響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「へぇー、アッキーと滝野の妹かー。凛花ちゃんはちょっとアッキーに似てるかな?さやかちゃんは……うん、まあこう言う兄妹も居るよね」
そしてトランペットのパート練習。凛花とさやかを見比べながら、加部は2人の印象を口にする。
「褒めてんのか貶してんのかどっちだよ」
加部の微妙な評価に、滝野からツッコミが入った。
2人ともどちらもトランペット希望だ。見知った顔も居るからか、合奏練習の時に比べれば凛花はあまり緊張していない。
「ちょっと吹いてみてよ!来年、後輩なるかも知んないし!」
「いいですよー」
「は、はい!」
続けて加部にそう言われて、凛花はリラックスした様子で、さやかは少し緊張気味に、返事を返す。
やっぱりさやかはどこかまだ緊張が抜け切ってない様だった。
「ど、どっち先吹く?」
「どっちでもいいよー。さやかちゃんがやりやすい方で」
尚も緊張気味にそう尋ねるさやかに対し、気の抜けた声で凛花は返す。こう言う部分は流石忍の妹と言ったところだろうか?
演奏する事に対しての緊張はあまり無い様だ。
「あ、ありがと。……じゃあ先に吹くね」
そう言って吹く準備をして、さやかは一つ深呼吸をする。
_______♪ー♪♪♪ーーー♪♪________
やはり経験者であるからか、基本はしっかりとしている。緊張気味で音が少しブレているが。
「おー、流石経験者。ちょっと硬いけど土台はしっかりしてるねー」
そして最初に褒めたのは、忍だった。
「ほ、本当ですか!?」
忍に手放しに褒められ、途端に明るい笑顔を見せるさやか。それがきっかけとなったのか、さっきまでの緊張は何処へやら。水を得た魚の様に興奮した様子で忍に近づく。
「ありがとうございます!!でも、まだまだ忍先輩には届きません!!技術もそうですけどやっぱ表現力はレベチです!!そもそも私なんかと忍先輩を比べるなって話ですけどね!!あと合奏練習中もやっぱり忍先輩は____」
「はーい。さやかちゃんそこまでー。皆んな困ってるよー?」
「あぁん!忍先輩!」
慣れた手つきで凛花に忍から引っ剥がされるさやか。演奏では緊張してたのに皆がいる前でよくやるものだ。案の定、優子が凄い顔になっている。
「兄ちゃんもデレデレしない!今は部活中だよ!!」
「で、デレデレなんかしてないけど……」
凛花に叱られ、バツの悪そうな顔をする忍。まあ女の子に褒められて悪い気はしないので、そこは許してあげても良い気がするが。
ともかく、次は凛花の演奏だ。
「あはは、次は、凛花ちゃんの演奏が聴きたいなー?」
中世古がそう言うと、緩み切っただらし無い笑顔を凛花は浮かべる。
「はぁい!香織先輩!見てて下さいね!私の演奏!!」
先程までのしっかりとした妹はどこへいってしまったのか、これ以上無い猫撫で声で凛花は返事を返す。やっぱり彼女もカオリストな様だ。
「……ん゛ん…」
一つ咳払いをし、凛花の雰囲気が変わる。先程までの緩み切った表情とは一変、真剣にピストンの具合や管にホコリなどが付いてないか確かめる。
「はい、じゃあ行きまーす」
リラックスした様子でそう宣言すると、凛花はマウスピースに口をつけて演奏を始めた。
________♪♪♪、♪ー♪♪_______
「すごっ」
「ヤバっ、うっま」
パートメンバーの面々から、驚きを持って迎えられる。レベルとしては、完全に中学生の域を超えている。
彼女も忍と同じく5歳の頃からトランペットを吹いてきてきた。やはり楽器の演奏は"経験"がモノを言う。技術的な部分では、コンクールメンバーと遜色無い程だ。
そんな凛花の演奏を聴いて、加部と吉沢の表情が少しばかり強張った。
「やっぱり上手いね。流石秋川くんの妹さんかな?」
中世古がニコリと笑ってそう感想を述べる。しかし、凛花は少し浮かない顔だ。
「……うーん、ちょっとイマイチですね。安定してないところがありましたし」
先程のカオリストぶりとは打って変わって、凛花は微妙な表情でそう呟く。あれでまだ納得行ってないのかと、パートメンバーは苦笑いを浮かべた。
「チューニングちゃんとやったか?」
しかし忍だけはいつもの光景の様で、凛花のトランペットを見ながらそう聞く。
「あー、それかも。いきなり吹いたしねー」
「ちゃんと準備してから吹けって」
「分かってるよぅ……あと低めの音も安定してなかったかな?」
「いつもと違う感じだった?」
「うーん……」
そしてメンバーそっちのけで兄妹で何処が悪かったなどの会話を始める。褒められたのに自分の演奏に納得しない辺りはやはり……
「……中身はそっくりかな?」
中世古が困り顔ながらも納得したように呟く。
この音に対してのこだわりは兄妹揃って同じな様だ。
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「どうだった?北宇治」
そして時刻は夕方になり帰り道。並んで歩くのは秋川家の兄妹。凛花に対して、忍はそう聞く。
「うん、良かった。やっぱ全国行く高校は違うねー」
満足そうな笑みを浮かべて凛花はそう返す。経験者である凛花の目からしても、北宇治のレベルの高さには満足な様だ。
「そりゃどうも。滝先生の指導も良かったろ?」
「うん。あんだけ細かく指導してくれる人初めてかも。あとイケメンだしねー」
ケラケラと笑いながら最後に付け加える様にそう言う凛花。滝先生のイケメンはともかく、その指導力には凛花も目を見張るものがあった。自身でも気付かない部分を滝先生が把握して、的確なアドバイスを送る。
「パートメンバーも面白かったろ?」
「そーだね。さやかちゃんのお兄さんも居るし、高坂先輩はやっぱめちゃ上手かったし、優子さんも優しいからいいんだけど……」
不満がある訳ではない。しかし凛花としては一つ残念な事があった。
「はぁー……香織先輩、なんで今年卒業なんだろー……」
心底残念そうにため息をつく凛花。今日1日で随分と中世古にお熱な様だ。
「ふーん。そんなにか?」
「はあ!?なに"そんなにか?"って!!来年香織先輩見れないとかこっちとしてはあり得ないんだけど!!」
興味なさそうな忍に対し、声を荒げて反論する凛花。
祭りの日と今日で2日間しか会ってないのによくもここまで好きになれるものだ。この人たらしぶりも彼女がマドンナと呼ばれる所以だろうか。
「しょうがねーだろ。……ってか香織先輩が居ないからって志望校変えたりしねーだろうな?」
「そりゃないけど……はぁ……私のモチベーションは真っ逆様だよ……」
がっくしと肩を落とし、大袈裟に落ち込む凛花。そんな妹の姿に忍も大きくため息をついた。
「はぁ……まあいいや。……後は気になるところとか無かった?」
「うーん、気になるところかぁ……」
忍にそう聞かれて、凛花は腕を組んで考える。トランペットパートはレベルも高いし問題無さそうだ。では、合奏練習。全体を見て、凛花が思う事とは……
「うーん、ちょっとだけど、低音が弱いかも」
凛花のその言葉に、忍は一瞬だけ眉を顰めた。
「あー、まあ、そーだよなぁー……」
そして難しい顔をして呟く様に忍はそう返す。
「なにその返事?兄ちゃんらしくない」
いつもなら発言がハッキリしている忍が言い淀む姿を見て、凛花は訝しむ。
「ちょっとユーフォの方に問題があってね。……俺らだけじゃどうにもなりそうにないからどうしよっかなーって思ってるところ」
「はあ、そうなんだ。……で、問題って?」
「……フツーに、親子間の問題だよ。受験も近いしね」
言いにくそうに忍がそう言うと、何が起きてるのかなんとなく察したのか、凛花も神妙な表情になる。
「……そっか。ちゃんと話し合って解決出来ればいいね」
「……"話し合う"、かぁ……」
今日も来なかったそのユーフォニアムの演奏者は、ちゃんと親と話し合っているのだろうか?
凛花の言葉を聞いて、そんな事を思う忍だった。