響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜 作:キングコングマン
「と、言うわけで、部長はソロコンの伴奏に夢中なので、副部長のアタシがサポートしまーす」
「何でアンタはそうトゲのある言い方しか出来ないのよ!!」
翌日の音楽室。気怠げに中川がそう言うと、案の定優子が食ってかかる。このやり取りも慣れたもので、そんなコントをスルーする様に部員からはちらほらと拍手が湧く。最早この二人のやり取りも名物化しつつあった。
「今回のソロコンテスト、秋川くんがエントリーをします。吉川さんは伴奏を担当する事になりましたので、皆さんも出来る事があればサポートをお願いします」
付け加える様に滝先生がそう言うと、再び拍手が湧く。部員の反応は期待に満ちた者ばかりだ。元々目立つ要素が満載のこの二人。しかも関係性もほぼ筒抜けなので、部員達の中では驚きよりも納得してる者が多かった。
「忍、アンタも何か言いなさいよ」
すると、優子から話を振られる。忍はその場で立ち上がると、まずは部員達を一瞥した。
「うーん……」
何か喋ろうとするも、何を伝えればいいのか。ひとしきり考えると、薄く笑って忍は口を開いた。
「特にはありません。……ただ、自分の音が誰かの心に残ればいいなって思います」
抱負としては、言葉が足らないのだろう。しかし、秋川忍と言う一人の人間を表す言葉としては、充分だった。その言葉に部員達も、松本先生も滝先生も納得した笑みを浮かべている。
「今回は彼らがソロコンに挑戦する訳ですが、北宇治の吹奏楽部はこの2人だけではありません。置いてきぼりにならない様、皆さんも気を引き締めてください。いいですね?」
「「「「はい!!」」」」
締めるように滝先生がそう言うと、部員達からも気合いの入った返事が返ってくる。ソロコンに出る事で部員達のモチベーションが上がる。去年とは真逆の光景だった。
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「あれ、ここってこのリズムで合ってるんだっけ?」
「うん。でも俺的にはもうちょっと溜めてくれた方が入りやすいかも」
ソロコンの練習は、毎回全体練習が終わった後に行う。他の部員は気を遣ってか、その後の音楽室は2人きりになる事が多い。忍のトランペットのスキルは言わずもがなだが、優子のピアノスキルはまだ粗かった。元々習い事で小学校までしかやっていなかったので、当たり前ではある。
「________こんな感じ?」
「そうそう。そんな感じ」
なので練習は忍が主導となって行う事が殆どだった。忍が求める音を優子に伝え、優子はそれに倣うようにピアノの鍵盤を叩く。ただピアノに関しては忍はてんで素人なので、忍が指導をすると言うよりかは、お互いに手探りあいながら音を創り上げていくと言った方が正しいだろう。
「おつかれー、2人とも。差し入れ持ってきたよー」
すると、音楽室入り口の方から声が掛かる。振り向いてみると、ビニール袋を持った傘木と鎧塚が居た。
「調子どうー?」
そう言いながら、傘木は差し入れを2人に渡す。
「サンキュー。まあ、ええ感じでございます。あとはピアノの腕が追い付くだけですな」
「テンション下がる事言ってんじゃ無いわよ!」
「いだっ!!」
いつものように口の減らない忍に対し、優子からのストレートパンチが忍の肩に直撃する。
「あっはは!君たちは相変わらずだねー。あんまプレッシャー無いようで安心したよー」
そんな光景を見て、安心したように笑って傘木はそう言う。
「………優子、ピアノ教えようか?」
そしてもう1人、鎧塚は首を傾げてそう聞いてきた。
「よろみー、ピアノ弾けんの?」
意外だったのか、少し驚いた様子で忍がそう言う。
「ああ、そっか。みぞれ、中学までピアノ弾いてたもんね?」
今度は優子が言葉を付け加える。南中で同じ吹奏楽部だった優子は鎧塚もピアノ経験者である事を知っていた。
すると、傘木が閃いた様な表情を浮かべる。
「じゃあさ!、一回みぞれの伴奏でアッキー吹いてみなよ!」
傘木の提案に、3人とも鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべる。もうソロコンは忍と優子でエントリーしているので鎧塚が伴奏をしてもあまり意味が無いのだが、傘木の狙いやいかに。
「みぞれの伴奏聴いて、優子も何か得るものがあるんじゃないかって思ってさ。優子もデモテープ以外の見本の伴奏、聴いた事ないでしょ?」
「なるほど……」
傘木の説明に、優子も腕を組んで考える。確かに伴奏に関しては優子と忍だけで試行錯誤している状況だ。実際トランペットパートでは日替わりでお互いの音の感想を言い合う練習もしているし、ここいらで第三者からの音を聴いてみるのも良いかもしれない。技術的なお手本というよりかは、何か別の発見があればと思っての傘木の提案だった。
「みぞれ、伴奏行けそう?」
「………楽譜があれば、ある程度は」
優子の問いかけに、鎧塚は小さく頷いてそう返す。
「忍も、良いわね?」
「もちろんいいよん。俺も優子と違う伴奏がどんな感じなのか知りたいしね」
忍の方も大丈夫な様だ。そして鎧塚はピアノの前に座り、楽譜を一通り確認する。何度か音を出して感触を確認すると、鎧塚は忍にアイコンタクトを取る。
「良いよ。よろみーのタイミングで」
一言そういうと、鎧塚は軽く深呼吸をして、鍵盤を叩く。
「……うわっ、上手っ」
一言、優子からそう言葉が漏れた。流石中学までみっちりピアノをやっていただけある。最初の伴奏から始まる部分は技術的には優子より上と言ってよかった。
そして、合わせる様に忍のトランペットの音も重なる。
「………ん?」
しかし、なんだか違和感がある。最初に首を傾げたのは傘木の方だった。
鎧塚のピアノの技術は高い。そして忍のトランペットの技術も、言わずもがな。本来ならお互いの高い技術力でハーモニーが生まれるはずなのだが、この演奏ではそれが起こっていない。
「あー………」
対して優子の方は納得した様に頷く。
一言で表すなら、"合っていない"。
お互いが音を主張し過ぎていて、まとまりが無くなっているのだ。だからか演奏をしている2人も、どこかやりにくそうに音を奏でている。サッカーで言うなれば、お互いにパスは出し合っているのだがタイミングが合わなくて攻めあぐねていると言ったところか。
そしてそんな演奏に耐えきれなくなったのは、鎧塚の方だった。伴奏を止め、少し困った顔で忍の方を見る。
「………アッキー、ちゃんと合わせて」
「……こう言うのは伴奏が合わせるもんじゃねーです?」
鎧塚の文句に、忍も文句で返す。演奏に関してはどちらも引く気は無い様だ。
しかし、分かったこともある。
「なんとなく、分かったかも」
それにいち早く気づいたのは、第三者視点から演奏を聴いていた優子だった。
「今ので?私には全然上手く行ってない様に見えたけど……」
対して傘木の方はまだ頭に疑問符が出ている。
「うーん、どう言えば良いかしら……」
優子はなんとか言葉をまとめようとひとしきり考える。これは優子が感覚的に感じたものだ。あとはそれを言語化するだけ。
「えーっと、意識の部分って言えば良いのかな?確かにみぞれの伴奏は上手かったわ。私より数段ね。……でも、なんって言うかな?合ってないって言うか……」
優子がそこまで言うと、傘木も合点が行ったのか納得した表情を見せる。
「アッキーの音と"ケンカ"してるって事?」
助け舟を出す様に傘木がそう言うと、優子はようやく明るい表情を見せた。
「そう!それ!本当は忍が前に出なきゃ行けないんだけど、みぞれの伴奏がそれを邪魔しちゃってんのよ」
「…………」
「あぁ!別に悪口じゃ無いわよ!?……分かったからそんな顔しないの!」
優子の直接的な物言いに鎧塚の表情が少し歪む。繊細な彼女に慌ててフォローし直していた。
「別にみぞれが悪い訳じゃ無いわ。……逆に本当にいい事に気付けたんだから、感謝したいくらいよ」
今までは自分のピアノ技術を高める事が、忍の支えになると思っていた。しかし鎧塚の伴奏を聴き、少し意識が変わった。
大事なのは、主役である
ピアノの技術は、そこに至るまでの"過程"であると言うことに。
「……忍、アンタが私を伴奏に指名した理由、なんとなく分かったわ」
それを理解すると、忍が優子を伴奏に指名した理由も分かった。彼は"技術的"な部分では無く、"性格的"な部分で彼女を指名したのだろう。
吉川優子と言う、1人の少女の献身性。
そう考えれば、これ以上に無い程の人選だった。
「なんか知んないけど、よかったね?」
しかし当の本人は、そんな意識は無かったらしい。トボけた忍の言葉に、3人ともズッコケていた。