響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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墓参り

 

 「行くぞー、凛花」

 

 「ちょ、ちょっと待ってー!あともう少しだから!」

 

 「優子待たしたら怖いぞー」

 

 「も、もう!急かさないでよ!」

 

 秋川家の玄関、忍と凛花がそんなやりとりをする。今日は珍しく部活は休み。貴重な休日だが、やらなきゃいけない事があった。

 

 「おっけー、準備できたよー。兄ちゃんも忘れもんない?」

 

 「線香よし、マッチよし、ロウソクよし。掃除用具よし。花は行く途中で受け取るか」

 

 「そうだねー」

 

 母親のお墓参りだ。必要なものを持って、玄関を出る。小慣れたもので、二人して自転車のカゴに墓参り用の用具を入れる。

 

 「優子さんとはどこで待ち合わせてんの?」

 

 「普通に宇治駅前」

 

 唯一いつもと違うのは、今日は優子も一緒に来る事だった。

 

 

 

 ____________________

 

 

 

 「……あー、優子?」

 

 「………何よ?」

 

 京阪宇治駅のロータリー。忍と凛花が待ち合わせ場所に着くと、優子は先に待っていた。しかし何やら様子がおかしい。優子はどこかバツが悪そうにしてるし、忍と凛花は優子の姿を見て目をパチクリとさせている。

 

 「お前、なんで制服なん?」

 

 忍と凛花は私服なのだが、優子は制服で来てたのだ。忍のその一言に優子の顔が真っ赤になる。

 

 「しょ、しょうがないじゃない!!こう言うの初めてなんだし!!」

 

 忍に指摘され、その真っ赤な顔で反論する優子。身内以外の墓参りなんて初めての経験で、どんな服を着て行けば良いのか分からなかったと言うのが実情だった。その結果、制服一人と私服二人と言うなんともアンバランスな組み合わせとなっている。

 

 「……にーちゃん、そう言うのは思ってても言わないの」

 

 「やめて凛花ちゃん。そう言う事言われるともっと恥ずかしくなっちゃうから」

 

 ともかくも、こんなところで恥をかくとは思わなかった。しかしまあ、制服で来てしまったものはしょうがない。しかしそれよりも、気になる事が一つ。

 

 「あれ、優子さん自転車じゃないんです?」

 

 「え?こっから遠いの?」

 

 まるで知らなかったと言うふうに、優子は目を丸くしてそう返す。それを聞いて、凛花はジトっとした目線を忍に向けた。

 

 「………にーちゃん、優子さんに駅から少し遠いって伝えた?」

 

 「伝えてないっすね」

 

 ………本当にこの兄はこう言う事にズボラ過ぎる。そんな兄の適当さに凛花は頭を抱えて軽く溜息をついた。

 

 「まあ、ここ乗ればいいっしょ」

 

 そう言って忍は自転車の荷台をポンポンと叩く。そんな軽い感じの忍を見て、凛花は更に深く溜息をついた。

 

 「はぁーー……にーちゃん、よくそんな事言えるね。二人乗りって結構特別なんだよ?ましてや付き合ってもない男女がやるにはちょっとデリカシー無さすぎるって」

 

 「いや、いつもやってるけど」

 

 「………はい?」

 

 忍から返ってきた言葉に、凛花は理解が追いつかない。え?いつも?

 

 「……いつも、優子さんと?」

 

 「そう」

 

 聞き間違いでは無かったようだ。凛花はゆっくりと優子の方に視線を向ける。そこには、先ほどよりも顔を真っ赤にして俯く優子の姿があった。

 

 

 「…………わお……」

 

 

 衝撃の事実を知り、そんな言葉しか返せない凛花であった。

 

 

 

 _____________________

 

 

 

 花屋に寄って、自転車を走らせ10分程。天ヶ瀬ダムを横目に到着したのは、少し山奥に入った霊園。都会の喧騒から少し離れ、空気の澄んだ場所だった。

 

 「ちょっと水汲んで来るから、凛花と優子は先に行っといてくれい」

 

 「りょーかい。線香とかは私が持ってっとくよ」

 

 「あ、私も手伝うわ」

 

 そう言って忍から荷物を受け取り、凛花と優子は先にお墓の前へと向かう。霊園や墓地の雰囲気と言うのは、独特なものがある。その空間だけ俗世と隔離されたような静けさ。その静けさの中に生まれる、厳かな空気。そして、線香の匂い。そんな空気を感じながら優子は一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。

 

 「着きました。ここです」

 

 凛花がそう言うと、優子の目に入ったのは、ありきたりな和型の墓石。1番上段には、『秋川家之墓』と彫られている。

 

 「あら、誰か来てる。孝子おばさんかな?」

 

 凛花はそんな事を言いながら準備を進める。つられるように優子も凛花に倣う。見てみると、凛花は慣れた手つきでロウソクや線香の用意をしていた。何度も来て自分でこう言う事をしてるのだろう。母親を大事にしている証拠だ。すると、凛花は古い花を替えて先ほど花屋で新しく買った献花を添える。

 

 「あ、この花って……」

 

 優子がその献花に目を奪われる。と言うよりも、献花の中にある一つの赤い花が、優子の目に留まった。

 

 「珍しいですよね、仏花にサザンカって」

 

 凛花が少し嬉しそうにそう言う。その花は、サザンカだった。10月から12月にかけて咲く秋の花で、季節としてはピッタリの花なのだが、このように墓参りで添える花としては珍しかった。

 

 「いや、珍しいとかは私には分かんないけど、……でも、なんだかちょっとこの花が気になっちゃってね」

 

 理由は、分からない。感覚と言うか、直感と言うか。しかしこの花を見て優子が目を奪われたのは事実だった。そして優子のその言葉を聞いて、凛花は表情を更に明るいものにする。

 

 「よかった。優子さんがそう言ってくれて、母も喜びます」

 

 「え?どう言う事?」

 

 理由が分からない優子に対し、凛花は懐かしむような表情に変わった。

 

 「この花、お母さんが1番好きだった花なんです。……本当はサザンカって、花びらが散りやすいから仏花には向かないんです。でも、1番好きだった花だから、お墓参りする時はいつもこの花を入れてるんですよ」

 

 「………そっか」

 

 凛花の説明に、優子はそれだけ返す。しかし表情は少し嬉しそうに、そして慈しむかのようなものだった。

 

 「ういー、それじゃ掃除すんべ」

 

 すると、バケツに水を入れた忍がやってきた。

 

 「もう、人が感傷に浸ってる時に、タイミングの悪い兄だねー」

 

 「なんで俺怒られてんの?」

 

 訳もわからず凛花に理不尽に怒られ、忍は困惑するのみだった。正に水差し野郎である。

 

 

 

 _________________

 

 

 

 「はい。じゃあこれ、優子の」

 

 「うん、ありがと」

 

 忍から線香を受け取り、それを墓石に立てて、3人並んで手を合わせる。各々の願いや想いを込めて。数秒か、それとも何十秒も経ったのか。そんな曖昧な時間を経て、最初に立ち上がったのは忍だった。それに続くように凛花と優子も立ち上がる。

 すると、忍は優子の手を取って墓石の正面に立たせた。

 

 「まあ、ちょっと挨拶遅れたけど、これが吉川優子。俺とは……えーっと……どう言う関係って言えばいいかな?」

 

 「どう言う関係なんだろうね?私たち」

 

 忍の疑問に対して、優子も疑問で返す。そんな二人を見て、凛花は少し吹き出した。

 

 「もー、にーちゃん、それじゃあお母さん困っちゃうよ」

 

 「って言ってもさあ、……そうだな、まあ、"特別"な人って感じ。紹介がてらで今日は来たよ。……優子からはなんかある?」

 

 「え?あー、えーっと、……こんにちは。吉川優子です」

 

 そう言って吉川は墓石の前で頭を下げる。少し失礼だが霊魂の前で挨拶しているようで、なんだか妙な感覚だった。

 

 

 「忍くんとは……そうですね。同じ吹奏楽部でパートも同じです。……そして、私にとっても"特別"な人です」

 

 

 短く、端的に。しかしそれでも全てが伝わるような、そんな挨拶をする。その言葉に、忍は少しだけ恥ずかしそうに、凛花はなんだか少しニヤついていた。

 

 「よし、じゃあそろそろ行くべ。じゃあ母さん、また来るから」

 

 「また来ます。今度は私もお花持ってきます」

 

 「じゃあね母さん。またお墓掃除しに来るからね」

 

 そして各々伝えたい事を伝えて、墓を後にする。墓参りを終えた後は、なんとも言えない気持ちになる。墓参りに来れたと言う安心感と、離れる故の少し寂しい気持ち。その感情が合わさって、少しセンチメンタルな気分になるのだ。

 

 「この後どうする?」

 

 そんな気持ちを紛らわすように、優子がそう聞く。時刻はまだお昼前で、時間は有り余っていた。

 

 「うーん、俺は吹きたい。今日はまだ全然吹いてないしね」

 

 「あ、じゃあ私もー。にーちゃん、久しぶりに音聴いてよね」

 

 どうやらこの兄弟はトランペットを吹くそうだ。

 

 「優子はどうする?」

 

 「付き合うわ。私も特にやる事ないし」

 

 「じゃあ、決まり。河川敷でいい?」

 

 「さんせー」

 

 「りょーかい」

 

 そんなやりとりをしながら、駐輪場まで戻って行く。

 すると、前から見知った少女が2人、歩いてきた。こんなところで会うとは思っていなかったのか、忍と優子は少々驚いた表情をしている。

そしてそれは、向こうも同じ。

 

 

 「アッキー先輩と、優子先輩……?」

 

 

 「……高坂さんと黄前ちゃん……?」

 

 

 そしてその組み合わせは、意外なものだった。

 

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