響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

108 / 138
私のお気に入り

 

 今週末の京都は、雲一つない晴れ模様。

 盆地であるからか、もう10月になろうと言うのに半袖の人達が目立つ。交通の大動脈である京都駅では、普段とは違う賑わいを見せていた。

 今日の北宇治高校吹奏楽部のメンバーは、特別な青のTシャツを着て、この駅ビルコンサートへと臨む。

 

 「あー!!凡ミスマンや!!うっわ、寄ったらコッチにミスが移るで!!」

 

 「我は凡ミスマン!!貴様に全国大会でミスるよう呪いを掛けてやろうー!!」

 

 「わー!!」

 

 演奏前の待機時間。忍と篠田は子供がやる様な下らないじゃれ合いをしていた。

 駅ビルコンサートには明静工科も来ている。篠田は他の高校の生徒達が居る中、忍の事を目敏く見つけすぐさま話しかけたのだ。

 ただ駅のコンコースのど真ん中で騒げば目立たない訳もなく……

 

 「アホ!騒ぐな言うたやろが!!」

 

 「いだ!!」

 

 すぐさま篠田の後頭部が引っ叩かれる。篠田の後ろを確認すると、関西大会の時も彼に注意をしていた髪をポニーテールに纏めた明静の部長さんが居た。

 

 「北宇治さんも!こんな目立つ場所で騒いだら恥ずかしいわ!気いつけよ!!」

 

 「は、はい」

 

 まさか自身も怒られるとは思っておらず、何だか背筋が伸びてしまう忍。それだけ言い残すと、明静の部長さんは怒った様にズカズカと戻って行った。

 

 「あーあ、相変わらずやなあ。ほんまあの鬼ババ、あたまが硬いわ」

 

 「……なんか、嵐の様な人だね」

 

 「かーちゃんかっちゅーねん。いっつもこんなごっつい目くじら立ててなぁ、ホンマ油断出来ひんで」

 

 両手を使って大袈裟に篠田は目を釣り上げる。こう言うオーバーなリアクションをするのは大阪人っぽいが、忍は釣られて笑ってしまった。

 

 「相変わらずだねぇ、まさっちは。今日だって全く緊張してないじゃん」

 

 「アホ、してどないすんねん。せっかくの演奏やのに緊張なんぞしよったら勿体無いわ」

 

 胸を張って篠田は自信満々にそう言う。この単純さこそ、彼の持ち味なのだろう。

 

 「それよりお前や、忍。ホンマにスランプ抜け出したんか?」

 

 すると、今度は真剣な顔つきで篠田はそんな事を聞いてきた。

 電話などでは大丈夫と忍本人から聞いてはいたが、篠田はまだ忍の演奏を聴いてない。

 

 「うん、多分大丈夫。少なくとも悩む事は無くなったよ」

 

 何かを懐かしむ様に、薄く微笑んで忍はそう言う。

 その表情を見て、篠田も何か察した様に薄く笑った。

 

 「……ほうかい。ならええわ。まあ、お互い全国や。関西みたいなしょーもない演奏したら覚悟しとき?」

 

 「うっわ、ここで脅す?」

 

 「偶にはプレッシャーも必要や!ほいなら俺もう準備行くから、またな!!」

 

 「うん、またねー」

 

 相変わらず忙しない篠田に対し、困った様に笑って忍は手を振る。

 

 「ちょっと忍ー?」

 

 すると、今度は忍の背後から声が掛かる。振り向くと、困り切った表情を浮かべる優子がいた。

 

 「なに?どした?」

 

 「あれ、どうにかして頂戴よ……」

 

 そう言って優子が指を差す。そこには体育座りで縮こまっている加部の姿があった。忍も困った様に笑うと、彼女の方へと歩みを進める。

 

 「あー、ヤバイヤバイヤバイヤバイ……」

 

 青ざめた顔で、呪詛の様な言葉をブツブツと口にする加部。

 誰から見ても分かるくらい緊張している。

 

 「緊張しておりますなー、加部っち」

 

 「何でアッキー達は緊張しないのよー……」

 

 相変わらずのいつも通りな忍に対し、羨ましがる様な口調で加部は言葉を返す。

 

 「うーん、慣れてるから?」

 

 「私は慣れてないよぅ……」

 

 どんどんしょげて行く加部対し、これは困ったと頭を抱える優子。対して忍は柔らかく微笑む。

 

 「緊張って、実は悪い事じゃ無いよ?」

 

 「え?」

 

 予期していなかった忍の言葉に、加部は俯いていた顔を再び上げる。

 

 「だって、それぐらい加部っちが練習したって事でしょ?あんだけ頑張ったんだから、緊張するなんて普通だと思うけどなぁ」

 

 「……そりゃ、そうだけど……」

 

 だからこそ怖いのだ。あれだけ練習して頑張って来たのに、それが本番で力を出せなかったらどうしようかと。

 

 「じゃあ、逆に自慢すればいいじゃん。"私の集大成を見ろー!"って。ほら、復唱!」

 

 「わ、私の集大成を見ろー……?」

 

 勢いに流され、忍の言われるがままにそう言う加部。しかし不満げに忍は首を振る。

 

 「もっと勢い良く!!私の集大成をみろーー!!」

 

 「わ、私の集大成を見ろー!!」

 

 「やかましい!!」

 

 「いだいっ!!」

 

 度が過ぎたのか、今度は優子によって忍の後頭部が引っ叩かれる。そんなコントの様な光景を見て、さっきまで不安一色に染まっていた表情から一転、加部は吹き出した。

 

 「あはっ、あはははは!!」

 

 今度はいきなり笑い出した加部に対し、忍も優子もキョトンとしている。

 

 「あははっ!ごめん、なんか、二人見てたら緊張してんのがバカらしくなっちゃって……」

 

 忍と優子は互いに顔を見合わせる。意図的にやったことでは無いが、どうやら加部の緊張は大分ほぐれたらしい。

 

 

 「アッキーは相変わらずだね」

 

 「うん、そうだね」

 

 そんな光景を見ていた少女が二人。小笠原が感心した様にそう言うと、中世古も同調する様に頷く。

 

 「ほんと、アレを注意するこっちの身にもなって欲しいよ」

 

 言葉こそ文句を言っているが、小笠原のその表情や口調に悪意は無い。寧ろしょうがないなと言う様な、満更でも無さそうな表情を浮かべていた。

 

 「……香織はさ、アッキーって、特別だと思う?」

 

 「え?」

 

 すると、何となしに小笠原がそう尋ねる。いきなりの問いかけに中世古も目を丸くしているが、少し考え込む様な仕草をした後、口を開いた。

 

 「……多分、特別なんだと思う。あすかとは違う感じの。……そうだね……」

 

 そこで一旦区切ると、中世古は薄く笑った。

 

 「秋川くん自身がそんな事考えてないから、特別感は無いかも。……でも、話したら分かるの。あの子って、とことん素直で自分の考えや思ってる事がすぐ口から出ちゃうから。……そこは優子ちゃんと似てるところかな?」

 

 「……確かにそうだね」

 

 先日の優子の舐めないで下さい発言を思い出しているのか、苦笑いになる小笠原。

 

 「……でも、言ってる事は的外れじゃ無い。私たちが言い辛い事や尻込みしちゃう事も、自分が正しいと思ったらあの子はズバっと言えちゃう。……だから、秋川くんは特別なんだと思う」

 

 「………そっか」

 

 中世古の言葉に、納得した様に頷く小笠原。

 その姿は。去年の事件やここ数ヶ月の忍の行動が物語っている。

 

 「ホント、優子ちゃんが羨ましいなー」

 

 「もー、またそれー?」

 

 別に忍に恋をするわけでは無い。しかしその人間的な魅力が、忍を特別たらしめる理由になっているのは事実だ。

 

 「あ……」

 

 すると、北宇治のメンバーの前を白の衣装を纏った集団が通り過ぎて行く。

 

 「聖良女子……」

 

 今日の目玉とも言える全国の強豪校、聖良女子だ。

 

 「流石全国常連だけあって堂々としてるね」

 

 感心する様に中世古がそう溢す。しかし、小笠原は何かを決意した様に聖良女子のメンバーを見つめる。

 

 「でも、私たちも全国出場だよ」

 

 そう言うと、中世古は一瞬驚いた様な表情を見せるが、すぐさま薄く微笑む。

 

 「……うん、そうだね」

 

 

 

 「そのとーり!」

 

 

 

 「え?」

 

 聞き覚えのある声。すぐさまその声の方向へと顔を向ける。

 

 「あすか……!!」

 

 ひょこっと、まるでずっとそこに居ましたよと言わんばかりに、田中あすかはそこに立っていた。

 

 「なによー?お化け見る様な顔してー」

 

 「来れたんだね」

 

 すぐさま、中世古が近づいて行く。

 

 「言ったでしょー?迷惑は掛けないって」

 

 会話を交わす内に、どんどん人が集まって行く。やっぱり、田中あすかはこの部活の"核"だ。

 

 そんな光景を見て、小笠原は決意した様な表情を浮かべて田中に近づいて行った。

 

 「あすか」

 

 小笠原の声に反応し、田中も彼女に近づいて行く。

 

 「……私、ソロ吹く事になったから」

 

 そう言うと、小笠原は楽譜を田中の目の前に差し出す。

 

 「……しっかり支えてね」

 

 差し出された楽譜を受け取ると、不敵に田中は微笑んだ

 

 「もっちろん!」

 

 

_________

 

 流れて来る曲は、『My favorite things』

 

 和題にすれば、『私のお気に入り』

 

 元々は『サウンド・オブ・ミュージック』と言うミュージカル映画の劇中歌だ。

 そしてこの曲は、とある鉄道会社のCMの曲としても有名だろう。

 京都への観光地誘致の目的として、この曲が使われている。曲に合わせて、京都の名所を存分に伝えると言うものだ。CMで馴染み深い音を聞いた事により、京都駅に行き交う人々は次々に足を止める。

 

 「これって、CMのやつ?」

 

 「上手いなぁ……」

 

 反応は三者三様。

 しかし、ネガティブな感想を持つ観客はいない。軽快なリズム。そして上品な音の滑り。自分自身の"お気に入り"を、存分に聴き手に伝える。

 いつか忍が言った『ウェルカム・トゥ・ザ・京都』と言う単語は、正にこの状況では最適解だろう。

 

 加部友恵は、妙な興奮を覚えていた。

 皆んながこっちを見て、皆んなが自分達の音に耳を傾けている。それも、自分が1stに立ってだ。つい30分前までは緊張でガチガチだったのに、今はえも言われぬ幸福感と、充実感に満たされている。

 

 忍か言っていた、音楽は聴き手がいてこそ。

 

 それを彼女は今、全身に感じている。

 表情も演奏も、緊張なんて微塵も無い。そんな彼女を見て、忍と優子は満足そうに微笑む。

 

 やっぱり、音楽はこうでなくては。

 

 

 そして、曲の後半。

 この曲は同じフレーズを繰り返す曲ではあるが、難しさはトップクラスだ。

 リズムは目まぐるしく変わるし、それを全体で合わせなければならない。前半は思いっきり軽快なテンポでとばすが、後半になるとゆったりとしたテンポで合わせる。

 

 そしてそこに、滑り込む様にソロが入る。

 

 そのソロの主役は小笠原だ。

 

 ソロのパートとしては、さほど難しくは無い。

 しかし、小笠原は自身の全身全霊を込めてその部分を吹く。それは自分の為か、それとも観客の為か、それとも……

 

ソロパートを吹き終わると、観客から拍手が起きる。

 

 ちゃんと伝わっただろうか?"彼女"の心にちゃんと届いただろうか?小笠原の中ではそんな感情が渦巻いていた。

 

 音楽への向き合い方。それは人それぞれだ。

 自分の為に。あるいは聴き手の為に。あるいは特定の人の為に。

 そうやって向き合う中で、自分の"お気に入り"を見つける。

 

 

 

 そんな事を感じさせる、北宇治の駅ビルコンサートだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 アニメでは『宝島』でしたが、今回は自分がどうしてもこの曲を出したくて変えてしまいました。やっぱり京都と言う意味では、この曲だと自分は思っています。

 https://m.youtube.com/watch?v=XRiN-2ZEg0w

 「私のお気に入り 吹奏楽ver」

 晴香のソロは2:45辺りからです


 https://m.youtube.com/watch?v=GpeqeRrIS-8

 「そうだ、京都行こう。 平等院編」

 とりあえず元ネタとなった動画のリンクを貼り付けておきます。
 例によって問題があれば削除いたします。


 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。