響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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信頼

 

 「………」

 

 「………」

 

 お互いに、奇妙な沈黙が流れる。

 今、この霊園にいるのは忍、優子と凛花。そしてその3人と対面にいる高坂、黄前の計5人だ。高坂と黄前は優子と同じく何故か制服で来ていた。誰もかもこんなところで会うとは思ってなかったのか、皆んな固まっている。

 

 「こ、こんにちは」

 

 何秒経った頃だろうか、ようやく口を開いて挨拶したのは、凛花からだった。その言葉に高坂と黄前もハッとした表情に変わり、軽く会釈をする。

 

 「びっくりしたー。なんで高坂さんと黄前ちゃんがこんなとこに居んの?」

 

 「……それはこっちの台詞です」

 

 驚いてそう言う忍に対し、高坂も同じく驚いた表情でそう返す。

 

 「俺らは秋川家の墓参り。ここ最近掃除してなかったからねー。ピカピカにしてきたぜ」

 

 そう言って忍はドヤ顔で掃除用具を高坂たちの前に見せる。なるほど、それなら納得だが、それはそれで気になる事が一つ。

 

 「……優子先輩も居るんですね」

 

 そう言ったのは、黄前だった。身内ならまだしも何故優子がそこに居るのか。対して優子はどう説明しようかと頭を巡らせる。

 

 「えーっと……まあ………挨拶、みたいな?」

 

 しかし上手い言葉が見つからなかった様だ。少し引き攣った顔でそう返す。

 

 「………挨拶?」

 

 ますます疑問が深まる。別に籍を入れた訳でもないのに、何故秋川家の墓参りなんかに来てるのだろうか?墓穴を掘ったと、優子は目線を逸らす。好きな人の母親はもう亡くなってるから、お墓参りで挨拶しに来たなんて、どう言えばいいのだ。

 

 

 「秋川家って言うか、俺らの母さんに挨拶しに来たって感じだね」

 

 「ちょ、ちょっと忍!」

 

 

 しかし優子は何か言葉を選ぼうとするその前に忍がどストレートに言い放った。案の定、高坂と黄前は顔が強張っている。

 

 「………すみません。失礼な事聞いちゃって」

 

 「別にいいよ。隠してる事でも無いし」

 

 申し訳なさそうな高坂に対し、忍はいつも通りにそう返す。

 

 「高坂さんたちがここに来た理由は………聞かない方がいいかな?」

 

 そして今度は、忍が高坂たちにそう聞く。2人とも優子と同じく制服だ。並ならない理由があって、ここに来ているのだろうと、忍が推察してのこの聞き方だった。

 

 「えーっとー……そうですねー……何と言いますか……」

 

 案の定、黄前は言い淀んでいる。しかし、もう1人は違った。

 

 

 「私たちは、滝先生の奥さんのお墓参りに来ました」

 

 

 しかし、先程の忍と同じく、今度は高坂がはっきりとそう言い放った。それを聞いて、優子と凛花は驚いた表情を見せる。

 

 しかし、忍は納得したような表情を浮かべていた。

 

 「………そっか、滝先生の……」

 

 「………驚かないんですね」

 

 忍だけ驚かなかった。普通、顧問のこんな秘密を知れば誰だって驚くはずだ。しかし、秋川忍は驚くどころか納得した様に落ち着いている。

高坂の胸の中が、騒つく。

 

 

 「うん。一回ここで、滝先生と会った事あるしね」

 

 

 更に驚く事実が、そこにあった。忍のその言葉に、凛花も、優子も、黄前も驚いている。

 

 しかし一番驚いてるのは、高坂だった。

 

 「………いつから、知ってたんですか?」

 

 少し震えた声で、高坂はそう聞く。

 

 「知ったのは1ヶ月前くらいかな?部活が午前練で終わった時に来たら滝先生がいたから、そこで」

 

 「……奥さんの事も?」

 

 「その時聞いた」

 

 「………なんで………」

 

 どうして、自分が知らなかった事を、この人は知ってるのだろうか。なぜ、自分が知っておきたかった事を、この人が先に知ってたのだろうか。

 

 なんで、自分じゃないのか。

 

 

 

 _______なんで?

 

 

 

 「麗奈」

 

 黄前の問い掛けに、高坂はハッと我に帰る。黄前が制してくれなければ、何を言っていたのか。

 

 「……ふぅーーっ。すみません。少し頭を整理します」

 

 一つ、深呼吸をしてそう言う。見たこともない高坂の様子に、凛花も優子も困惑していた。

 

 「……分かった。とりあえず、俺たちはもう外すね?墓地の真ん前でこんな話したらバチ当たりだからさ」

 

 忍が困った様に笑ってそう言うと、少しながら場の雰囲気が緩くなった。そして高坂たちと入れ替わる様にして忍たちは墓地から出ていく。

 

 「……アッキー先輩」

 

 「何?」

 

 すると、去り際に高坂から呼び止められる。

 

 「お墓参りが終わるまで、少し待ってもらっていいですか?」

 

 そう言って、高坂は真っ直ぐ忍を見据える。その真っ直ぐな瞳に忍も何か感じ取ったのか、ゆっくりと頷いた。

 

 「……分かった。駐輪場で待っとくから」

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 

 「高坂の不調の理由、なんとなく分かった気がするわ」

 

 「…………だねー」

 

 駐輪場。優子がそう言うと、忍は神妙な面持ちでそう返す。高坂たちの墓参りが終わる間、話題は高坂の不調の理由だった。

 

 「………てかアンタ、滝先生の奥さんの事知ってたのね」

 

 しかしそれよりも驚いたのは、忍が滝先生の事情を知っていた事だった。

 

 「まあ、たまたまだけどね。まさか高坂さんが知ってるとは思わなかったけど。……滝先生から口止めされてた訳じゃないけど、こう言うのを言いふらすのは違うでしょ?」

 

 「………まあ、そうね………」

 

 難しそうな表情で、優子はそう返す。考えるのは、自分がその立場だった時。不謹慎な話だが、もし今日の墓参りが母親ではなく忍の昔の恋人だったりしたら、また違う感情になっていただろう。と言うよりも、どう言う心構えでいればいいのか分からない。

 そんな中、お墓参りに来ると決めた高坂の覚悟はどの様なものだったのか。優子には想像出来なかった。

 

 「…………忍」

 

 「なに?」

 

 ふと、隣の自転車の荷台に座っている自分の想い人を見つめる。そして、安心した様に微笑んだ。

 

 「……いや、私は恵まれてるなーって思って」

 

 「……なんだよ、それ」

 

 好きな人に素直に好意をぶつけられるのは、幸せな事なのだろう。

 そう思うと、今後は少しだけ素直になってみようかと思う優子であった。

 

 

 

 ________________

 

 

 

 「お待たせしました」

 

 「いや、そこまで待ってないよ」

 

 十数分ほど待っただろうか、高坂と黄前が駐輪場に戻って来た。顔色も、いつもと変わらない。そして先ずは視線を優子に移す。

 

 「……優子先輩、ちょっとアッキー先輩、借りていいですか?」

 

 「良いわよ。後でちゃんと返してね」

 

 「……なんかこのやり取り前にもやらなかった?」

 

 いつぞやの再々オーディションの時と同じく、またしてもレンタルされる忍だった。

 

 

 

 「………アッキー先輩、ありがとうございます」

 

 「別にいいよん。あのまま終わってもどうせまた河川敷で吹くくらいしかやる事なかったしね」

 

 霊園の外れ。誰も通らない場所で高坂と忍は向かい合っている。しかし、雰囲気は少し張り詰めていた。

 

 「……それで、聞きたい事って?」

 

 忍がそう聞くと、高坂は一つ深呼吸をする。

 

 「……単刀直入に言います。優子先輩の事です。……アッキー先輩にとって、優子先輩ってどんな存在ですか?」

 

 「特別」

 

 即答で返ってきた。ここまでは予想通り。では、ここからが本題だ。高坂麗奈が、心底欲しいと願うその正体。

 

 

 

 「その特別って、なんなんですか?」

 

 

 

 「………難しい事聞くね」

 

 特別なんて、曖昧な言葉。それが一体、何なのか。

 

 「はい。でも、知りたいんです」

 

 高坂の瞳は忍を真っ直ぐに見据える。

 

 それに応えようとひとしきり考えると、忍は口を開いた。

 

 「そうだね、説明するのは難しいんだけどさ、仮に俺がただ優子を異性として好きなだけなら、この言葉は使わなかったかもね」

 

 「………どう言うことですか?」

 

 忍の発言の意図が見えず、高坂は怪訝な表情を見せる。

 

 「その人に好かれたいだけなら、自分の良いところだけ見せれば良いでしょ?その人に好きになってもらえればいいんだし」

 

 「………はい」

 

 「でも、それじゃあ自分が疲れちゃうじゃん。それって、自分を殺して完全に相手に合わせる事なんだから」

 

 「…………それは、相性でなんとかなるんじゃ」

 

 「ならないよ」

 

 強めの言葉で、忍は言い切る。高坂の背筋が少し伸びた。

 

 「自分と相性が全く一緒の人って、この世に存在しないと思う。似てるところがあっても、どっかで絶対違うところがある。それに、仮に相性が全く一緒の人が居たら、俺は付き合ってもつまんないね。それって自分と同じ方向を向いて、自分と同じ考えをしてるって事でしょ?じゃあ自分1人でいいじゃん」

 

 忍の言葉に、高坂は反論出来ない。でも、少しずつ分かってきた。

 

 「俺と優子ってさ、よくケンカと言うか、言い合いするじゃん?……言い方変かも知れないけど、あの時が一番嬉しいって言うか、俺も優子に合わせないし、優子も俺に合わせない」

 

 この2人は、普通の恋愛を超えている。

 

 「向こうが本音でぶつかってくれるから、こっちも本音でぶつかれる。それが無茶苦茶心地いいんだよね」

 

 恋愛を超えた先にある、"信頼"があるのだ。だから、自分の良いところだけではなく、悪いところも全て曝け出せる。

 それ程に、互いに自分の全てを捧げても良いと思ってるから。

 

 

 「だから、アイツは"特別"かな?」

 

 

 納得した。腑に落ちた。理解した。

 そして、心の底からそうなりたいと思った。

 いつしか、高坂は忍の事を"不思議な人"と評した。その違和感が、ようやく分かった。

 

 この人は、いつでも自分を取り繕う事がないのだ。

 

 すぐに本音が出るし、ミスをすれば落ち込むし、演奏が上手くいかなければ弱音も吐く。

 仮面を被って、取り繕って、ただひたすらに高みを目指して。そんな自分とは正反対の人。

 

 そしてその取り繕わない事こそが、"特別"になり得るのだと。

 

 

 

 『本当に特別な奴ってね、自分は特別だとか、ましてや特別になりたいだとか、微塵も思っちゃいないのよ』

 

 

 

 高坂は優子のこの言葉を再度思い出していた。あの時に言われた言葉が、今なら理解できた。彼女も、感覚的にではあるがこの事を理解していたのだろう。

 

 「………ありがとうございます」

 

 高坂は自然と、頭を下げていた。心の底からの、感謝の言葉。その様子に忍は目を丸くしている。

 

 「珍し、高坂さんが頭を下げるなんて」

 

 ……本当に、言葉を選ばない人だ。でも、これこそが彼を特別たらしめる所以なのだろう。そして高坂はゆっくりと頭を上げると、少し微笑んだ。

 

 

 「ええ。少し、素直になろうと思って」

 

 

 ほんのちょっぴり、大人になった。

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