響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

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ここから第4章、最終章に入ります。


これからの自由人
事後報告


 

 「はあああああ!?!?」

 

 パート練の教室に、優子の叫び声が響き渡る。メンバーは何事かと顔を向け、目の前にいた忍に至っては反射的に耳を塞いでいた。

 

 「声でけーよ。皆んなびっくりしてんじゃん」

 

 「びっくりしてんのはこっちよ!!」

 

 あいも変わらずマイペースな忍に対し、優子のカミナリが落ちる。いつも通りの光景だが、それにしては異様な驚き様だった。

 

 「ど、どうかしたんですかー?」

 

 そんな二人の様子を見て、おずおずと吉沢がそう尋ねる。

 

 「どうしたもこうしたも無いわよ!!なんで勝手に私がソロコンの伴奏する事になってんのよ!?」

 

 忍のソロコンの件、優子を伴奏にしてエントリーしたはいいが、肝心の本人には伝えてなかったらしい。しかし忍には反省の色が全くない様で

 

 「だって、昔やってたって言ってたじゃん」

 

 「そうじゃねーよ!!勝手にやんなって言ってんだよ!!」

 

 「優子先輩、口調、口調」

 

 怒りが頂点に達した優子がキャラ崩壊すると、吉沢から宥められる。

 しかし優子の怒りようも納得出来る。大前提として本人に報告せずに勝手にエントリーした時点でナンセンス。そして極め付けは_______

 

 「まだ部長になったばっかりよ!?ただでさえ忙しいのに仕事増やしてどーすんのよ!?」

 

 タイミングである。3年生も引退し、北宇治吹奏楽部は新しい体制となった。そんな中、吉川優子に与えられた役職は、"部長"。

 幹部にとって世代が移り変わる時期というのは、本当に忙しくなる。会計のやりくり。編成のやりくり。先生との調整。先輩達からの引き継ぎ。上げるだけでもキリがない。やってもやっても仕事が終わらない中で、別方向からの仕事が来たのだ。しかも、ソロコンの伴奏という特大案件。それを勝手に進められたとなれば、この怒りようも納得である。

 

 「まあまあ。滝先生とも話して仕事の割り振りは副部長にも手伝ってもらうって事になってるから。なつきちにもOK貰ってるし」

 

 「そー言う事じゃないわよ!!てかなんで夏紀の方が先に知ってんのよ!?」

 

 「なつきちがギリギリまで言わない方が面白いって言うから……」

 

 「犯人アイツかよ!!!!」

 

 「優子、口調口調」

 

 再びキャラ崩壊した優子に今度は加部から宥められる。

 3年生が引退して少しは大人しくなると思われたトランペットパートだが、寧ろ前よりうるさくなっている。ストッパーの中世古が居れば少しは大人しくなるのだが、もう居ない。こんなところで彼女の偉大さを痛感するのだった。

 

 「まあ、優子がソロコンに参加しても大丈夫なようにバックアップしてるって事。後は優子がやる気があるかどうかだけど」

 

 忍はそこまで言うと、今までの気の抜けた顔から一転、真剣な眼差しで優子を見つめる。

 

 

 「どう?やってみる?」

 

 

 あとは、本人にやる気があるかどうか。忍の真剣な眼に、優子は一瞬怯む。部長になってやる事は沢山あると覚悟はしていたが、まさかこんな事になるとは思っていなかった。しかも、出場するソロコンの大会は、日本最高峰であるJBAソロコン。忍ならレベルも申し分ないだろう。しかし、疑問が一つ。

 

 

 「……一つ聞かせて。忍は、なんで私を伴奏に選んだの?」

 

 

 本気でソロコンで上を目指すなら、伴奏もプロに頼んだ方が良いのではないか?なぜ忍は優子を指名したのか。

 

 

 「優子に伴奏して欲しかったから」

 

 

 帰ってきた答えは、真っ直ぐなものだった。忍らしい、単純で嘘偽りのない言葉。優子とて、それを感じられないほど短い付き合いではない。

 

 「………アンタの気持ちは分かったわ」

 

 考え込む表情で優子は呟く。忍の覚悟は理解した。後は彼女自身の気持ちだけなのだが

 

 「ちょっと、時間ちょうだい。いろいろ考えてから、答えを出すわ」

 

 いきなりの事でまだ整理が出来てない。部長と兼任してやれるのか?そもそも中途半端にならないだろうか?

 

 そして何よりも、自分の伴奏で忍を支える事が出来るのだろうか?

 

 「………分かった。エントリーの締め切りが金曜までだから、そこまでに答えを出してねー」

 

 忍は柔らかく微笑んでそう言う。その表情は、何かを確信しているようだった。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 「はあ〜〜〜っ………」

 

 夕方。下駄箱の前で一人、優子は深いため息をつく。

 まずは状況を整理しよう。今は11月の頭。そして、ソロコンは1月の初旬にはもう音源審査の予選。

 部活動は新しい世代に移行している真っ只中で優子自身、慣れない事も多い。やる事もてんこ盛りで、3年生組が抜けたおかげで音の圧が随分と落ちた。これから各パートリーダーと話し合って来年どのパートを重点的に編成しなきゃいけないのか考えなければならない。あとは滝先生が居ない時に指揮を代行するのは部長の役目だ。指揮者の勉強もしないといけない。あとは部員からの相談。新体制で皆が手探りな状況なので、その分部員からの質問や相談が多い。あとは________

 

 ……あれ、これはいわゆる"詰み"と言うやつなのでは?

 

 考えれば考えるほどやる事が多すぎる。そんな中、ソロコンの伴奏に時間を割くなんて……

 

 「あっら、珍し。一人なんだ」

 

 すると、優子の耳に聞き覚えのある声が入ってくる。……もっとも、その人物は今、優子にとって一番顔を合わせたくない人間なのだが。

 

 「……なによ?」

 

 「なーんも?ただ、部長のくせに辛気臭い顔してたからさ」

 

 「……誰のせいだと思ってんのよ?副部長」

 

 優子に話しかけたのは中川だった。いつものように、ニヘラと皮肉っぽい笑みを浮かべている。

 

 「さぷらーいず。驚いてもらったようで何よりです」

 

 「人生で一番いらないサプライズだったわ」

 

 中川の皮肉に対して、優子も皮肉を返す。なんだかんだで似ている二人だ。

 

 「ほら、行くよ」

 

 すると、中川は優子の肩を叩いてそう言う。叩かれた本人はキョトンとしていた。

 

 「え、何?アンタと一緒に帰んの?」

 

 なんだ、優しいところもあるなと、優子は少しだけ中川の事を見直す。

 

 「部長が一人寂しく帰ったなんて知られたら、他の部活に舐められちゃうからねー」

 

 「……やっぱり一人で帰るわ」

 

 訂正。やっぱりコイツは一生性格が悪いままだと確信する優子だった。

 

 

 

 _____________

 

 

 

 

 「んーっ……やる事多くて疲れちゃうねー」

 

 「結局一緒に帰るのね……」

 

 帰り道、珍しい組み合わせで駅までの坂を下る。そう言って中川が背伸びをすると、優子はゲンナリとした顔でそう返す。

 

 「なーに?アッキーとはあんなに嬉しそうに一緒に帰ってるくせに。アタシだとこーんなにも態度違うんだ」

 

 「うっさいわねー!誰が好んでアンタなんかと一緒に帰んのよ!」

 

 部長と副部長になってもこの二人の距離感は変わらない。お互いに言いたい事を言って坂道を下る。

 

 「ってか、なんでアンタ、ソロコンの事忍に口止めしてたのよ?」

 

 「別に?そっちの方が面白いって思ったから」

 

 「本っ当に最悪な性格してるわね、アンタ」

 

 本当に忍の言った通りだったとは。優子の眉間に皺が寄る。それを見て、中川は表情をニヘラとしたものから柔らかい笑みに変える。

 

 「ってのは冗談。……アンタ、全国終わってからここ最近までずっとバタバタしてたでしょ?」

 

 「やる事は沢山あるわ。部長としてやれる事はやっておきたいし」

 

 さも当たり前かのように、優子はそう返す。それを見て、中川は合点が行ったかの様な表情に変わる。

 

 「……やっぱ気付いてないか。この際だからハッキリ言ってあげる。アンタ、一人でなんでもしようとし過ぎ」

 

 「……別に、そんな事ないわよ」

 

 本当に顔に出やすくて助かる。図星を喰らった優子は案の定バツの悪そうな顔をしていた。

 これは、吉川優子の性格的なものだろう。彼女は、一言で言えば要領が良い。色んなものを同時にこなせるからこそ、なんでも一人でやろうとするのだ。そして厄介な事に、それを表に出さない。

 

 「ぶっちゃけアッキーからソロコンの伴奏を優子にさせるって聞いた時、ちょうど良いなって思った。一人でやれる事の限界を嫌でも分からせられるからさ」

 

 しかし、中川はこの事に気付いていた。それは、役職の近い副部長と言う立場だからこそ、気づけたものだろう。

 

 「全部背負い込むのも良いけど、それじゃあアタシがつまんなくなっちゃうから」

 

 そこまで言うと、中川はしっかりと優子を見据えた。

 

 

 「"副部長"って役職がなんであるのか、もうちょっと考えたら?」

 

 

 なんとも彼女らしい、少し捻くれた手の差し伸べ方。しかし気持ちは伝わる様な、そんな言葉だった。

 

 「………っぷ」

 

 すると、優子が吹き出す。

 

 「……ちょっとー、アタシ真面目な話してんだけどー?」

 

 「ふふっ、いや、随分と周りくどい言い方するなーって。素直に"私を頼れ"って言えば良いのに」

 

 「なっ……!」

 

 優子に指摘され、今度は中川の顔がみるみる赤くなっていく。

 

 「あーもー!なんでそう言う事言うかなー!せっかくそれとなしに言ってやったのにさー!!」

 

 頭をガシガシと乱雑に掻いて中川は吐き捨てる様にそう言う。照れ隠しであるのはバレバレだった。

 

 「そうねぇ、こんなに頼られちゃったから、お言葉に甘えちゃおうかしら?」

 

 そんな中川に対し、追い討ちを掛ける様に馬鹿にしたように優子はそう言う。やっぱり、彼女も中々な性格をしている。

 

 「……やっぱ、さっきの無しにしようかな?」

 

 「もうダメでーす。言質取っちゃったから」

 

 先程とは形勢逆転。優子の方が揶揄う立場になっている。しかしその表情は、とてつもなく嬉しそうだった。

 

 「こんのっ………ふん。ともかく、そう言う事だから、アンタがソロコンの伴奏をしても何ら問題ないって事。今日はそれだけ伝えたかっただけだから」

 

 最後は早口になりながら、吐き捨てる様にそう言うと、逃げる様に中川は早歩きで先に帰ろうとする。

 

 「あ、ちょっと、待ちなさいよ」

 

 そんな中川を、優子は呼び止める。

 

 「何?もう言う事言ったんだけど?」

 

 今すぐにでもこの場から去りたいのだが、中川は渋々と振り向く。

 

 

 「ありがと、夏紀」

 

 

 単純に一言。優子は言わなきゃいけない事を伝える。いきなりの素直な言葉に、中川の顔が更に真っ赤に染まった。

 

 「っ〜〜!!ホントに調子狂う!!!」

 

 どこまでも、優子に対しては素直ではない中川だった。

 

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