響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
駅ビルコンサートも終わり、北宇治高校吹奏楽部はいつも通りのコンクールに向けての演奏を続ける。
季節は10月に近づき、秋を感じさせる今日この頃。音楽室には、二人の少女が居た。しかし、北宇治の制服ではなく、別の学校の制服を着ている。
「よろしくお願いします!三室戸中から来ました!秋川凛花です!」
「よ、よろしくお願いします!大吉山西中から来ました!た、滝野さやかです!」
1人は元気良く、もう1人は緊張気味に挨拶をする。彼女らはまだ中学3年生。何故北宇治吹奏楽部の練習に参加しているのかと言うと……
「今日は、この2人が練習を見学します。基本は見て頂くだけですが、機会があれば演奏にも参加してもらおうかと思います」
補足する様に滝先生がそう言う。
つまりは、凛花とさやかが北宇治の練習に参加をすると言うことだった。どうしてこの様な形になったのか。
事の発端は、数日前に遡る。
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「ねー、兄ちゃん。北宇治の倍率って、どのくらいかなぁ?」
秋川家のリビング。夕方のニュース番組を流し見しながら、凛花はなんとなしに忍に対してそう聞く。
「さあ、俺が入った時はそうでも無かった気がするけど……」
今日の夜ご飯の支度をしながら、忍は答える。
こんな事を聞くとは、もう凛花の中では心が決まったのだろうか?
「ってか何?凛花、もう志望先決めたの?」
続けて忍がそう聞くと、凛花はソファから身を起こして、顔を忍へと向けた。
「うん。もう北宇治に決めた。私、あそこで吹くよ」
当たり前かの様に、あっさりと凛花はそう宣言する。一瞬料理をしている忍の手が止まったが、すぐに元通りに戻った。
「……まあ、凛花がそう決めたなら別に良いけど」
どの高校に行こうが凛花の自由なので、忍がとやかく言う事もない。
しかし北宇治の吹部に入ると決めたはいいが、それなら兄としては言う事がある。
「じゃあ、一回練習来てみれば?もう中学の部活もやってないんだろ?」
決めたのはいいが、それでも一度は体験なりしておくものだ。オープンキャンパスでは無いが、それでも北宇治の吹部に属する気ならそれは必要だ。
「うーん、そーだねぇー……じゃあ、さやかちゃんも連れて行こうかな?」
「え?さやかちゃんも北宇治なの?」
驚いた様子で忍はそう言うが、対して凛花は呆れた様な顔になる。
「そりゃ、あんだけ露骨だと当たり前じゃん」
「露骨って、何が?」
「……気付いてないんだ。さやかちゃんかわいそー」
ジトっとした目線を忍に向け、非難するように凛花はそう言う。対して忍はまだ分からないのか、首を傾げるのみだった。
「……まあ、いいや。とりあえず練習は見てみるよ。兄ちゃんから顧問の先生に言っといてくれる?」
「おっけー」
そんなこんなで、凛花とさやかの練習参加が決まったのだ。
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「未来の後輩になるかもしれない2人です。皆さん、よろしくお願いしますね」
「「「「「はい!!」」」」」
滝先生がそう言うと、部員達から気合いの入った返事が返ってくる。それを聞いて、凛花とさやかも自然と背筋が伸びた。
「ホルン!音がバラついてます!ここは前回も注意した場所ですよ!」
「「「はい!!」」」
「クラリネット!オーボエと連携が取れてません!今更こんな事言わせないで下さい!」
「「はい!!」」
滝先生の指導に、部員達はすぐさま返事を返す。北宇治高校吹奏楽の練習は、いつも通りだ。
一つの音楽を突き詰める為、部員達の向く方向は同じ。だから滝先生からのキツい指導も、部員達にとってはなんて事は無い。
「「…………」」
しかし、凛花とさやかにとっては衝撃的な様だ。息を呑み、気圧される様に北宇治の練習を見学していた。さやかはその雰囲気に呑まれて不安な表情を浮かべているが、凛花は気圧されながらも真剣に北宇治の演奏を聞いている。
「はい。では、10分休憩にしましょう。次はオーボエソロの部分からです」
「「「「「はい!!」」」」」
滝先生がそう声を掛けると、雀の涙ほどの休憩が取られる。それと同時に、やっと凛花とさやかの肩の力が抜けた。
「………ふぅー、すごいねー北宇治。こっちまで緊張しちゃったよ」
「わ、私、ここでやっていけるかなぁ……」
凛花はまだ余裕がある様だが、さやかはすっかりと北宇治の練習に圧倒された様だ。
「まあ、全国行くぐらいだからねぇー。寝ても覚めても演奏、演奏、演奏。音楽の事しか考えられなくなっちゃうぞー?」
「も、もう!変な脅し方やめてよー……」
揶揄う様にそう言う凛花に対し、さらに困り顔を浮かべるさやか。初めて全国レベルの練習を目の当たりにして、2人とも少なからず衝撃を受けてる様だった。
「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいよ?」
そして、こんな時に声を掛けるのはやはり彼女だろう。
柔らかい笑みを浮かべて中世古がそう言うと、2人して少し顔を赤らめながら慌てて礼を返す。
「い、いえいえ!その、やっぱ全国は違うなーって!中世古先輩の演奏も、すっごく綺麗でした!!」
その中でも、凛花は食い付く様に中世古に褒め言葉を送る。
忘れてるかもしれないが、そもそも凛花はあがた祭りで出会った頃からカオリストだ。
「あははっ、ありがとう。お世辞でも嬉しよ」
「お世辞じゃないです!もう、なんて言うか、中世古先輩の演奏する姿を見れるだけで私は嬉しいです!!!」
「あ、あはは………」
まるでどこぞの後輩と同じ様な言葉を発する凛花に対し、苦笑いを返す中世古。しかし優子と同じくそこまで言われると嬉しくもある。
「ありがと。……でも、中世古先輩だとちょっと寂しいかな?」
「え?」
ワザとらしく落ち込む中世古に対し、凛花は不安な表情を浮かべる。
そして、マドンナと呼ぶに相応しいその美しい笑顔を凛花に向けた。
「これからは下の名前で呼んでいいよ?"凛花"ちゃん?」
「………あ゛ぅっ……」
どうやら中世古の言葉は凛花にクリティカルヒットだった様で、凛花は脳のキャパシティをオーバーして限界を迎えてしまう。
マドンナと言うあだ名の前に、"魔性"と言う二つ名を付けても良いのではないだろうか?
そんな事を感じさせるこの2人のやり取りだった。