響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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自由曲

 ____ピーッピッ!ピッピッピ____

 

 ドラムメジャーの田中が笛の音でリズムを取り、続いてパーカスが小さくそれに合わせる。

 まずは一歩、62.5センチ。左足から。

 

 ______スゥ……_______

 

 それと同時に、ブレスの音が微かに聞こえる。

 

 _____♪ー♪ー♪ーーーー_____

 

 行進と共に始まった曲は、RYDEENと言う曲。テクノポップの元祖とも言えるこの曲は、未来的なメロディとシンプルなフレーズが特徴の曲だ。

 立華の演奏の余韻が残る中、それを塗り替える様に北宇治の行進が続く。

 徐々に、しかし確実に、観客がこちらに顔を向ける。

 

 「あれ?」

 

 「カッコいいね」

 

 外野の声が塗り替えられて行く。

 

 「結構上手いじゃん」

 

 「何処だっけ?ここ?」

 

 皆が、北宇治に興味を持ち始める。

 秋川は演奏しながらも、行進しながらも確かな興奮を感じていた。

 

 やはり、音楽はこうでなくては。 

 

 隊列は、乱れず。62.5センチの幅を完璧に覚え、堂々と前を向いて皆演奏をしている。

 

 私の、俺の演奏を聞け。

 

 そう叫んでいる様な、堂々とした演奏だった。

 

 「何処の高校?」

 

 「知らない。調べてみる」

 

 そして、行進の最中、殆どの観客が北宇治に視線を移す。恐らくこの観客は、立華や洛秋を見に来たのだろう。しかし、今この瞬間は、自分達が主役として、その視線を独占しているのだ。

 

 

 

 「あぁ、良いなぁ………」

 

 

 

 演奏が終わると、秋川は青空を見上げて、そんな事を呟いた。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 サンフェスが終わると、中間試験を経て、次は夏に向けてのコンクールだ。

 吹奏楽コンクールは、全国の吹奏楽部がその頂点を目指す、言わば野球で言う甲子園の様なものだ。

 北宇治の所属する京都府は、京都大会、関西大会、そしてそれを超えると念願の全国大会と、2つの関門を突破しなければならない。

 激戦区と呼ばれる関西地区。その中で全国に出られるのは、たった2校。狭き門もここまで来ると、大渋滞を起こしそうだ。

 

 「まず、これからのスケジュールを皆さんにお配りします」

 

 滝先生がそう言うと、真っ黒に染まったスケジュール表が、各自に回される。最初はこの黒文字に引いたものの、今では既に誰も文句を言わなくなっていた。人の慣れというものは恐ろしい。

 

 「さて、ここからが重要な話なのですが……」

 

 プリントが全員に行き渡ったのを確認すると、滝先生が口を開く。

 

 

 「今年は、オーディションを行う事にしたいと思います」

 

 

 続けてそう告げると、音楽室が少々ザワつき始めた。

 

 「え、オーディションって……」

 

 「はい、私が一人一人、皆さんの演奏を聞いて、ソロパートも含め大会に出るメンバーと編成を決める。という事です」

 

 淡々と、滝先生はオーディションについて説明する。そして、その言葉を呑み込むのに少々時間を要し……

 

 「「「えぇー!?」」」

 

 驚愕の声が、音楽室に響き渡った。

 

 

 ___________

 

 

 コンクールに出るメンバーの上限は、55名。それ以上は出す事は出来ない。

 そうすると、部員の多い吹奏楽部は、そのメンバーから漏れる人が出てくる訳である。

 昔の洛秋なんかは、そもそも部員が足りずこのメンバー上限の半分程度の人数で全国金賞を取っていたと言うバケモノじみた過去もあったが、今ではコンクールに人数漏れが出る事など殆どない。

 北宇治では代々3年生が優先的にコンクールに出る決まりだった。しかし、滝先生は全国を目指している。ならば、選ぶ基準は"学年"では無く"実力"だ。

 

 

 「トランペットは、何人で編成すんのかねぇ」

 

 

 トランペットパートに充てられた教室で、呑気に秋川がそう呟く。

 今のトランペットパートの人数は、秋川含めて8名。なので55人中、全員がオーディションに受かると言うことはないだろう。

 

 「アッキーは受かるでしょ?つーか、受かんなかったら大問題だよ」

 

 ケラケラと笑ってそう返したのは、2年の加部だった。確かに去年ソロコンの最優秀賞を取っておいて、メンバー落ちしたら大波乱も良いところだ。

 

 「それより、ソロパートよソロパート。それも、オーディションで決まる訳?」

 

 「?、滝先生が言ってたんだから、そうなんじゃない?」

 

 深刻そうにその話題に触れる加部に対し、さも当たり前かの様に秋川がそう返す。

 

 「……って事は、ペットのソロパートがあったら、アッキーも吹く気がある訳ね?」

 

 「あたり前じゃん」

 

 一体何を言ってるんだと言う顔で、秋川はそう返す。一瞬、高坂の眉が少しながら動いた。

 

 「はぁ……そう、まあ、そうよね……」

 

 対して何が考え込む様にして、加部はそう呟いた。その横で吉川も、何か考え込む様な表情をしている。

 

 「お待たせー。課題曲と自由曲の譜面もらって来たよー」

 

 すると、パートリーダー会議から帰って来た中世古が、分厚い楽譜の束と共に教室に入って来た。

 

 「お、待ってましたー!滝先生のセンス拝見ですなぁー」

 

 秋川が目を輝かせ、その楽譜に食いつく。楽譜の他に、ニ枚のCDも添付されていた。

 

 「課題曲はプロヴァンスの風、自由曲は三日月の舞だね」

 

 机の上にCDと楽譜を置きながら、中世古が説明をする。

 

 「プロヴァンスは聞いたことあるけど、三日月の舞ってどんな曲だ?」

 

 後者の曲については秋川は全く聞いた事が無かった為、そう言って首を傾げる。他のパートメンバーも、同様に分からない様だった。

 

 「そうだね、とりあえずCDがあるから、一回流してみよっか?」

 

 中世古の提案に、他のメンバーは一様に頷く。そしてプレイヤーにCDを入れ、曲が始まった。

 

 

 「お、最初から見せ場じゃん」

 

 

 秋川が、楽しそうにそう呟く。出だしからハイトーン気味の難しい音程。その主旋律を担当するのは、トランペットだった。

 全体的にダイナミックで、アップテンポの曲。聴くだけでも難しさが伝わって来た。

 最初は全体で主旋律を奏で、次に各パートの楽器で目まぐるしく変わる様に主旋律を繋げる。

 そして曲も中盤に差し掛かった頃、それは聴こえて来た。

 

 

 「……あるじゃん。ペットソロ」

 

 

 ニヤリと笑って、秋川はそう呟く。ゆったりとしたリズムのそれは、周りの音が一切無い、トランペットだけの音が聞こえるパートだった。

 1分弱の、一つの楽器だけの独壇場。目立たない訳がない。トランペッターなら、誰しもが吹きたがる様なオイシイ場所だ。

 

 その後は、ゆったりとしたリズムを続け、最終的には最初のテンポに戻って、クライマックスへと向かう。

 

 

 こうして、三日月の舞の試聴が終わった。

 

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