響け!ユーフォニアム〜北宇治のスーパー自由人〜   作:キングコングマン

14 / 138
じゃれ合い

 コンクールに向けての練習が始まった。まずはパート練。各々譜面に触れて、曲の全体像を掴む。花形であるトランペットは、主旋律を担当する事が多い。

 そして、この三日月の舞も、例に漏れず主役はトランペットだった。

 

 「違う違う、ヨッシー。そこでブレスしなかったら、後が息続かないよ?」

 

 音を出していたトランペットパート一年の吉沢秋子に対し、秋川はそう言って演奏を止める。

 

 「は、はい。でも、ここブレス無しでもなんだか行けそうじゃないですか?」

 

 対して吉沢は、首を傾げて秋川にそう返す。

 

 「そう?、じゃあブレス無しでやってみて?出来なかったら今日一日、肺活トレーニングの刑ね?」

 

 「そ、そんなー!」

 

 意地悪な笑みを浮かべてそう言う秋川に、吉沢は困り果てた様な表情になる。

 ここはトランペットパートの教室。各々、曲の得意なところや苦手なところを、確かめる様に何度も繰り返して吹いていた。

 

 「はい、じゃあ、24小節から行ってみよー」

 

 「うぅー……はい……スゥーーー……」

 

 _____♪ー♪ー、♪♪ー________

 

 吉沢がこれでもかと言うくらい大きく息を吸うと、勢い良くトランペットの旋律が流れる。しかし、それも最初だけで、後半になるにつれて徐々音が弱くなっていき、最終的にはすかしっ屁の様な音しか出なくなっていた。

 

 「はい、じゃあ肺活トレーニングにご案内ー」

 

 吹き終わった吉沢に対し、いい笑顔でそう宣言する秋川。吉沢はがっくしと肩を落としている。

 

 「あはは、秋川君、あんまり虐めちゃダメだよ?」

 

 そんな2人のやり取りに、中世古が軽く笑ってそう言って来た。

 

 「甘いですよ香織先輩。ヨッシーは経験者。そして俺達は全国を目指してる。全体のレベルアップの為にも、俺は鬼にならねばならないのです……」

 

 仁王立ちになり、しみじみとそう言い放つ秋川。トランペットパートは、彼のこのひょうきんな性格により、かなり雰囲気が良かった。

 一人、高坂だけは相変わらず個人練に行っていたが。

 

 「なーに偉そうな事言っちゃってんのよ?アンタだって、まだ完璧じゃないでしょ?」

 

 そんな秋川に突っ掛かる様に、呆れた声で吉川がそう返す。

 

 「吉川だって、出だしのハイトーンしんどそうだったじゃん。あれ、コンクールでやらかしたら恥ずかしいぞー?」

 

 相変わらず小馬鹿にする様に秋川にそう言われ、吉川の顔がみるみる赤くなって行く。

 

 「う、うっさいわね!!じゃあ、アンタがやってみなさいよ!!」

 

 図星を突かれたのか、吉川は少し声を荒げてそう言い返す。一言、「りょーかい」と秋川が言うと、秋川はすぐさま立って姿勢を正し、確かめる様に短く一音出す、

 

 ____♪ー♪ー♪、♪ーー♪♪_____

 

そして出だしのフレーズを、一音も乱す事なく、完璧に吹いてみせた。

 

 

 「………相変わらず、腹が立つぐらい上手いわね」

 

 心底不服そうな顔で、吐き捨てる様に吉川がそう言う。

 

 「そりゃどうも。もっと褒めて良いよ?」

 

 「一言余計だっつーの!!」

 

 「あでっ!!!」

 

 ドヤ顔でそう返す秋川に対し、吉川のタイキックが炸裂した。

 

 因みに吉沢は、肺活トレーニングを免れていた。

 

 

 _____________

 

 

 

 「よし、そろそろ、片付けしよっか?」

 中世古がパートメンバーの面々に向かってそう言うと、一同は一斉に時計を確認する。

 時刻は下校時間に近づいており、それまでほぼ休み無しで吹き続けていた。

 

 「あ、じゃあ私、高坂さん呼んでくるよ」

 

 すると、3年の副パートリーダーの笠野が、個人練をしている高坂を呼ぶ役を買ってくれた。

 

 「うん、じゃあよろしくー」

 

 中世古がお願いすると笠野は立ち上がって教室を出て行く。

 それを見届けると、各々片付けを開始する。楽譜立ての片付け。譜面の片付け。それぞれに帰る準備をする。

 

 

 「あれ?、アッキー先輩、ペットの手入れですか?」

 

 

 すると、トランペットのパーツを取り外していた秋川に対し、吉沢が興味津々にそう聞いて来た。

 

 「ん?、そうだね。毎日の手入れだから、欠かせんのだよ」

 

 「え?、毎日ですか?よく出来ますね……」

 

 毎日と言う言葉を聞いて、吉沢は驚いた顔になった。トランペットは吹奏楽の中では小さめの楽器で手入れも簡単だが、さすがに毎日手入れをするのは中々に骨が折れる。しかし、秋川は神妙な顔になり、人差し指を振った。

 

 「ノンノン、分かってないなーヨッシーは。"みゆき"は毎日構ってあげないと、すぐ拗ねちゃうからねー。だからこうやって、愛を確かめているのだよ」

 

 「みゆき?」

 

 吉沢にとっては聞き慣れない言葉に、首を傾げる。

 

 「秋川君の彼女さんだよー。………今はバラバラにされちゃってるけどね?」

 

 すると、中世古が付け加える様にそう言う。それを聞いて、吉沢の顔がどんどん青ざめていった。

 

 「そ、そ、それって、事件じゃ……!!!」

 

 すぐに警察をと、吉沢はポケットから慌ててスマートフォンを取り出すと……

 

 「んな訳無いでしょ!」

 

 「あてっ!」

 

 吉川が、譜面で吉沢の軽く頭を叩いてツッコミを入れた。

 

 「何?アンタ、自分のトランペットに名前なんて付けてんの?」

 

 そして秋川の方へ向きを変えると、吉川は怪訝な顔でそう聞く。

 

 「もちろん、お陰様で美しさは保っている」

 

 しかし、さも当たり前だと言う風に秋川がそう返した。

 

 「……確かに、汚れも傷も一切無いわね」

 

 そう言って、吉川は秋川のトランペットをまじまじと見つめる。彼女の言う通り、秋川のトランペットは新品かの様に綺麗だった。白金の光沢は鏡の様に輝いていて、パーツを外しても錆などは一切見当たらない。

 それは彼が、誰よりも楽器を大切にしている何よりの証拠だった。

 

 「だろ?毎日愛でる事で、みゆきは一層美しくなるのです……」

 

「うわっ、キモっ」

 

 恍惚な顔でそう言う秋川に対し、吉川は少し引いた顔で一言、ドギツい言葉を返した。

 まあこれに関しては、秋川の言葉が悪すぎる。

 

 「うっせ、バーカ」

 

 対して秋川は舌を出し、子供の様な悪口を返す。

 

 「無機物を彼女にしてどーすんのよ?」

 

 「彼女のつもりでって事だよ」

 

 「と言うか、みゆきってネーミングセンス……将来のアンタの子供に同情するわ」

 

 「なんだと!?」

 

 そして、いつものじゃれ合いが始まった。それを見た吉沢は、こっそりと中世古に近づく。

 

 「あのー、香織先輩?」

 

 「ん、何かな?」

 

 秋川と吉川に聞こえない声で、二人は話す。

 

 「あの二人って、なんだか仲良いですよね?なんでですか?」

 

 吉沢がそう聞くと、「うーん」と、中世古は少し考える素振りをする。

 

 「これと言って理由は無いんだけどね?一年生の頃からあの二人ってあんな感じなの。なんだろう?馬が合うってやつなのかな」

 

 「?、なんか、変な関係ですね?」

 

 そんな中世古の曖昧な回答に、吉沢は不思議そうな顔でそう返す。

 

 「あははっ、そうだね。変な関係」

 

 対して中世古も、軽く笑ってそう返した。

 

 

 「はいはーい、そこのお二人。じゃれあいは良いけど、ちゃんと片付けもしなよ?」

 

 「じゃれあって無いですよ!!」

 

 そして、冷やかす様に中世古がそう言うと、少し顔を赤らめて吉川がすぐさま反論して来た。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。