響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
言い訳をするのであれば仕事が繁忙期に入ったのと、流行病のアレにかかってしまったのが原因です。
したがって俺は悪くありません!決して責任逃れではありません!
制服以外の人間が居る校舎内と言うのは、なんとも違和感を覚える。まあそれが文化祭の特別感を出しているのにもひと役買っているのだが。
校舎内には各クラスの出しものがズラリと並んでおり、廊下は装飾やら呼び込みやらでいつもの何倍もの賑わいを見せていた。
「ちょ、ちょっと優子……!まだいくなって……!」
「はっ、なにビビってんのよ?さっきの勢いはどうしたの?」
して、こちらは忍と優子。薄暗い部屋の中、2人きりの空間。弱気な忍に対し、挑発するように優子がそう言う。
賑わっている外とは対照的だ。
「こ、この先は俺も分かんないから……」
「そんなん私だって同じよ」
尚も弱気な忍に対し、痺れを切らした優子が自分から動こうとする。
「は、離れちゃダメだって!」
「はいはい、ここに居ますから。どこにも行きませんよー」
段々と理性が乱れていく忍に対し、余裕綽々と言った感じで優子はそう返す。
2人の体は密着している。もっとも、忍が抱きついていると言った方が正しいのだが。
「いい?お、俺の合図で行くから」
「はいはい、お好きなタイミングでどうぞ?」
そして、忍はゆっくりと_________
「待ってって……!言ったのにぃ……!!!」
「だああああああああああああああ!!!」
一歩踏み出すと、白装束に扮した高坂が現れ、凄まじい声量の叫び声を上げる忍。
そう。ここは1年6組の出しもの。オバケ屋敷だ。
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「あーっはははははは!!!」
「笑ってんじゃねーぞ。こっちは大真面目だ」
外に出ても、優子の笑いは止まらない。オバケ屋敷とは言っても所詮文化祭なので子供騙しもいいところなのだが、忍には効果抜群だったようだ。
「だって……っ!!……ぷふっ!!…高坂にっ、『だああああ』って……!」
優子はなんとか笑うのを堪えているようだが、全く形になっていない。
それがますますバカにされてると感じたのか、忍の顔が益々不機嫌になって行く。
「……だから散々止めようって言ったのに……」
忍としては絶対に入りたくなかったのでオバケ屋敷の入り口で散々ゴネていたのだが、そんな反応をされて優子が黙っているはずもない。
彼女自身はオバケやら幽霊やらに耐性があるので、嬉々として無理矢理忍をオバケ屋敷に押し込んだのだ。
それがこの結果である。
「あははははっ……もー、なにそんな事で拗ねてんのよ?……でも、意外だったわねぇ。アンタ、ああいうのダメなのね」
「……人には苦手なもんの一つや二つありますぅー!」
興味津々にそう聞く優子に対し、尚も拗ねた口調で忍は返す。
中々機嫌を直さない忍に対して、困ったように優子は笑った。
「あ、アッキーせんぱーい!優子せんぱーい!」
すると、廊下の奥から、手を振ってやってくる2人の姿が確認出来た。吉沢と加部だ。
「おーおー、お2人さんは随分と楽しんでいますなー」
近づきながら揶揄うように加部がそう付け加える。
すると、しめたと言わんばかりに優子は意地の悪い笑みを浮かべた。
「そうね。ちょうど忍の弱点も発見出来たし?」
「「弱点?」」
勿体ぶる優子に対し、加部と吉沢は首を傾げる。
「秋川忍は怖いものが相当お嫌いなご様子で」
ついさっき出て来たオバケ屋敷の出口を指差しながら、優子はそう言う。
「えー!?アッキー、オバケとかダメなのー!?」
加部は意外と言った表情で、しかし面白がる様にそう言う。
「……別に?ちょっとだけだし?こんなん子供騙しだし?」
「その子供騙しに何回も悲鳴上げてたじゃないの」
「うるせー!バーカ!!」
遂には言い詰められて、子供の様な文句しか返さなくなった。
そんな2人のやり取りを見て加部が吹き出す。
「あははっ、相変わらずだねー。まあ、いいや。お2人さんはもう5組の出し物には行ったー?」
「いや、まだよ?」
加部の問いかけに、優子が首を振る。
「メイド喫茶だったよ。衣装可愛いかったなー。みぞれとかも居るから行ってあげれば?」
「そうね……ありがと。行ってみるわ。じゃあ、そっちも楽しんでねー。……ほら、いつまでも拗ねてないでアンタも行くわよ」
それだけ言い残すと、優子は忍の手を握って歩き出す。
それを見送ると、加部は感心する様に微笑んだ。
「……あの2人、また距離近くなったかな?ねー、秋子ちゃ……ってなんかニヤついてない?」
「………これが、ギャップ萌えってやつですか……」
加部の隣では、恍惚な笑みを浮かべ、満足げにそう呟く生物の姿が確認された。
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「………あのー、中川さん?ちょっとは加減してくれてもいいんじゃないですかねー?」
「なに言ってんの。まだまだ余裕あるでしょ?男気見せてよ!男気!」
「男気だけじゃ現金は錬成出来んぜよ………」
一方、こちらは中川と滝野。
お財布の方はコッテリと搾り取られているらしく、このままでは次のお小遣いまで学校の水道水で過ごさなければならなくなってしまいそうだ。
「あははっ、冗談冗談。もうアタシもお腹いっぱいだしねー」
流石に中川も滝野の財布を空にするほど鬼では無い。その言葉に滝野はほっと一息ついた。
「お礼って訳じゃ無いけど、アタシのクラスの出し物のところに行くー?」
すると、思い出したかの様に中川がそんな提案をしてくる。
「中川って、5組だったよな?出し物なんだっけ?」
「メイド喫茶」
「メイド喫茶………」
メイド姿の女の子達を想像しているのか、少々滝野の鼻の下が伸びた。
「ちょっと滝野ー?顔に出てんよー?」
「おっと済まない。まだ早かったな」
だらしない顔から一転、キメ顔で滝野はそう言うと、中川は吹き出す。
「あははっ、なんだ、滝野って意外と面白いんだねー」
「……意外ってなんじゃい」
中川の微妙な褒め言葉に、同じく微妙な表情で滝野はそう返した。
「んー、1年の頃とかはさー、なんて言うか影が薄い?ってゆーか?そんな感じだったけどねー」
「……まあ、それは否定しない」
心当たりがあるのか、苦笑いで滝野はそう返す。そして、思い出す様に言葉を続けた。
「同じパート、同じクラスにキャラが濃すぎるのがいるからな。それに引っ張られたんじゃね?」
「あははっ、そりゃ違いないねー」
いつもの様にヘラリと笑って中川は適当にそう言う。
忍が与える周りへの影響力と言うのは、どうやらこう言うところにも出ているらしい。
忍の話題が出て来たからか、中川の中でふとある事が気になった。
「そういやあの2人、今頃何やってんのかなー?」
「フツーに周ってんだろ。吉川はともかくアッキーはこう言うの楽しむタイプだし」
「そーだねー。アッキーに振り回されてるアイツの絵が思い浮かびますわー」
面白がる様にケラケラと笑い、中川はそう言う。
それに対し、困った様に滝野は笑った。
「あれでまだ付き合ってないって言うんだもんなぁ……」
「そーそー。早くくっつけってーの」
滝野の呟きに対し、悪態を吐く様に中川がそう返す。
この2人は、優子と忍のことをずっと見ている。中川は優子を。滝野は忍を。
「でもあの2人がくっ付いたら、アタシの楽しみが減っちゃうなー?」
「確かに、それはあるかもな」
だからこそ、通じ合うものがあるのだろう。
少し無言の後、何気なく口を開いたのは、中川の方だった。
「……滝野ってさ、彼女いる?」
「は?いきなり何?」
突拍子もない中川の言葉に目を丸くする滝野。少し動揺している様に見える。
「気になったの。で?いるの?」
「……いねーけど……」
「そっか、居ないか」
「「…………」」
沈黙。まさかこんな空気になると思わなかったのか、中川の頬が少し赤くなっていた。
「じょ、冗談冗談!!なに変な雰囲気になってんの!」
「そ、そういう風にしたのはそっちじゃん!」
「うるさいなぁー!滝野だって、ドキッとしたんじゃないのー?」
「…………」
「黙んないでよーー!!!」
こっちでは、新たな恋が始まろうとしていた。
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「……ウェイトレスさん、注文を……」
「………はい」
「……えっと……じゃあ、このパンケーキとクリームソーダを……」
「………はい。………優子は?」
「え?じゃあ、私は……ショートケーキとコーヒーで」
「………分かった……」
2人から注文を受けると、鎧塚は足早に厨房へと向かって行く。
「……案外、ああいう接客も新しいかもしれない」
「んな訳ないでしょ」
真剣な顔つきでそう言う忍に対し、すぐさま優子からツッコミが入る。
2年5組の出し物。『キュン☆キュン メイド喫茶レジェンズ』では、恐らく世界一接客に向かないであろう人間が注文を取っていた。
「おい、あの子の接客良かったよな?」
「ああ、俺あんな態度で注文取られたことねーよ。……なんか、すげー凄かった」
……もっとも、その新しすぎる接客スタイルは他の客に意外にも好評らしい。
主に男子が。
「……なんだろーね。壊滅的な接客なんだけど、不思議と嫌じゃないって言うか……」
「人柄よ。みぞれ、いい子だし」
「なるほど。優子があれやったら一瞬で客が離れるな」
「くたばれ」
「いだっ!!」
いつも通り口の減らない忍に対し、すぐさまゲンコツが飛んだ。
「あはは、あれでも随分喋れる様になった方だよー?」
すると、今度は傘木が2人の元へとやって来た。
「え?あれで?」
他の客の対応を見ても『はい』と『分かりました』言っていないのだが。
「うん、最初の頃なんかお客さんをジッと見つめたまま棒立ちしてたんだから」
「それは……客からしたら溜まったもんじゃないわね………」
苦笑いになって優子がそう返す。
「だけど緊張してる感じじゃないんだよねー。図太いのか繊細なのかどっち?って感じ」
「まあ、みぞれらしいって言うか……」
鎧塚としては接客なんてやった事もないし、受けた事もほとんどないので、何をすればいいのか分からないと言うのが実情だった。
「………もったいない」
すると、ポツリと忍がそう呟く。
「………忍?」
また変な事考え出したと、面倒臭そうな顔で優子が反応する。
そして忍はゆっくりと立ち、鎧塚の方へと近づいていった。
「よろみー、もったいないよ……!!」
鎧塚の前に立ち、熱のこもった声でそう言う忍。対する鎧塚は首をコテンと傾げるのみだった。
「俺が接客のイロハと言うものを教えてしんぜよう……」
「……よろしくお願いします」
無表情だが、なんだかんだ言って鎧塚もノリノリのようだ。ペコリと、忍に対して一礼する。
「まずは入店!お客様が入った時!!よろみーはなんて言う?」
「……いらっしゃいませ?」
「そう!!でもそれだけじゃ足りない……まずはポーズから!!こう!!!」
そう言って、忍は極限まで内股をキメ、上目遣いのポーズを決める。
「うわぁ………」
その光景を見た優子が引いた声を出す。隣では傘木がゲラゲラと笑っていた。
「……こう?」
真似する様に鎧塚が同じポーズを取る。
「そう!!そしてこう言うのだ……『ご主人様ぁ!お帰りなさいませぇ……!』」
「「「うわぁ………」」」
そして今度はその場にいる男性客から引いた声が上がった。優子に至っては羞恥心が限界に達したのか両手で顔を覆っており、傘木に至っては息が出来ないくらい笑っている。
「ごしゅじんさま……おかえりなさいませ……」
こんなクソほど恥ずかしい挨拶なのに、鎧塚はなんとも無い様に忍の真似をする。
「感情がこもってない!!もっと!!『ご主人様ぁ!お帰りなさいませぇ……!』」
「「「おえっ」」」
「あーっはっはっは!!!」
「………最っ悪……!」
そしてこのカオスな光景は、中川たちが来るまで続くのであった。
前回より酷くなると言う悲劇