響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「はーい、集合写真撮るよー」
表彰式も終え、時刻は夕方。小笠原の掛け声と共に、北宇治の吹奏楽部員は集まる。しかし皆少し困惑した様子で、喜びの表情を出している者は少なかった。
「なんだ、そのしょぼくれた顔は?ちゃんと笑え!」
カメラを構える松本先生からそんな事を言われるも、部員たちの表情は何処か納得してない者が多い。そしてカメラのタイマーが切れると共に、シャッター音が鳴る。写真はぎこちない苦笑いを浮かべる者や真顔の者が多い。
写真中央、小笠原が持つ表彰状には、"銀賞"と書かれていた。
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「やー、終わりましたな」
写真も撮り終え、今はパート毎に集まっている。トランペットパートも集まっている中、忍があっけらかんとそう言い放った。
「何よ、随分とあっさりしちゃって。アンタは悔しくない訳?」
そんな忍に、案の定優子が噛み付く。彼女も何処か納得の行ってない表情をしていた。
銀賞。結果だけ見れば立派なものであるが、部員の過半数はこの結果に納得行ってなかった。なぜなら総合的に見れば金賞でもおかしくはなかったからだ。でも、結果は銀賞。その差がどこにあるのか分からないからこそのこの雰囲気だった。
「うーん、そこまで。演奏は良かったもん。俺のソロもバッチリ決まったし。別に審査員の評価を鵜呑みにする事もないでしょ?」
しかし、忍としては満足そうだ。彼とて金を目指してやって来た事に変わりはないが、それ以上に今日の演奏に手応えを感じている。だからこそ、そこまで落ち込んでいる様子が無かった。
「………私は、悔しいです」
しかし、それを受け入れられない者もいる。そう言う高坂は、俯いてグッと拳を握りしめていた。そんな各々の様子を見て、中世古は薄く微笑む。
「皆んな、納得出来ない部分もあると思うけど、本当によく頑張ったと思う」
「香織先輩……」
こんな時にでもパートリーダーとしての顔は崩さない。そんな中世古に、優子は寂しそうな表情を浮かべた。
「……正直、去年の今頃は全国に出ることすら夢の夢だと思ってた。このままなんとなく部活をやって、なんとなく卒業するのかなーって」
懐かしむ様に中世古は続ける。この1年間の北宇治の変化を一番感じてるのは、中世古を含む3年生達だ。だからこそ、この舞台のありがたみを一番噛み締めているのも、また彼女達だった。
「今なら確信できる。今日まで続けて来て、本当に良かったなって。……だから私は、大満足かな?」
そう言う中世古の表情は、満面の笑みを浮かべていた。
「今日の銀賞は、北宇治がまだまだこれからって言うことなんだと思うの。だから」
そこまで言うと、中世古は後輩達を見やる。
「来年は、絶対金賞だよ……!」
中世古の言葉に、全員が背筋を伸ばす。今、この瞬間。忍たちは託されたのだ。だからこそ、まだまだやれると言う事を、来年も証明しないといけない。
「「「はい!!!!」」」
そしてその期待に応える様に、忍たちも気持ちの良い返事を返した。
「あ、先生」
すると、今度は先生がトランペットパートまで歩いてくる。そして高坂の前で足を止めた。
「高坂さん」
「は、はい」
名指しで呼ばれ、再び背筋が伸びる高坂。
「先ほどの声かけ、ありがとうございました」
「え、あ、いえ……えっと、あれは」
これでもかと言うほど動揺する高坂。本人としてはみんながいる前で告白したも同然。小っ恥ずかしい事この上ない。
「実を言うと少し自信がなかったので、嬉しかったです。自分のやりたい事を押しつけてばかりで、皆さんには好かれていないと思っていたので」
しかし、滝先生にそうとは受け取られて居なかった様だ。感謝の言葉も一生徒として向けられたものだった。
「そんな事ありません!皆、滝先生のこと尊敬しています!」
高坂の言葉に、その場の全員が頷く。
「そうであれば、うれしいのですが」
「先生、私が北宇治に来たのは、先生がいらしたからです。それから……」
そして高坂は、意を決した様に滝先生を真っ直ぐ見据えた。
「私、本当に先生の事が好きなんです!!」
本当に真っ直ぐな、高坂麗奈と言う少女をそのまま表している様な言葉。ホールの時とは違う分かりやすい告白に、パートの女性陣は驚一様に驚いた表情を浮かべる。
「そう言っていただけると、教師冥利につきます。ありがとうございます、高坂さん」
しかし肝心の本人には伝わってなかった様だ。いつも通りに柔和な笑顔を浮かべ、「それでは」と一言だけ残して去って行く。
「……高坂、がんばろう」
ガックシと肩を落とす彼女に、優子は慰める様にその肩に手を置いた。
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「私たち3年生は、これで引退です」
陽は沈み、最後に部員全員が集められ、部長の小笠原から言葉が掛かる。
「最後になりますが、今日までこんな不甲斐ない部長に付いてきてくれてありがとう。この1年は嫌な事あったけど……不安な事もあって辛かった。でもそれ以上に皆と演奏が楽しくて……」
最後こそはちゃんとしようと、途中まではっきりと喋っていたのだが、後になるにつれて涙声になって行き、最後の方は何を言ってるか聞き取れない程だった。しかし、これも小笠原らしいと言えばそうなのだろう。泣きながらも全員から拍手が送られて居た。そして隣にいた副部長の田中ご小笠原の頭を一つ撫でる。
「では、泣き虫部長に代わって一言」
そう前置きすると、田中は目に焼き付ける様に後輩達を見やる。
「今日の演奏で言いたい事は何もありません。北宇治の音は全国に響いた。私たちは全力を出し切った。本当に皆んな、お疲れ様。そして3年生はこれで引退、 あとは2年生の天下です。もう不安しかありません」
茶化す様に田中がそう言うと、軽く笑いが起こる。
「えー、私は皆さんが知っての通り、回りくどい話はできないので、はっきり言います。今回の結果、私はめちゃくちゃ悔しい。でも3年に雪辱の機会はもうない」
そして、再確認する様に田中は後輩達を一瞥する。
「こんな思いは私達だけで沢山。だから来年は必ず金賞を取って!これは最後の副部長命令!分かった?」
「「「「はい!!!」」」」
田中の最後の言葉にいつも通り、部員たちは気合いのこもった返事を返した。
「よーし!その返事、忘れないよー?卒業しても毎日見に来るからねー」
「先輩、それ最悪です……」
最後に田中が茶化すと、中川が苦笑いでそう返す。またしても笑いが起こった。
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その後、途中黄前が抜け出すと言うハプニングがありながらも、帰宅の準備を終えて帰りのバスに乗り込む。全員疲れ果てて眠っている中、窓際の席に座っている忍はイヤホンをつけて楽譜と睨めっこしていた。
「アッキー先輩、何見てるんすか?」
すると、隣の席に座っていた塚本が忍に話しかけた。
「ん?、ああ、これ?ソロコンの楽譜」
そう言って、忍は楽譜を塚本にも見せる。見てみると、難しそうなトランペットのスコアが書いてあった。
「ソロコンですか。もうエントリーしたんですか?」
「いや、エントリーはまだ先。曲だけ決めたって感じだねー」
「にしても早いですね。俺なんて疲れて次のことなんかまだ考えられないですよ」
先ほど全国のコンクールが終わったばかりだ。皆んな疲れ果てているところなのに、この人はもう次の事を考えていると、塚本は驚きを隠せないでいた。
「次は全国規模のソロコンだからねー。気合い入れんといけんのですよ」
「全国規模って言うと……JBAソロコンですか。……マジでやるんすね」
全日本中学生・高校生管打楽器ソロコンテスト
通称、JBAソロコン。
数あるソロコンテストの中でも、全国から猛者が集まる最高峰のコンテストだ。前回と違って参加人数も桁違いならレベルも桁違い。予選を勝ち抜くだけでもほんのひと握り。最高の演奏が出来たって本選に行けるかどうか分からない。そんな険し過ぎる道を、忍は進もうとしていた。塚本の驚きようも納得である。
「最近は技術も上がって来たし、何より自分の演奏がどこまで通用するか、試したいしね。タイミングとしては最高かな?」
しかし忍は、心底楽しそうに笑っている。彼の演奏に対してのこの向上心は、本当に底が見えない。
「……ホントに凄いっすね。アッキー先輩は」
音楽にはどこまでも純粋で、どこまでも突き詰めて行くその姿勢は、一吹奏楽部員として、一先輩として憧れる。
「つかもっさんも出る?」
「いや、俺は遠慮しときます……」
揶揄う様な忍の言葉に、塚本は苦笑いで返す。
流石にここまでは出来ないと、塚本は舌を巻くばかりだった。
そして、数日後。
「はい。それでは、これでエントリーの手続きを進めます」
職員室。忍から滝先生にソロコンのエントリーシートが渡され、受理される。今回は、堂々と学校エントリーでの参加だ。
「同時期にアンサンブルコンテストもあるので、松本先生にも協力はお願いしてます。全力を尽くしてください」
「もちろんっす!いやー、遂にこれに挑む時が来ましたねー」
「私としても期待してます。……しかし」
そこまで言うと、滝先生は再度エントリーシートを見る。目についたのは、伴奏者の欄。
「伴奏者は、本当に"彼女"で良かったのですか?」
「ええ。良いんじゃないですか?昔やってたって言ってましたし」
滝先生の疑問に、忍は適当にそう返す。
伴奏者の欄には、"吉川優子"と書いてあった。
もうちょっとだけ続くんじゃ