームの影響受け過ぎやろ。

誤字報告ありがたや。
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