響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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幕間:文化祭①

 

 文化祭 

 

 学校イベントの1つでもあるこの行事。

 北宇治高校では9月の後半に実施される。普段生徒しか見かけない校舎内には、私服を着た老若男女の姿が見える。普段とは違う光景。それが一層特別感を醸し出すのだろうか、校内はお祭りの雰囲気に染まっていた。

 

 「焼きそばいかがっすかー!!」

 

 「200円でーす!!」

 

 そんな中、プラカードを持って中庭を歩く男が2人。

 2年3組の出し物、『超⭐︎絶!スーパー激焼そば!!』の宣伝をしているのは、忍と滝野だった。

 

 「反応悪いなー」

 

 「やっぱ名前が悪いんじゃねえの?」

 

 しかし道行く人は素通りする者ばかりだ。それもその筈、唯の男子高校生がプラカードを掲げて大声を出したところで、大した効果は無い。

 

 「やっぱ、花がねーからかな?」

 

 「花って、どうすんのさ?」

 

 こう言うのは女性がやるに越した事は無いのだが、生憎タイミング的に忍と滝野しか宣伝に回れなかった。

 結果、ただの制服を着た男子高校生が振り向かれる訳もなく、この惨状に至っているのだ。

 

 「あと40人くらいかね?」

 

 「うっわ、まだまだじゃん」

 

 指を折りながら忍がそう言うと、滝野がゲンナリとした顔でそう返す。

 何故こんな事になってるのか、時間は30分前まで遡る____

 

 

 

 

 「ちょっとー!?全っ然お客さん来てないんだけどー!?」

 

 屋台の前。頭に三角頭巾を付け、忙しなく焼きそばを作りながらそう言うのは、忍たちと同じく吹奏楽部のパーカス担当である大野美代子だった。

 

 「言ったってねぇ……」

 

 「まぁ、こんなもんだろ」

 

 しかしこの2人にとっては他人事の様で、大野の説教は全て右から左に流れている様子だ。不甲斐なさ過ぎる両者に対し、大野は額に青筋を浮かべる。

 

 「お客さん集めるのがアッキーたちの仕事でしょー!?ただでさえかなり安く売ってんのに、売れなかったら元も子もないじゃない!?」

 

 「言ったってねぇ……」

 

 「まぁ、こんなもんだろ」

 

 しかし大野の訴えは2人に届かない。考えることを辞めたかの様に、同じ事を繰り返す。そしてそれが更に大野の神経を逆撫でしてしまった。

 

 「やる気出せって言ってんの!!もう!!」

 

 「言ったってねぇ……」

 

 「まぁ、こんなもんだろ」

 

 どれだけ言ってもやる気を出さない2人。コピペもここまで来るとシュールである。だがついに堪忍袋の尾が切れたのか、大野は「……分かった」と静かに呟き、焼きそばを作っていたヘラを2人に向ける。

 

 「じゃあこうしよう。ノルマは50人!!」

 

 「「はぁ?」」

 

 突然具体的な数字を出す大野に対し、2人とも素っ頓狂な表情を浮かべる。

 

 「50人集められたら、後は自由にしていいよ」

 

 「お、まじ?」

 

 「よっしゃ「ただし!!」

 

 しかしそれで終わりだとは言わせんとばかりに、大野は言葉を被せる。

 

 

 「集められるまでは宣伝して貰うからね!!」

 

 

 「「………え?」」

 

 

 ____________

 

 

 そして現在。あれから30分経って、成果は5人。

 このままだと午前中どころか、午後も丸々潰れる勢いだった。

 

 「どうするよアッキー」

 

 「うーん、何処かに良い花は転がっていないものか……」

 

 頭を捻り、忍は考える。午後には優子と一緒に回る約束しているのだが……

 

 「何やってんの?アンタたち?」

 

 「あ、花いた」

 

 タイミング良く、吉川優子と言う花が現れた。

 

 

 _____________

 

 

 

 「………私は何をさせられてんの?」

 

 「良いから良いから、そのまま……」

 

 忍に流されるまま、優子は一番人通りが多いであろう中庭のど真ん中にあるベンチに座らされる。

 確かに目立つが、忍が何をしようとしてるのか、優子には見当も付かない。

 

 「ウチの焼きそばタダで食べさせてあげるから、ちょっと待ってて」

 

 「はぁ、別にそれは良いんだけど……」

 

 焼きそばを2つ用意しながら何処か楽しそうにそう言う忍に対し、困惑気味に優子はそう返す。

 また妙な事をやり始めた。

 優子がそう思ったのも束の間、もう1人の影が忍たちに近づいて行った。

 

 

 「あー、いたいた。やっと見つけたよアッキー。何?焼きそばタダでくれるって?」

 

 

 へらりと、飄々とした笑顔を浮かべながらその少女、中川夏紀は忍たちに近づいて来る。

 

 「げっ……」

 

 中川の姿を見て、優子の表情が一瞬にして険しいものに変わった。

 

 「おーっす、なつきち。取り敢えずここ座って座って」

 

 優子の隣をポンポンと叩き、忍は中川に座る様促す。

 

 「何?早食い対決でもしろっての?」

 

 不服そうな表情を見せる優子に対し、中川は随分と楽しそうだ。用意された焼きそば2つと水を見て、そんな事を聞く。

 

 「正解。まぁでも俺とタッキーでやっても盛り上がんないからねぇ。そこでお二人の力をお借りしたい訳ですよ」

 

 「おー、良いねー」

 

 「……なんでアンタは乗り気なのよ……」

 

 いきなり連れてこられたにも関わらず乗り気な中川に対し、少し引き気味に優子はそう呟く。

 

 「もちろんタダとは言わないよ。勝った方にはご褒美用意してあげるから」

 

 「へぇー。何くれるのさ?」

 

 不敵に笑ってそう言う忍に対し、同じく笑って中川もそう返す。そして少し考える様に忍は顎に手を当てる。

 

 「そうだね……じゃあなつきちが勝ったら、これからのお祭りにかかるお金、全部こっちが持つよ」

 

 「……ははーん、それは魅力的」

 

 「タッキーが」

 

 「なんで俺!?」

 

 強引に巻き込まれた滝野から、抗議の声が上がった。

 

 「まあまあ、代わりに優子が勝ったら同じ条件で俺が優子に奢るから」

 

 そんな滝野を宥めるように忍は説明を付け加える。

 つまりは早食い対決に中川が勝てば、滝野が中川に対して食費を持つ。優子が勝てば忍が優子に対して食費を持つと言う事だ。

 

 「なるほど……どっちかが勝てば、どのみち今日はタダ飯が食い放題ってわけね?」

 

 「そう言う事」

 

 「……良いわよ。その話、乗った」

 

 挑戦的な笑みを浮かべて優子がそう言うと、中川も不敵な笑みを浮かべる。

 

 「はっ、上等」

 

 どうやら彼女もやる気満々の様だ。

 

 

 「………あの、俺の意見は?」

 

 

 ただ1人、滝野だけが納得の行ってない表情を浮かべていた。

 

 

 __________

 

 

 『ささーっ!!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!ここにおりまするは世紀の早食い大食い女子2人!!』

 

 拡声器を使い、まるで落語家の様な口調で忍は中庭に居る人の注目を集めさせる。

 

 『挑戦しますは2年3組の"超⭐︎絶!スーパー激焼そば!!"。太めの麺に濃いめのソースがよく絡み、200円とは思えない満足感を味わえる至高の逸品でございます!!』

 

 他とは全く違う宣伝をし始めたのが効果的だったのか、「なになに?」やら「何か始まんのか?」など、周りを囲む様に人も増えてきた。ちゃっかり焼きそばの宣伝もしている。

 

 『向かって右におりますは2年5組、大将、中川夏紀!!目が追いつかないほどの速さで胃袋に掻き込むその姿から、"スピードクイーン"の異名を持つ彼女!!今回もその圧倒的速さで力を見せつけるのか!?皆さん、盛大な拍手を!!!』

 

 見事なまでのデタラメな忍の語りに、周りから拍手が沸き起こる。当の中川は緊張感のかけらも無くヘラリと笑って観客に対して手を振っていた。

 

 『続きましてその逆!!挑戦者!2年6組、吉川優子!!彼女は!………えーっと……結構食べれます!!!以上!!!』

 

 「何で私のはそんなテキトーなのよ!!!」

 

 忍の雑過ぎる説明にすぐさま優子がツッコむと、今度は観客から笑いが起きた。

 掴みは完璧。観客の反応に、しめたと言わんばかりに忍はほくそ笑む。

 

 『さあ、この世紀の一戦!!勝つのは果たしてどちらか!?みなさん注目です!!』

 

 ここまで来ると、周りの観客はかなり多くなっていた。50人は優に超えている。

 

 『さあ始めましょう!!位置についてー!!』

 

 忍が掛け声をかけると、2人とも身構える。今日1日のタダ飯が掛かっているのだ。2人の表情は真剣そのもの。

 

 『GO!!!!』

 

 合図と同時に、2人して一斉に焼きそばを頬張る。

 食べる速度は同じ。

 

 『さあ、始まりました第一回早食い女王決定戦。まずは2人とも焦ってる様子ではありません。解説の滝野さん。これは?』

 

 『ええ、互いに様子を見てるんでしょう。どちらが先に仕掛けるのか見ものですね』

 

 そして男子2人は実況の様な茶番を繰り広げていた。そもそも早食いに戦略も何も無いのだが。

 

 『おっとここで中川選手、水を飲んだ!!仕掛けると言う合図なのか!?それとも挑戦者に対して挑発してるのか!?』

 

 『早いですね。吉川選手、焦ってます』

 

 『さあ、吉川選手、必死に追う!!今のところ中川選手が一歩リードと言うところか!?』

 

 ただの早食い競争なのだが、妙に上手い忍の実況によって会場は徐々に盛り上がってきた。

 

 『中川選手は水と焼きそばを交互に食べながらスピードを落としません!!対して吉川選手!!これはちょっと厳しいかー!?』

 

 『差が付いて来ましたね』

 

 ペースで言えばこのまま中川の勝利は確実。しかしそれも束の間、中川の手が突如としてピタリと止まった。

 

 『おっと中川選手!!いきなりのペースダウン!!これは一体どうしたのかー!?』

 

 『あー、水の配分を考えてませんでしたねー』

 

 『なんとなんと!!まだ焼きそばが残っていると言うのに水はもう切らしてしまったぁ!まだ焼きそばが残っていると言うのにっ!!!』

 

 そしてそのタイミングを見計らったかの様に、優子が追い上げを始める。

 

 『さあそして!これを待っていましたと言わんばかりに吉川選手が追い上げる!!』

 

 『良いですよー!吉川選手、まだ水が残っています!私の財布事情的にも頑張って欲しいです!』

 

 『さあ吉川選手必死に追い上げる!!中川選手も必死に逃げる!!残りはもう僅か!!どっちだ!?中川か!?吉川か!?』

 

 「いけー!!!」「がんばれー!!!」

 

 ヒートアップして来た闘いに、遂に周りの観客からも声援が飛ぶ。

 ただの早食い競争なのに。

 

 『中川選手ペースが上がらない!!対して吉川選手は水を上手く使っている!!!さあどっちだ!!!栄光のタダ飯を掴むのはどっちなのか!?』

 

 そして両者残り一口。これを飲み込めば勝者が決まる。

 

 『勝つのはどっちだー!?!?』

 

 

 そして先に立ち上がったのは、

 

 

 『中川だー!!中川夏紀っ!!やはり女王!!クイーンの称号は伊達ではありませんっ!!』

 

 立ち上がり、ガッツポーズを決める中川の姿がそこにはあった。

 

 『まさに死闘!!まさに名勝負!!ああ、吉川選手!ゆっくりと項垂れています!!』

 

 「いいぞー!!」「ナイスファイトー!!」

 

 そして会場のボルテージは最高潮にまで達していた。

 何度も言うがこれはただの早食い競争である。

 

 『今後もまた、この2人の闘いが続いて行く。そんな事を感じさせる名勝負でしたねー、滝野さん』

 

 『ええ、確かに見応えはありましたが、今後の私の財布が心配です』

 

 『ありがとうございます。因みに今回の早食い対決に使用した"超⭐︎絶!スーパー激焼そば!!"は中庭、2年3組の屋台で出店しております。太めの麺に濃いめのソースがよく絡み、200円とは思えない満足感を味わえる至高の逸品でございます。売り切れ次第の終了となりますので、お買い求めの際はお早めにお願いします!』

 

 最後に忍が宣伝をすると、観客の足は遠のく。もっとも、その向かう先の殆どが2年3組の屋台なのだが。

 一仕事を終えると、忍は激闘を終えた2人の元へと近づいて行った。

 

 「お疲れー。いやー、良かったよー」

 

 「……良かったよじゃ無いわよ!何よあの実況!すっごい恥ずかしかったんだから!」

 

 満足そうにそう言う忍に対し、優子はかなりおかんむりの様だ。

 

 「まあまあ、これも経験って事で。一応これでノルマはクリアしたし」

 

 「ノルマぁ?」

 

 「大野っちから50人集めて来いって言われてたの。それ終わったら宣伝抜けて良いって。多分今のでその倍くらいは屋台に並んでる筈だから」

 

 「………なるほど。私たちはそれに良い様に利用されたって事ね」

 

 不貞腐れた様にそう言う優子に対し、困った様に忍は笑う。

 

 「まー良いじゃん?お詫びに何か奢ってあげるから」

 

 「………全部奢んなさいよ」

 

 尚も機嫌を直さない優子は、むすっとした顔を忍に向けてそう言う。

 

 「もー、分かったよー。もう俺、当番終わりだから、一緒に回るべや」

 

 「うん」

 

 宥める様に忍がそう言うと、優子はようやくベンチから立ち上がった。

 

 「じゃあ、俺たち行くわ。なつきちも協力してくれてありがとねー」

 

 そして、忍は中川の方に顔を向けてお礼を言う。

 

 「ううん、いいよー。アタシも楽しかったし」

 

 対して中川はいつも通りだ。ヘラリと笑みを浮かべてそう言う。

 

 「じゃ、後はタッキーに任せるよー。じゃあにー」

 

 最後にそれだけ言い残すと、忍と優子はその場から離れて行く。

 それを見送ると、中川はニンマリとした笑顔を滝野に向ける。

 

 

 「じゃあ、滝野。今日一日よろしく」

 

 

 「………はい……」

 

 

 財布に何円入ってただろうか?そんな事を思いながら、なんとも言えない顔で返事を返す滝野であった。

 

 




書いた後で自分で「何だこれ」って思ったのは内緒。
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