響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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幕間:教え子1

 

 先生と生徒

 

 その間には、明確な区分がある。

 教育者と、生徒。年齢も違えば立場も違う。本来なら明確な線引きがなされている関係。

 

 しかし、そこはやはり人間。毎日顔を合わせれば、情も湧いてくる。

 

 

 「松本先生、お疲れ様です」

 

 陽も暮れ、いつも賑やかな職員室が静まり返る中、滝先生が話しかけたのは、もう1人の吹奏楽部指導者、副顧問である松本美知恵先生だ。

 

 「ああ、滝先生。お疲れ様です。本日も部活の方、お疲れ様でした」

 

 軽く会釈をし、社会人としての言葉を返す松本先生。

 

 「こんな時間までお疲れ様です。……全国大会への調整でしょうか?」

 

 「はい。人数も大方決まりましたので、宿泊施設の方に連絡を取っていました」

 

 続けての滝先生の言葉に、そう返す松本先生。

 

 「ありがとうございます。こう言う事務作業は松本先生に任せっきりなので、本当にありがたい限りです」

 

 そう続けて、深く頭を下げる滝先生。

 北宇治高校の吹奏楽部は、顧問が滝先生、副顧問が松本先生と言う立場だ。滝先生は顧問として、毎日生徒の演奏指導をしている。だが松本先生は、余り吹奏楽部の練習に顔を出すことはない。

 

 「いえいえ、こういう事務作業は得意ですから」

 

 代わりに、部活動を行う上での事務作業を担当する事が多い。

 サンフェスなどのイベントの調整。楽器を運ぶためのトラックの手配。合宿の際の合宿所の手配。そして今やっている、全国大会の前に宿泊する宿の手配。

 正に縁の下の力持ちと言ったところであろうか?

 

 「……去年と体制が変わって、色々忙しくなった部分もあるかと思います。本当に尽力してくださって、ありがとうございます」

 

 もう一度深く頭を下げる滝先生に対し、遠慮がちに松本先生は首を振った。

 

 「いえいえ、今の方が充実していますから」

 

 「そう言っていただけると助かります」

 

 それは社交辞令などではなく、松本先生本心からの言葉だった。確かに去年と違って忙しい事には忙しいのだが、苦には感じていない。高校生と言う、エネルギーの有り余る教え子達に当てられている部分もあるかもしれないが、それがなんだか心地良い、言葉に言い表せない感覚が松本先生の中にあった。

 

 「……ふふっ」

 

 すると、何か思い出したかのように松本先生は微笑む。

 

 「どうしましたか?」

 

 「いえ。去年は"一回だけ"、こういう経験をしたなと思い出しまして」

 

 「へぇ、それは気になりますね」

 

 まだ滝先生が赴任してくる前。まだ北宇治吹奏楽部が活動的になる前。1回だけ。"1人の少年"に振り回された経験があった。

 

 「ホント、今と変わらず馬鹿者でしたよ」

 

 そう言う松本先生は言葉とは裏腹に、柔らかい笑みを浮かべていた。

 

 

 

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 「ソロコン?お前が出るのか?」

 

 「はい。手続き関係はまつもっさんに聞いてくれって言われたんで」

 

 「松本先生だ!馬鹿者!」

 

 

 職員室。松本先生に相対するのは、真新しい制服を身に纏った、まだあどけなさの残る青年。いや、この頃は少年と表した方が良いだろうか?朗らかに笑うその姿は、人の良さを感じる。怒られたのにも関わらずケラケラと笑みを返していた。

 

 「すませんすません。顧問から行くってなると泊まりになると思うって言われたんすけど、そういう手続きってどうすれば良いんすかね?」

 

 反省の色も全く見せず、そう言って少年は1枚の申込書を松本先生の前に差し出した。松本先生はそれを手に取って一通り目を通す。

 

 「ふむ、……なるほど。関西地区と東海地区の合同のソロコンか。会場は……豊橋とはまた遠いな」

 

 「そーなんすよー。なんで前泊した方がいいんじゃないかって」

 

 豊橋は愛知県の東端に当たる都市だ。京都の宇治から日帰りで行くには多少無理のある話だった。

 

 「しかし、入学したてでソロコンとは、随分と挑戦的だな」

 

 目を書類から少年に移し、少し驚いたように松本先生はそう言う。

 反対するわけではないが、今の北宇治吹部の現状は松本先生も把握している。言い方は悪いがそんなところからソロコンを受けたいと言う"変わり者"が出る事が意外だったのだ。

 

 「まあ、実力試しみたいなもんです。……北宇治(ここ)じゃ腕を競うにも……ちょっとねぇ」

 

 言葉は濁しているが、少し困ったような表情になって少年は憂う様にそう漏らす。それを見て、松本先生も何か考えるような仕草をする。

 今の北宇治吹奏楽部は、正直に言ってしまえば楽器を本気で演奏しようとする者達にとっては良い環境とは言えない。

 しかし目の前の少年なら、それを変えてくれるかもしれないと、松本先生は感じたのだ。

 

 1年生の彼がコンクールでいい結果を出せば、部活の意識も変わるかもしれないと。

 

 「………分かった。手続きはこちらでやっておく。お前は部活に戻れ。詳細が決まったらまた伝える」

 

 「お、了解です。よーっし。やるべやー」

 

 松本先生の了承を経て、両手を突き上げてやる気を見せる少年。口調はのんびりとしたものだが。

 

 「だがやるからには中途半端は許さんぞ!わかったな!秋川!!」

 

 「もちろん!了解であります!!」

 

 檄を飛ばす松本先生に対し、ニコリと笑って敬礼を返す少年。もとい、北宇治高校吹奏楽部1年、秋川忍。

 

 

 ここから、『松本美知恵と秋川忍』。『教育者と生徒』との奇妙な関係は始まった。

 




ここでまさかの過去編をぶっこむと言う暴挙
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