響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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大変お待たせしました。
話の展開をどうしようかと右往左往してたら、何と前回の投稿から2ヶ月近く経っておりました。自分の筆の遅さが憎らしくあります。


実力

 

 放課後。とある教室で、居残り練習をしている少年少女2人がいた。

 少女の方はユーフォニアムを持ち、少年の方はトランペットを持っている。

 

 「……どう、かな?」

 

 「良いんじゃない?俺、ユーフォの事はあんま分かんねーけど、良い演奏だったと思う」

 

 ユーフォを吹き終えた少女が不安そうにそう聞くと、少年の方は肯定的な感想を述べる。

 

 「これならコンクールにも間に合うんじゃねーか?あすか先輩には届かないかも知んねーけど、中川は中川のペースでやればいいだろ?」

 

 「あはは、ありがと。滝野って、ホント褒めるの上手いよねー」

 

 ユーフォの少女は名前を中川夏紀。トランペットの少年は名前を滝野純一と言う。何故この2人が一緒に練習をしているのか。

 事の発端は数日前にまで遡る。

 

 

 _____________

 

 

 

 「田中さんが今月末までに部活を続けて行く事の出来る確証が得られなかった場合、全国大会の本番は、中川さんに出てもらう事にします」

 

 

 音楽室。滝先生がそう言い放つと、部員たちは声も発せず、様々な表情を見せる。単純に驚いた顔をする者、ついに来たかと深刻そうな表情を見せる者。

 駅ビルコンサートが終わっても、田中あすかは部活にあまり顔を出さなくなっていた。それどころか、日を追うごとにユーフォの席には空席が目立った。

 全国は待ってくれない。田中あすかを待っている時間なんてもう残っていないのが現状。

 だからこそ、滝先生はその様な判断を下す。

 

 しかし、その穴を埋めるのは誰か?

 

 当の本人。中川は、やはりと言うべきか、不安な表情を浮かべてる。

 そしてそれを、しっかりと滝野は見ていた。別に他のパートのいざこざだ。トランペットの自分には関係の無い事。しかし、何となく放っておけないと言う妙な感情が滝野の中にあった。

 

 

 「なあ、中川」

 

 

 そして合奏練習が終わると、すぐさま滝野は中川に話しかける。

 

 「何?」

 

 「居残り練習、付き合ってくんねーか?」

 

 

 ______________

 

 

 

 「ごめんねー。滝野はコンクールメンバーなのに。アタシの練習に付き合って貰っちゃって」

 

 「最初に付き合ってって言ったのは俺だから。別に中川が気にする事じゃねーよ」

 

 演奏後の楽器の手入れをしながら、中川の感謝の言葉に滝野は素っ気なく返す。

 態度はぶっきらぼうだが滝野自身、この空間が嫌な訳ではなかった。元々文化祭の時から少し気になってはいたのだ。

 しかし今は状況が状況な上に、滝野としても素直に喜べないのが実情だった。

 

 「おーいタッキー。帰るべやー」

 

 すると、ドアの方から気の抜けた声が聞こえる。2人ともその方向へ顔を向けると、鍵を持った忍が立っていた。同じく居残りで練習をしていたらしい。

 

 「あー、ごめん。すぐ片付ける」

 

 「いいよいいよ。……それとも、俺お邪魔だった?」

 

 忍が揶揄う様にそう言うと、少し顔を赤らめる滝野。

 

 「馬鹿言ってんな。中川に迷惑だろ」

 

 「あはは、アッキーは相変わらずだねぇ。ともかく滝野、今日もありがとね。明日また!」

 

 「おつかれー」

 

 最後に挨拶をすると、中川は教室から出て行こうとする。

 

 「ああそうだ、アッキー」

 

 すると何かを思い出したかの様に、忍の側で一旦足を止めた。

 

 「例の件、明日よろしく」

 

 「……はいよー」

 

 短く中川がそう言うと、一瞬間を開けて忍は返事を返す。

 

 「……?」

 

 しかし滝野には、そのやりとりが何を意味しているのか分からなかった。

 

 

 ____________

 

 

 「どうなるのかねぇ……」

 

 「どうもなんないだろ」

 

 そして帰り道。憂うように忍がそう言うと、一緒に帰っていた滝野から素っ気ない返事が返ってくる。

 

 「随分とドライじゃん。タッキー」

 

 「………別にそう言うんじゃねーよ。あすか先輩が来なかったら、中川が吹くだけだろ?」

 

 口では素っ気ないが、少し考えてるような表情を見せる滝野。

 

 「……まあ、なつきちが吹くのも良いんだけどさぁ……」

 

 忍が微妙な表情でそう言うと、滝野は少し睨め付ける様に忍を見やる。

 

 「……役不足って言いたいのか?」

 

 「そうは言ってないよ。でも、練度は違うよね?今までずっとコンクールの練習をして来たあすか先輩と、サポート中心でやって来たなつきちじゃ」

 

 やはり直接的。忖度無しに忍はそう言い放つ。それを滝野も分かってるのか、バツが悪そうに目を背けた。

 

 「って言うか最近のタッキー、随分となつきちに肩入れしてんじゃん」

 

 「………うるせー」

 

 続けて忍がそう言うと、更に顔を顰めて滝野はそう返す。

 

 「最近、合奏練習が終わったらなつきちの個人練、付き合ってあげてるらしいじゃん?」

 

 「だからうるせーって」

 

 揶揄う様な忍の言葉に、鬱陶しそうに滝野はそう返す。

 

 「まあ、そこは良いけどさ。……どう?なつきち。本番までに仕上がりそう?」

 

 「……………」

 

 忍の問いかけに、更に顔を顰めて滝野は無言を返す。

 言葉は無いが、表情で答えている様なものだった。

 

 「……時間は無いよ。もしタッキーが本気でなつきちをどうにかしようとするなら、中途半端はやめなよ?」

 

 「………分かってるよ」

 

 突き刺す様な忍の忠告に、俯いたまま滝野はそう返した。

 

 

 _________________

 

 

 

 「……どう、かな?」

 

 「どうって言われてもな……俺はいいと思うけど……中川的にはどうなんだ?」

 

 別の日、練習終わりの教室。居残りで練習しているのは2人。演奏を終えた中川が不安げな表情でそう尋ねると、滝野はどっち付かずの返答をする。

 

 「もーダメ。ぜーんぜんダメ。そりゃそうだよ。あすか先輩とアタシだもん。実力の差なんて、遠く及ばないって」

 

 「…………」

 

 自虐的にそう言う中川に対して、滝野は返す言葉が無い。心底残念そうに俯くばかりだった。

 

 「もー、そんな顔しないの!滝野が練習付き合ってくれるって言ったんでしょー?アンタが落ち込んでどうすんのよ?」

 

 「だって……」

 

 「だってもこうも無い!……正直、滝野だって全然ダメだって思ってるでしょ?」

 

 「……そんな事は……」

 

 核心を突くような中川の言葉に、何とか反論しようとする滝野。

 

 「そんな事ねえよ。今からだって、十分間に合うだろ。……あすか先輩には届かないにしろ、コンクールで演奏出来るぐらいには……」

 

 「あはは、滝野って、優しいんだね」

 

 必死に弁明しようとする滝野に対し、中川は悲しそうに笑ってそう返した。

 

 「……アタシね、昨日アッキーに演奏聴いてもらったんだ」

 

 「……え?」

 

 中川から忍の名前が出て来た。それを聞いて、滝野の中に嫌な予感が走る。

 

 「もー散々だったよ。音が安定してないとか、指が全く追いついて居ないとか、息が全く持って無いとか。……アッキーって、ドSなんだねー」

 

 そう言う中川の口調は明るさを取り繕っているが、表情は反比例するように悲しいものだった。

 忍は音楽に絶対嘘をつかない。だからこそ、中川は彼の評価を知りたかった。

 しかしそこで忍が下した中川への評価とは……

 

 

 

 「……本当に、アタシって、まだまだなんだなぁって………」

 

 

 

 目を潤ませ、震えた声で中川はそう呟く。

 そんな彼女を見て、滝野の中に生まれたのは、同情や悲しみではなく怒りだった。

 なぜ、中川がこんな思いをしなければならないのか?

 忍が中川の気持ちも考えずに演奏を酷評したから?田中が無責任にも演奏を彼女に押し付けたから?

 

 それもあるだろう。しかしそれ以上に、自分の無力さが腹立たしかった。

 

 

 「滝野はさ、コンクールで吹くの、不安って感じない?」

 

 「え?」

 

 すると。中川から抽象的な質問が飛んでくる。

 

 「アッキーや高坂さんと比べて、自分なんか実力が足りないって、思ったりしない?」

 

 「………そりゃあ、思うよ」

 

 中川問いかけに、拳を握りしめて滝野はそう返す。彼だって、男だ。誰かに負けたく無いと言うプライドも持ち合わせている。

 

 

 「今も必死こいて吹いてるけど、やっぱり届かないなって、思う事あるよ」

 

 

 しかし、どうしても届かないと思う存在がいる。口では出さないが、彼も一番身近にいる同年齢、同パートの実力に嫉妬を抱いている。

 

 「……そっか。そうだよね。なんか安心した」

 

 そしてその感情は、中川も知っているものだった。田中はまだいいだろう。昔から上手くて憧れの先輩だ。しかし、もう一つ空いたその席に座っているのは、自分では無く年下の……

 

 

 「アタシはさ。こう言うの向いてないんだと思う」

 

 

 そして今度は吹っ切れた様に中川はそう言う。

 

 「……何が?」

 

 対して滝野には、彼女が何を言わんとしているのかが分からない。

 

 「誰かに勝つとか、誰かを引き摺り下ろすとか。……今だって、自分が演奏したいって気持ちより、あすか先輩に吹いて欲しいって気持ちの方が強いもん」

 

 自分より他人。自主的な献身性。

 中川夏紀と言う少女は、自分より他人を優先出来る子なのだ。

 

 「だからさ、アタシは良いかなって」

 

 「………そっか」

 

 ここまで言われては、滝野も何も言えなくなってしまう。

 

 「ありがとね。ここ数日練習に付き合ってもらっちゃって」

 

 「……別に、大した事してねーだろ」

 

 満面の笑みでそう言う中川に対し、照れを隠す様に滝野は目を背けながらそう返す。

 

 「ううん。アタシ、あの時滝野に居残り練習誘ってもらえて嬉しかったよ。滝先生にああ言われた時、すっごい不安だったから。ああ、コイツ、優しいんだなーって」

 

 「………分かったから。もう良いって……」

 

 中川からの手放しの感謝の言葉に、更に顔を真っ赤にする滝野。

 

 「……それより、あすか先輩の穴どうすんだよ?」

 

 恥ずかしさを誤魔化すためか、無理矢理話題を変える滝野。しかしこの問題もまだ残っている。対して中川は不敵な笑みを浮かべた。

 

 「そうだね。滝野の優しさに免じて、ちょっと頼みたい事があって」

 

 

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