響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「んー、やっぱ音が弱いなぁ……」
「うぅ……」
パート練習。忍の指摘にがっくしと項垂れる加部。自信の無い彼女の演奏をどうにかしようと奮闘してるのだが、結果はからっきし。一向に良くなる気配は無かった。
「もっと楽しそうに吹いてみなよ。今の友恵、眉毛がハの字になりながら演奏してるもん」
一緒に演奏を見てた優子からも優しく声が掛けられる。
「……やっぱ、無理だって………」
しかし、やっぱり返ってくる言葉はネガティブなものだった。どうにか色々と工夫をしてるのだが、今のところ効果は無い。俯く加部に対し、困った様に互いに顔を見合わせる優子と忍。
「あ、アタシはアッキーや優子みたいに上手く無いからねー。こんなもんですよ」
そして無理矢理笑みを浮かべて、逃げる様に加部はそう言う。
そんな加部に対し忍は少し顔を顰めた。
「……じゃあ、加部っちはずっとこのままでいいの?」
「ちょっと忍……!」
直接的な忍の言葉。優子は言い過ぎだと忍の事を睨む。
「…………」
対して加部は俯いたまま黙り込んでしまった。
彼女自身も葛藤しているのだろう。目の前の壁や困難に立ち向かうのは、相当な勇気が要る。
忍や優子はそれに慣れている。それは元来の気の強さか、自信を持っているからか。
しかし加部は_______
「お待たせ」
すると、パート練の教室に中世古が入って来た。声色はいつも通りだが、何処か浮かない顔をしている。
「……どうでしたか?」
中世古に顔を向け、心配そうに優子が聞く。
「………分かんない。あすかは大丈夫って言ってたけど……」
こっちの問題も、まだ解決の糸口が見つからないままだった。
あまりにも噂が広まったため、中世古が事情を聞きに行っていたのだ。
「『ごちゃごちゃ言わないで』って……」
しかし、結果は空振り。
というよりも、田中自身がこの問題に首を突っ込ませようとしなかったのだ。"家族"の問題でもあるため、中世古も容易に口は挟めない。どこまで行っても話は平行線を辿っていた。
「そうですか………」
落胆の声色で落ち込む優子。
悪い方へ悪い方へ、話はどんどんと流れていく。
「……とにかく、今日も部活に出てるから、まだ大丈夫だと思う。……練習に集中しよっか?」
中世古のその言葉は、自分自身に言い聞かせている様にも思える。
「「「はい!」」」
しかしそんな淡い期待を裏切る様に、次の日から田中あすかは部活に現れなくなった。
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昔から何かに立ち向かうとか、何かを乗り越えるとか、そう言うのが苦手だった。
ただ単に、楽しく吹けていればいいやと。なあなあ、なんとなくでトランペットを吹いている。去年トラブルがあった時も、実力不足の私は蚊帳の外だったし。
でも蚊帳の外で充分。オーディションに落ちた時も、大して悔しさは無かった。だって私は、実力不足だから。こんなもんかと、すんなり受け入れられる。自分で言うのもなんだけど、面倒見は良い方だと思ってるから、その分サポートを楽しもうと、気持ちの切り替えも早かった。
私は、主役になんてなれない。
私は、そんな器じゃ無い。
『北宇治高校吹奏楽部、ゴールド金賞』
ある時、そんな感情に横槍が入った。
"いいな"って、思った。ただの憧れだ。でも、だってしょうがないじゃん。席には演奏を聴きに来た観客で埋め尽くされていて、眩しいくらいにスポットライトを照らされて、その中で主役として自分が____なんて、考えただけでも気分が高まる。
でも、"私なんて"実力不足も良いところだし、それで苦しい思いをするくらいなら、ただの憧れだけで済ませておこう。
うん、それがちょうど良い。
『今回の駅ビルコンサートの1st、加部っちにやってもらおうと思って』
見透かされた。
それも、北宇治でもトップクラスの実力を持つ人に。
顔に出てただろうか?それとも態度?
アッキーにそう言われた時、なんと言うか………色んな感情が一気に来た。
まず、不安。
私は実力不足。変な演奏をして恥をかくだろう。そんな演奏を皆んなに聞かせらんない。
次に、焦燥感。
実力の差が、こんなにもあるとは思わなかった。今の私は、ぶっちゃけ秋子ちゃんより下手だろう。そんな私が、どうやって吹けばいいのか?
そして、諦め。
こんな私が、1stを吹くなんて。
やっぱり、何かに立ち向かうとか、何かを乗り越えるとか、私の性に合って無い。
そんな諦めばかりの私が、どうして___________
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「加部さん」
「…………」
「……加部さん?」
「!、は、はい!」
滝先生に二度呼ばれ、加部がようやく反応する。
「どうしましたか?56小節からです。演奏して下さい」
今日は駅ビルコンサートの合奏練習。1stに任命された加部も合奏練習に加わっている。
初めての合奏練習。加部が緊張しない筈もなく、青褪めた顔になりながら滝先生の指導を受けていた。
落ち着かせる様に一つ深呼吸をすると、マウスピースを口に付けて演奏を開始する。しかし、そんな状態でいい演奏など出来るはずもない。
聴こえてくる音は、パート練習の時よりも数段酷いものだった。
数秒吹いた後、滝先生は演奏を止める。
「……演奏になってません。……加部さん、緊張するのも分かりますが、貴女はこの曲で1stを担当します。……それは分かっていますね?」
「………はい……」
俯き、今にも泣きそうな顔で加部はなんとか声を出す。
「………音楽は、楽しむものです。……しかし貴女の演奏からは、それが全く感じられない。……苦しんで演奏している様にしか見えません」
「……………」
図星。滝先生の言葉に、加部は黙りこくってしまう。
「………時間はまだあります。もう一度、音楽というものが何なのか、加部さん自身で考えてみて下さい」
「…………はい……」
「では、続けます。今度は初めから、全員でお願いします」
「「「「はい!!」」」」
再び合奏練習が始まる。
そんな中、忍は加部を真剣に、優子は心配そうに見つめていた。
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そして、予想通りと言うべきか、翌日パート練習で遂に加部の心が折れてしまった。
「…………あの、やっぱり、私、1st辞めます」