響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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発表

 

 空を見上げている。どこまでも透き通る様な、青い空。それは今の忍の心を表していると言ってもいい。

 ホールの外庭の芝生で一人。空を見上げる彼の姿は、何を思っているのか。表情は何か呆けている様で、何か考えている様な、微妙な顔をしている。

 演奏は終わった。後は、結果を待つだけ。発表まではまだ時間があるので、各々やりたい事をやって時間を潰す。3年生組の一部は喫茶店に行き、1年生組の一部は演奏の録音CDの物販を漁っている。

 

 「この後どうするー?」

 

 「あ、私近くに楽器屋見つけたからそこ行きたい」

 

 不思議な事に、演奏を振り返る部員は居なかった。と言うよりも、現実感が無いと言った方がいいだろうか。ホール内での12分間の演奏は、あっという間で、演奏が終わってもこのメンバーで演奏するのがこれで最後と言う実感が湧かない。

 だって、昨日までは毎日顔を合わせて、毎日同じ楽譜と睨めっこして、毎日同じ演奏をして、毎日滝先生に何かしら言われて……それが、日常だったから。

 明日からはその日常が無くなるだなんて、誰しもが考えて居なかった。

 日常の中にいた3年生の面々は、明日からは非日常になる。それを、言葉には出さないが誰しもが受け入れられないのかも知れない。

 

 「忍」

 

 そんな何処か浮き足立ってる忍に、優子が話しかける。

 

 「あぁ、優子」

 

 「あぁ、って何よ。気の抜けた返事しちゃって」

 

 「気が抜けてるからな」

 

 互いに軽口を飛ばすがいつもの勢いが無い。浮き足立っているのは、優子も同じ様だ。

 

 「………終わっちゃったわね」

 

 「………終わっちゃったね」

 

 優子の言葉に忍はオウム返しをする。気まずい訳でも、怒っている訳でも無い。どちらかと言えば、お互いに初めての感覚に戸惑っている。言葉で表すなら、喪失感だろうか。しかし、何を失ってそう感じるのか、忍も優子も言語化できなかった。

 

 「来年は、私たちかぁー……」

 

 一つ背伸びをすると、優子はポツリと呟く。しかしその言葉には、計り知れない重さを感じた。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 『お待たせいたしました。それでは只今より、高等学校後半の部の表彰式を行います』

 

 ホール内、アナウンスがそう告げると、部員たちの背筋が少し伸びる。表彰式には、各校の部員たちがホール内に一同に集められる。その中で、結果に一喜一憂するのだ。

 

 『では始めに、本日のコンクールに出場された指揮者の方々に、指揮者賞を贈呈します』

 

 だがその前に、指揮者賞。全国に出場した指揮者である顧問の先生に送られる、個人賞の様なものだ。演奏の結果発表は、その後に行われる。

 

 『敬称は略させていただきます。山岡博己』

 

 「「「「せーの、山ちゃん大好きーー!!!」」」」

 

 一人目の指揮者が呼ばれると、そんな掛け声が聞こえて来る。

 

 「しまった!これがあった!」

 

 忘れていたと言う風に、鳥塚がそう言う。

 そう。この指揮者賞、顧問の名が読み上げられると、部員たちで掛け声を送ると言う慣例の様なものがあるのだ。して、北宇治は全国初出場。この事が頭に入っている部員なんて、一人として居なかった。

 

 「どうする!?何も決めてないよー!?」

 

 「もう間に合いませんね……」

 

 

 『……鈴木哲平』

 

 「「「「せーの、哲平先生、マジイケメーン!!!」」」」

 

 しかし無情にも、滝先生の番は近づいて行く。頼りの小笠原と田中は、今は代表としてステージにいる。つまり誰もまとめる人間が居ないのだ。

 

 『滝昇』

 

 そして、あたふたしてる間に先生の名前が読み上げられる。誰もが大事故になると確信したその時、一人の少女が真っ直ぐに立ち上がった。

 

 

 

 「先生、好きです!!!!」

 

 

 

 ホールに響き渡る、たった一人の声。それは、高坂だった。

 一瞬の静寂の後、何事もなかったかの様に拍手が送られる。見てくれだけなら、高坂のファインプレー。しかし言った本人は、席に座るなり恥ずかしそうに顔を覆った。

 

 「どうしよう、告白しちゃった……」

 

 そんな様子を見て、隣に座って居た黄前が笑いを堪えながら高坂の手を握る。

 

 「大丈夫、皆んな告白だと思ってないから」

 

 高坂からしたら一世一代の告白だったのだろうが、結果はただのエールになった。あんだけストレートに言い放ったのに。

 

 「高坂!まじファインプレー!!」

 

 「ありがとう!助かった!」

 

 その証拠に、優子と中世古から感謝の言葉を投げ掛けられる。結果的には告白と捉えられなくて良かったのか、高坂は少し安堵した表情を見せていた。

 

 

 _____________

 

 

 

 『お待たせいたしました。高等学校後半の部の成績を発表いたします』

 

 遂に結果発表。この場だけは、緊張の空気が張る。北宇治高校はプログラム3番。順番通り3番目に結果が読み上げられる。誰もが、手を合わせて祈っている。皆、ここまでやってきた事が報われます様にと。

 

 『1番、岐岩商業高等学校、銀賞』

 

 結果が出ると、拍手が湧き起こる。次に表彰状が読み上げられ、代表の2名が表彰状とトロフィーを受け取る。北宇治の発表はもう直ぐなのに、この時間すらもどかしい。誰しもが早く早くと、心の中で結果を待っていた。

 

 『2番、片敷高等学校、ゴールド金賞』

 

 2校目。金賞が読み上げられると、今度は歓声が湧き上がる。全国大会での、最高の賞。その嬉しさは、どんなものなのだろうか?

 

 『3番、北宇治高等学校』

 

 そして、北宇治高校。小笠原と田中が前に出る。北宇治の演奏は、果たして届いたのか____________

 

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