響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
お待たせいたしました。ちょっと自分の人生の分岐点に立っていて忙しかった次第です。
今は落ち着いて今後は投稿頻度を上げていきますので、よろしくお願いしますm(__)m
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今日の今日とて個人練習。音楽室には、いつも通り忍の姿しか見えない。引き続き松本先生が伴奏を手伝ってくれているが、教師という立場上、付きっきりと言う訳にもいかない。そう言う時は先生の伴奏を頭の中でイメージしながらの練習となる。
一通り吹き終わると、忍は感覚を確かめる様に軽く頷いた。
「………よし」
ソロコンまであと3週間。忍の中ではかなり曲のイメージが掴めてきた。今回のソロコンは少し特殊な形で、2日間日程が取られている。まずは初日に予選会として演奏。それに通過すれば2日目に本選と言った流れだ。本来なら録音したテープを大会委員会に提出して予選審査と言うのがソロコンの流れなのだが、今回は関西、東海地区のみとの事でこの形となっている。
「……やっぱ1人じゃなー……」
誰も居ない教室を一瞥し、独り言を呟く。やはり忍としては聞き手が欲しい。松本先生も練習に付き合ってくれているが、指導と言う形とはまた違う。それに松本先生以外の意見も聞いてみたいと言うのが、忍の本音だった。
「まあ、この部活じゃそれも贅沢ですかねぇー」
仕方がないという風に、忍はまた独り言を呟く。気を取り直して再びマウスピースに口を付けようとしたその時、音楽室の扉が開いた。
「あれ?まつもっさん今日は練習付き合えないんじゃ………って、中世古先輩?」
教室に入ってきたのは意外も意外。同じトランペットパート2年の中世古香織だった。
「あら、吉川も居んじゃん」
そしてその後ろから、優子も現れた。
「お疲れ様、秋川くん。ソロコンの練習、頑張ってるみたいだね?」
にこやかに笑って中世古は忍に話しかける。
「ええ、まあ。まだまだ理想には程遠い感じですけどね」
忍がそう返すと、中世古は驚いた表情を浮かべた。
「あれでまだまだなんだ……優子ちゃんの言ってた通り、本当に音にはこだわってるんだね?」
「もちろん。やるなら徹底的にです」
そう言って、忍は中世古に向かって小さくガッツポーズを決める。
「それで、お2人はなにゆえ音楽室に?忘れ物ですか?」
続けて忍がそう聞くと今度は優子が会話に入る。
「違うわよ。個人練習」
「個人練習?」
これまた意外な言葉が出てきた。何故なら自分以外で部活終了後に残っているのは、田中あすか以外は今まで忍は見た事が無かったからだ。よく見ると2人ともトランペットケースを握っている。
「………何よ?アタシ達が個人練習しちゃ悪い訳?」
「いや、そうじゃないけど……」
不服そうに優子がそう言うと、中世古が軽く吹き出した。
「あはは。でも、ちょっと秋川君に影響されちゃったのかな?……せっかく部活に入ったんだから、私たちも何かやろうかと思ってね」
そんな優子にフォローを入れるように、中世古はそう言う。なんとなく、気を遣ってもらってるのだろう。それは忍にも分かった。あの時校舎裏で『なんとかする』と言い放った優子の言葉。その光景を思い出して、忍は嬉しそうに口角を釣り上げる。
「……そうっすか、あははっ!そっかそっか!」
なんだか突然笑い出した忍に、中世古と優子も目を丸くする。
「いやー、なんか急に賑やかになっちゃいましたねー」
「……お邪魔だったんなら帰ろうかしら?」
揶揄うように言う忍に対し、吉川は少し不機嫌そうに返す。
「いや、嬉しいかな」
しかし忍は、真っ直ぐ2人を見据えてそう言い放つ。あまりにもストレートな言葉だったので中世古も優子も少し照れるような仕草を見せた。
「……ああもう!何こんなとこで喋ってんのよ!さっさと練習するわよ!」
「へーへー。おお怖っ。オニババやん」
そんな照れを隠すように、優子が声を張り上げる。対照的に忍は飄々と返した。
「誰がオニババよ!アンタが舐めた態度取るからでしょ!?」
「だって吉川だし」
「アタシだったら舐めていいって言ってんの!?それ!?」
そして今では見慣れたものになった言い合いを始める。遠慮も何もない、思った言葉がすぐ出てくる2人。
「……ふふっ」
そんな光景を、中世古は満足そうに見つめていた。
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「……今日は滝野も居るんだ」
「……居ちゃ悪いかよ」
「いや、べっつにー?」
それから数日、忍しか居なかった放課後の個人練習は、ある程度人が目立つようになっていた。優子が取った行動は、忍を孤立させないようにする事。このまま孤立を深めるよりは、自身から歩み寄って少しでも雰囲気を良くしようとしての行動だった。
「俺だって音楽やりたくて吹部に入ったんだからさ、上手くもなりたいし」
どこか恥ずかしそうに、そう言う滝野。優子が行動を起こす事によって、忍の音楽に対する姿勢を見る者も増えた。それに影響を受けた部員は少ないながらも存在するようだ。
「へぇー。じゃあなんか吹いてみてよ。俺がジャッジしてしんぜよう」
「偉そーに言うなや」
忍が揶揄うようにそう言うと、口では否定しながらも滝野は演奏の準備をする。
「じゃあ、吹くぞ」
一言、そう言うと滝野は演奏を始める。奏でる音は、ぎこちない。それもその筈、滝野は高校からトランペットを吹き始めた初心者だ。しかし始めて1ヶ月と少しである程度メロディーラインを捉えられるのは、センスがいい証拠だった。
演奏を終えると、滝野は忍の方を見やる。
「うん。下手」
「直接言うなや」
あまりにもストレートな忍の発言に、顔を顰める滝野。
「背伸びし過ぎ。いきなり難しい曲やったって吹けるわけ無いでしょ?」
「ぐっ……!」
どうやら忍の正論パンチは滝野にクリーンヒットしたようだ。しかし、こうも実力差があると弱音の一つも吐きたくなる。
「秋川はいいよなぁ。5歳の頃から吹いてんだろ?」
「そうだけど?」
「もう経験値が違い過ぎてなぁ。なんか一生追いつけないって感じすらするよ」
弱気な発言をする滝野に対し、忍は少し微笑む。
「へぇー。滝野は俺みたいな演奏したいんだ」
「……あくまでお前と比べてって事だよ」
なんだか煽られてるように感じた滝野は顔を逸らして拗ねるようにそう言う。始めて1ヶ月の初心者ではあるが彼も男子、プライドもあるのだ。
「高い目標を持つ事は悪い事じゃないよ。でもさ、滝野はその目標に向けて何をすれば良いか、具体的に計画してる?」
「…………してない」
痛いところを突かれたと、滝野は渋い顔になってそれだけ返す。
「俺だって最初から上手かった訳じゃないよ。最初からハイトーンの超絶技巧が演奏出来たら、それこそ天才だもん。そんな人、俺は今まで見た事がないねぇー」
忍とて最初から上手かった訳ではない、ただ始めるのが早かっただけ。上達に当たって、ゲームの様に近道やショートカットはない。そしてそれはトランペットだけでなく、他の楽器、物事にも精通する。
「……やっぱ凄いな。秋川は」
5歳から10年。あまりにも長い時間秋川はトランペットと言う楽器と向き合ってきたのだ。そこに生まれる感情は、やはり尊敬の念だった。
同時にこの秋川忍と言う男が、滝野には眩しく、格好良く見える。
自分だって、こんなカッコいい男に少しでも近づきたい。
「……もっと練習して上手くなるからさ、今度また演奏聴いてもらって良いか?」
素直に、にこやかに笑って滝野は忍にそう言う。そんな滝野の表情を見て、忍も嬉しそうに笑った。
「もちろん。次はもっと上手くなってないと、愛想尽かしちゃうかもねー」
言葉ではそう言うが、表情は嬉しさを抑えきれてない。今後親友となるこの2人。このやり取りこそが、忍が滝野を意識した瞬間だった。
そして忍にその意識はあまりないが、彼は自身が認めた相手には"あだ名"を付ける癖がある。
「期待してるよ?"タッキー"」